45 (3-13) レッドキティ VS 現場猫ロボ班
現場ネコロボ28班は、自信満々で蛍の元へとじりじりと詰め寄ってきた。それに対して蛍は、ロボット達を目の前にしてオロオロとするばかりである。もちろん蛍はロボット達のことが怖いことは怖かったのだが、それよりも、これ以上手加減するわけにもいかない。かといって、先ほどのキロライト以上の魔法を放って、果たしてロボット達が自分の魔法に耐えられるなどとはとても思えない。どう対処していいのかわからなくて困っていたのだ。
「蛍! 私に任せて!」
その時、背後から南美の勇ましい声が聞こえてきた。蛍は後ろを振り返ると、三玖の隣に並んで立っていた南美が、自分の方に向かって空高くジャンプしてきた。南美は、雷属性のイエローキティの蛍とロボット達との相性がよくないのだったら、炎属性の魔法少女であるレッドキティの自分が、蛍の代わりにロボット達の相手をしようと思って立ち上がったのだ。
南美は、空中で右手を大きく広げると、光の塔から光の塊が出現し、南美の右手に吸いよせられた。そして南美は、それをしっかりと握りしめた。それは、炎属性のレッドキティ南美の専用武器、ソーサー(円盤)だった。南美のソーサーは、独特の形状をしており、持ち手であるグリップからは左右に二本のバーが伸びており、その先には透明な円盤がゆっくり回転している。おそらく、右手のグリップから二本のバーを通して先端の円盤に魔法力を伝達するような仕組みになっているはずなのだが、円盤と二本のバーは物理的に繋がっておらず、円盤と二本のバーの間は空白になっている。そして透明の円盤は、真ん中部分に大きな穴が開いており、その穴を取り囲むように、何十個もの小さな穴が幾重にもその大きな穴を取り囲んでいた。
南美は、右手のソーサーを高く空中にかかげると、
「トロビ!」
と、叫びながらソーサーを振りかぶり、その狙いを四体のロボット達に定めた。トロビは、炎属性の赤色の魔法少女であるレッドキティの最弱魔法だった。南美がソーサーをロボット達に向けると、透明な円盤はものすごい速度で回転しながら、真ん中にある大き穴を取り囲んでいる中程部分までの小さな穴の入り口が一斉に開くと、その穴のすべてが真っ赤に灯った。
「あっ!?」
その瞬間、南美はハッとすると、一旦ロボット達に向けていたソーサーを大急ぎで空中にかざした。南美が空中にソーサーを向けると同時に、円盤から、ボボボボボボボボボボボッと何十口もの穴から炎の着火音が聞こえると、その開いた口のすべてから特大の炎が何十本にも連なって空中に向かって一斉に発射された。その炎の塊は、直径十m程の大きな炎の柱となって、大気を焼き尽くす大きな爆発音とともに、はるか天高く光の塔に比肩する新たな炎の塔を空に描いた。南美の魔法の影響で、白黒だった世界は周囲一面が赤一色に染まり、周辺温度もかなり上昇したようで、まるで真夏のように熱く感じられた。
南美は、結局空中に空魔法を放っただけで、そのまま蛍の横に静かに着地した。蛍は、傍らの南美のことを心配そうな表情で見つめた。一方ロボット達の方はどうかというと、南美が放った魔法の影響で外観のパーツが赤く染まりながら、たった今目の前で起こった出来事をしっかりと見ることはできたものの、それを自分達の頭の中でインプットする事が不可能で、何か現実で推し量れない風景を見たとしか、ただただ唖然とするしかできなかった。そしてクスの方はどうかというと、姿が見えない。おそらく南美が空中に放った凶悪な魔法を見た瞬間、恐怖のあまり思わず惑星ガイアへと逃げ出してしまったようだった。
南美は地面に着地すると、真剣な表情で、先ほど着火したばかりのソーサーの火口をじっと見つめていた。すると、南美が魔法を放った瞬間、とっさにミカを抱きかかえて保護していた三玖が、南美達の元まで近づいてきて、
「もう! 南美、何なのその魔法は? 火力はちゃんと気を付けなきゃダメでしょ!」
と、少し厳しめの口調で注意した。
「あっ! うん、ごめん三玖。私、トロビを唱えたつもりだったんだけど…。」
南美はそう言って、素直に三玖に謝った。確かに南美はトロビを唱えたつもりだったのだが、魔法の力加減に失敗して、魔法がチュウビ、もしくはチュウビ寄りのツヨビになってしまったようだった。ちなみに南美のチュウビという魔法は、周囲数十mの範囲にある何もかもすべてを焼き尽くす地獄の業火で、もし南美の魔法が、そのまま地面に炸裂していたら、ロボット達はもはや跡形も残らなかっただろう。もしかしたら三玖達もかなりのダメージを負っていたかもしれない。学校の周囲は全てが焼け野原となっていただろう。ちなみに南美の魔法は、火力の調整も可能だが、炎の有効範囲の調整も可能である。
だが、たった今魔法の火加減に失敗してしまったからといって、それは南美の魔法少女としての資質が低いからいうことでは決してない。レッドキティは、一つ一つの魔法の威力が高く、五色の魔法少女の中でも、その実力は上位に位置するのだが、素人には扱いにくく使用者を選ぶ極端な性能を有しており、その魔法の特性は比重にピーキーで、実は調整が非常に難しい。比較的万人向けで扱いやすいイエローキティの魔法とは対極に位置している。南美が生まれて初めて使用した魔法を炸裂させようとした瞬間、瞬時にその火力調整の失敗に気づき、とっさに魔法を空中に回避させたのは、むしろ南美に魔法少女としての資質が多分にある証拠ともいえる。また、両親が洋食屋さんを営んでおり、自身も料理作りを得意にしていることが、結果的に奏功したのかもしれない。いずれにせよ、現在メンバーの中に桃色の魔法少女がいない状況下で、南美の魔法は、マジカルキティ達にとって、一歩間違えるとクリティカルなダメージを与える危険性があった。
「あなたの魔法は調整が難しいんだから、ちょっと奥に行って練習してきてくれる? 代わりにロボット達の相手は私がしておくから。」
三玖は南美にそう指示すると、抱いているミカを蛍に預けた。
「ごめん三玖、蛍、ミカ。ちょっと練習してくる。」
南美はそう言うと、グラウンドの反対側の奥へと走っていった。そして奥に着くと、早速魔法の練習を開始した。
光の塔の方を見ると、クスの姿が戻っていた。クスは、南美の強烈な魔法を目の当たりにして、恐怖のあまり思わず光の塔の中に入ってガイアに逃げ出してしまったのだが、ガイア側の光の通路の目の前で腕を組んで待機していたクリスに、子猫の捕獲に成功したのか聞かれ、それに対しまだだと答えると、再びキレたクリスに光の塔の中に蹴り出されて再び地球に戻ってきたのだった。




