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魔法少女っているよね ☆初期版*  作者: ににん(ni-ning)
第2章 『誕生??魔法少女』
23/73

23 (2-1) 魔法少女に憧れる少女*1

 ここ宝箱市にある、宝箱女子高等学校の2年の新学期がスタートしてから、すでに一週間が経過しようとしていた。緋色南美ひいろなみと菜の花蛍、そして江戸紫えどむらさきゆかりにとっては、波乱の、露草詩叙つゆくさしの若葉三玖わかばみくにとっては、凪の、そして、支子くちなしひばりにとっては、まさに平和で幸せな一週間であった。


 その週末の土曜日、ひばりは、学校帰りに、親友のプル、ミア、ルーシーの三人と別れると、今は一人家路への帰路の途中であった。ひばりは幸せだった。まさか2年になって、共通の伝説の五色の魔法少女シリーズのファンであり、幼馴染でもあるプル、ミア、ルーシー、それと薄珊瑚うすさんごつかさも入れると、四人と同じクラスになれるなんて、夢にも思わなかったからである。小さい頃は、よく五人で公園に集まって魔法少女ごっこをしたものである。プルは赤色、ミアは青色、ルーシーは緑色、つかさは黄色、そして、ひばりは桃色、というのが定番であった。残念ながら、つかさは小学生の頃から始めたバスケットボールの方に夢中になって、次第に四人とは疎遠になってしまったものの、家は一番近所にあり、別に仲が悪いわけではない。ちなみに、残った四人は、定期的にどこかに集合し、本格的なコスチュームに身を包んで、未だに魔法少女ごっこを続けているという噂だ。


 みなさんは、この支子ひばりという少女のことを覚えているだろうか? そう、2年D組の始業式の日のホームルームでの挨拶で、担任の桜井先生からマジギレされ、放課後に、プル、ミア、ルーシーの四人で、伝説の五色の魔法少女のことを熱く語り合っていた、クラスでも、ひと際印象的なグループの一員であり、時間が止まり白黒となった世界で、ゆかりに体の一部をえぐりとられながらも、満面の笑みをキープしていたあの娘である。


 この支子ひばりという少女、幼少の頃からの、筋金入りの伝説の五色の魔法少女好きで、彼女が背中に背負っているピンクの派手なバックパックは、アンオフィシャルながら、もちろん五色の魔法少女のバックパックで、バッグには、こちらはオフィシャルの、缶バッジやらキーホルダーやらの魔法少女のグッズを大量につけているため、彼女が歩くたびに、ガチャガチャと音を鳴らしていた。そして、彼女の容姿はというと、背は小柄な方で、おそらく、ゆかりとクラスで1,2位を争うほど低いのだろう。制服は地元でもかわいらしいことで有名なのだが、あいにくひばりは魔法少女以外のこと以外にはほとんど興味がないので、こげ茶のブレザーに、学校指定のあずき色のセーター、ホワイトのブラウスの首元にはワインレッドのリボン、スカートはえんじと紺のチェック、それに足元は白の靴下にローファーと、全てが少し大きめであること以外は、至って校則に沿った格好である。少し茶色が掛かった髪は、短めながらも、髪の毛の左右をピンクのゴムで留めており、そこから肩口辺りまでチョコンと髪が左右に出ている。顔は幼さがまだ十分に残っているものの、全体的にバランスはまとまっており、かわいいと言えなくもない。同じ小柄といっても、ゆかりの方は、精神的にはかなり成熟しており、一方ひばりの方は、依然子供っぽさを多分に残していると言えよう。彼女が街を歩いていると、男女に関わらず、100人いれば100人は振り返らない、と言っていいくらいの普通ぽさが彼女にはある。


 ひばりは、高校2年が始まって一週間、ずっと幸せであったが、明日は、さらに最高に幸せな一日となる予定だ。一つは、もちろん明日の夜から始まる「伝説の五色の魔法少女シリーズ」の最新作にあたる「五色の子猫の魔法少女マジカルキティ」の第一話のことだ。そしてもう一つは、明日の夕食で、ひばりの16歳の誕生日を祝って、家族で誕生パーティーを開いてもらう予定になっていることだ。実をいうと、先日の4月2日をもって、ひばりは、すでに16歳になっていたのだが、父親の耀司ようじの勤める会社の仕事の都合で、明日まで先延ばしにされていたのである。それと、実はもう一つ理由があった。このひばりの16歳の誕生日に際して、両親から、ひばりに大切な話がある。けど、あんまり期待しないでね、と言われていたのである。だが、ひばりにとって、それはどうでもいいことだった。毎年の誕生日プレゼントは、伝説の五色の魔法少女の最新シリーズの、今回でいうと、五色の子猫の魔法少女の、それも桃色の魔法少女のグッズと決めてあり、その商品が販売されたら、その時に買ってもらうことにしていたので、特に問題はない。それに、親友のプル、ミア、ルーシーのそれぞれからは、すでに誕生日プレゼントをもらってお祝いもされていたし、つかさからも、バスケ部の遠征先のお土産だとのことで、現地で有名だという和菓子を家族で食べて、と言われて、渡されていた。


 ひばりは、家に帰ると、早速二階にある自分の部屋に入った。ひばりの家はどんな家かというと、どこにでもあるような建売の二階建ての白い一軒家で、特にコメントするような所もない。そして、ひばりの部屋はどうかというと、本棚を除いて、カーテンもピンク、机もイスもベッドも、みんなピンクで目がチカチカするし、そして、部屋中のあちらこちらに歴代の魔法少女のフィギュアやグッズなどが、ごちゃごちゃと乱雑に置かれており、まあ予想された通りの感じである。その日のひばりは、特に予定もなく、ベッドに寝ころびながらマンガを読んだり、ボーっとしたり、プル達とのグループチャットを楽しんだり、ボーっとしたり、妹の万智まちとゲームをしたりと、いつものように無為で無駄な時間を過ごしていた。もちろん宿題はやる予定に入っていない。


 そして翌日の日曜日、いつものように昼前に起きると、自分の誕生パーティーまで特にやることがないので、相変わらず無為に時間を過ごしていた。そして、その他の家族はどうかというと、父親の耀司も特にやることがなく、ひばりのようにテレビを観たり、ボーっとしたりしていて、妹の万智は、部屋で宿題を片づけたり、それが終わると、本を読んだりと、ゆっくりとした時間を過ごしたが、母親の洋子だけは、ひばりの誕生パーティーの食事の準備をしないといけないということで、少しだけ忙しそうにしていた。そして、耀司と万智は、片手間に、色紙で簡単な装飾のような物を作って、台所中に適当に飾ると、A4のコピー用紙を3枚くらい並べて、何色かのカラーマジックで、『ひばり16歳の誕生日おめでとう!』という文字を書くと、台所のどこか適当な位置に、少し左斜め下を向いてしまったが、気にせずそのまま貼り付けておいた。これらを見ただけでも、ひばりの16歳の誕生日が、いかに特別でないことがよくわかる。


 ここで、興味ない方もいるかもしれないが、せっかくなので、ひばりの家族のことも紹介しておこう。まず父親の耀司であるが、平日に電車にでも乗っていれば、必ず見かけるような、どこかの会社に勤める、ごく普通のサラリーマンである。背は高くもなく低くもなく中くらいで、あまり細かいことを気にしない大らかな性格をしているようで、顔つきを見てると、少しなるほど、と思うかもしれない。一方、母親の洋子はというと、背は小柄で、顔を含め全体的にかわいらしい感じで、ひばりは恐らく母親似なのであろう。洋子は、その幼げな印象から、今は年齢より若く見られることが多いそうであるが、何年か経つと、そのメリットがデメリットに転ずる日が、ある日突然訪れることを今はまだ知らない。性格も夫の耀司に似て、大らかなようである。妹の万智は、ひばりとは学年が2個下で、現在は中学3年生。背は父親の耀司の方から遺伝したようで、すでに姉のひばりより一回りくらい背が高い。顔も姉に似ているが、こちらは姉と違って、しっかり者の顔をしている。それは、万智が幼い頃から、常に姉のひばりを見て反面教師として育ってきたため、そして、いつも失敗ばかりする姉をフォローしなければならないという責任感のため、自然と身に着けたものであった。だからといって、姉のことが嫌いなわけではない。幼い頃からブレずに魔法少女のことを愛し続ける姉の、その一貫した姿勢には、むしろ尊敬すら感じているくらいだ。それと、ひばり以外にも、たまに外すことのある耀司や洋子のフォローに回る必要もあるため、支子家の中でも一番の常識人である。


 そして、お待ちかねの夕食の時間が来て、予定通りひばりの16歳の誕生パーティーの開催となった。テーブルには、ひばりの16歳の誕生日ということで、バースディケーキには、お約束の16本のロウソクのそれぞれに火が灯され、それと、デリバリーで頼んでおいたピザ、そして母の洋子の手作りであるチキンステーキやハンバーグやポテトサラダなど、ひばりの好物を中心とした料理が並んでいた。家族四人全員が揃って席に着くと、ひばりを除く家族三人による愉快なハッピーバースデーのソングが披露された。ひばりは、バースディケーキに刺さった16本のロウソクにフーフーと一生懸命息を吹きかけたが、一回では全て消えず、何回かチャレンジした後に、全てが消えたタイミングで、夕食のスタートとなった。ひばりは、夕食が始まると、すぐにピザやらチキンステーキやらポテトサラダなどを一気に口にいれようとしたため、あやうく窒息死しかかったが、何とかその危機から脱すると、ようやく気持ちが落ち着いてきたのか、まともに食事することができるようになった。食事の間は、家族でひばりの幼少の頃からの思い出話なんかをいくつか披露していたようだが、特にとりたてて話すような内容はない。


一家は食事が終わると、せっかくなので、コーヒーでも飲みながらバースディケーキを食べようかという話になって、母親の洋子がコーヒーの準備をして、父親の耀司がケーキを均等に切ろうとしている時だった。洋子が突然思い出したように、


「あっ! そういえば、ひばりにあの話をしなきゃいけないんじゃなかったっけ?」

 と、耀司に確認すると、耀司も最初は何のことだったのかさっぱり分からない様子だったが、少しするとようやく思い出したようで、

「あっ! そうだった。すっかり忘れてた。」

 と、その時、何かを思い出したようであった。


 テーブルに全員分のコーヒーとケーキが用意され、家族全員が再び揃ってイスに座り直すと、


「ひばり、食べながらでいいから、今からパパが話すことを真剣に聞くんだよ。」

「だからといって、別に大した話じゃないんだけどね。」

 耀司がひばりに話し始めると、洋子が耀司の話に補足を入れる。


「うん、わかった。」

 ケーキを口に着けながら、興味なさそうに片手間に返事をするひばり。


 耀司は、コホンと一つせき払いをすると、改まった様子で、

「実は、今まで隠してきたというか、特に言う必要がなかったので、今まで言わなかっただけなんだが、我々支子一族はな、先祖代々魔法少女の家系なんだ。」


「…へ、へえ。」

 微妙な顔をして、それに応えるひばり。


「いや、決してウソなんかじゃないぞ。我々支子家に代々口頭で伝わる伝承はこう言ってある。体に六芒星ろくぼうせいのアザがある一族の女性が、16歳を迎えたその日を持って、正式に魔法少女になるという。その証拠に…あるだろう? ひばりには六芒星のアザが。」


「ロク、ボーセー?」


「そう、六芒星だ。六角形の星の形をした。三角形を二つ、上下を逆さにしてくっつけたような星のことだ。」


「…うん、確かにある。」

 ひばりは、自分のシャツを腹の上の方までめくると、確かに六芒星の形をした小さなアザが、へその横あたりにあった。


「そうだ、あるだろ。だからひばりは4月2日から正式に魔法少女になった、ということになるんだ。」

「よかったね、ひばり。小さい頃からずっと魔法少女になりたかったもんね。これであなたも晴れて魔法少女の仲間入りよ。」

 そう補足する洋子。


 両親の発言に対して、しばらく下を向いて黙ってプルプルしていたひばりは、もう我慢ならずといった感じで勢いよく立ち上がると、

「おい! 何が魔法少女になってよかったね、だ! 私は自分でもわかってるんだよ。自分の魔法少女好きが異常なことくらいは。それでクラスメイトのみんなからも、微妙な距離をとられていることくらい気づいてるんだよ。でも、好きなものは好きなんだから仕方ないじゃない! 私も大人になれば、この魔法少女好きが徐々に消えてていくんじゃじゃないか、と思った時期もあったけど、その情熱は、消えるどころか、むしろ増えてるくらいなんだよ。…でも、でもだよ。まさか誕生パーティーの後に、こんなサプライズな仕打ちをしかけてくるなんて…。まさか、身内にまで魔法少女好きをネタにされるなんて思わなかった!」


 ひばりは、わーんと号泣すると、二階の自分の部屋の方へと走り出そうとした。その時、親子の様子を横でケーキを食べながら冷静に観察していた万智も、ひばりと同意見で、両親も、高校生になったら、さすがに姉の異常な魔法少女好きも、少しは収まってくれるのかと期待していたものの、特に何もないまま高校1年生が終わり、このままだと姉は一生痛いままになってしまう、と心配した両親が危機を感じ、今日の一番ダメージがでかいタイミングを狙って、強硬手段に打って出たのだと思った。          

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