20 (1-19) 誕生!!魔法少女
ほたるがそう強く願った瞬間、ミカのリボンの、五色のうちの黄色い石がキラキラと、今朝のなみの時以上に燦然と輝き始めた。すると白黒だった世界の中で、ほたるとミカの周囲のみが、急に彩りづき始めた。ただ、彩りづいたといっても、元の世界の色ではなく、何やら虹色に流れる温かな空気が、その空間の中でふんわりと漂っていた。そして、ウラニャースの光の塔の中から、神々しい光がミカに向かって発射されたかと思うと、その光がミカの周りを包みこんだ。ミカは、その光を全身で受けとめた瞬間、かつては偉大な魔法国家だったウラニャースのウラネコ達の魔法の深淵を覗き込んだ感覚がした。残念ながら、今の光を受けて、ミカ自身が魔法を使えるようになったわけではないみたいだが、その膨大な魔法知識を誰かに授けることができるようになったというふうに感じた。ほたるには、そう黄色の魔法知識だ。そして、現場猫ロボットの左手の吸盤にペタリとくっつけられていたミカは、何とか、尻尾だけを吸盤の外に出すと、空中に尻尾で星を描いた。すると、その尻尾の先から、突然宝石のような物体が出現した。その宝石は、地球で古代エジプト時代、スカラベと呼ばれていた装飾品に似ていて、その真ん中に虫が描かれている代わりに、逆立ちした猫が描かれていて、その長い尻尾で、外周をぐるっとハートの模様を描いて一周している。ミカは、尻尾を振ると、スカラベがほたるの元へ飛んでいった。そして、スカラベがほたるの目の前まで来ると、スカラベのちょうど真ん中部分が、ほたるが首元にかけていた丸い黄色い宝石がついたペンダントに、かっちりとはまった。その瞬間、ほたるは、自分が五色の魔法少女だということを理解した。そして思った。魔法少女に私はなれる。すると、普段のほたるだったら絶対無理、いや人間としては不可能な程、くるくると回転しながら高くジャンプすると、5m程の高さの地点で魔法少女に変身した。そして地面に着地すると、
「かわいい子猫をいじめる悪い人は許さない。五色の魔法少女イエローキティ。」
ほたるは、片足をちょこんと折り曲げ、両手でにゃんこのポーズをとりながら、自然に口からセリフと決めポーズが飛び出した。
(何なんですかこれ? すごく恥ずかしいんですけど。)
ほたるは、決めポーズを解いて、通常の姿勢に戻ると、恥ずかしさで顔が真っ赤になった。それに、今自分が着ている魔法少女のコスチュームは、まさしく自分がスケッチブックに書いたデザインそのままだった。ほたるは、自分の猫耳と尻尾を交互に見ると、
(やっぱりそうか。何かいやな予感がしたのは間違いじゃなかった。)
ほたるは自分が魔法少女になって、変わったのは、コスチュームだけではないのがわかった。頭の中では、自分が今、様々な魔法が使えることがわかったし、それと同時に、ものすごい身体能力も手に入れており、おそらくキック一発で、目の前にいる現場猫ロボット程度なら破壊できそうだ。
ミカのパパは、ロボットなので特に慌てる様子もなく、目の前で今起こっている、この未知の現象を淡々と分析していたが、ある地点まで行くと、なぜか自動的にロックがかかり、それ以上は調べられない。だが、目の前にいる伝説の五色の魔法少女を見つめながら、なぜか胸の奥底で、ロボットには備わっていないはずの、うれしさと、ミカのことを誇らしく思う感情が湧いていた。
ほたるは、このまま現場猫ロボットのところまで走っていって、ロケットキックでもしようかと考えたが、ミカが巻き添えを食ってしまう恐れがある。
(あっ、そうだ。)
ほたるは、右手を大きく広げると、光の塔から何かが飛んできて、ほたるの右手に収まった。それは、古代エジプトでシストラムと呼ばれた楽器に似ていて、中央の人間の顔の部分が猫の顔に置き換わっている。ほたるは、これで自分は魔法が使えるようになったと認識した。ロボットは、ほたるを攻撃対象と認識すると、ミカを左手で固定しながら、右手のクレーンで、ほたるに向かってクレーンを何発も発射してきたが、ほたるは、それらを全て片手で軽々とはじき返していた。
(よし、この程度のロボットだったら…)
ほたるは、シストラムの狙いを現場猫ロボットの左手と胴体との関節の間に定めると、
「キロライト!」
と叫んで、シストラムを振りかざした。
すると、シストラムの先から電撃が発射され、ほたるの狙い通り、現場猫ロボットの胴体と左手の間の接合部に直撃すると、ボンッといった爆発音と共に、左手が関節から吹っ飛んだ。すると、左手の吸盤からミカが外れ、空中に投げ出されると、ほたるは素早くジャンプして、ミカをやさしく受け止めた。キロライトは、雷属性である黄色の魔法少女のほたるの魔法の中でも、一番威力の弱い魔法だった。だが、それでも今回はそれで充分だった。その様子を始終冷静に見ていたミカのパパは、現場猫ロボット程度では、ほたるの相手にはならないことを理解し、
「ふむ、仕方ない。それにウラニャースの光の塔の力も、この辺りで異次元の扉を維持するのが限界のようだ。ミカ、次は約束通り連れて帰るから、それまでは、おとなしく待っておくことだ。」
そう言い残すと、ミカのパパは、現場猫ロボットと共に、光の中へと消えていった。確かに、ミカのパパが言った通り、当初天空高くまで昇っていた光は、どんどん弱まってきており、今は2m程度の高さにまでなってきている。ほたるは、ミカを抱きながら、その様子をじっと見ていたが、地面を見渡すと、現場猫ロボットの左手が、ポロンとグラウンドに放置されていることに気がつき、ミカを地面に降ろして、急いでその左手を拾うと、
「あの、忘れ物です。」
と言って、光のところまで走っていき、その左手を光の中に放り投げると、左手は光の中へ消えていった。ほたるは、その光を見ながら、
(もし、今私がこの光に飛び込んだら、私も惑星ウラニャースへ転送されるのかな?)
そう思うと、急にゾッとしてきた。
すると、誰かが、校舎からこちらに向かって大声で叫びながら、必死に走ってきた。
「おーい! ミカ! ほたる!」
「あっ! あれはなみだ。」
「本当だ。それにしても遅いよね。」
ミカは、なみに気づいて、そう言うと、ほたるも、なみを見ながらそう言った。ほたるは、ミカの方を向いてクスッと笑うと、ミカも同意したように、ほたるに笑い返した。
やがて、なみがほたる達の目の前まで来ると、少し息を切らしながら、
「ハー、ハー...。ほたる、ミカ、大丈夫だった?」
そして、顔をあげてほたるの方を見ると、
「あれ? ほたる。その衣装、もしかして…」
なみは、昼休みに自分でも指摘したとはいえ、今まさに魔法少女の姿になって立っているほたるを見て、驚いた様子だった。
「なみ、あなたが来るのが遅いから、私の方が先に魔法少女になっちゃった。」
「なみ、次はちゃんと魔法少女になってね。」
ミカも、なみに対し、笑いながら、そう冗談ぽく言った。
「…うん。ごめんなさい。」
なみは二人に対し、そう言う他なかった。
すると、グラウンドにあったウラニャースの光の塔が完全に消滅すると同時に、世界は全ての彩りと時間を取り戻し、なみ達以外の全ての物が、まるで何事もなかったかのように平常運転を再開した。ほたるが着ていた魔法少女のコスチュームも、元々着ていた学生服に戻り、右手に握っていたはずのシストラムも消滅した。しかし、首元に着けたスカラベだけは、なぜかそのままだった。三人は、このままグラウンドに残っていても、部活動をしている女の子達の邪魔になるだけなので、とりあえず、予定通り今からなみのお家に行って、今後の打ち合わせをすることにした。
ほたる達のやりとりを最初から屋上で観察していた遊草さんは、
「ふふ、すごいわね...」
と、言って少し笑うと、安心した表情で、静かに屋上から去っていった。




