2 (0-2) 改訂
郊外の丘の上に、薄いピンク色した一軒のかわいらしい二階建ての家が建っている。家の造りは、地球の人間が住む家と比べても、その一つ一つがほんの一回り小さいくらいで、基本的な構造はほとんど同じように見える。その家は、科学者一家の住居兼研究所となっており、そこには一人の子猫が両親の帰りを待っていた。
私の名前はミカ。由緒正しきウラニャースショートヘアの、シルバータビーがよく似合うかわいい女の子。自分でかわいいって言うのも何だか変な感じだけど、パパとママが私のことをいつもかわいいかわいいって言ってくれるんだから仕方ないじゃん。このキレイなシルバータビーも、パパとママの両方からしっかりと受け継いだものなの。パパは、近所でも評判のイケメンで、片眼鏡がよく似合う知的でクールなハンサムガイ。ママは、なんでも若い頃は、数あるコンクールでグランプリを独り占めしたとびっきりの美人なの。って二人とも私に言ってたけど、多分本当だよ。
それにパパとママは、顔だけじゃなくって頭もすごくよくって、二人ともロボケット工学の博士なんだ。ちなみに、ロボケット工学って何かっていうと、ロボットとロケットっていう二つ専門分野を一緒に研究する工学で、ロボットとロケットって一見するとほとんど関係のない分野の研究に見えるんだけど、なんでこの二つの分野を同時に研究する必要があるのかって? ちょっと説明が難しいから、ここではちょっと割愛させてもらうね。でも、パパとママの二人は、ロボットにも家族の一員として、しっかりと愛情をかけるっていう考え方が間違っているって、他の研究者達からは除け者にされている。でも、家事を手伝ってくれるネコロボおばさんも、働き屋さんでふっくらとしてかわいらしいし、パパとママの研究の助手をしてくれているDr.ネコボットさんも、すごく物知り屋さんだし、二人ともやさしくって私大好き。でも、ロボット達が反乱を起こしたその日、ネコロボおばさんもDr.ネコボットさんも、突然お家から出ていって、どこかに行ってしまった。そして、それから数日たったある日、二人が急にお家に戻ってきて、ロボット達の代表者という人をお家に連れてきた。その後、二人はお家には残らずに、再びどこかに行ってしまったけど……。その翌日から、パパとママは、そのロボットの代表者という人の所に毎日お話に出かけていくことになった。それで、今日も私はお家で一人お留守番なの。いつもお家の中には、パパとママとネコロボおばさんとDr.ネコボットさんがいて、いつも楽しくて幸せだった。けど……今はもう誰もいない。
ピーン ポーン♪
あっ! 帰ってきた。急いで玄関まで走って行って、尻尾ですぐに鍵を開けた。ドアを開けると、やっぱりパパとママだ。二人共すごく疲れた顔に見えたけど、私の顔を見ると、すぐ二人とも笑顔になって私を抱きしめてくれた。
「ただいま。ミカ、遅くなってごめんね。」
疲れた声でパパが言うと、
「ミカ。ちゃんとご飯は食べた? それと明日の朝、パパとママからすごく大事な話があるから。今日はもう部屋に戻って寝なさい。」
ママがいつもと同じやさしい声で、私に語り掛けるように言った。その時、なぜかわからないけど、なんで?って、その理由を聞けない圧を感じた。
「お休みなさい。」
もう少しパパとママと一緒にいたかったけどしょうがない。私が少し上目遣いで言うと、
「お休み、ミカ。」
二人はいつもの笑顔で返してくれた。
そう言うと、パパとママはお家に帰ってきたばかりだというのに、すぐに奥にある研究室の方に行ってしまった。二階の自分の部屋に向かう階段を登る途中、奥の方から、
「うーん……それにしても大変なことになった。」
深いため息の後に、パパの話し声が微かに聞こえた。
部屋に入ったら、言われた通りすぐにベッドに潜り込んだ。そして、ベッドに横になりながら一人考え込んだ。一体何の話だろう? 二人の雰囲気から見ても、絶対にいい話じゃない事だけは確かだ。ネコロボおばさんにもDr.ネコボットさんにももう一度会いたいな。明日はパパとママともっと一緒にいたいな。そんなことを考えてたら、知らない間に眠っちゃってたみたい。
翌朝、起きて部屋から階段を降りてると、台所からおいしそうな匂いがしてきた。台所に入ると、エプロン姿のママが、台所で朝食の準備をしている所だった。普通の家のウラネコは、家事全般をロボットに全て任せてしまってるんで、料理することなんてできないんだけど、私の家ではネコロボおばさんにも定期的にお休みしてもらってるから、パパもママも料理は得意なの。テーブルを見た。信じられないくらいのすごいご馳走だった。焼魚。かつお節チーズ。チキンステーキ。ツナと野菜サラダ。それにデザートにヨーグルトまで! この頃はいつも硬くて味がしない乾燥フードばかりだったのに。一体どうして?
「あら。おはよう、ミカ。」
ママは、台所で洗い物をしているようだったけど、ご馳走を前に呆然としている私に気がつくと、うれしそうに私に微笑みかけた。
「ちょっとパパを呼んでくるから、ちょっと待っててね。」
そう言うと、ママは、研究室にいるらしいパパを呼びに行った。本当は私がパパを呼びにいきたかったけど、研究室の中には入ってはいけないことになっている。
しばらく台所で待っていると、白衣を着たパパが、ママと一緒に台所に入ってきた。
「ミカ、おはよう。おっ!今日はすごいご馳走じゃないか。」
パパは、私に笑顔を向けると、テーブルに乗った料理を見て目を大きくした。
「パパ、ママ。おはよう。」
私も、パパとママにやっと笑顔でおはようの挨拶を言うことができた。
「せっかくの料理が冷めたらもったいないから、早速朝食にしちゃいましょう。」
ママがそう言うと、三人はすぐにテーブルに腰掛けた。もちろんイスなんかないよ。何でって? それはもちろんウラネコだから。低いテーブルの上に座って、尻尾と魔法でナイフやフォークを使って料理を食べるのがウラネコスタイル。
早速、勢いよくチキンステーキにかぶりついた。じゅーっとした肉汁が喉を通った。しばらくの間、食べる事ができなかったお肉。確かにお肉って柔らかくってこんな感じだったな。続いて焼魚を口にした。青臭い海の匂いと魚の脂が鼻と口中に染み渡る。それからしばらくご馳走との格闘だった。それにしてもこんなにうれしい日が来るなんて! 少し落ち着いて、パパとママを見ると、二人共幸せそうに私に微笑んでくれた。私もうれしくなって二人に微笑み返した。昨日の夜心配したのは、きっと私の勘違いだったんだ。デザートのヨーグルトも完食するとお腹が一杯になった。
それにしても食べ過ぎちゃった。お腹がパンパンで少し苦しい。
その時、食事の間中私が見ると、いつもニコニコと微笑んでいたパパとママが、急に真剣な表情に変わった。そして、お互いを見合ってうんとうなずくと、
「ミカ。パパとママからお話があるんだ。聞いてくれるかい?」
パパが、真剣ながらもいつものやさしい表情を作ると、仰向けになりながらお腹を押さえている私に向かって話かけてきた。
「なーに? パパ。」
私は、ものすごくイヤな予感がしたけど、でも、できるだけいつも通りにしようと思った。そして、ゴロンと回って姿勢を正した。
「ずーっと前に、ロボット達がウラネコ達に反乱を起こした事。それと、ネコロボおばさんとDr.ネコボットさんがお家から出ていった事も。みんな知ってるね?」
「うん。」
「それから、パパとママが毎日お外に行って、ロボット達の代表者とお話している事も知ってるね。」
「うん。」
「実はね。ネコロボおばさんとDr.ネコボットさんの二人がね、反乱が起こったその日、ロボット達の代表者という人の所まで行ってくれたんだ。それで、ウラネコの中にはロボット達にも愛情を注いでくれる、本当に家族のようなウラネコがいるんだって。そう私達のことを話してくれたんだ。」
「うん。」
やっぱりそうだったんだ。ネコロボおばさんもDr.ネコボットさんも私達家族の一員だもん。
「ネコロボおばさんもDr.ネコボットさんもお家に帰りたそうにしていたけど、残念ながらそうもいかないみたいだ。二人ともミカに会いたがっていたよ。」
「うん。」
ネコロボおばさん。Dr.ネコボットさん。私も会いたいよ。
「それでね。パパとママがそのロボット達の代表者と話し合っていたのがウラネコ達の事でね。ウラネコ達も今回の事で十分に懲りて、自分達がロボット達にしてきた事についても大いに反省している。自分達が直さなければいけない所は必ず直す。それで、またウラネコ達と共存してもらえないか。そうロボット達にお願いする事だったんだ。」
「うん。」
「そして、ウラネコとロボットが共に幸せで楽しく一緒に暮らすことができる平等で平和な世界。ウラネコとロボットが協力しあって、そういう世界を実現しようと、私達はこの星で一番偉いウラネコにも話をしていたんだよ。」
「うん。それってすごくいい世界だね。」
そんな世界が訪れるなんて、なんて素晴らしい事なんだろう。
「もちろんウラネコの方からしても、今の状況から鑑みて、ロボット達の方から手を差し伸べてくれるっていうのはすごくありがたい話だったんだ。」
「うん。」
「それで、ウラネコ達とロボット達の代表者の間で、その方向性で今回のロボット達のクーデターについては平和的解決を図ろうという話になっていたんだ。」
「うん。」
「でも……悲しい事なんだけど、ウラネコ達の中には、ロボット達のことをすごく見下しているような奴等もいてね。実はロボット達の中には、内部に爆弾が仕込まれているタイプのロボットがいてね。なぜかというと、ロボット達がウラネコ達の命令に従う事が出来なくなった場合。つまり、何らかのエラーが発生して暴走した場合に限った話なんだけど。もしそういった事が発生した時に、二次被害が発生しないようにするためのものなんだ。そして、つい一週間前のことだ。奴等は、そのロボット達を管理する指令塔に忍び込むことに成功し、あろうことか、ロボット達の起爆装置を押してしまったんだ。そのせいで、何十何百万というロボット達が一瞬にして亡くなってしまったんだ。」
「えっ?」
世の中には、そんなひどい事を平気でできるウラネコがいるんだ。信じられない。
「ネコロボおばさんとDr.ネコボットさんはもちろん無事だから。安心してね。」
ママがそうつけ加えた。
「うん。でも、それで交渉は完全に決裂してしまったんだ。ロボット達は怒り心頭で、やはりウラネコ達は信用できない。ウラネコ達と共存することなど絶対に不可能だ。それからもう話も聞いてくれなくなった。」
「うん。」
そりゃそうだよ。そんなことをするウラネコ達が絶対に悪いよ。
「それでロボット達は昨日決めたんだ。私達ウラネコに対する最終処分を。彼等は全てのウラネコを回収しロボットにすることにしたんだ。ウラネコ達が全てロボットになってしまえば、ロボットとウラネコの間の、完全に平等で平和な世界が実現するじゃないか。それが彼等の最終決定だったんだ。」
「えっ?」
私、猫型ロボットになっちゃうの?
「ウラネコ達は、感情があるから悪いことを考えるんだ。ロボットになってしまえば、相手を憎んだりとか、さげずんだりとか、そういう悪い感情もなくなるから、それがウラネコ達にとって一番幸せな事だと言っていた。」
「でも……」
「そうだ。そういった悪い事を考えることは確かになくなるけど、それと共に、誰かと喜んだり楽しい気持ちになったり、そういう幸せな気持ちも同時に失ってしまうんだ。」
「うん。」
………………。
それからしばらく、パパとママは黙り込んでしまった。私も何を言っていいのかわからない。
台所の中に重い空気が漂った。すると、突然パパが立ち上がった。
「ここからは研究室に行って話そう。」
「えっ? 研究室?」