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魔法少女っているよね ☆初期版*  作者: ににん(ni-ning)
第2章 『誕生??魔法少女』
31/73

31 (2-9) 惑星ガイア★3

 では、クスの外見はどんなのかというと、地球の人間と比較すると、長身で、全身を黒を基調とした、いわゆる長官の制服を身にまとい、少し長めのグレーの髪(といっても、実際は本物の髪ではないのだが。)を後ろでに伸ばし、目鼻顔立ちがくっきりとしたハンサムな顔立ちをしていたが、年頃は三十か四十代くらいの中年で、これから実行しなくてはならない不測の事態への対処を前にして、額のシワを少しゆがめ、緊張した表情を浮かべていた。


 クスは指令室に入ると、さっそく巨大な透明のスクリーン上に映しだされたミカを乗せた宇宙船の現在の位置を示す小さな点が、画面上では同じく小さな丸い星の外周上で、完全に停止しているのを確認した。


 クスにとって、スクリーン上で宇宙船が完全に停止した状態を見るのは、この五百年の間で初めてのことであり、あーあ、やっぱりな、と少し落胆した。そして、これからのクスの仕事は、五百年以上に渡って宙船の動きを観測することから、その宇宙船の中にいるはずの、ミカの動向を観察することに切り替わった。


 しかし、宇宙船がとうとうどこかの惑星に降り立ったからといって、クス側から、その惑星がどのような惑星であるかなど直ちに確認することはできない。もしその惑星が、一切の生命体が生息することを拒絶するような環境下の星であったり、ミカが宇宙船から出てくるようなことが一生なければ、クスの仕事は、この動かない宇宙船を永遠に見続けることになるだろう。だが、クスの心の中では、なぜか悪い予感がしていた。


 そして宇宙船が停止してから数時間が経った頃、宇宙船の変わらない様子をただただ眺めていたクスの指令室に、ピピピピ♪ ピピピピ♪ と、突然宇宙船からの信号が何回も発信されてきたのである。これは、宇宙船の外側に、宇宙船から指令室(元々はミカの家の研究室にあったものだが。)に向けた発信用のボタンがついており、その惑星は、何らかの生命体が生息することが可能な星であり、そのボタンをミカ自身か、もしくは誰かが押したという証拠であった。もしかしたら、実際には岩や何かの物体が、そのボタンに偶然接触した可能性も否定できないが、クス側からではそれを確認することはできない。


 これでクスの運命は決まってしまった。クスは、これからミカがいる惑星まで行って、彼女をガイアまで連れ戻さなければならない。


 彼はさっそく「G」に、この件の報告にいくことにした。その道中、クスの額のシワはさらに深くなった。いくら五大長官の一人の彼とはいえ、日常の業務の中でも、「G」と会うことなどめったになかった。そのため、彼は極度に緊張していた。それに、彼は「G」のことが、なぜか苦手だった。もちろん「G」のことが嫌いだというわけではない。「G」は我々ロボット達の代表者であり、「G」には畏敬の念を抱いている。しかし、彼を目の前にすると、まるですべてを見透かされているような、そして自分がとてつもなく出来損ないであるかのような劣等感を抱かざるを得ないのである。


 それに彼自身、正直いって、自分が他のヒューマノイド達と比べても、決して出来のよい方ではなく、なぜそんな自分が五大長官の一人に抜擢されているのか、よくわからなかった。ただ五大長官とはいっても、他の四人の長官と比べて、仕事の難易度ははるかにやさしく、クスにでも務まるものであるのは間違いなかった。だが、それも昨日までの話だった。だから、彼は今日をもって「G」から五大長官の任から解任されてしまっても、何一つ文句をいうことはできない。それでも、クスとしては今の地位に留まり、彼自身でやれる限りのことはやってみたかった。


 クスは「G」がいる統括室に赴き、「G」に対し、これまでの経緯を報告した。すると「G」は、この五百年で初めて進行したこのニュースに対しても、特に驚いたり興奮した様子も見せることもなく、いつものように冷静で、それでは、これまで計画してきた通りの作戦を実行に移すようクスに指示した。


 その計画とは、惑星ガイアにあるウラニャースの光の塔、現在は単に光の塔と呼ばれる莫大なエネルギーをここガイアから宇宙船が到着した惑星まで物質を転移するための異次元ホールへと転換し、それを伝って、ミカの父親であるパタパが、その惑星にいるであろうミカを迎えにいくというものであった。


 この光の塔の莫大なエネルギーを異次元転送に利用するという手法は、過去に人類が発明したとされるロストテクノロジーの一つであったが、ロボット達は、この技術を復活させることに成功していた。ただ、この技術は非常に取扱いに注意が必要で、実験の初期段階では、異次元への転送の際に、出力不足もしくは過多によって、転送の途中でロボットが粉々に爆発してしまったり、転移先の計算を微妙に誤り、宇宙空間にそのまま投げ出されてしまったものや、光の塔の出口が予想以上に早く閉まってしまったせいで、転移先の惑星にそのまま永久に取り残されてしまう、といったような事象が多発した。そして、もっとも注意すべきなのが、光の塔のエネルギー調整であった。もしこれを間違えてしまうと、最悪の場合、エネルギーが惑星に反作用し、惑星自体が爆発してしまうといった危険性があった。


 そして、この光の塔を管轄しているのが、同じく五大長官の一人であり、科学部門を統括するクリスであった。クスは、このクリスのことも苦手にしていた。同じヒューマノイドでありながらも、見た目は若くてかわいらしい女の子である彼女は、五大長官という対等な立場で、見た目はかなり年下ながらも、彼に対しては、常に上から目線で、言葉遣いはいやみったらしく、そんな彼女の機嫌を取りながら、なんとか、この光の塔の異次元転移の技術を確立させていったのである。


 そして宇宙船が降り立った惑星の照準を確定した後は、細心の注意と時間をかけて、位置調整とエネルギー調整を完了し、あとは予定通りパタパがミカを迎えにいくだけとなった。


 そして、宇宙船が惑星に降り立ってから、だいたい二週間が経過した頃、その惑星に繋がる光の塔が開通し、その惑星の簡単な調査を行うと、一部の不明瞭な事象を除いて、ガイア同様、動植物などの生命体が暮らすには最適な環境だということがわかり、これならミカもその惑星に生息していてもおかしくない。ということで、パタパを予定通り、その惑星の中へと派遣した。


 クスはその時、本当は灼熱の惑星だとか、氷河でカチコチに固まった惑星だとか、その惑星が生命体が絶対に生息不可能な惑星だったらよかったのに、と心の中で思った。そしてしばらくすると、パタパからミカに抵抗されているという連絡が入り、万が一に備えて、入り口の前に待機させていた現場猫ロボット一体を光の中へと送った。しかし、現状の光の塔の出力では、これ以上の質量の物体をその惑星まで転送することはできない。そして、それからしばらく待っていると、パタパと現場猫ロボットが帰ってきた。パタパは、ミカを連れて帰ることができず、しかも現場猫ロボットの片腕が吹っ飛んでいた。


 パタパに確認したところ、ミカにはロボットになることを拒絶され、その上、なんと伝説の五色の魔法子猫が現れ、現場猫ロボットが一撃で破壊されたのだという。パタパは、戦闘中、自身のコンピュータを使って、五色の魔法子猫のデータ分析を試みたが、なぜかそれらはすべてエラーとなってしまって不可能だった。


 クスは、パタパに対し、「ミカは喜んでロボットになってくれるって言ってたじゃないか。」と憤りを覚えたが、ウラネコだった時のパタパと、今のパタパではまったく別の人格といっていいくらいなので、そういうことを今さら言ってしまっても無駄だった。


 そして、現場猫ロボットを破壊した伝説の五色の魔法子猫についてだが、魔法子猫になる前までは、分析の結果、100%人類の一種だということだった。そもそも、伝説の五色の魔法子猫達というものは、正式な書物などが一切残ってなく、絵本や伝承程度でしか情報が伝わっていなかったため、実際に伝説の五色の魔法子猫達というのは一体どういうものなのか、ということ自体わかっていなかったので、伝説の五色の魔法子猫とは、猫類ではなく人類が正解なのか、パタパが遭遇した魔法子猫か少女が、本物の伝説の五色の魔法子猫だったのか、パタパに確認したが、パタパはわからないと言った。クスは、それに対しても、「もう、何だよそれ。伝説の五色の魔法子猫達を探しに行くっていったのはお前だろ。」と、さらに憤ってしまったが、それを今のパタパに言っても仕方がない。


 もし、パタパが先ほど遭遇したのが、本当に伝説の五色の魔法子猫であったら? 実は、それは決して可能性が0という話ではない。


 実際にパタパは彼女達を探すため、ミカを宇宙に派遣し、ミカは五百年の歳月をかけて、ついに目的の星に到着した。そして今、目の前で伝説の五色の魔法子猫を名乗る少女に現場猫ロボットが破壊された映像を見返しているところだった。


 これは非常にまずいことになった。このままだと、自分達ロボットが本来仕えるべき対象である人類の一種でありながら、人類を救ってくれるといわれる存在と戦うことになってしまうかもしれない。


 焦ったクスは、本件をすぐに「G」に報告した。「G」の答えは、人類とはいっても、ガイアの人類とは別の人類なので、戦闘行為を行っても構わない。引き続きミカをガイアまで連れて帰るようにと、簡単な指示を与えるのみだった。


 クスは黙って「G」の言う通りに従うことにしたが、光の塔の出力調整には、まだまだ時間と労力が必要で、現時点では、そんなに大した質量の物体をその惑星まで転送することはできない。それに戦闘タイプのロボットは、数百年前のウラネコ達の反乱によって一つ残らず全滅してしまった。そしてその後、ガイアでは戦争というものがなかったため、そもそも武器や兵器といった類のものが存在しない。次回、その惑星に転送するにしても、現場班長猫ロボットや現場猫ロボット数体程度を送るくらいが限界であろう。


 こんな戦力でミカをガイアに連れ戻し、伝説の五色の魔法子猫? と戦うことなんて本当にできるのだろうか? クスは疑問に思ったが、それを考えるのが彼の仕事であるということを彼自身すっかり忘れているようだった。

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