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魔法少女っているよね ☆初期版*  作者: ににん(ni-ning)
第4章 子犬の魔法少女
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「あっ……。」


 つかさは、ポーチを降りてひばりの前まで行くと、ひばりの魔法少女のコスプレ姿に気がついて思わず小さく声を出した。しかし、特にそれを気にする素振りも見せず、普段学校で会う時と変わらず、いや、普段よりは少しうれしそうな表情を見せながら、ひばりに話し掛けた。


「ひばりがあたしん家に来るなんて珍しいね。どうしたの? おばさんから何か頼まれ事でもされた?」

 …………。

 ひばりは、ムスッとした表情で下を向いたまま何も言わなかった。


「それとも何か急な用事でもできたの?」

 つかさは、ひばりの無反応に少しキョトンとしたが、構わず話を続けた。


「あれ? 私、ひばりにマンガか何か借りてたっけ? ごめん。でも私そんな記憶ないけどなー?」

 …………。


「それとも……もしかして勉強教えてほしいとか? 悪いけど、私も勉強あまり得意じゃないんだからね。特に理数系とかだったら絶対無理だからね。」

 …………。

 つかさは、わざとらしく不機嫌そうな表情を作って冗談を言ってみたが、ひばりは全く反応せず、先程からずっと下を向いて黙ったまんまだった。


「むーっ……?」

 つかさは、ひばりのあまりのノーリアクションぶりにどうしたらいいのか、もしくはひばりがどうしたいのか全くわからず少し困惑したが、下を向いてどこか地面の一点を、ぱっと見ると面白そうに見えて、実は深刻な表情でずっと見つめているひばりを見ると、自分もひばりにつられた様に難しそうな表情になった。


(これは、ひばりの中で何か重大な事があったんだな……。)

 つかさは頭の中でそう予想すると、とりあえずひばりの身にありそうな事を聞いてみた。


「ひばり。……もしかして、プルやミア達とけんかでもしたの?」

 …………。(ブルブル)

 ひばりは、先程と同様に下を向いて黙ったままだったが、今回は首を左右にブルブルと大きく振った。


「あれ? 違うんだ。」

 …………。(ウンウン)


「じゃあ……万智と?」

 …………。


「万智とけんかしたんだったら、どっちが悪いのか知らないけど、長引かないように、ひばり早めに謝った方がいいよ。あの娘やさしいからすぐに許してくれるよ。」

 …………。(ブルブル)


「万智とけんかしたんでもないの?」

 …………。(ウンウン)


「それじゃどうしたの?」

 …………。(シーン…)


「じゃあ……、とりあえず走る?」

 …………(ブルブルブル!)


「むーっ……?」

 つかさは、さっきから自分が何を言っても、ひばりがずっと下を向いたまま何も言わないので当惑した。だが、それと同時に、ひばりが幼少の頃から、何か自分に都合の悪い事や困った事があった時に、いつも黙りこくって下を向いてしまう癖があった事を思い出し、ひばりの仕草にどこか懐かしさを感じていた。


(こういう時のひばりって、何をしてほしいのか自分では言わないで、なぜかいつもこっちに当てさせようとするんだよね。本当にひばりって相変わらず面倒臭い性格してんだよね。――だから今でもこの娘の事、何かと放っとけられないんだけど……。でも、学校でも普段ひばりとは一緒に行動してないし、ひばりに何があったのかなんて全然見当つかないな。)


(うーん……。)

 つかさも、ひばりの身に何があったのか何も思いつかないものの、頭の中で何とか必死に探してあげようと上を向くと、そのまま深く考え込んでしまった。


 ………………。

 暗闇の中、電灯に照らされながら二人は上と下を向いたままその場で固まってしまった。


 そしてしばらくの間、二人の間には奇妙な沈黙が続いた。だがその時、ひばりの傍らに座って、二人のやり取りを静かに見ていたメグが、いつまで経っても用件を言い出さず、なぜか黙ったままのひばりを見つめると、すっかりと呆れ果てたようにフーッと長いため息を吐いた。そして、業を煮やしてとうとう口を出した。


「ひばりよ。一体何をしておるのか? 早くつかさに対し用件を伝えよ。何も言わなければ何も伝わらないぞ。」

 メグは、上を向いてブスっとした顔のひばりを見つめると、苛立たしげな口振りでひばりに強く促した。


(キッ!!)

 下からメグに急き立てられ、思わずひばりはメグの事を睨みつけた。


(私の気持ちも知らないで!)

 ひばりは、なんかこういう時って、二人でいる時間や空間がなぜかとても恥ずかしくって、正面にいると、お互い素直になれなくて、言いたい事も言えなくって、それでなんかそんな私の気持ちを酌んでくれて、向こうの方から私の伝えたい事をわかってくれるような、そんな甘じょっぱい青春の一ページみたいなもんがあるだろ。お前も少しは察しろよ。などとよくわからない事を考えていたが、メグの方としては、ひばりから睨まれるようないわれもなく、特に思い当たるフシもないので、不思議そうな顔をして頭を少し傾げた。


「ふむ。人間という種族は口を使ってお互いの意思疎通を図るものであろう。目や触覚器官を使ったり、ましてやお互いの心の中を伝えあうテレパシーのような魔法なども使えないはずだ。それに……何度も言うが、お前は黄色の魔法少女。そのような魔法使えるはずはあるまい。それどころか、お前は黄色の魔法少女でも残念系黄色の魔法少女。黄色の魔法少女が使用できる電撃系の魔法すらまともに使えるかどうかさえ怪しいのに。」


「くっ……。」

 ひばりは、ただでさえつかさの前で居心地が悪いのに、それに追い打ちをかけるようにメグから不快な事を言われると、さらに不機嫌になって殊更にメグの事を睨みつけた。


(あれ? 今この犬、私が黄色の魔法も使えないって言わなかった?)

 ひばりは、そんな不吉な言葉がメグの口から一瞬聞こえたような気がしたが、すぐにそれは自分の聞き間違いだと思う事にした。


(うーん……。)

 つかさは上を向きながら、なおも「ひばりの用件ってなんだろ?」と考えていたが、家族や友達や勉強以外の事だとしたら、あと思いつく事としたら一つしかない。


(でも……、それは……。)

 そんな事を頭の中で考えていると、ひばりの周りで何かコソコソと話声のようなものが聞こえてきたので思わず下を向いた。すると、ひばりの足下に子犬がいる事に気がついた。


「あれ? ひばり、犬飼ったの?」

 つかさは子犬を見つけると、すごくうれしそうな顔で子犬のかたわらまで歩み寄って、子犬を両手で自分の顔の前までヒョイっと持ち上げた。そしてメグと同じ目の高さになると、つかさは自分の事を何やら品定めするような顔でじっと見つめているようにも見えるメグと目が合った。つかさは、生まれて間もない子犬が、いつも一緒にいる母犬や飼い主から突然離されてしまった時、怯えた様子を見せて、そんな時に身近にいる人にすり寄って助けを求めようとするも、やっぱり知らない人の前だと怖くて近づけない。そんな幼犬特有のオロオロとした仕草など一切見せる事もなく、それどころか、この子犬が、まるで人生の酸いも甘いも何もかも知り尽くしているような、どちらかと言うと、達観した仙人のような落ち着いた佇まいと威厳のある態度をしている事に、(この子、本当に生後間もない小犬なんだろうか?)と少し疑問を持ちだして、子犬の事を上から下までよく見てみたが、やはりどう見ても生後2、3カ月位の子犬にしか見えなかったので、気のせいだと思う事にして、次に子犬の性別を確認した。


「へえ、この子女の子なんだね。」

 つかさは、うれしそうにひばりにしゃべり掛けたが、一方のひばりは相変わらず何も言わなかった。


「この子、名前はなんていうの?」

 つかさは、ひばりのいつもの面倒臭い感じにも慣れっこだといった様子だった。

 …………。

 ひばりは、つかさに聞かれてもなお下を向いて黙っていた。が、しばらくすると、小さな声で答えた。


「メグ……。」


「へえ、メグっていうんだ。よろしくね。メグ。」

 つかさは、メグに向かってニッコリと微笑んだ。が、それに対しメグの方は相変わらずのポーカーフェイスをキープした。つかさは、そんな不愛想なメグの様子に特に気にする素振りも見せず、メグをひばりの横にそっと降ろした。


「でも……ひばりが犬を飼うなんてちょっと驚きだな。私、子猫の魔法少女が始まったから、ひばりが飼うんだったら猫かなって思ったよ。」


「私も……よかったよ……。」

 ひばりが小さく呟いた。


「えっ?」

 つかさは、ひばりが何と言ったのか声が小さ過ぎて聞き取れなかったが、とりあえず話を続ける事にした。


「それで……今日はメグを見せに来たの?」


 …………。

 ひばりは、下を向いて黙ったままだった。


「むーっ……?」

 つかさは、ひばりの目的が子犬を見せに来た事だと思って、ひばりの目的もわかった事で一安心したつもりだったが、どうやらそうじゃないみたいだった。つかさは、問題が再び振り出しに戻ってしまった事を理解し唇をすばめると、だったらひばりの目的は何なんだろうかと再び考えなければならなくなった。


(もしかして……マジカルキティが始まって急に猫を飼いたくなったとか……。それで実はこの子犬を引き取ってほしいとかそういう話なんだろうか? でも、そんな自分勝手な事しちゃダメなんだからね。)


 つかさがそんな事を考えている間、メグはひばりに対し、つかさが魔法少女かどうか確かめるようしきりに催促していた。


「ひばりよ。どうした? 早く聞かぬか。」

 …………。


「なぜ黙っておる。どうした? 急に耳が聞こえなくなったか?」

 …………。


「どうした? ひょっとして小便でも我慢しておるのか? だったら、その辺で済ますがよい。」

 …………。


「どうした? ひょっとして大の方か? もしそこら辺で済ますのが恥ずかしいのなら、我慢せずつかさの家のトイレを借りるがよかろう。」

 …………。


 ひばりは、メグの暴言に最初はプルプルと我慢していたが、メグから一方的に言われっぱなしのままで、徐々に腹が立ってきた。そして、とうとうキレてその場で大声で叫んだ。


「わかったよ! 言うから! 言えばいいんでしょ!」


(!?)

 それまでずっと上を向いて考え事をしていたつかさは、それまで何もしゃべらなかったひばりが突然大声を出したので、思わずビクッとした。


「ふむ。そうだ。言えばいいのだ。……本当に、ただそれだけの事なのに、なんで一々こんなに面倒臭いのだろうか……。」

 一方、メグの方は、ひばりが突然叫んでも特にそれに反応する事もなく、なおもブツブツと文句を言っていた。


「それで……話ってなんなの?」

 つかさは、なぜ突然ひばりが叫び出したのか理解はできなかったが、とにかくひばりが自分から話すつもりになってくれたので、とりあえず話を進める事にした。


「あの……。」

「うん。」

 …………。


「どうした? 早く言わぬか。」

「うるさいな! 言う! 言うって!」

「??」

「あの……。」

「うん。」

 …………。


「どうした?」

「うるさい! 言うって!」

「??」


「あの……つかさって……実はさー……魔法少女……なんだよね。」

「はー?」

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