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魔法少女っているよね ☆初期版*  作者: ににん(ni-ning)
第4章 子犬の魔法少女
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 ひばりは勢いよく台所を出ると、玄関に向かって廊下をずんずんと前に進んだ。


 どうやら着替える事なく、魔法少女の衣装そのままで外に出るつもりのようである。普通の人だったら、「そんな衣装で外に出るなんて恥ずかしくないんですか?」なんて思うかもしれないが、そんな事を聞かれても、それに対し「え? 逆に何で恥ずかしいんですか? 何でですか? 教えて下さい。」と真顔で聞き返すくらい、ひばりにとってのその行動は、至って日常的によくある光景の一つなのであった。


 ひばりは、玄関で素早くスリッパからスニーカーに履き替えると、勢いそのままに玄関のドアを開けて外に一歩足を踏み出した。


「待つのだ。ひばり。」

 その時、背後からメグがひばりを制止した。


「………。」


 メグの言葉を聞いて、ひばりはその場で立ち止まった。しかし、ひばりはようやくつかさの家に行く事を決心し、気持ちもすごく高まって、その上がった状態で勢いよく外に出た所だったのに、突然メグに呼び止められたせいか、気分をすっかりそがれてしまった。


「何?」


 しばらくの間、黙って前を向いていたひばりだったが、ゆっくりと顔を後ろに向けると、露骨に不機嫌そうな顔をメグに示した。ひばりは、せっかく自分の中で盛り上がってマックス寸前だったテンションを一気にシュンと冷めさせてしまった事。それに、つかさの家に行きたいと言い出したのはメグの方なのに、たった今それを彼女自身に制止された事に対する不満がありあり、といった表情をしていた。


 だが、メグはそんなひばりの不機嫌そうな態度にも一切気を払わず、


「ひばりよ。そのつかさという少女が住んでいる家を訪ねるのであれば、そのつかさという少女が本当に桃色の魔法少女かどうか確認する必要があろう。」

 と言った。


「はー?確認?」

 ひばりは、つかさが魔法少女かどうか確認なんて、つかさの家に行けばすぐわかると思っていたので、不思議な顔をしてそう復唱した。


「うむ…。」

 メグは困った顔で一言そう呟くと、少し間をおいてから、


「成程。やはりお前は自身が理解して魔法少女に覚醒したのではないようだな。」

 と、一人納得した表情をして頷いた。


「?」

 それに対し、ひばりはさっぱり意味がわからないような表情をしたが、


「まずは準備が必要だ。よし、とりあえずまずはお前の部屋に戻ろう。」

 続けてメグがそう言うと、ひばりもよくわからないが、とりあえず今はメグの言う通りにした方がいいと思って、玄関に戻ってスニーカーを脱ぐと、黙ってメグの後ろについて一旦は自分の部屋に戻る事にした。


 ひばりの部屋に戻ると、部屋のドアは開けっ放しの状態だった。メグは、ひばりの部屋に入るや否や、魔法少女に覚醒するために必要な道具がどこにあるのか部屋中をあちこちと軽く見回してみたが、ぱっと見た限りだとそれに該当しそうな物は見つからなかった。


「ところで、その準備って何なの?」

 メグから少し遅れて部屋に入ったひばりは、ドアを閉めるなりすぐにメグに聞いた。


 ひばりにそう問いかけられて動きを止めたメグは、高い所を確認できない子犬である自分が探すより、ひばりに直接聞いた方が早いと判断し、今いる場所から、ひばりがいるドアの前までトコトコと歩いた。


「うむ。まあ今からすぐに桃色の魔法少女候補の家に行かなくてはならないので手短に話すが、まず魔法少女に該当する少女は、自分が魔法少女になる順番がやってきた時、何らかの手段で必ず手元に自身のシンボルカラーとなるフィロソファーズストーン(哲学者の石)がやってくる事になっている。これは、運命レベルが崩壊してしまった今となっても絶対に変わらない運命である。」


「ふーん。」

 ひばりは、少し興味深そうに相槌を打った。


「そして、フィロソファーズストーンを手に入れた少女は、本人の意思に関わらず、運命レベルによって、理由なく常に自らの身辺にフィロソファーズストーンを装着する事になる。そして、自身の体内に発生する微弱な電気をフィロソファーズストーンに与える事によって魔法少女への覚醒が完了する。」


「ふーん。」

 電気? よくわからないが、その風呂何とかストーンを身に着けさえすれば、とりあえず魔法少女になれるんだとひばりは理解した。


「そして時が来ると、その少女は魔法少女へと成長し、新たな運命と対峙する事となる。――しかしながら、運命レベルが崩壊してしまった今となっては、もし順番が来て、その魔法少女になるべきはずの少女がフィロソファーズストーンを手にする事になっても、運命レベルが崩壊しているが故に、フィロソファーズストーンを自らの手元に常に保持するという事もない。そしてその石は、決してその真価を発揮する事がないままどこかに放置され、そしてやがて時が来ると、何らかの手段でまた次の魔法少女の元へと送られる事となる。」


「でも…、その石が魔法少女になるために必要なプレシャスストーン(PS)なんでしょう? だったら、そんなすごい石を受け取って、その娘がその石をどこかにほったらかしなんてしないんじゃないの?」


 ひばりは、その石が魔法少女になるための特別な魔法の石なんだから、その石を手にした少女がそれを邪険にする事なんて絶対にないと思った。


「ふむ。『プレシャスストーン』ではない。『フィロソファーズストーン』な!」

 メグは、まずはそこを強調すると、


「フィロソファーズストーンが先代の魔法少女から次代の魔法少女へ受け継がれる時、決してその石が魔法の石であるといって受け継がれる事はない。その石は、全ての人間にとって、もちろん当該の魔法少女本人にとっても、何の価値もない単なる色のある石としか認識できないようになっている。それが特別な石である事に気づくのは、当人が魔法少女になる時。その時だけだ。」


「ふーん?」


 ひばりは、昨日父親である耀司から、「魔法の石」だと言われてその石を受け取っていたので、それを少し疑問に思ったが、かと言って聞くのも面倒だったので、とりあえず今はそこはスルーする事にした。


「とにかく――そういう訳で、もしそのつかさなる者が本当に桃色の魔法少女だとしたら、彼女の身の回りのどこかに桃色のフィロソファーズストーンが必ずあるはずだ。そして、彼女にそれを確認するため、フィロソファーズストーンのサンプルとして、まずはひばりの黄色のフィロソファーズストーンを持っていく事にしよう。そして彼女が、もし本当に桃色のフィロソファーズストーンを持っていたとしたら、彼女を魔法少女に覚醒するために、そのフィロソファーズストーンに必要量の電気を与える装置が必要になろう。」


「電気を与える装置? でも、つかさがもし本当に魔法少女だったら、その何とかストーンを持ってもらうだけで魔法少女になれるんじゃないの?」

 電気? 今さっきメグがなんか言っていた気がするが、ひばりは魔法少女になるのになぜ電気が必要なのか全くわからなかった。


「『フィロソファーズストーン』な!」

 メグは、まずはそれを強調すると、


「ふむ。確かに私は自身の体内に発生する微弱な電気をフィロソファーズストーンに与える事によって魔法少女への覚醒が完了する。と言ったな。そう。実際に運命レベルが維持されており、フィロソファーズストーンが魔法少女から次の魔法少女へと連綿と受け継がれていれば、それだけで何の問題もない。その電気も魔法少女から次の魔法少女へと連綿と受け継がれていっているのだから。だが運命レベルが崩壊し、数千年に渡って魔法少女が誕生しなくなってしまった今となってしまっては、そのフィロソファーズストーン自体に、ほとんど電気は残っていないだろう。だからその魔法少女自身が体内に持つ電気だけでは必要量には全然足りない。魔法少女の体内の電気以外にも、少なくとも、その石が自ら発光するために必要な電気量を与える必要があろう。」


「ふーん。」

 ひばりは、メグの言っている事の意味がほとんどわからなかったが、なんか電気がいるっていう事だけは理解した。


「そうだ。わかったか。で、ひばりよ、電気を与える装置はどこにあるのだ?」


「電気を与える装置?」

 ひばりは、その肝心の電気を与える装置が何の事なのか全くわからず、難しい顔をした。


「は―…。お前も自身のフィロソファーズストーンに何らかの電気を与えたから魔法少女に覚醒できたのであろう。ならばそれを持っていけばよい。」


 メグは、ひばりのあまりの理解力の低さにため息を吐くと、ひばりが自分のフィロソファーズストーンに電気を与えた装置があるはずだと指摘した。


「うーん。」

 ひばりは、天井を見ながら少し考えると、その電気を与えた装置が何なのかがわかった。


「あっ!」

 何かに気づいてそう一言呟くと、ひばりは、机の上に置いてあった五色の音色の魔法少女のワイヤレスイヤホンの充電ケースを手に取った。そして、中を開けてメグに見せた。


 メグは、そのイヤホンケースの中の、フィロソファーズストーンがちょうど入る真ん中の窪みの部分をじっくりと見ると、


「成程。こういう事か。ふむ、確かによくできているな。」

 と、一人何かを納得したような顔をして言った。


 そして、メグは魔法少女を確認するための全ての準備が完了した事を認識し、


「よし。では改めて今からその桃色の魔法少女だという少女に会いに行こう。」

 と、ひばりに指示をだした。


「…うん。――あれ?」

 ひばりは、メグにあまり乗り気でないような返事をした後、手元にあるはずの物がない事に気づき、部屋の中をゴソゴソと探し始めた。


「どうした?」

 メグが、少し呆れた表情をして尋ねると、


「あれ? 私のプレシャスストーンがないの。あれ? どこに置いたんだろう?」

 そう言いながら、知らない間に手元からなくなってしまった自分のフィロソファーズストーン探しを続けた。


「はー。『プレ…」

 メグは、そう言いかけた所で、今はプレシャスストーンとフィロソファーズストーンを一々訂正するのも時間の無駄だと思ったので、今回はそこで止めると、


「フィロソファーズストーンならば、現にお前の首元に着けているだろう。」

 と言って、その目線をひばりの首元に向けた。


「えっ?」


 ひばりは、メグにそう言われて自分の首元を確認した。すると、ひばりの魔法少女の衣装の首元には、知らぬ間にポメラニアン(恐らくメグ自身の顔をモチーフにしたものと思われる。)の顔をしたブローチがついており、そのポメラニアンが黄色のフィロソファーズストーンを口に咥えていた。

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