17 (1-16) なみの高校2年スタート★3
昼休みが終了し教室に戻ると、なみは教室の後ろの棚に、再びミカを入れたバッグパックをそっと戻すと、午後からは、そのまま普通に授業を受けた。そして、授業が終わって、ミカの様子を確認するために、バッグに耳を近づけてみると、バッグからは、スース―と小さな寝息が聞こえてきた。
どうやらお腹も一杯になって、眠ってしまったみたい。とりあえず今日は無事に乗り切れそうだけど、明日からどうしよう? 今は比較的涼しくて過ごしやすい時期だけど、これから暑くなってくるので、こんなことずっとできない。それに、こんなことミカがかわいそうで、いつまでも続けられない。
その後、今日の授業が全て終了し、最後のホームルームも終了したので、なみは、ほたるとすぐお家に帰ろうと思い、棚からバックパックを取ろうとした時、後ろから突然声を掛けられた。
「日乃彩さん。ちょっといいかしら?」
なみは、声がした方を見上げると、至っていつもの冷静な表情をした新葉さんが、そこに立っていた。
「あっ、新葉さん。新葉さんも同じクラスになったんだ。これから1年間よろしくね。」
なみは、のんきに新葉さんに挨拶した。
「ふふ、こちらこそよろしくね。…それはそうと、これから私と一緒に生徒会室の方まで来てほしいの。」
「えっ? 何で?」
なみは、不思議そうな顔で新葉さんに尋ねた。
「何で? じゃないでしょ。あなた、始業式早々遅刻してきたじゃない。それに、体調不良って聞いていたのに、いつもと変わらず元気一杯じゃない?」
「うん。確かに…」
なみは、何も言い返せない。
「ちょっと私、A組のクラス委員として、あなたのことを放っとけないのよ。今日は生徒会室に誰もいないから、そこで少し事情を説明してほしいの。だから、これから生徒会室までついてきてくれる?」
新葉さんの言っていることは、何もかも正しく、なみは、黙って新葉さんの後ろについていくしかなかった。それにしても、新葉さんってもうクラス委員なんだ。
なみは、ほたるに聞こえるくらいの小さな声で、
「私のバッグを持って、グラウンドの方で待ってくれる?」
なみは、ほたるにミカのことをお願いすると、新葉さんの後ろについて、一緒に教室を出て行った。
(あっ、行っちゃった。)
ほたるは自分の席から、なみと新葉さんが出ていく様子を目線で追うと、なぜかわからないが、大役を任されたような気がした。よし。ほたるは、心の中でそう言うと、すぐに自分の荷物をバッグに仕舞って、なみのバッグが置いてある棚の方へと向かった。そして、なみのバッグにそっと耳を澄ますと、ミカの寝息が聞こえてきたので、ミカを起こさないように、そーっとバッグを両手で抱えると、教室を出て、グラウンドの方へと向かった。
一方なみの方はというと、新葉さんと誰もいない生徒会室に入り、コの字にセッティングされた机に、ちょうど角合わせになるよう、至近距離の席に座って向き合った。
新葉さんは、席に座ると開口一番、
「日乃彩さん。それにしても、一体どういうことなのかしら?」
「えっ? 何が?」
「何が? じゃないわよ。あなた、今日体調不良でも何でもないのに、大遅刻してきたじゃない。あなたは、中学時代からクラスで一番の優等生だったし、それに、新学期早々遅刻してくるようなタイプでもなかった。何か、事情があったんでしょう? まさかサボっていたわけじゃないんでしょう? 私、本当に心配だったから、こうして二人きりになって事情を教えてほしかったの。」
新葉さんは、別に怒っているわけではなかった。クラス委員としての責任感と、なみのことが本当に心配で、何か困ったことがあるんだったら、相談してほしかっただけだった。なみは、新葉さんの心遣いがありがたかったが、だからといって、本当の事情を伝えるわけにもいかない。どうしたらいいのか、しばらく真剣に悩んでいたが、やはり答えは、
「新葉さん、心配かけてごめんなさい。それに、遅刻したこともごめんなさい。遅刻したのは体調不良じゃなくて、本当は私の個人的な事情で…。でも、本当に大したことじゃないから。ごめんなさい。明日からは遅刻せずに、ちゃんと学校に行くから。」
なみは、新葉さんに余計な心配をかけて申し訳ない気持ちで一杯だったが、今はそれよりも早くミカと会いたい。すると、新葉さんは、
「全然大したことじゃなくないでしょ。それにあなた、今日学校に猫かなにか連れてきてたでしょう?」
「えっ!? なんで!?」
なみは、新葉さんの口から、予想もしない言葉が飛び出してきたので、心臓が喉から飛び出しそうになった。
「だって、午後の授業中、あなたのバッグの中から、ずっとスース―と気持ちのよさそうな寝息が聞こえていたし、それに時々「うにゃ。」とか、かわいらしい声がするし、それは気づくわよ。」
そういえば、新葉さんの席は教室の一番後ろで、しかもなみのバッグを置いてある棚の真正面だった。午後から、ミカの寝息が聞こえていたとしても、ぜんぜんおかしくない。どうしよう? 今さら言い訳をしても仕方がない。ミカのことについて、正直に話すしかない。
「…あの、新葉さん。実は…」
なみがそう言いかけた時、突然、異変は起こった。




