39 (3-7) 2年D組でも異変が起こる
ここで少し時間が戻って、ここは宝箱女子高校2年A組の教室を二つ跨いだ2年D組の教室。
これから再び異変が発生すること、露草詩叙が青色の魔法少女であること、そして、実は自分も紫色の魔法少女?であることなどを次々と打ち明けられたゆかりは、さらに、なぜか今日新たな魔法少女が誕生したことを詩叙から打ち明けられた。
「ぬおっ!? まさかあの四人組が?」
「そう…。」
「だ、誰や?」
「………さん。」
そう一言ボソリとつぶやくと、詩叙は静かに自分の席へと戻っていった。
「えっ? なんてぇ?」
ゆかりは、詩叙の声が小さすぎて誰と言ったのか判別できなかった。ゆかりは、詩叙の行方を目で追うと、詩叙の耳たぶが少し赤くなっているように見えた。
「ふ――――。」
ゆかりは、席に深く腰掛けて、ゆっくりと長く息を吐くと、まずは落ち着いて状況を整理してみようと考えた。
(それにしても、あの四人組の中の誰が魔法少女なんやろ?)
ゆかりは、詩叙の声がよく聞き取れなかったので、今から詩叙の席に行って、もう一度確認しようかと思って席を立ち上がろうとしたが、詩叙の方を見ると、詩叙はいつものように周囲から完全に存在感を消して、私にしゃべりかけないで、のオーラが全開状態で、何かの小説でも読んでいるみたいだった。
(うーん、やめとこ。)
ゆかりは、それで詩叙に確認することを断念した。それに、もし今自分が改めて聞きに行ったら、なぜか全体のストーリーの流れが悪くなるような気がした。それと、詩叙とは1年の時もクラスメイトで、同じクラスの時にあまり言葉を交わすことはなかったものの、ゆかりの昼休みの弁当が、お好み焼きと焼きそばのローテーションが、ついに三週目に突入した時、スパゲティナポリタンがパンにはさまれたスパゲティパンをそっとゆかりの席に差し入れてくれたのが、他でもない露草詩叙なのであった。まあ、焼きそばでもナポリタンでも、同じ麺類で炭水化物なんで、実際はそう大差はないんやけどな。ともあれ、普段は無口で無表情で、何を考えているのかよくわからない娘なのだが、少なくとも悪い人間ではないのは確かだ。それで、ゆかりは詩叙のことを信じることにしたのである。
ゆかりは、次に視線を詩叙から例の四人組に目を移すと、四人組のメンバーを一人ずつじっくりと観察しだした。そして、しばらくすると、
(うーん…。まあ魔法少女になるんやったら、チンチクリンの娘(プル)か、かわいらしい娘(ルーシー)のどちらかの二択かなー? せめてあのアホっぽい娘(ひばり)だけは勘弁してほしいなー。)
などと考えていたが、ゆかりも悪い意味でもっている人間であり、こういう時は、大体一番ありがたくない予想が当たるのである。
ゆかりは、今日も実家に早く帰って、夜からの店の開店準備を手伝わなければならなかったのだが、今は自分の命が関わっている非常事態なのだから、そんな事はいってられない。ゆかりは、おかんに、「学校の方で急用ができた すまんけど家に帰るんがちょっと遅れる」という短いラインをいれておいた。ちなみに、おかんからは、「了解!! ゆっくり休養しーや☻」という、どうでもいい返信がすぐに来ていた。それからしばらくは、ゆかりは、自分の席から教室内をじっくりと真剣な表情で観察していた。そして、それからかなりの時間が経過した。四人組の方は、未だにマジカルキティの話をしていて一向に帰る気配がないし、詩叙の方は、他人に興味がないように小説を読んでいるように見えるが、おそらく四人組の様子を注意深く見守っているのだろう。しかし、今日の授業が終わってから、すでに一時間以上が経過している。詩叙の言う通り、本当に今日これから異変が起こるのであろうか? ゆかりは、少し疑問に思いだした。
「ねぇねぇ、ひばり。ロボット達が現れる時の異変の世界ってどうなってるんだろうね? 私達白黒になっちゃうみたいだけど、どんな感じなのかなー?」
プルが、いつものようにピョンピョン跳ねるようにしゃべっている。
「そうだね。あの世界にいる時、私達の意識とかってあるのかなー?」
次にルーシーが、不思議そうな表情をしてそう言った。
(いやいや、どんな感じやったって? うーん、白黒の人間は全員意識飛んでる感じやったけどなー。)
退屈で特にやることがなかったので、暇つぶしに四人の会話を勝手に聞いていたゆかりは、心の中で適当にそう返答していた。
「そうだな。もしあの世界にいる時に俺たちにキズを付けられたら、大丈夫なんだろな?」
ミアが、ルーシーの疑問にそうつけ加えた。
(キズをつけた本人から言わせてもらうと、ざっくりと体がもっていかれとったけどなー。)
ゆかりが、心の中で再度適当に返答をいれる。
「うんうん、多分大丈夫だと思うよ。プル達がもし白黒になっちゃったら、その時は私が試してあげるよ。」
ひばりが、彼女達の疑問に対し冗談を入れると、キャッキャキャッキャと四人ははしゃぎ合っていた。
(まあ、体もっていかれてたんお前やったんやけどな。…まあ、結局大丈夫やったようやけどなー。)
それから、緊張の糸がぷっつりと切れてしまって、すっかりと緩んでしまったゆかりは、
(ふーぅ、もうどうでもええわ。)
と思いながら、大きく欠伸をした。その時だった。はっとイヤな寒気を感じると、ゆかりは、思わず両手で机をしっかりと握りしめながら顔を机に突っ伏した。そして、再び顔を上げた瞬間、教室の中が前回と同じく彩りを失って、すべてのものが白黒に変わり果ててしまっていた。いや、前回と同じではない。右側を振り向くと、彩りを維持したままの詩叙が、異変が起こる前と後でまったく変わった様子もなく、イスに座って興味なさげに読みかけの小説のページを開いていた。しかし、詩叙は小説には一切目を向けず、前方の方をじーっと見つめていた。
(あっほ! そうや!)
ゆかりは、その時思い出したように、右前方に陣取っていた四人組に注目した。
「あっ!…ふぅ~あ、やっぱり、そうやったか。」
ゆかりは、その時実感した。こういう時は、大体一番ありがたくない予想が当たるのである。ゆかりが四人組を確認すると、四人組の中で、ゆかりに唯一背中を向けてしゃべっていた、四人組の中で一番アホっぽい娘、そして四人組のリーダー格である支子ひばりが、このすべてが白黒となってしまった世界の中で、唯一にして彩りを維持していたのである。




