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魔法少女っているよね ☆初期版*  作者: ににん(ni-ning)
第4章 子犬の魔法少女
52/73

52 (4-4)

今後内容修正するかもしれません。

 ―トントントンー


 それからどれくらいの時間が経ったのだろう? ひばりは、誰かが自分の部屋をノックする音を聞いて目が覚めた。その時ひばりは、自分が知らないうちに今まで眠っていたことに気がついた。


 子犬から逃げて自分の部屋に入った後、黄色い宝石を見るのに飽きたひばりは、部屋着に着替えベッドにうつ伏せになって寝転ぶと、大きな枕を両手で抱えながらその上にアゴを乗せて、早速マンガを読もうとしたものの、今日の放課後に学校で遭遇した一連のおかしな夢と、先ほどの子犬との長時間に及ぶ死闘により、自分では気づかずとも、実は心身共にすっかり疲れ果てていて、寝転んでページを数ページめくるかしないかのうちに、パタリと眠り込んでしまっていたのだった。


 ひばりは目を覚ますと、ノックの音に返事することもなく、ご飯でもできたのかなと思って、首を曲げてノックがしたドアの方をぼんやりと眺めた。


「お姉ちゃん。入るよ。」

 そう言って部屋に入ってきたのは、妹の万智だった。


 ひばりは、なぜかいつも以上にニコニコしている万智の顔をまだ頭と目が半分眠ってボーっとした顔で何秒か見つめていたが、ふいに視線を下に落とすと、万智が両手に何か茶色いものを抱えていることに気がついた。ひばりは、恐らくそれが万智のご機嫌の理由なのだろうかと思いながら、その茶色い物体が一体何なのか目を細めて注目して見ると、それは先ほど自分と死闘を演じたばかりの、あの子犬だった。


(!??)

 ひばりはその子犬を見るなり、目を大きく見開くと、まるで中学に入った頃に、すっかり黄ばんで汚くて捨てた幼少の頃から大のお気に入りだったシナモロールのぬいぐるみと、街中で予期せぬ再会を果たしたかのような驚愕の表情を描いた。一方子犬の方は、万智に抱きかかえられながら、ひばりのことを恨めしそうな顔でじっと見つめていた。


 万智は、いつも通りの面白い顔をしながら、なぜか固まっている姉の様子などさほど気にせず、抱っこしている子犬の左足を楽しそうに軽く持ち上げると、


「この子ね、今日学校から帰る時になぜか家の玄関の前に立ってたの。多分近所の飼い主とはぐれちゃったんだと思ったんだけど。――でも、周りに飼い主らしき人も全然見えないし、それでお腹でも空いてたらかわいそうだと思って、とりあえず牛乳でもあげようと思って家の中に入って戻ってきたら、この子いなくなっちゃってて。多分飼い主に見つけてもらって一緒にお家まで連れて帰ってもらったのかなと思ったんだけど、一応念のために牛乳は玄関の前に置いておいて、それでしばらくして小皿を見に行くと牛乳がなくなってたから。あれ? やっぱりどこかにいるのかなと思って何度か外に出て探してみたんだけど、やっぱりどこにもいなくて。でも、さっき探してみたら、茂みの中からクーンって犬の鳴き声が聞こえてきて、それで茂みの方に行ってみると、なぜかこの子が茂みの中で逆さまになってもがいていたから、すぐ引き取って保護してきたの。」


 万智は、子犬と出会ってから家に連れてくるまでの経緯をひばりに説明すると、「ねー」と言って、ニコニコと子犬とお互いの顔を見合わせた。


 それに対しひばりは、万智の話を聞きながらベッドから起き上がり、なおも恨めしそうな顔で自分の事を見つめる子犬の視線を横目に避けようとしつつも、何とかがんばって作り笑いを作ると、


「へ、へー、そうなんだ。」

 と、内心ではかなり焦りながらも、まるで今までその子犬を見たことがないかのような白々しい反応をした。


 万智は、そんなひばりの不自然な態度に一向に気づいた素振りも見せずに、


「お姉ちゃんが帰った時は、この子犬見なかったの?」

 と、不思議そうな顔をして聞いた。


「え、えーと、私が帰った時はいなかったかなー?」

 ひばりは、天井の壁の方を見ながら、多少困った表情でそう嘯いてみたものの、その時、子犬からのジトーっとした冷たい視線を感じざるを得なかった。


「それにしても、なんで茂みの中に刺さってたのかな?」


「う、うん。不思議だね。」


「もし誰かがやったんだったら、人として絶対許せないよね。」

 それまではずっとニコニコしていた万智だったが、そう言うと少し怒ったようになった。


「う、うん、そうだね。私もそう思うよ。」


「こんなかわいい子に、よくそんなひどいことができるよ。」


「う、うん。ひどい奴だねソイツ。」

 子犬からの冷え切った視線と、それと多少の罪の意識に耐えられず、そう言った後、ひばりは、思わず顔を横に背けてしまった。


 その時、万智は用事を思い出して、

「あっ!そうだ。私今からこの子のドッグフードを買いにいってくるから、それまでお姉ちゃんこの子のこと預かってくれる?」

 と、ひばりにとっては無理難題を押し付けてきた。


「えっ!?」

 ひばりは、この子犬を家に入れたくなくて、さっき茂みの中に放り込んだ張本人なのに、それなのに、これから二人きりになるなんて、ものすごく気まずいじゃないかと思った。


 それから、万智は少し上を向いてもう一度不思議そうな顔をすると、

「それに、私もよくわからないんだけど…。なぜかこの子、お姉ちゃんに用事があるような気がしたの。」


「……。」

 それに対し、ひばりは何も答えなかったものの、自分も悪い意味で万智と同感だと思った。


「もしかすると、パパとママが昨日話していた魔法少女のことと何か関係があるのかもしれないよ。」


「え?」

 ひばりは、万智から不意に魔法少女というワードが出てきたので、少し驚いた。


「ふふ、冗談だけど。」

 万智は、わざと少しいじわるそうな表情を作って、ひばりに軽くウインクすると、


「それじゃお願い。」

 そう言って、万智は子犬を床の上に静かに置くと、さっさと部屋から出て、どこかにドッグフードを買いに行ってしまった。


「あっ!」


 ひばりは、片手を伸ばして万智を引き留めようとしたものの、時すでに遅し。もうすでに万智は出て行ってしまった後だった。そして、部屋に残された子犬とひばりは二人きりになってしまい、ひばりは気まずくて、モジモジと少し挙動不審な様子になった。


 そんなひばりの様子をしばらくの間、子犬は冷静に見ていたが、やがて子犬は静かに床の上に座ると、


「それにしても、同じ血を分けた姉妹でここまで対応に差があるとは。」

 と、半ば呆れたような顔をしながら、ひばりに向かって、ゆっくりと話し始めた。


「そ、それは…。」

 それに対し、ひばりは何か言い訳になりそうな言葉を探したが、今回は理由がただ単に悪い予感がしただけだったので、何の弁解の余地もなく、申し訳なさそうに黙って下を見つめるしかなかった。


「姉と妹の生まれる順番が逆だったら、どんなによかっただろうか。」

 そう言うと、なぜか子犬はどこか遠い所を見るような目をした。


「くっ!」


 そこまで言われなくても。――歯を食いしばってこの屈辱に耐えながらも、この子犬の全くかわいげのカケラもないその仕草と、その生意気な口の利き方を聞いて、ひばりは改めてこの子犬と初めて出会った時に自分が下した判断は決して間違いじゃなかったのではないかとちょっと思った。いや、そこまで言われることをしたかな?


「まあ、そう悔やんでみても仕方ない。確かにお前に用事があるのは私の方なのだからな。」

 子犬がそう言うと、ひばりはハッとして何か肝心な事を思い出し、


「あっ! そういえば、なんであなた犬なのに人間の言葉がしゃべれるの?」

 と、今さらながらの質問を子犬にぶつけた。


 子犬はひばりの言葉を聞くと、真剣な表情で正面を見つめ、ゆっくりと少し首をタテに振ると、


「ふむ。よく考えると、確かに私がしゃべっていることにお前がまったく驚かなかったのは、少し意外だったな。そういえば、こういった異種別間のコミュニケーションというのは、大体のケースが、まずはその非現実で不都合な事実を受け入れる所から始まるものだったな。ふむ。これも運命レベルが崩壊している影響なのかもしれん。」

 子犬は、今言った自分の言葉に一人納得しているようだった。


「運命レベル?」

 ひばりは、子犬から放たれた聞きなれないワードに反応し、思わずそのワードを聞き返した。


 それまではずっと頭を正面に固定して、どこか遠くのある一点を見ているようだった子犬は、ひばりの言葉を受けて、ゆっくりとひばりの方を振り向くと、


「ふむ。まあその話をする前に、まずは肝心の私がわざわざお前に会いに来た用事を話す必要があろう。」

 と、子犬は、そのかわいらしい見た目と声に反し、終始威厳のある態度と何か達観した所のある落ち着いた口調で話し続けた。


「そうだ! 用事って何?」


「まあ用事といっても、先ほどお前の妹が言っていた通りだ。」


「えっ!? 万智が何か言ってたっけ?」

 ひばりは、不思議そうな表情で子犬に聞き返した。ひばりは、それに対し全く心当たりがない様子だった。


「ふむ。」

 子犬は、少し呆れた様子でひばりのことを見つめると、一呼吸置いて、


「私は長年探し続けてきた魔法少女に会いに来たのだよ。」

 と、そう答えた。


「まほっ!!??」


 ひばりはその言葉を聞くなり、もう一度、大きく目を見開いて、まるで中学に入った頃にすっかり黄ばんで汚くて捨てた幼少の頃から大のお気に入りだったシナモロールのぬいぐるみと、教室の廊下で予期せぬ再会を果たしたかのような驚愕の表情…にも見えなくもないが、


 幼少の頃より、魔法少女はいるんですか?と何百回も問合せし続けてきた「伝説の五色の魔法少女」シリーズの制作会社である宝箱プロダクションから、


「では、あなたにだけ特別に教えます。その代わり絶対に誰にも言わないでくださいね。実はこの世界に本当は魔法少女はいるんです。」

 と、とうとう自分が長年待ち望んでいた回答が突然返ってきたような、そんな表情をした。


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