37 (3-5) 異変後の正面玄関
南美達四人は自分達2年A組の教室を出ると、グラウンドに向かって廊下を走り出した。「廊下は走るな」が学校の規則だが、今はそんなことなんて言ってられない。それに、こういった決まり事にうるさいはずの三玖が、この非常時にそんなことを注意するなんてこともあり得ない。南美は廊下を走りながら、さっと辺りを見渡すと、廊下にいた生徒達もA組の教室にいたクラスメイト達と同様に、白黒になって異変が起こる直前で時間が停止していた。廊下を走りながら、空いている教室のドアの隙間から教室の中を横目で見ても、それは同じだった。
2年B組――→2年C組――→2年D組――→ ………
「あれ?」
どの教室を見ても、ひとり残らず、全員が白黒になっていた。…でも、D組の教室をチラッと見た時、白黒になっていない、異変が起こる前と同じ彩りを維持したままの生徒が、しかも何人もいるような気がした。しかも、その内の一人の生徒と目が合ったような気がしたのだ。
(確か、あの娘は…。)
だが、そんなことなど、この非常事態時に深く考えている場合ではない。玄関まで行ってすぐに靴を履き替えた時には、そんなことなんかすっかり忘れてしまって、急いでグラウンドの方に向かおうとした。
「ちょっと待って!」
南美が先頭に立ってグラウンドに向かおうとしたその瞬間、三玖が南美を呼び止めた。
「えっ? どうしたの?」
すでに正面玄関を出て、校舎の外に一歩足を踏み出ようとしていたところだった南美は、キュッとローファーを横に向けて足元に力を入れて急停止すると、三玖の方を振り返った。
「このままの格好だと危ないわ。光の塔に向かう前に、先にここで魔法子猫になっておいた方がいいわ。」
三玖がいつもの落ち着いた様子で、南美達にそう提案すると、
「うん、言われてみれば、確かにその方がいいかもしれない。」
南美はそう言って納得すると、三玖達の元に合流するため、くるっと方向転換すると、再び校舎の中に戻ってスタスタと歩き出した。やっぱりこういう非常事態になっても、いつも通り落ち着いて冷静に状況判断ができる三玖が一緒にいてくれて本当によかった、と南美はその時実感した。
「よし、それじゃ早速魔法少女に変身してみようよ。…それで、どうやったら魔法少女に変身できるの?」
南美は、この非常事態の中でも、これから自分が本当に魔法少女になるんだという、本来の自身が持つ旺盛な好奇心と冒険心が沸々と体の奥底から湧いてきているのを感じていた。
「うん、グラウンドの方にもう光の塔が伸びているはずだから、いつでも変身できると思うよ。」
すると、ミカが南美の質問にすぐに答えた。
「そうか。だったら私はどうしたらいいの?」
「うん、南美が今魔法子猫になりたい! って強く願ってくれたら、私も同じくらい南美が魔法子猫になってほしいって願うから、そうすれば、私は南美に魔法を授けることができるはずだよ。」
「ふーん、そうすればいいのね。じゃあ早速願ってみるよ。」
そう言うと、南美は早速目を閉じると魔法少女になりたいと願いだした。すると、ミカもそれにつられるように目を閉じて同じように願いだした。すると、すぐに南美の首元に掛けられたペンダントの赤い宝石がぼんやりと赤く光り出すと同時に、ミカの首元につけたリボンの赤い宝石もそれに呼応するかのように、徐々に赤く光り出した。そして、南美とミカの二人の周りがぼんやりと鮮やかに光り輝き始めたと思ったその瞬間、
「あっ、待って! だったら、まずは蛍に魔法子猫になってもらいましょう。蛍は一度魔法子猫になったことがあるんだから、まずは蛍にお手本を見せてもらいましょう。」
その時、南美が魔法少女へ変身しようと試みていたところを三玖が突然ストップをかけた。
「えっ? 私?」
突然、三玖から魔法少女になるようにふられて、蛍はオロオロと慌てふためいた。
「確かに、三玖の言う通りだ。それじゃ蛍。お願い、先に魔法少女になってみて。」
南美はそう言って目を開けると、それと同時に南美の周りを覆っていた光もそれに同調するかのようにスッと消え去ってしまった。南美は、三玖の言う通り、まずは蛍の魔法少女の変身を見て参考にしようと思った。それに、蛍のかわいらしい魔法少女姿を今回はじっくりと観察してみたい。
「…う、うん。」
蛍は顔を真っ赤にしながら三玖の提案を受け入れたが、内心では、
(えー! さっき南美がほとんど魔法少女に変身できてたのに、なんで三玖は止めちゃったの? 私、今回は南美と三玖の後ろについていって、二人に守ってもらおうと思っていたのに…。)
などと、思っていた。
「私からもお願いするわ。」
三玖は心の中では、南美が自分が予想したよりもかなりスムーズに魔法少女に変身できそうだったので、別にあの時南美の変身を止める必要はなかった。しかも、かなりいいタイミングの所で自分が変身を止めてしまったので、実はかなり恥ずかしかったのだが、そんなことは一切表情に見せずに、いつもの余裕のある調子で蛍にそうお願いした。
蛍は、恥ずかしさを紛らわすように、コホンとひとつ軽く咳払いをすると、
「そ、それじゃ、やってみるね。」
「うん、お願い。」
南美が目を輝かせながら元気よく蛍にそうお願いした。
そして、蛍が目を瞑って強く願った瞬間、蛍の首元に掛けられたスカラベの黄色い宝石が強く光り輝き、蛍の周囲が急に彩り始めた。そして、その場からくるくる回りながら高くジャンプすると、5m程の高さの地点で魔法少女へと変身した。そして地面に着地すると、
「かわいい子猫をいじめる悪い人は許さない。五色の魔法少女イエローキティ。」
ほたるは片足をちょこんと折り曲げ、両手でにゃんこのポーズをとりながら、自然に口からセリフと決めポーズが飛び出した。
(それにしても何なんですか一体これは? すごく恥ずかしいんですけど。)
ほたるは決めポーズを即座に解いて、通常の姿勢に戻ると、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、両手で顔を覆い隠した。




