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魔法少女っているよね ☆初期版*  作者: ににん(ni-ning)
間奏 なんや?なんなんや??
21/73

21 (i-1) なんや?

 キーンコーン♪ カーンコーン♪


 高校2年生になって今日が初日。新しいクラス、始業式、そして、今日の授業もつつがなく終了し、帰宅準備を始める生徒達。


「今日何する? カラオケでも行こっか?」

「うん。いいね! 行こ行こ。」

 楽し気に放課後の予定を相談している2年D組の新しいクラスメイト達。


 その様子をクラスの一番左の一番後ろの席から、じーっと眺めている女の子。


 うち、江戸紫えどむらさきゆかりって言うんや。ここ宝箱たからばこ女子高等学校に通う高校2年生の女の子で、しかも日本一不幸な女子高生や。いや、日本一はさすがにいいすぎかもしれんな。うちの実家は、親子三代で歴史もあって、関西でも有名なお好み焼き屋を経営してるんやけど、ここ3年で8回も、8回もやで! 店が何らかの原因で燃えてしまい、その度に、なぜか北へ北へと店が移転していき、そして昨年、とうとう関西とは何の縁もゆかりもない宝箱市に引っ越してきたんや。ちなみに、縁もゆかりもないって、うちの名前のゆかりにかけたダジャレやないからな。そんな寒いダジャレ言ってたら、関西やったらおもんない女の子に認定されてまうわ。そういうわけで、もしかすると、うちは、日本一不幸なお好み焼き屋の女子高生かもしれんわけや。そして季節は春らしく、今日も過ごしやすくてええ天気、っちゅうわけや。こんな気持ちのええ日に、クラスメイトと一緒に、どこかに遊びに行けたら楽しいやろな、って思わんこともないけど、今はそういう甘えたことは言ってられへんねん。季節は春と言っても、うちの実家だけは常時真冬状態なんや。実家のお好み焼き屋の、旅重ねる焼失による、その補償や移転費なんかで、うちの実家は借金が雪だるま式なんや。もちろん、全部が全部、うちの店が出火の原因やないんやで。8回目の焼失の時なんか、夜中、家族全員が家で寝てたら、突然、雷がうちの家だけに直撃したんやからな。幸い家族は全員、誰も怪我なく無事やったんやけど。でも…週刊誌かなんかにでも嗅ぎ付けられて、「呪われたお好み焼き屋」とかいうタイトルで特集記事でも出された日には、うちの店はもう終わってしまうやろな。現在の宝箱市の店舗は、オープンから一年くらいたったんやけど、お客さんもようけ入ってくれて、店の方も繁盛していて、今のところは大丈夫みたいやけど…。やから、うち、これから家に帰って、実家のお好み焼き屋の手伝いをせんといかんねん。うち、元々は実家の手伝いするの、昔から好きやったし、将来は実家のお好み焼き屋を継ぎたいな、とか思てたけど、今は状況も変わってしまって、バイトを雇うような余裕もなく、義務感で働いているような感覚や。こうなってしまうと、面白かったもんも、面白なくなってしまうねんな。


 そんな独り言をブツブツ言っている、この江戸紫ゆかりという女の子、背は小柄な方で、おそらくクラスで1,2位を争うくらい低いのだろう。制服は、地元でもかわいらしいことで有名で、焦げ茶色のブレザーに、ホワイトのブラウスの首元にはワインレッドのリボン、スカートはえんじと紺のチェック、それに靴下は履かないのが彼女の自己主張(なのではなく、単純に買うのがもったいない。)、それに足元はローファーというスタイルで、見た目だけだと、全体的にちんまりしていて、とても愛らしい感じだ。髪型は特徴的で、黒髪の左右に大きなツインテールを腰のあたりまで伸ばしている。吊り上がった眉毛と大きな目が、彼女の芯の通った性格を表している。元々は、大らかで気立ての良い少女であったのだが、ここ最近の、身の回りに連続で起きた不幸な出来事が影響してか、それとも生粋の関西人である彼女が、初めて関西弁圏外で生活することになった心細さのためなのか、ここ宝箱市に引っ越してからは、最近は、どこか投げやりで卑屈な性格になってしまったようである。


「ねえ、この後クレープ食べにいかない?」

「うーん、どうしようかな?」

 先ほどとは別のクラスメイトが、楽しそうに放課後の予定の相談している。


(同じ粉もんやったら、お好み焼きでええんちゃう?)

 ゆかりは、心の中で彼女達と会話していた。


(そういや、お好み焼きを焼いてる鉄板でクレープみたいなん作れんかな? …いや、無理か。そしたら、お好み焼きの生地を薄くして、上に果物とかアイスとか乗せてデザートとして売れんかな? いや、ちょっとキツイかな?) 


 何といっても、ゆかりの今一番の関心事は、実家のお好み焼き屋の経営である。それから、また教室の隅の方で、何やら盛り上がっているクラスメイトの集団の方に目を移した。


「ねえねえ、ミアちゃん。来週からやっと「五色の子猫の魔法少女マジカルキティ」が始まるね!」


「うんうん、やっとだね。やっぱり俺はブルーキティのしのが一番好きかな。やっぱクールでかっこいいし。ねえ、ルーシーは? やっぱりグリーンキティのみく何だろ?」


「えー! 私? どうかな?…。うん、そしたら、やっぱり私は今回もグリーンキティのみくを応援しようかな? それで、プルはレッドキティのなみだよね。」


「うんうん、やっぱり私はレッドキティのなみ推し。それに主役だし。それで、ひばりはやっぱりピンクキティなんだよね?」


「うん、やっぱり私は、魔法少女なら桃色の一択。最強だしね。でも、ピンクキティだけまだ発表されてないから、いつも通り番組の後半からの登場になるんだろうけど。」


 ミア、ルーシー、プル、ひばりという四人組のクラスメイトが、いい年してキャッキャキャッキャ言いながら、伝説の五色の魔法少女のアニメについて熱く語り合ってるわ。伝説の五色の魔法少女シリーズは、日曜夜の定番アニメなんやけど、その時間帯、うちは店で絶賛仕事中や。でも、営業中に、店内に設置されているテレビで、いつもあのアニメのシリーズを流してるから、実はうちも店内で接客しながら、チラチラ見てるから結構知ってるんやけどな。あの四人組、全員1年の時、同じクラスちゃうかったんで、よく知らんけど、あのひばりっていうちんまりした娘、確かフルネームが支子くちなしひばりさんって言うんやっけ? 今日の2年D組のホームルームのクラスメイトの自己紹介で、


「私、支子くちなしひばりって言います。私、小さい頃からアニメの伝説の五色の魔法少女シリーズが大好きで、特に桃色の魔法少女が大好きです。私の将来の夢は魔法少女になることです。それで、道路に走ってる車に向かって自分からぶつかっていったら、その時の衝突の衝撃とかで、異世界に転移して、ワンチャン魔法少女になれないかな、と何度か挑戦してみようと思ったことがあるんですけど、怖くてできません。」

 なんて、しょーもないことを言うてた娘や。その後、担任の桜井先生にちょっとキレ気味で注意されとったわ。


 そんなことを考えながら、ゆかりは四人組の方をボーっと見ていたのだが、ふと右の方から視線を感じた。そして教室の右隅の後方で、ゆかりより少し前目の席に座っていた露草つゆくささんと目が合った。露草さんはゆかりと目が合うと、すぐに視線を反らし、教室の外へと出て行った。


(あれ? あの娘は1年の時も同じクラスやった露草さんやな。何でうちのこと見てたんやろ? それとも、うちの気のせいかな? 露草さんとは1年の時同じクラスやったけど、ほとんどしゃべったことないし…。それに、授業が終わったのに、露草さんが教室に残ってんのなんて珍しいな。)

 ゆかりは、そう思いながら、露草さんが教室を出ていく様子を目で追っていた。


(うちは、日本で一番不幸なお好み焼き屋の女子高生やねん。仕方ないわ。うちは、普通の女子高生みたいに遊んでられへんねん。)

 ゆかりは、心の中でそう思うと、気持ちを仕事モードに切り替えようとした。


 だが、本音を言うと、支子くちなしさん達のような、微妙なグループでもいいから、自分もその輪に加わることができれば、どれだけ楽しいだろうか。うらやましくないと言えば、ウソになる。でも、実家の事情を考えると、そんなこと言ってられない。


「まあ、しゃーないか。」

 ふーとため息をついたが、すぐに気持ちを切り替えて、ニッと無理やり笑顔を作ると、


「さあ、仕事仕事。今日もはよ帰って、店の手伝いしよっか。」

 気合を入れて立ち上がり、くるっと回れ右をして、


「よっしゃ、帰ろっと。」

 と、歩こうと一歩足を踏み出した瞬間、突然、異変は起こった。

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