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魔法少女っているよね ☆初期版*  作者: ににん(ni-ning)
第4章 子犬の魔法少女
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「なんじゃこれ?」


 ひばりは、知らない間に勝手に首元につけてあったブローチを見ると、驚きのあまり、思わず素っ頓狂な声を発した。ブローチのポメラニアンを見ると、本家のメグのように、不機嫌そうにぶすっとした表情をしていた。


「ふむ。フィロソファーズストーンを手に入れた少女は、本人の意思に関わらず、運命レベルによって常に自らの身辺にフィロソファーズストーンを装着する事になる。と言っただろ。これからはどこへ行く時も忘れずにつけていくように、な!」

 メグは、それがさも当然の事であるかのように、ひばりに指示を出した。


「うーん……。」

 それに対し、ひばりは肯定も否定もせず、その場で少し首を傾げると無表情で少し唸った。


 しかし、心の中では、


(えー!? こんな自己主張の激しいブローチ、どこに行く時も肌身離さず身に着けてたら、とんでもないメグ大好きっ娘のいかれたペットマニアなんて、家族にも友達みんなにも誤解されてしまうじゃないか! この子、生意気だし全然かわいげもないし、今日出会ったばっかりで全然愛着も感じないのに……。なんかヤダなー。あーあ、これがもしマジカルキティのスカラベとかだったら、喜んで毎日つけるんだけどなー。)

 などと思っていたが、どうせ断ってもダメなんだろうと諦めて、黙って渋々従う事にした。


 …………。

 メグは、そんなひばりの心中を完全に読んではいたが、あえて何も言わない事にした。


「よし、それでは行くぞ。」


「うーん……。」

 ひばりは、少し躊躇したように下を向いた。


「どうした?」

 メグは、なぜか外に出るのをためらっている様子のひばりを見ると、少し不思議そうな顔をした。


「……わかったよ。行くよ。行けばいいんでしょ。」

 少しの間が空いてから、ひばりは少しキレた口調になってメグに返した。


「ふん。」

 メグは、なぜひばりが怒っているのかなど全く気にした素振りも見せず、いつでも外に出られるようドアの前に立った。


 ひばりは、再び意を決した表情になって顔を上げると、先程と同じように、勢いよく部屋を飛び出して階段をずんずんと降り、玄関で素早くスニーカーに履き替えると玄関のドアを開けて外へ出た。やっぱり魔法少女の衣装はそのままなんですね。


 外に出ると、太陽はとっくに沈んで真っ暗で、外は完全に夜になっていた。季節は春になったといっても、それでも夜になると、魔法少女の衣装では少し肌寒く感じる位なのだが、なぜかひばりは少しも寒さを感じなかった。それは魔法少女の衣装が持つ効果の一つだったのかも知れないが、ひばりはつかさの家に向かいながら、一人考え事をしていたからなのかもしれない。


(まさか? 今日つかさの家に行く事になるなんて。)

 ひばりは、外に出ると、暗闇に勢いを全て持っていかれたためなのか、急にシュンとなってしまうと、憂鬱そうに下を向いてトボトボと歩き出した。


 つかさの家は、プル、ミア、ルーシーの他の幼馴染三人の家より、ひばりの家からは最も近く、ひばりも幼い頃は、つかさの家にはしょっちゅう遊びに行ったりしたものだった。そして、今でも何か用事があった時などには、たまにつかさの方がひばりの家を訪ねる事もあったが、一方ひばりの方はというと、つかさが自分達四人の元を離れてバスケットボールに集中するようになってからは、一度もつかさの家には行った事がなかった。


 つかさがバスケットボール部の友達と仲良くなるにつれて、ひばりが一方的につかさに対して心理的な距離感を感じてしまったせいもあるが、徐々につかさとは疎遠になっていって、つかさといる時は、ひばりの方でなぜか妙に意識をしてしまい、なぜかいつも決まりが悪かったり恥ずかしい気持ちになるのだった。だからといって、ひばりはつかさの事が『嫌い!』だという訳ではない。つかさは、ひばりが幼少の頃、今の家に越してきた時にできた初めての友達であり、ひばりとつかさとの関係性は?というと、幼少の頃から何でもできたつかさと、何もできず、いつもつかさから教わっていたひばりという構図になっており、ひばりにとってつかさとは、絶対に負けたくない相手であり、常に自分が越えなければいけない高い壁であって、彼女にとっては今でも特別な想いがある唯一の友達なのであった。だから、『嫌い!』というよりは、全然『好き!』なのだが……正確には『苦手!』といった方が正しいのかもしれない。


 そしてひばりは、次につかさの家に行く時は、つかさがバスケットボールに全てを出し切って、つかさが再び自分達四人の所に帰ってくる時だと小さい頃から心の中で決めていた。それが、まさかこんな形でつかさの家に行く事になるなんて。しかもその用事が、まさか自分が、よりにもよってつかさが桃色の魔法少女なんだって言いに行く事だなんて。


 ひばりが、下を向いて何やらそのような内容の独り言をブツブツと呟いていると、横を歩いているメグが、訝しげな顔でひばりを見ると、


「どうした? 何かあったか?」

 と、特にひばりの心配もしていないが、横でブツブツと言ってるのが一々鬱陶しかったので聞いただけだった。


「ふん。別に何でもないよ。」

 ひばりは、(こうなった原因はお前のせいだろ。)と思いながら、不機嫌そうにメグを睨んだ。そして顔を上げると、


「あれ?」

 気がつくと、つかさの家をとっくに通り過ぎてしまっていた。


 ひばり達は、今来た道を引き返すとすぐにつかさの家に到着した。


「なんだ。すぐ近くじゃないか。」

 つかさの家の前に立つと、メグは呆れたように言った。


 実は、つかさの家はひばりの家と同じ通りに面し、ひばりの家を出て右を向いて歩いて五件目にあった。それもそのはず、ひばりの家もつかさの家も10年以上前に同じ区画で分譲された26区画のニュータウンの一戸建て住宅の一つであり、支子家も薄珊瑚家も、その時に同じタイミングで住宅を購入した近所同士で、お互い今の家に越して以来、今でも家族ぐるみで付き合いのある関係だった。なので、つかさの家もひばりの家とほとんど同じ風な造りの家だった。


「うーぅ……。」

 つかさの家のインターホンの前に立つと、ひばりはすごく緊張し出した。今からつかさに会うんだ。そう思うと、なぜか身震いがして、緊張のあまり思わず唸り声を出した。学校ではつかさと毎日会っているはずなのに、こうして自分の方から直接つかさと対面するんだと思うと、長年会う事のなかった遠くにいる懐かしい友達と久し振りに会うような、なぜか不思議な感覚がする。


 …………。


 しかし、ここまで来たものの、ひばりは未だにつかさと対面する勇気がなく、つかさの家のインターホンを押すのを躊躇して、その場から動けなくなってしまった。


「どうした? 早く呼ばぬか。」


 そんなひばりの気持ちの事など一切知らないメグは、後ろから早くつかさを呼ぶよう、苛立たしそうにひばりに強く促した。


「わかったよ。呼ぶよ。」


(人の気持ちも知らないで。こっちはつかさの家に行くのなんてもう10年以上振りなんだよ。)

 ひばりは心の中でそう言いながら、そして、もうどうとでもなれと思ってインターホンを強く押した。


 ピーン、ポーン♪


 つかさの家の中から、インターホンの籠った音が鳴り響いた。


 ひばりは、自分が押したインターホンの音に、思わず少しビクッとしてしまった。


 それから少し間が空いて、インターホンから誰かの声が聞こえた。


「どなたですか? あら、ひばりちゃんじゃない。どうしたのこんな時間に?」

 インターホンに出たのは、どうやらつかさの母親のようだった。


「おばさん、こんばんは。こんな遅い時間に悪いんだけど……つかさいる? ちょっと用事があってさ。」

 ひばりは、インターホンに出たのがつかさじゃなかったので、少し気持ちが和らいだ。


「えっ? つかさ? いるよ。呼んでくるからちょっと待っててね。」

 つかさの母親がひばりにそう告げると、インターホンからは音がしなくなった。


 今からつかさが来るんだ。そう思うと、ひばりは再び緊張してきた。そして、少しの間その場で待っていると、ドアが開いて、背の高いスエット姿の女の子が家の前に出てきた。その娘が薄珊瑚つかさだった。


「えっ? ひばり、どうしたの?」


 家から出てきたつかさは、外にいるひばりを確認すると、少し驚いた表情をした。


 薄珊瑚つかさ。


 ひばり達仲良し四人組とは、家が近所で幼少の頃からの親友で、五色の魔法少女ごっこでは黄色の魔法少女を担当していたが、小学生の頃にいち早くこのグループから抜け出して以降は、ずっと大好きなバスケットボールに熱中している事は前述した通りである。


 背は高く、ひばりと同じD組の中でも一番か二番目に背が高いが、バスケットボール選手としては、恐らく平均位かそれより少し低い位だろうか? つかさは、ぱっと見ただけで何かスポーツをやってるんだろうなとすぐにわかる位、爽やかで溌溂としていて、健康的でキラキラとした輝いた汗の似合う、そんなエネルギッシュな少女である。スポーツをやっているためか、髪は短めで、少し短めのポニーテールを後ろにちょこんと垂らした程度である。顔も、意志が強そうな、何があっても絶対にブレなそうな、凛として整った顔立ちをしており、もしつかさが五色の魔法少女だったら何色かと聞かれると、恐らくほとんどの人は黄色ではなく、赤色か桃色だと答えるだろう。まだ五色の魔法少女のそれぞれの立ち位置を紹介していないのでここで少し紹介すると、五色の魔法少女は、リーダーの赤、最強の桃、サポート役の緑、ダークホースの青、そしてマスコット的ポジションの黄色、というのが大体のデフォルトの設定になっている。そして、つかさはその誠実そのもののような顔つきが示す通り、曲がった事やズルをする事が大嫌いで、宝箱女子高のほとんど全てのクラブが、クラブの成績を伸ばすため、昨年、生徒会相談役の常盤さんの知恵を借りようとしたのに、つかさの所属するバスケ部は常盤さんの力を借りるのは不公平になるからと、(別に常盤さんの力を借りる事は、ルール上も何ら問題ない行為だったが、常盤さんはいわゆる規格外なので、その力を借りるのは不公平だと感じたため、)常盤さんの助力を断った数少ないクラブの一つだった。それにも関わらず、昨年一年のつかさが加わった宝箱女子高バスケ部は、宝箱女子高創立以来、自分達の力のみで初の全国大会進出を成し遂げたのであった。残念ながら、全国大会は一回戦で敗れてしまったが、つかさは、一年で地方レベルだった宝箱女子高バスケ部を全国レベルの実力まで一気に引き上げる程の才能と努力の持ち主で、そんな昔から地元でも有名なバスケットボール少女のつかさが、多くの強豪校からの推薦を断って、なぜ地元の宝箱女子高校に入学する事にしたのかは、本人以外に知る由もない。


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