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魔法少女っているよね ☆初期版*  作者: ににん(ni-ning)
第3章 二回目の異変と謎の子犬
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40 (3-8) 支子ひばり VS 青色の魔法少女

 その時、ひばりは幸せの絶頂だった。こうやって高校2年生になった今でも、変わらずに五色の魔法少女について、親友達と語り合える日々。友(とも)達よ、これからも一年間、新しい魔法少女マジカルキティについて存分に語り合おう、などと心の中で、そんなどうでもいいことを考えていた。そして、なぜか頭の中で、自分が幼き頃から、最近では先月に市民広場前で開催されたものに至るまで、プル達四人と魔法少女ごっこをしていた時の当時の記憶が順を追って走馬灯のように蘇ってきていた。


(あれ? こういう事って、どういう時になったら起こるんだっけ?)

 ひばりは、そんな事をぼんやりと考えながら、親友達と会話していた。そして。


「うんうん、多分大丈夫だと思うよ。プル達がもし白黒になっちゃったら、その時は私が試してあげるよ。」


 ひばりのこのセリフがトリガーとなって、その時、教室の中が、サーっと瞬時にして白黒になっていった。そんなことには一人気づかず、自分でもあまりのおかしさに、涙を流しながら、けたけたと楽しそうに笑っていたひばりだったが、しばらくして目の前の違和感に気づくと、三人の姿を真剣な表情で、しばしの間、観察してみた。なぜだか知らないが、間違いなく三人とも白黒になっている。ただ、それだけでは事の重大さに気づかないのがひばりである。


「も――、早速白黒になっちゃったりしてー。みんなほしがり屋さんだなー。うふふ、じゃー早速試してあげるよ。」


 ひばりは、相変わらずニコニコと笑いながらそう言うと、目の前にいる白黒になってしまったプルの頭に、ポンと右手を置いた。すると、ひばりの右手は、プルの頭の上で固定されずに、プルの頭を通過すると、そのまま真ん中からプルの胴体を真っ二つに貫通して、再びひばりの右脇に戻ってきた。


(およ?)

 ひばりは、まさしく鳩が豆鉄砲を食ったような顔になって、プルの頭の上に置いたはずの右手が、何の感触もなく自分の元に戻ってきたのを不思議に思い、戻ってきた自分の右手を何度も表にしたり裏返しにしたりして確認した。それから、顔を上げて正面のプルを見返した。すると、目の前にいたプルは、顔から下の全身の真ん中部分がごっそりとなくなってしまっていて、体が左右に二分割された状態のままで立っていた。肝心のプルの顔部分がなくなってしまっているので、その表情はうかがい知れない。


「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼー!!!」

 その時、ひばりは意味のわからない奇声を叫びながら、その場をくるくると何回転もすると、頭を抱えて、しばらくそのまま動くことができなかった。ひばりは、その後、なんとか気力を取り戻して顔をゆっくりと上げると、自分の左側にいるミアに向かって、


「ど、どうしよう!? ミアー!! 私やっちゃったよー!!!」

 と、叫びながら、勢いよくミアの両肩をむんずと掴んだ。が、実際に掴めるわけなく、先ほどのプルの時と同様に、ミアの両腕を自分の両手で、ごっそりとこそぎ落としてしまった。


「うっおおおおおおおおおー!!!」

 ひばりは、ほっぺたを両手で押さえながら、新たな奇声を発すると、くるっと180度回転して、膝からガクンと地面に倒れこむと、そのまま両手をガッと地面につけた。


(ヤ、ヤッテモウタ。た、試すつもりだけだったのに…。)

 ひばりは、その時、なんでこうなったのかわからないが、大切な親友をしかも二人も、自らの手でやってしまったと思った。そして、地面からゆっくりと顔を上げて正面を見ると、その時、席に座って、ひばりの方を無表情のまま、じーっと見つめている詩叙と偶然目が合った。


「!??」

 すると、ひばりは、涙と鼻水でびしょびしょになった顔で、詩叙を見つめながら、体がなくなってしまった親友達の方向を無言でスーッと静かに指さした。


「私…、ヤッテモウタ。で、でも…、ヤ、ヤルキはなかったの…。」

 ひばりは、声にならない力のない声で、震えながら詩叙にそう訴えた。


(うん…。)

 詩叙は、無表情のまま無言で少しうなずくと、すくっと立ち上がって、ひばりの元に向かってゆっくりと歩き出した。


 その時のことであった。詩叙の後ろ、教室の外を開いたドアから、一人の生徒がさっと通り過ぎていくのが見えた。


(えっ!??)

 ひばりは、その時、まさかの予期せぬ光景に思わず驚愕した。今、教室を通りすぎていった女の子は、グリーンキティのミクじゃないの!? それとも単なる私の見間違い? いや、この私が見間違うあろうはずがない。あれは、間違いなくグリーンキティのミクだ。ひばりの視力は、両目とも2.0。視力の良さは、ひばりの数少ない長所の一つである。それに、長年追いかけてきた魔法少女のことである。まさか、その自分が間違えるはずがない。こんな時に一体何を考えているのだろうか? と思うが、長年の習性が、どうしてもそうさせてしまうのである。


 ひばりは、その場からゆっくりと立ち上がると、自分の方向に向かってくる詩叙の存在など眼中にはなく、教室の外に向かって、ふらーっと歩き出した。


 そして、その時のことであった。すると、次は教室の外から、先ほどとは逆方向から、今度は三人の女の子が通り過ぎていくのが見えた。


(ぐおおおおおおおおー!! あれは!??)

 今、通り過ぎて行ったのは!? 間違いない。いや、しつこいかもしれないが、間違うはずがない。あれは、レッドキティのナミ、イエローキティのホタル、そしてグリーンキティのミクではないか!!! しかも、今、ナミと目が合った気がするぞ! その時、ひばりはふらふらしながら、無意識に教室の外を出ると、三人の後を追いかけようと、必死な形相で廊下を走り出した。後に、ひばりが語ったことによると、あの時は、なぜかマジカルキティ達なら、ヤッテシマッタ二人のことを救ってくれるんじゃないかと思い、意味なく、無意識にその後を追いかけてしまったとのことである。


「あっ…。」

 その時、ひばりの予期せぬ行動に、思わず小さく声が出てしまった詩叙は、振り返って、ひばりが教室を出ていく様子を目で追いかけていたが、すぐに冷静さを取り戻すと、ひばりの後をものすごい速度で追いかけ始めた。


 ところで、ひばりは、教室の外にいるナミ、ホタル、ミクの三人の魔法少女を瞬時に認識することができたのに、なぜ目の前にいる青色の魔法少女、ブルーキティのシノである露草詩叙のことをじっと見つめても、彼女がブルーキティのシノだと認識できなかったのであろうか? それは、ひばりが魔法少女を認識する能力よりも、詩叙が自身の存在感を消す能力の方が、かすかに上回っていたためである。そのため、ひばりとしては、詩叙のことは、同じクラスにいるクラスメイトその1くらいにしか認識できなかったのである。そして、詩叙は、これからもひばりの前では存在感を消し続けるであろうことから、詩叙自身がひばりに直接伝えるようなことがなければ、ひばりは、これからも詩叙のことをブルーキティのシノだと認識する日が訪れることはないのかもしれない。


 ひばりは、ふらふらと教室から廊下に出ると、廊下を駆け抜けていった三人の魔法少女の後を必死に追いかけ始めた。そして、その後ろから、詩叙がひばりの後を猛然と追いかけてきた。残念ながら、運動は勉強同様に苦手なひばりである。そして、ひばりとは逆に、運動神経は、おそらく宝箱女子高校でも一番であろう詩叙である。体育の授業の運動能力テストでも、もしまじめに受けていたら、走力も含めて総合値では南美をも確実に上回るであろうはずである。詩叙は、すぐにひばりの真後ろまで迫ってきた。ひばりは、後ろから詩叙がすぐそこまで迫ってきていることなど、まったく気づかず、必死に三人の後を追いかけた。


(あっ!!)

 そしてその時、ひばりは、気持ちに体がついてこれなくなって足がからまった。そして受け身もとれない両手を前に突き出した危ない態勢で、勢いよくそのまま地面にこけそうになった。


 その瞬間、詩叙は、とっさに地面をさっと蹴って、空中にふわっと跳び上がると、ひばりより半身程上の高さから、左手でひばりの後頭部をギュッと掴むと、そのままひばりの頭を地面に向けて、斜め前方にグイッと押し下げた。


(エッ!? ナニ!?)

 その時、急に誰かから自分の頭をむんずと掴まれて、地面に向かって押さえつけられたひばりは、結果、前転のかっこうとなり、そのままものすごい勢いで、マンガさながらにグルグルと、地面を擦りながら廊下を転がり回った。そして、うつ伏せの姿勢で廊下に倒れこんだ。


 しばらくの間、意識を失っていたひばりだったが、体中からの激痛を感じて、徐々に意識が蘇ってきた。体中のあちこちが打撲していて、手足のすり傷もかなりひどくて、全身の痛みですごく苦しい。どこか骨折していないだろうか?


「大丈夫……?」

 その時、頭上から心配そうな声がかすかに聞こえてきた。ひばりは、力を振り絞って、両手で上半身を地面から少し持ち上げて、なんとか顔を上げて前方を見つめると、そこには、普段はポーカーフェイスのはずの制服姿のブルーキティのシノが、少し心配そうな顔をして、ひばりのことを見つめていた。


「シノ…。」

 ひばりは、シノのことを確認すると、たった一言言葉を振り絞った。


「うん…。」

 詩叙は、そう言って小さくうなずくと、


「立てる…?」

 と、そう小さく質問した。


「うん。」

 ひばりは、全身が痛くて痛くて、苦しくて苦しくて仕方がなかったが、ブルーキティのシノに言われると、なんだか立てそうな気がする。ひばりは、よろよろとイテテテッって言いながらも、何とか我慢して立ち上がった。すると、シノはやさしく自分の両肩に、そっと両手をあててくれた。ひばりは、その時シノが助けてくれるんだと心の底から安心した。そして、そっと目を閉じると、


「ごめんなさい…。」

 シノの口から、そう言う声がかすかに聞こえた気がした。そしてその瞬間、詩叙は、利き足である左足を大きく空中に振り上げた。左足は空中に大きな弧を描くと、ひばりの顎をチッとかすかにヒットした。その瞬間、ひばりは、脳が振動し気を失って、その場からストンと地面に倒れ込んでしまおうとしたが、寸前で詩叙がしっかりとひばりを抱き抱えた。


「おーい。大丈夫かー?」

その時、遠くの方から声が聞こえてきた。詩叙は、声がする方を見ると、ゆかりが、小走りで自分達の所に向かってきた。そして、二人の元に駆けつけると、


「うがごっ!? なんでこの娘こんなにケガしてるん?」

 ゆかりは、全身キズまみれで気を失っているひばりを見て、ビックリして、思わず詩叙にその理由を聞いた。


「うん…。仕方なく、攻撃しちゃった…。」

 それに対し、詩叙は、いつもの通り平然としてその理由を答えた。


「えーっ!? なんでぇー!?」

 それに対し、ひばりは詩叙の回答の意味が分からず、ただただ困惑した。


「でも…。大丈夫、だから…。」

 詩叙は、平然としたままでそうつけ加えた。


「うっそやーん!? ぜんぜん大丈夫ちゃうやーん!?」

 詩叙の補足の意味が分からず、ひばりはだだ引きで、詩叙に対してそうつっこむ以外なかった。


「この世界線では、死なない限りは…、何があっても大丈夫、だから…。異変が終われば、すべて元に戻るはず…。…私、試したことがあるから…。」


「そ、そうなんか?」


 ゆかりは、この娘、一体どこまで試したことがあるんやろうか? と想像すると、少し恐ろしい気持ちになったが、とりあえず今は詩叙の言うことを信じることにした。詩叙は、気を失っているひばりを背中に担ぐと、二人は静かに自分達の教室、2年D組の教室へと引き返した。

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