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魔法少女っているよね ☆初期版*  作者: ににん(ni-ning)
間奏 なんや?なんなんや??
22/73

22 (i-2) なんなんや??

 ゆかりは、席を勢いよく立ちあがって、教室のドアに向かって歩き出そうとしたその瞬間、急に、何かいやな寒気を感じると、教室の奥側から自分のいる方向に向かって、サッと周囲の彩りが一瞬でなくなって、すべてが白黒になっていく。


「はえっ!? なんや?」

 ゆかりは、両足に力を込め、とっさに両手を顔に当て、その不気味な何かから身を守ろうとした。そして、一瞬、何かゾッとしたものが、自分の前を通り過ぎたような感覚を感じた。恐怖のため、少しそのままの態勢でじっとしていたが、やがて両手を降ろしゆっくり目を開けると、


「ほげっ!?」

 教室の中が、全て白黒になっている。黒板も、机も、ロッカーなどのすべての備品が、そして、先ほど伝説の五色の魔法少女について熱く語り合っていた四人組を含め、教室にいる全てのクラスメイトが全員白黒に、薄らぼんやりした感じになっていて、しかも、楽しそうにおしゃべりしていた時の表情そのままで、動きが完全に停止している。ゆかりは、次に外を見てみた。空は、画用紙に鉛筆でラフにさらっと斜めに線を入れたような感じだし、レンガ色に縁どられた校舎、周囲に見える木とか、植栽の緑なんかも、すべてが濃紺の灰色になっている。


「なんでや!? クラスメイトの娘達、みんな止まっとるやないか!」

 ゆかりは、あまりにも信じられない光景を目の前にして、一瞬、頭が真っ白になった。


「いやいや、うちが真っ白になってどないすんねん。」

 ゆかりは、そう自分でツッコミを入れると、何とか正気を保とうと、恐ろしい気持ちで、自分の両手を確認してみた。


「あれ? もしかして、うち目ー悪うなったんか?」

 幸いにも、自分はクラスメイトのように白黒になってなく、元のままだ。少しホッとすると、


「ホッ、よかった。……いやいや、よくないわ。でも…それにしても、一体どないなっとんねん。」


 ゆかりは、試しに四人組がいる辺りに近づくと、

「おーい、聞こえてるか?」

 と、声をかけて見た。


 まったく反応がない。次に、四人組の一人の肩に触れてみようとした。すると、ゆかりの手は何の手応えもなく、その娘の肩を通り過ぎて、再び自分の脇に戻ってきた。そして、その娘の方を見ると、自分の手が貫通した箇所が、そのままごっそりとキレイになくなっている。


「うわっ!?」

 ものすごくビックリした。もしかして、この娘死んでへんやろな? ビクビクしながら、この支子くちなしさんていう娘の顔を見てみると、自分の体が削り取られてるにもかかわらず、時間が止まる前と同じ、ものすごい笑顔をしてるわ。まあ、体削り取ったん、うちなんやけどな。


「怖っ。ちょっとクラスメイトには触らん方がええみたいやな。」

 ゆかりは、自分の席に戻って再び座り直すと、どうすればよいのか、じっくりと考えこむことにした。


 一体どうしたらよいのか? こういう時、大抵の人間は正常な判断ができない。


「まあ、えっか。とりあえず家に帰るか。」

 ゆかりは、そう言うと、教室の後ろの棚からバックパックを取り出して荷物を入れると、バッグを背負って、とりあえず教室の外に出た。そして、至って平静を装って努力する、というか、本当は現実を直視したくないため、まるでいつも通り、というような表情で、廊下を歩こうとした。すると、廊下にいる女の子達も、みんな白黒で、周りに見える景色も何もかも、すべてが白黒。ゆかりは、それを特に気にしないような顔で歩き続けていたが、内心では、


(うわっ! 白黒なんは教室だけやないんや。)

 と思っていた。そして、下駄箱に行って、ローファーに履き替えると、校舎を出た。すると、ゆかりの眼前に広がる景色は、辺り一面、全てが彩りのない白黒の景色だった。その時、ゆかりは確信した。


「そうか。わかった。これは夢なんや。多分、最近働き過ぎのせいで、体が自分に警告を発してくれてるんかもしれんな。それに、夢なんやったら、そんなに急いで帰る必要もないわな。」


 ゆかりは、自分にそう言い聞かせると、周囲をグルっと見回した。すると、白黒の世界の中で、唯一グラウンドの方から、光の線が天空に向かって大きく伸びているのが見えた。


「ま、とりあえず、あの光のところに行ってみるか。」


 ゆかりは、そう言うと、校舎の脇を通って、グラウンドの方に向かって、ゆっくりと歩き出した。そして、校庭の隅まで行くと、グラウンドが見えてきた。グラウンドも予想通り白黒で、グラウンドで熱心にクラブ活動をしている女の子達も全員白黒で止まっていた。だが、グラウンドと校舎の境目辺りに立っている一人の女の子だけ、自分と同じ様に、色があることに気がついた。よく見てみると、あれは1年の時に、クラスメイトだった菜のなのはなさんやないか。ゆかりは、自分と同じ色のある人間を見つけてホッとした。そして、菜の花さんの近くまで行くと、おーいと声を掛けようとした。すると、菜の花さんは、誰かとしゃべっている様子だった。誰としゃべってんのかな? と菜の花さんの声が聞こえるあたりまで、こそっと近づいて行くと、


「はげっ? 何なん?」


 ゆかりは怪訝な顔をした。菜の花さんの方に近づいてみると、実際にしゃべっているのは、菜の花さんではなくて、菜の花さんの横にいる子猫と、グラウンドの下にいる猫だった。ゆかりは、その猫達を見て思った。


(うわっ! なぜか知らんけど、猫がしゃべっとるわ。でも、あのしゃべってる子猫、めっちゃかわいいやん。あの子猫、確かアメリカンショートヘアいうんやろ。それと、グラウンドにいる猫の方も、多分同じはずや。もしかして、あの子猫の親か何かなんかな? でも、あの親猫の方、何かすごいメカメカしないか?)


 ゆかりは、猫達の会話の内容を聞き取ることは出来なかったが、何やら深刻な話をしているような雰ので、邪魔をしたら悪いと思い、とりあえず、今いる近くの水飲み場の裏に隠れることにした。それから、しばらく水飲み場の裏から、菜の花さん達の様子を確認していると、光の中から、何やらシンプルな形状をしたロボットが登場し、子猫を追いかけ始めた。そして、菜の花さんの方を見ると、子猫のことが心配で仕方がない様子だが、怖くて、どうやらその場から動けないようだ。


(うーん、しゃーないな。こうなったら、うちが子猫を助けるしかないやろ。)


 ゆかりは、ようわからん展開だが、今は夢を見ている最中なのだから、別に大丈夫だろうと思い、立ち上がって、グラウンドで逃げ回っている子猫の救助に向かおうとしたところ、自分の目の前にある水飲み場に、コツーンと、何か小さな物体がぶつかる音がした。どうやら、誰かが、上の方から小石か何かを水飲み場に向かって投げたようだ。ゆかりは、何やろ? と思って、上の方を振り向いてみた。すると、屋上の縁に、露草つゆくささんが立っており、ゆかりと目が合うと、人差し指を唇に近づけて、無表情でシーッ、とポーズした。


(えっ? 何や、黙っとかなあかんのか。)


 ゆかりは、とりあえず、露草さんの指示に従うことにして、再び水飲み場の裏に座り直した。そして、しばらくの間、子猫とロボットの追いかけっこを目で追っていた。だが、しばらくすると、子猫はとうとうロボットに捕らえられて、光の方に向かって連れていかれようとしている。子猫は、どうやら助けて! と、泣き叫んでるようだ。これには菜の花さんも決心がついたようで、子猫の元へと駆け出していった。ならば、ゆかりも微力ながら、菜の花さんと一緒に子猫を助けに行こうと思い、屋上をチラッと見ると、露草さんは首を振って、ダメっていっている。


(えっ? ダメなんか?)


 なんや、うちの出番はもう少し先なんかと思い、少し納得がいかなかったが、再び水飲み場の裏から、菜の花さん達の様子をうかがうことにした。そして、しばらく見ていると、なぜか菜の花さんの周囲だけが、カラフルに色付き始めたなと思うと、なんと、菜の花さんが魔法少女に変身した。


(何でや? 何でそうなんねん。)


 ゆかりも、自分の想像の斜め上を行く展開に、意味がわからなくなった。もしかしたら、さっき四人組の会話を聞いてたから、その影響が、夢にもモロに出てきてるんかな? と、ふとそう考えて、改めて魔法少女となった菜の花さん達の様子を確認する。すると、菜の花さんは服装だけではなく、本当に魔法少女になったようで、ロボットをあっさりと倒して子猫を救うと、やられた猫とロボットは再び光の中へと消えていった。すると、ゆかりの目の前を誰か女の子が、必死な様子で通り過ぎて行った。その娘は、


「おーい! ミカ! ほたる!」

 と、大声で叫びながら、菜の花さんの方に全速で向かっている。


「あれは、緋色ひいろさんやないか。」

 緋色さんも、菜の花さんと同じく1年の時のクラスメイトや。もう安心そうな感じやし、自分も緋色さんの後ろから、菜の花さんの方へ向かって走っていこうと思って立ち上がると、また水飲み場の方に小石がコーンと飛んできた。屋上の方を見ると、露草さんがまた首を振って、ダメだっていっている。


「なんや。まだダメなんかいな。」

 ゆかりは、まったく納得いかなかったが、また水飲み場の裏に座り直して、菜の花さん達の様子を観察することにした。


(でも、よー考えたら、なんで、うち、露草さんの命令に従わなあかんねん。)


 ゆかりは、憮然としながら、再び菜の花さん達の方を見ると、菜の花さん達の近くにあった光が完全に消滅し、それと同時に、周囲の景色も、すべての彩りを取り戻した。そして、止まっていた時間も活動を再開したようで、グラウンドにいた女の子達も、停止していた態勢から、そのまま自然に活発な動きを継続し始めた。ゆかりは、周囲を見回して、その様子を確認すると、再び菜の花さん達の方を見た。すると、菜の花さんの服装は学生服に戻っていた。そして、次に屋上を見た。すると、露草さんの姿は、もうなかった。


 夢にしては、いやにはっきりした夢やったな。まさか、白中夢いうんか、これは。多分、最近働き過ぎで疲れとったんやろな。ポケットからスマホを取り出して時刻を確認した。なんや、全然時間進んでへんやん。やっぱり夢やったんやな。ゆかりは、そう思い込むことにした。それ以外考えられへん。それに、考えてもしゃーない。何といっても、うちにとっては、目の前の仕事が一番重要や。


「よし。さあ、帰ろっと。」

 ゆかりは、気持ちを切り替えると、家への帰路に向かって再び歩き出した。

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