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二重異世界行ったり来たりの付与魔術師 ~不幸な過去を変えるため、伝説のダンジョンを攻略して神様の武芸試合で成り上がる~  作者: けろ壱
第7章 迷宮の異世界 ~パンドラエクスプローラーⅢ~

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第297話 この想い、風に乗せて


 怪しげな和面わめんをかぶった、4体の強力なアラクネとの戦い。

 そうやって、ミヅキとエルトゥリンが激闘を繰り広げる後方で。

 アイアノアはコンテナ車の上に立ち、はらはらと気を揉んでいた。


「あぁ、ミヅキ様っ、エルトゥリン……」


 苦戦するミヅキとエルトゥリンの姿が遠ざかっていく。


 もうこのまま会えなくなるのではないか。

 そう思うほどに、不安感に胸が締め付けられる思いだった。


 ミヅキと触れ合えず、目線を合わせられず、アイアノアは手を出せない。

 こうして見ているしかできず、もどかしさにいても立ってもいられない。


──私には何もできないの……? ミヅキ様のお力になれず、エルトゥリンの戦いにはついていけない……。……私は、無力だわ……。


 アイアノアは、ミヅキとエルトゥリンとの差を痛感していた。

 超常の権能とは言え、太陽の加護は星の加護の強さに到底及ばず、地平の加護のバックアップが主な役割である。

 今この場で、直接的にミヅキたちを救う救世主にはなれそうにない。


「──いいえ!」


 だからこのまま塞ぎ込んでいるのか。

 いいや、使命に対するアイアノアの気持ちはひたすら前向きだ。

 彼女は叫び、しっかりと目の前にある戦いを見据えた。


 劣勢ながら、決して屈することなく敵に立ち向かっている二人の戦士。

 雄々しく叫ぶ声が、アイアノアのところまで聞こえてくる気がした。


 ミヅキとエルトゥリン。

 あの二人と肩を並べ、共に戦う覚悟と決意はとうに固まっていた。


「足手まといになるのはイヤっ! 迷惑を掛けるだけなんて耐えられないっ! 私は勇者の、魔法銀の魔術師(ミスリルウィザード)ミヅキ様のっ、最高の相棒でありたいっ!」


 アイアノアは奮起する。

 これ以上、落ち込んでいるのは真っ平ご免だった。


 何より、ミヅキを支えたいという思いは誰にも負けない。


「待っているだけではダメ! 私の想い、ミヅキ様に届けなくちゃ!」


 どうすればいいのか、何故だかアイアノアにはわかっていた。

 いや、もうやり方に気付いていたというほうが正しい。


「風の精霊よ、力を貸して! 私の魂を肉体のくびきから解き放って!」


 アイアノアは一心不乱に願った。

 高速で吹き付ける風に髪を揺らし、両手を胸の前で組んでひざまずく。


 風と彼女の親和性は高く、いつだって味方をしてくれた。

 超自然と通じ合うエルフの特性が、神交法しんこうほう真髄しんずいを開花させていく。


 風の精霊を通じて神交法を交わす。

 相手のことを思えば思うほど、魔力は研ぎ澄まされていく。


「──ただ今そちらに参ります! ミヅキ様っ!」


 アイアノアはカッと目を見開いた。

 凜々(りり)しい意思は空間を超越する。


 びゅうッ……!!


「……!」


 一陣の風が吹き抜け、ミヅキは背後を振り返った。


 コンテナ車はずっと遠くを走っていて、アイアノアもそこに居るはずだ。

 なのに──。


「アイアノアッ!?」


 ミヅキは驚いて声をあげた。

 目の前の空中に、アイアノアが浮かんでいた。


 それもただの彼女の姿ではない。

 そこに居たのは、緑色の光を幻想的に放つ、一糸まとわぬアイアノアであった。

 風を介して飛ばした、彼女の概念体がいねんたいである。


 ふわり……。


 薄く微笑みをたたえ、両手をミヅキの背中に回して抱き締める。

 ミヅキは一瞬戦いを忘れ、温かな春風に包まれたのかと思ったくらいだ。


 そして──。


 自然と顔を近付け、アイアノアはミヅキの唇にキスをした。

 本当に唇同士が触れ合ったかのような、柔らかく優しい口づけであった。


「ミヅキ様、受け取って下さいまし。私の気持ちを……!」


 アイアノアの声が実際にミヅキの耳に届く。

 地平の加護は確かに受け取った。

 新たなる境地に進んだ彼女の力を──。


『エルフ、アイアノアの《性霊縮地法せいれいしゅくちほう》確認・同期完了・神交法、最大出力』


 神交法は空間を飛び越え、ミヅキとアイアノアの間の距離を問題にしない。

 風が及ぶ範囲なら、神交法の効果を自在に巡り合わせられる。


 縮地法しゅくちほう、とは地面や距離を縮め、瞬間移動を行う仙術せんじゅつであった。


 この土壇場どたんばで、アイアノアは新しい力を覚醒させたのだ。


「──やった! ミヅキ様と繋がれた!」


 コンテナ車の上で、アイアノアは歓喜の声をあげた。


 エルトゥリンのお仕置きからミヅキを助けたときのように。

 王都で行方不明のミヅキを探し当てたときのように。


 心と心を結ぶ相手を想って力を増す。

 遠く離れていようとも、大切なひとを慕い、願えばきっと繋がれる。


「これこそ神交法の奥義ッ! どんなに離れていたって関係ない! ただひらすらに相手を想い、たっとぶ! 気持ちが強ければ強いほど、いくらだってお互いを高め合える! 最早もはや、ミヅキ様と私は一心同体! もう気持ちは揺らがないッ!」


 神交法を昇華させた。

 ミヅキも至っていない領域へと。


 風と心を同化させ、広大な空をどこまでも自由に飛んでいくことができる。

 思いを到達させる行き先は、もちろんミヅキのところであった。


「ミヅキ様、私にお任せあれ!」


「わかった、アイアノア! ──地平の加護を、君に預けるッ!」


 心同士の強い結び付きは、ミヅキに一つの閃きを与えていた。

 最高の相棒でありたいというアイアノアの願いを聞き届け、地平の加護の付与効果に、地平の加護自体を乗せる発想に至る。

 これはミヅキの能力の貸与であり、遠隔操作が可能となる解釈の拡張であった。


「雛月、サポート頼む! 地平の加護を、俺とアイアノアの二人で使う! 俺の心もアイアノアのところに飛ばしてくれッ!」


 ミヅキが叫ぶと、かたわらのアイアノアの概念体が笑って頷いた。

 形を崩し、風の光に戻り、彼女の意思は本体の元へ瞬時に帰ったのだった。


『対象選択・《エルフ、アイアノア》・効験付与・《地平の加護》』


「これは、地平の加護の声……! ええ、わかったわ。私に力を貸して!」


 すれば、アイアノアの頭に響いたのは雛月の復唱の声だった。

 地平の加護はアイアノアに超常の力を与え、共有化して運用される。


「ミヅキ様から賜ったミスリルの宝剣──。いざ、解放するッ!」


 次にアイアノアは剣を抜いた。

 ミヅキが作ってくれた、刀身がミスリルで出来ている加護生成の特別な剣だ。

 その柄を両手で握り、真っ直ぐ前へと突き出して構える。


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ……!!


 アイアノアを中心にして、竜巻のような風が巻き起こっていた。

 コンテナ車が進む方向の向かい風を無視し、気流が放射されている。

 金色の長い髪と、茶褐色ちゃかっしょく外套がいとうが激しくたなびいていた。


 風は意思を持ってコンテナ車に取り付き、形を成していく。

 左右真横に広がるのは、湾曲した巨大なる弓の姿。


 ミスリルのショートソードを、つがえた矢に見立てたその姿はまるで、攻城兵器こうじょうへいき大型弩砲おおがたどほう──。

 バリスタであった。


「なにこれっ!? アイ姉さんがやってるの!?」


「ご安心を! これは私の力ですっ! このまま走って下さいまし! 私がみんなを助けてみせますっ!」


 いきなり現れた風のバリスタに、キッキは後ろを振り向いて驚いた。

 アイアノアはその声に力強く答える。


『効験付与・《必中効果、及び真贋鑑定しんがんかんてい、及び自動誘導》』

『太陽の加護・並列励起へいれつれいき・成功率の上昇補正』


 地平の加護がアイアノアの繰り出そうとする攻撃に効果を付与した。

 太陽の加護の効果もこれに上乗せされる。


「心と身体から満ちあふれる私とミヅキ様の魔力、──全部を込めるッ!」


 空間を隔てた神交法を成功させ、今やアイアノアの魔力は限界を超えている。

 有り余るほどのマックスパワーを一極集中して撃ち放つ。


 極大出力、風の貫通魔法による長距離射撃──。


「──魔疾風ノ弩砲(デモンゲイルバリスタ)ッ! 貫いてぇぇぇッ……!!」


 ドギュンッ……!!


 轟音が大気を揺らし、後ろに向かって凄まじい反動の爆風が吹いた。

 魔力を集中させた弩砲の矢は巨大かつ極太で、大槍と呼ぶのが相応しい。

 目に止まらぬほどの速度で、風の剛槍は空中を飛んだ。


 ズボッ……!!


 一瞬の出来事だった。

 幻術と呪いの矢に苦しめられるミヅキとエルトゥリンのすぐ横を、凄まじい勢いの風が通り抜けていった。

 風はそのまま無数の幻影の中の、般若面はんにゃめんのアラクネに突っ込んだ。


「きッ……!? きぃぃぃぃぃぃぃぃッ……!!」


 ガラスを引っかいた不協和音のような絶叫があがった。

 般若面のアラクネは人の胴体の半分を削り取られ、下半身の蜘蛛の腹部には大穴が開いていた。

 一目にとどめを刺したとわかるほど、決定的な一撃である。


 ……ゴオォォォォォォンッ……!!


 風の大槍に伴った気流が、般若面のアラクネを遠くへ吹き飛ばしていく。

 暗い彼方にまで飛んでいき、炸裂する風が空気を鳴らして爆発を起こした。


 ミヅキとエルトゥリンが、あれだけてこずった幻術をまるで問題にしない。

 地平の加護の命中させようとする強制効果と、その成功率を高める太陽の加護の絶対性が、必中の極大風魔法を生み出していた。

 ただでさえ強力な加護を合体させた力の前に、アラクネたちは為す術もない。


「えいッ……! っえいッ……! えぇいッ……!!」


 ドギュンッ……! ドギュンッ……! ドギュウンッ……!!


 第二射、第三射、第四射。

 文字通り、矢継ぎ早に撃ち出される大風の大砲。


 ミヅキとアイアノア間で神交法が繰り返され、無尽蔵の魔力が高速で巡る。

 風の大槍を何度も作り出し、その都度最大出力で撃ち放った。


「姉様、凄い……!」


 エルトゥリンは呆然としながら、アイアノアの威力を見つめていた。

 鋭い気流が後方から次々と飛来し、アラクネたちを仕留めていく。


 幻影には目もくれず、夜霧よぎりに隠れた本体を追尾している。

 戦線を離脱して、残り3体のアラクネは逃げまどった。


 しかし、どこまでも追い掛けてくる風の大槍がついには命中し、人の形の上半身や蜘蛛のどてっぱらに致命的な風穴を開けられた。

 まさに、必中必殺の誘導弾である。


 ずたずたに引き裂かれながら、遠くへ押し流されるアラクネを見送り、エルトゥリンはゆっくり後ろを振り返った。

 その口許には安堵の微笑みが浮かんでいた。


──子供の頃も今も、姉様が私を助けてくれる……。


 星の加護でも苦戦を強いられた敵を、自分に代わって倒してくれた。

 綺麗で美しく、頼りになる心優しい姉。

 小さいときからちっとも変わっていない。


「すっげぇ、やった! さっすがアイアノアだっ!」


 エルトゥリンは隣ではしゃぐミヅキをちらりと見た。


──使命の勇者はミヅキだけど、私にとっての本当の勇者はアイアノア姉様……。

それはきっと、この先もずっと変わらない。姉様こそが私の勇者様……!


 大好きな姉への想いが心を満たす。

 エルトゥリンは子供のような、屈託のない笑顔を浮かべるのであった。


 かくして、混乱を極めた魔の襲撃は終わりを告げた。

 もうこれ以上の追撃はなく、敵を返り討ちにすることに成功した。

 ミヅキたちの完全勝利である。



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