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魔法少女っているよね ☆初期版*  作者: ににん(ni-ning)
第4章 子犬の魔法少女
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 続いて、万智は、ひばりの衣装を隅から隅まで確認するように、じーっと観察すると、


「でも…、お姉ちゃんって、黄色の魔法少女なんだよね。それなのに、なんで桃色の魔法少女のコスチュームを着てるの? もしかして、黄色の魔法少女のコスチュームを持ってなかったから代わりに着てるの?」

 と、不思議そうな顔をして尋ねた。


 それに対し、ひばりは、自慢げに自分の桃色の魔法少女姿を見せつけるようにして立ち上がると、


「へっへー。実はこれコスプレじゃないんだよ。私がさっき部屋で本当に魔法少女になりたいと思って変身したら、勝手にこの姿に変身したんだよ。昨日、私パパとママから黄色の魔法少女だって言われたけど、黄色の魔法少女っていうのは実は間違いだったんだよ。本当は私、桃色の魔法少女だったんだよ。」

 と、自信満々に説明した。


「あっ。う、うん。」

 それに対し、万智は微妙な表情をして相槌を打った。


 確かに、今ひばりの着ている衣装が、五色の音色の魔法少女「マジカルクインテット」の桃色の魔法少女ピンククインの衣装そのものであったため、どう考えても、それはコスプレにしか見えず、それを本物の魔法少女の衣装だと主張されても、それはどうしても無理があった。


 そして、そのタイミングでメグが口を挟んだ。


「いや、お前は黄色の魔法少女だ。お前は私が用意した黄色の魔法少女の衣装を着る事を拒絶し、単に自分の願望を押し通しただけに過ぎん。たとえお前が桃色の衣装を身に着けようが、緑色の衣装を身に着けようが、お前が黄色の魔法少女であることに変わりはしない。お前も心の中では既に気づいているはずだろう。自分が黄色の魔法少女だという事に。確かに、桃色の魔法少女は魔法少女の中でも群を抜いた能力を有しており、それまでの戦場風景を一変させるような特別な華やかさがある存在といっていいだろう。だからと言って、桃色の魔法少女じゃなきゃイヤだというような、そんな魔法少女には今まで出会った事はない。私にとってもこんな事例は初めての事だが、いい加減受け入れることだ。自分が黄色の魔法少女だという事に。それに…、一々紛らわしいし。」

 最後にそう吐き捨てるように言うと、


「うぐっ。」

 メグの鋭い指摘に対し、露骨にイヤな顔をしたひばりであったが、その横でひばりとメグの会話をなんとなく聞いていた万智が、ぽそっと、


「でも…、桃色の魔法少女って、つかさちゃんじゃなかったっけ?」

 と、洋子に確認した。すると洋子も、


「そうね。確かに薄珊瑚さん家のつかさちゃんが桃色の魔法少女だって、パパも言ってたよね。」

 と、万智の意見に賛同した。


「何!?」

 それまで冷静そのものでそのポーカーフェイスを一切崩すことのなかったメグは、二人の会話を聞くなり、驚愕の表情で二人の事を見つめた。


「なんと…。まさか、桃色の魔法少女も見つかっているとは。なんという幸運。よし、ひばりよ。準備せよ。すぐに確認に向かうぞ。」

 メグは、今までにはなく興奮した口調で、ひばりにそう指示した。


 それに対し、先程以上にイヤな顔を見せたひばりは、一言、

「イヤだよ。」そして、少し間をおいて、「それに…、もう遅いし。」


 と付け足すと、メグの指示を拒否する姿勢を示した。だが、一方メグの方も全く諦める素振りも見せず、


「いや、今すぐ行かなくてはならん。このままお前と一緒にいても、万事がうまくいく気がしない。それに、このまま私がお前とだけしか会話ができないという状況が続いてしまえば、この世間との強烈なコミュニケーションの断絶は永久に解消されないだろう。そのためにも、もしそのつかさという少女が本当に桃色の魔法少女だったなら、取り急ぎ私に『ワールドスピーカー』をかけてもらう必要があろう。」


「ワールドスピーカー?」

 ひばりは、ワールドスピーカーという聞きなれない単語を聞くと、怪訝そうな顔をしてメグのことを見つめた。


「ふむ、知らぬのか。ワールドスピーカーというのは、桃色の魔法少女が持つ間接魔法の一つで、この魔法をかけられた者は、同種属の生物だけでなく、この世に住まうあらゆる生命体とのコミュニケーションが可能になるという言語魔法だ。」


 ひばりが聞いてきたので、メグは、親切にワールドスピーカーの説明をしてあげたのだったが、


「ふん。嘘だね。そんな魔法ないよ。」

 と、軽くひばりに一蹴されてしまった。


「いや、そう自信満々にないと言われても。魔法少女を創造した本人があると言っているのだから、それはある。という事なのだが。」

 メグは、少し困惑した表情でそう言った。


 だが、確かにアニメ五色の魔法少女全29シリーズの中で、実際に作中でワールドスピーカーという魔法が出た事は一度もなかったので、ひばりがそう思うのも無理はない話であった。


「とにかく! 行かないっていったら行かないんだからね。」

 そう言って、ひばりは腕を組みながら目を瞑って苦しそうに顔を横に背けると、断固拒否する構えを見せた。なぜかわからないが、ひばりは、つかさの家に行く事だけは、絶対にイヤなようであった。


「うーむ。」

 残念ながら、メグとしても、単なる小型犬ポメラニアンの子犬でしかない、今のこのか弱く非力な身体では、自分の力だけで何とかするというのは、土台無理な話であった。たとえ魔法少女が自らの想像物であったとしても、魔法少女に対して強制的に命令を与えたり、指示に従わせたりする権限などはなく、運命レベルが消滅してしまった今となっては、自分の意向に従うか否か、それは全て魔法少女達一人一人の自由意志に委ねられていた。


 メグは、他になすすべなく、しばし呆然と立ったまま、顔を背けたままのひばりのことをずっと見つめていた。


 その時、そんな二人の様子をじっと見つめていた万智は、ふいに二人の前に立つと、


「ねえ、そのワールドスピーカーっていう魔法をつかさちゃんにかけてもらえば、私達もメグとお話できるようになるの?」

 と尋ねた。


 万智は、やはりメグの言葉は全く理解することはできなかったが、二人の会話の雰囲気と、つかさちゃんの家?に行く。ワールドスピーカーという魔法名を聞いて、これだけの事を頭の中で予想してしまったのだ。その時、メグはやはり妹の方が魔法少女だったらよかったのにと痛切に感じたが、それは考えても全く意味がない事だと、先程思ったばかりのことだった。


「……。」

 万智の質問に対し、ひばりは何も答えなかったが、ひばりのその焦った表情が、万智の予想があながち間違いではないという事を如実に物語っていた。


「じゃあ、代わりに私がつかさちゃんの家に行こうか? なんかメグもすごく困ってるみたいだし。」


 万智は、恐らくつかさちゃんの家に行くという事が、メグにとってとても大切な事なのだろう。そして、なぜ姉がつかさちゃんの家に行きたがらないのか、その心情をなんとなく理解していたので、だったら代わりに自分が行こうと提案した。


「何! 本当か!?」


 メグは、思わぬ妹の提案に驚き、四肢を踏ん張って妹の方に体を向けた。メグは、よくよく考えてみると、たとえ会話ができなかったとしても、ひばりを連れて行くより、万智を連れて行った方が、つかさとの交渉が俄然うまくいくような気がした。メグはうれしくなって、万智のことを見つめながら、思わず尻尾をフリフリしていた。


「くっ。」

 そんな二人の様子を苦悶の表情で見つめていたひばりだったが、とうとう観念したように、


「いいよ。私が行くよ。」

 と、ぶっきらぼうに言った。ひばりは、つかさの家に行くのはイヤだったが、代わりに万智に行ってもらうのは、それ以上にイヤな事だった。


「えっ?本当?」

「いや、別にお前は行かなくてもよいぞ。」

 それに対して、万智とメグの二人は異なるリアクションを示した。


「行けばいいんでしょ。行けば。」

 ひばりは、不満そうに口をとんがらせながらも、そう答えた。


 ひばりのそんな心情をおもんぱかった万智は、やさしげな表情で、

「よかったら私もついて行こっか?」

 と、そう提案した。


「何! 本当か?」

 メグは先程に増して尻尾をフリフリした。


「いいよ。私一人で行くから。」

 ひばりは、万智の気遣いをありがたく思ったが、つかさの家には一人で行きたかった。


「そ、そうか。」

 そう言うなり、メグは尻尾が下がってシュンとした。


 そして、ひばりは何かを決心したかのような顔をすると、


「よし。じゃあメグ。今からつかさの家に行くよ。」

 そうメグに話しかけると、二人は春巻きパーティの会場を後にした。

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