12 (1-11) なみの春休み1日目★3
あっ、帰ってきた。なみがそう思ったら、すぐにママが、その後すぐにパパが、
「ただいま。」
と玄関のドアを開けて、リビングに入ってきた。
「おかえりなさい。」
なみもソファに座りながら、二人に挨拶をしていると、ミカも目が覚めたみたいで、
「うにゃ…おかえりなさい。」
と、少し遅れて、なみのパパとママに挨拶した。
「どうだった? 魔法子猫のこと、何か見つかったか?」
なみのパパは、例の魔法子猫のことについて、お家に帰ってきて早々なみ達に尋ねた。パパもママも、仕事中も伝説の五色の魔法子猫達のことが気になって仕方がなかったらしい。
「うん。それがね、ちょっと変なことになっちゃって。ちょっとパパとママにも聞いてほしいの。」
なみがパパにそう答えると、家族全員リビングに集まって、今朝の不思議な出来事についての話をすることになった。全員がソファに座ると、ミカは全員が見える位置に大きなスクリーンを映し出した。なみのパパもママも、ミカの能力に少しは耐性がついてきていたものの、目の前に映し出された巨大なスクリーンを見て、やはり驚いてしまった。
「実はね、ミカの使っているコンピュータって、私達のよりもすごく進んでいて…」
なみがパパとママにそう説明すると、二人とも、そんなのすでに知ってますけど、って顔をしている。
「それで、魔法子猫達の情報を調べてみたんだけど、やっぱり一件も見つからなくって。…でも不思議なのがね、魔法少女の情報を調べてみたら…。ねえ、ミカ。今朝魔法少女の情報を調べた時に出した画面を出してもらえる?」
なみがミカにそうお願いすると、
「うん、わかった。」
ミカはそう言うと、今朝と全く同じように伝説の魔法少女について検索してみた。
すると、魔法少女の情報202,654,973件、伝説の魔法少女の情報32,158,521件。情報の重複を調整した結果だと、魔法少女の情報8,167,353件、伝説の魔法少女の情報516,884件。そしてそれをTRUE、FALSEで振り分けると、魔法少女の情報TRUE0件、FALSE8,167,353件、伝説の魔法少女の情報TRUE0件、FALSE516,884件と表示された。
「え――!? なんで?」
なみとミカは、驚きのあまり同時に叫び声をあげると、ミカは前後の足を真っ直ぐにしながら、ピョーンと空中に跳ね上がった。だが今回は、なみもミカと一緒に、ピョーンと跳びたい気分だった。
ミカは混乱しながらも、次は伝説の五色の魔法少女について検索してみた。
すると、伝説の五色の魔法少女の情報10,572,913件、情報の重複を調整すると、伝説の五色の魔法少女の情報30,591件。TRUE0件、FALSE30,591件と表示された。
「あれ? おかしいな。」
なみは、合点がいかないような顔で画面を見ているし、ミカは、何度も魔法少女の情報を検索してみたが、結果はすべて同じだった。
「一体どうしたんだ?」
なみのパパが、さっきから慌てている様子の二人を見て、心配そうに声を掛けた。
「あのね、今朝ミカのコンピュータで魔法少女の情報を調べた時、TRUE(本当)だっていう情報が29件もあったの。」
なみがパパにそう答えると、
「えっ? 29件もあったの?」
なみのママも、予想もしてなかった結果に驚いている。
「そうなの。それで、その内容を見て見たら、アニメの「伝説の五色の魔法少女シリーズ」の第1シリーズから最新の第29シリーズまでが、全部ずらっと並んでいたの。」
「でも、伝説の五色の魔法少女ってアニメだし、私が小さい頃からテレビでやっていたのよ。あれが本当の話だったなんて、とてもじゃないけど信じられないわ。」
ママも困惑した様子で、なみにそう答える。
「でも…」
なみはミカの方を見つめると、
「私のコンピュータの正解率は、99.9999999%なの。だから、まず間違えるはずがないの。それに、今朝調べた情報の内容が変わってしまうなんて、そんなこと、今まで見たことがない。」
ミカも、今まで起こったことがないコンピュータの突然の不具合? に困惑しきっている。なみは、ミカが言ったことをそのままパパとママに伝えた。
「そういえば、魔法少女のことをテレビ局に問合せるって言っていた件はどうなったんだ?」
パパがなみにそう尋ねた。
「あっ、そうだ。そう言えばメールで問合せした件、もしかしたらテレビ局から返信が来てるかもしれない。ミカ、見に行こう。」
なみはミカにそう言うと、二人は、そのままなみの部屋へと駆け込んだ。
二人は部屋に入ると、なみは机のイスに座って、ミカは机の上に座ると、ノートパソコンを開いて電源を入れた。
「今朝メールを送ったばっかりだし、多分まだ返信は来てないと思うけど…」
なみは、ミカにそう言ったが、実は心の中では、なぜか少しイヤな予感がしていた。
少し待っていると、パソコンが立ち上がり、すぐにメールを開いた。そして、20件程の大して重要じゃないメールの中に、二人が待ち望んでいたメールが確かにあった。宛先は、伝説の五色の魔法少女シリーズの制作会社の代表メールからのようで、タイトルは「Re:問合せの件」となっていた。
「あった!」
なみは、よかったというよりは、そのメールを見るのが少し不安な気持ちになっていた。
「早く見ようよ。」
ミカが横からワクワクした様子で、なみにそう催促する。
「…うん。開けるよ。」
なみは、恐る恐るそのメールを開くと、そのメールは、なみの予想したものとは全く違った内容のものであった。恐らくアニメのファンからの問い合わせがあった時に、そういったファンに対し、いつも送っているような、いわゆる定型文のメールに少しアレンジを加えたような内容であった。
日乃彩なみ様
いつも伝説の五色の魔法少女シリーズのアニメをお楽しみ頂き、誠にありがとうございます。伝説の五色の魔法少女シリーズは、長年に渡りあなたのような熱心なファンの皆様のご声援に支えられ、今年で無事に30周年を迎えることができました。
伝説の五色の魔法少女達が、もし本当にこの地球にいるのでしたら、とても素敵なことでしょうね。私達自身は彼女達のことをまだ見たことはありませんが、もしかしたらこの世界のどこかにはきっといて、いつかあなたも出会うことがあるかもしれません。
今年の4月からは、伝説の五色の魔法少女シリーズの記念となる第30シリーズがいよいよスタートします。我々スタッフ一同もシリーズの開始に向けて、みなさんに喜んでもらえるよう現在全員が情熱をもってアニメを制作している所です。新しいシリーズも、そして新しい五色の魔法少女達のことも、きっとあなたに大好きになって頂けるとそう信じております。
これからも引き続き、伝説の五色の魔法少女シリーズの応援よろしくお願いします。
宝石プロダクション
そして、メールの最後には、次の第30シリーズとなる伝説の五色の魔法少女シリーズの最新作のホームページのリンクが貼り付けてあった。二人は、試しにそのホームページを開いてみたが、そのアニメの簡単なあらすじや、新しい魔法少女の紹介などが載っている普通のホームページで、特に大した情報は得られなかった。
「うーん、なんか期待したり心配したりしたんだけど、なんか損した気分。」
なみは、両手を結んでぐーっと伸ばすと、すっと力が抜けた。なみは、メールを開ける前、なぜかイヤな予感がして身構えてしまったのに、実際のメールは特に当たり障りのない内容で、なんだかすごい肩透かしを食らったような気分だ。
「そうだね。」
ミカの方も、メールやホームページを自分のコンピュータに転送し、色々と分析してみたりしたようだが、特に違和感を感じていないようだ。
「もう遅いし、これからお風呂に入って、今日はもう寝よっか?」
「うん、そうしよう。」
ミカもなみの提案に賛成し、彼女達はお風呂場へと向かった。
だが、本人達が気づかなかっただけで、実はものすごく奇妙なことが、なみとミカの二人には起こっていた。彼女達が先ほどまで見ていたホームページを覗いてみると、第30シリーズのタイトルは「伝説の五色の子猫の魔法少女」だったし、惑星より脱出してきたという子猫は、作画こそアニメだったが、どう見てもミカにしか見えなかったし、伝説の五色の魔法少女シリーズの赤色の魔法少女は、日乃彩なみでしかなかった。だが、彼女達はそのホームページをじっくりと何度も確認しても、それが自分達本人であるということが全く認識できなかったようなのである。




