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魔法少女っているよね ☆初期版*  作者: ににん(ni-ning)
第1話 『誕生!!魔法少女』
18/73

18 (1-17) なみの高校2年スタート★4

 ほたるは、なみのバッグを両手で大事そうに抱えながら、教室から校舎の裏にあるグラウンドまでの道のりを慎重に歩いた。校舎とグラウンドの間は、ちょうど段差で分かれており、校舎側から大股歩きでないと渡れないくらいの大きめのコンクリートの石段を三段くらい降りた所からがグラウンドになっている。ほたるは、一番人気のない辺りを選んで、石段の一番上の段に腰掛けると、なみのバックパックのチャックを全開にして、中を覗き込んだ。ミカも、グラウンドへの移動中に目が覚めたみたいで、バッグの中から、ほたるの方をじっと見つめている。ほたるも、ミカを見つめながら、自然に笑顔になった。


「学校、終わったの?」

 ミカがほたるに質問した。


「うん、無事に終わったよ。ミカちゃんは大丈夫だった?」


「うん。お昼ご飯を食べたら、なんだか眠くなってきて、それで今までずっと眠ってたみたい。」


「そう、それはよかった。でも、まだ学校の中だから、もう少しバッグの中で我慢しててね。」


「うん、わかった。…あれ? なみは?」


「なみは少し用事ができて、それで少し外してるの。すぐにミカちゃんの所に戻ってくるはずだから、もう少し待っててくれる?」


「うん、わかった。…それと、ほたる。」


「何?」


「私のこと、これからはミカって呼んで。ほたるも伝説の五色の魔法子猫達の一人なんだから。」


「うん、わかった。これからはそう呼ぶようにするね。…ミカ。」


 ほたるは、笑顔でミカにそう言ったものの、自分が、なみと同じく伝説の五色の魔法子猫達の一人なんだという実感がまったくない。確かに、自分も小さい頃は、アニメ伝説の五色の魔法少女シリーズが大好きでよく観ていたし、魔法少女の中には、自分と同じように、内気で気が弱い女の子も、立派に魔法少女の役割を務めていた。自分はアニメを観ていると、いつもそういう魔法少女に、ついつい感情移入してしまって、両親に、その魔法少女のステッキやパクトなどのおもちゃをよく買ってもらっていたことを思い出した。だからといって、自分も彼女みたいに、魔法少女の役割を立派に果たすことができるなんてまったく思わない。でも、なみだったら、多分大丈夫な気がする。もし、自分が本当に魔法少女だったら、ずっとなみの後ろにいて守ってもらおう。そしてほたるは、思い出したようにバッグからスケッチブックを取り出すと、自分が書いた魔法少女のデッサンをじっくりと見つめた。


(この魔法少女のコスチューム、なみが着るのをイメージして考えたんだけど。もし、なみが本当に魔法少女になって、このコスチュームを着て、誰かと戦うことになったら、すごく似合うだろうし、かっこいいし、それにかわいいだろうな。…でも、私もこのコスチュームを着ることになるかもしれないなんて、想定してなかった。私、雑誌で色々な衣装を着てるけど、この衣装で人前に出るなんて、恥ずかしくてできないよ。あー、猫耳とか尻尾なんか付けなきゃよかった。)


「ふー。」

 後悔しても、時すでに遅し。なぜかそんな気がしてきて、思わずほたるはため息をついてしまった。ほたるの常識力では、今の流れについていくことができない。なみが戻ってきたら、なみのお家で三人で相談して、そして自分は、なみ達の言うことに全て任せてしまおうと思った。


「どうしたの?」

 ミカが不思議そうな顔をして、ほたるの方をじっと見ている。


「うん、何でもない。」

 ほたるは、スケッチブックを再びバッグの中に仕舞うと、グラウンドでボールを追いかけているソフトボール部やラクロス部の女の子達の姿をぼんやりと眺めながら、それにしても、世間はものすごく平和だなーと思った。


 その時だった。

 突然、平和に思えた光景が、徐々に、それとは真逆な方向へと変化し始めた。


「えっ? 一体何が起こってるの?」

 ほたるは、目の前で起きている光景を信じることができなかった。


 先ほどまで、グラウンドの上で、一生懸命に汗を流して、ボールを追っていた女の子達の動きが、そのままの態勢で、一斉に完全に停止すると同時に、遠くに見える空の青色、太陽の橙色、山や植物の緑色、周りに見える校舎を歩くカラフルな女の子達、グラウンドで運動をしている活発な女の子達、生徒達を指導する熱心な顧問の先生、そして校舎や周りにある設備、すべての人や建物の、その彩りが完全に消滅し、全てがスケッチブックに殴り書きした雑なデッサンのような、白黒で、冷たくて無機質なものに、左から右にサーッと一瞬にして世界は変容した。ほたるは、目の前の光景が現実のものだとは思わない。いや、思いたくなかったが、おそらく、今世界は、時の進行を停止したのだろうと、感覚で理解した。


「どうしよう?」

 ほたるは、自分一人だけが、この白黒で時が止まった世界の中で、唯一自分だけが彩りを維持し、時間が流れていることが怖かった。できれば、私もみんなと同じように、時が止まった側の世界の住人になりたい。それに、こんな大変な時なのに、頼りのなみがいない。その時だった。

 

「どうしたの?」

 バッグの中から、ミカが心配そうな顔をしてほたるを見つめている。


 あー、よかった。彩りを失っていないのは、私だけじゃなかったんだ、と安心すると同時に、ミカも大丈夫なんだとしたら、今目の前で起きているこの異常な事態は、間違いなく魔法少女に関係することなんだろうということを確信して、ゾッとしてきた。


「ミカ、大変なの! お願い、外に出てきて。」

 ほたるが少しヒステリックにミカに叫ぶと、ミカも、何かただ事じゃないことが起きたんだと直観し、ぴょんと軽やかにバッグの中から飛び出して外に出た。そして、周りを見回すと、


「えっ!? 何なのこれ!?」

 ミカも目の前に見える光景が信じられず、思わず大声でそう叫んだ。


「えっ? ミカもわからないの?」


「わからない。一体何が起こってるの?」


 二人は、この未知の奇妙な現象に対して、どう対処していいのかわからず、その光景を見ながら、ただただ茫然と立ち尽くしているだけだった。そして、しばらくすると、突然グラウンドの奥辺りから、目が眩むほどの、ものすごく眩しい光が輝きだした。すると、その光は一瞬にして天高くまで、一直線に伸びていった。白黒で描いたデッサンの世界に、一筋だけ眩しい光の線が宇宙まで伸びているようで、不気味さが余計に引き立てられた。


「あれは…まさか?」

 ミカは、信じられない物を見たという顔をしている。


「えっ? ミカ、あの光を知ってるの?」

 ほたるはミカに向かって、驚きながらそう尋ねた。


「あの光は…あの光は、間違いなくウラニャースの光の塔だ。」


「ウラニャースの…光の塔?」


 ミカとほたるの二人は呆然として、しばらくその光をじっと見つめていた。すると、光の中から何かが出てきた。その何かは、光から出てくると、二人の方に向かって、ゆっくりと歩き出した。そして、それが、二人が認識できる距離にまで近づいてくると、ミカは、ウラニャースの光の塔を見た時以上に、いや、それとは比べ物にならない程に驚愕した。


 一方その頃、なみの方では。


「あの、新葉さん。実は…」

 なみがそう言いかけた時、ほたるが見た光景と全く同じように、生徒会室にある全てのものの彩りがなくなって、一瞬にして、室内にある全てのものが、白黒で無機質で冷たいものへと変容した。


「えっ? 何?」

 なみは、突然目の前の光景が変わったことで、自分の目が、なぜか急におかしくなったのではないかと疑った。そして目を瞬かせながら、生徒会室の周りをキョロキョロと見回していた。すると、


「それで、実は何なの? 日乃彩さん。」

 そういう声が聞こえてきたので、声の方を見つめると、新葉さんが不審そうな顔で、こちらを見ている。


(あれ? 新葉さんにだけ、色と温もりがあるぞ。なんでだろう?)

 なみは、よくわからないので、キョトンとした顔をした。すると、再び新葉さんが、


「どうしたの? 日乃彩さん。おしゃべりの途中に急に周りをキョロキョロするなんて。何かあったの?」

 新葉さんの方はいつも通りで、至って平然に見える。


(もしかして、今周りが白黒に見えているのは私だけなのかも?)

 と、なみは思ったが、


「え? あの…実は、周りが白黒に見えているような気がして…」

 なみは、新葉さんに自分がおかしくなったと思われるかもしれないが、正直にそう答えた。


「あーそのことね。特に問題はないから。さあ、お話を続けましょう。それで日乃彩さん、実はどうしたの?」

 新葉さんは、至って普通に会話を継続しようとした。


「えっ? 新葉さんも周りが白黒に見えてるの?」

 なみは、自分だけがおかしくなったんじゃなかったんだ、と少しホッとしたが、しかし、この白黒の現象自体は、未だ謎のままだ。


「えー、そうね。見えてるわよ、私にも。日乃彩さん以外は全て白黒ね。でも、多分大したことじゃないから。」


「大したことじゃない?」

 なみは、新葉さんの感覚が理解できない。


「えー、中学になったくらいからたまにあるのよ、この現象。私はこの現象、多分ゾーンに入っているからだと思っているの。それに、この現象があったからって、何か悪いことが起こったっていう記憶もないから、特に心配しないでいいと思うわ。」


「でも…時計が止まっているんだけど。」

 なみは壁にかかっている時計を指さすと、確かに時計は3時35分42秒で、ずっと止まったまんまだった。


「時が止まってるんだったらラッキーじゃない。貴重な時間を消費しないで済むわ。それよりも、今はあなたの事情を聞くことが一番大事。よかったら話してくれる?」


 新葉さんが、この特殊な状況下にあっても、真剣な表情で、そしてやさしい声色で、そう聞いてくるものだから、なみもとうとう観念して、本当の事情を話すことにした。頭の片隅には、これは、もしかしたら魔法少女のことと何か関係があるのかもしれないと思ったが、あまりにも新葉さんの方がいつも通りなので、とりあえず新葉さんに事情を説明し終えたら、すぐにミカとほたるの方へ向かおうと思った。そして、なみは、新葉さんに事情を説明すると、


「うん、日乃彩さん。あなたの事情はよくわかったわ。あなたのご両親が地元で洋食屋さんを経営しているのは私も知っているし、生後間もない子猫を一匹だけお家に残していくなんて、すごくかわいそうだし危険だと思う。でもね、だからといって子猫を無許可で学校まで連れてきちゃダメよ。」

 新葉さんは、なみに同情しながらも、諭すように言う。


「うん、その通りです。」

 なみは、ミカのことについて、宇宙猫の部分の説明は省いて新葉さんに事情を説明した。もしも本当のことを全て話したら、常識人の新葉さんから、絶対に変な人だと思われるもん、って思ったからだ。


「うーん、そうね。私もあなたの話を聞いてしまったから、この件を無視するわけにはいかないわ。それで、明日はどうするつもりなの?」


「うん、明日はママがお店のお休みの当番だから、お家でママに面倒を見てもらう予定。」


「そう、それはよかった。それじゃ、私も何かできないか考えておくから、日乃彩さんも何か困ったことがあったら、何でも私に相談してね。」


「ありがとう、新葉さん。すごく助かる。」

 新葉さんは、やっぱり常識人で責任感があって、それにすごくいい人だ。


「ううん、別に気にしないで。こちらこそ日乃彩さんにお時間とらせちゃってごめんね。それより子猫のことが心配でしょ? 早く行ってあげて。」


「うん、新葉さんありがとう。それじゃ行ってくる。」


 なみは新葉さんとの相談が終了すると、急にミカとほたるのことがすごく心配になってきた。そして、急いで生徒会室を出ると、廊下を歩いている同学年の女の子達も、周りに見える何もかもすべてが不気味で、時間が停止して白黒だった。


(何なんだろう? 一体これは?)

 なぜか悪い予感しかしない。なみは、ミカとほたるが待っているグラウンドの方へ全力で向かった。


 時間が止まり、全てが白黒に変わってしまったこの世界の中でも、その彩りを維持し、時間の経過を認識できた人間が何人かいた。一つは、ミカとほたる。一つは、なみと新葉さん。そして一人は、屋上の上からミカとほたるの様子を静かに観察していた遊草さん。そして、実はもう一人、突然起こったこの現象に、ひたすらパニックになっていた少女がいたのである。

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