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二重異世界行ったり来たりの付与魔術師 ~不幸な過去を変えるため、伝説のダンジョンを攻略して神様の武芸試合で成り上がる~  作者: けろ壱
第7章 迷宮の異世界 ~パンドラエクスプローラーⅢ~

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第293話 真夜中の撤退戦


 ドドォォンッ……! ズズゥゥン……! ゴゴゴゴゴゴ……!


 走行を続けるコンテナ車の後ろ、夜の平原に爆発と轟音が繰り返されている。

 チカチカッとした白い点滅が何度も光り、地鳴りがここまで伝わってくる。

 単身残ったエルトゥリンが不死の騎馬軍団と戦い、食い止めているのだ。


「すっげぇー! やっちゃえーっ、エル姉さぁんっ!」


「……ひえぇ。エルトゥリンさんって、いったい何者なんですか……?」


 無双状態のエルトゥリンに、キッキは興奮を抑えられない。

 座席の陰から恐る恐る後方を覗くミルノの顔は引きつっていた。


 地を埋める数の魔物だろうと、エルトゥリンなら全て蹴散らしてくれるだろう。

 一匹たりとも抜かさせない、星の加護なら当然だ。


「……」


 但しと、ミヅキはエルトゥリンのとんでも戦闘をじっと見据えていた。

 油断をするにはまだ早すぎる。


 おそらく敵はこの不死の軍団だけではないだろう。

 これだけ大規模な襲撃となれば、別働隊が居たとしてもおかしくはない。

 それに──。


「……こいつら、前に確か……」


 ミヅキは確信に近い感覚を覚えていた。

 地平の加護の照合結果が教えてくれている。


 この魔物たちは「あのとき」の魔物たちと同じであると。


「ミヅキ様っ、空からっ……! あぁっ、周りからもッ……!」


「ちっ、囲まれてる! 陽動ようどうって訳かよ……!」


 嫌な予感は間を置かずに的中していた。

 アイアノアの悲鳴にも似た声を聞きつつ、新たな敵の接近を目の当たりにする。


 エルトゥリンをスケルトンの騎馬隊が引きつけている間に、ミヅキたちを狙って別の魔物たちが襲い掛かってきた。


 執拗しつようで、組織的で──。

 この襲撃は、ただならぬ事態であると、そう物語っている。


「……空にはハーピー! 地上を集まってくるのは、ありゃ何だ? お化けネズミに乗ったゴブリンか……!?」


 ミヅキは周囲を見回して舌打ちをした。


 ぎゃあぎゃあわめき、夜空を飛んで来るのは半人半鳥のハーピーの群れだ。

 コンテナ車を左右から挟むように並走してくるのは、大型の犬くらい巨体の怪物ネズミ、ウェアラットの背に乗った敵性亜人、ゴブリンの集団である。


「うわぁっ、やだっ! 撃ってきたっ……!」


「ひぃぃぃっ……! ミヅキさぁんっ!」


 ゴッ! ガンッ! ドガガッ……!


 キッキとミルノの悲鳴があがり、オウカの苛立った咆哮ほうこうが響く。


 魔物の別働隊はすぐに攻撃を開始していた。

 ハーピーが急降下しながら、脚のカギ爪に抱えた岩を投げつけてくる。

 ウェアラットの背のゴブリンは、手製の弓から矢を射かけてくる。


 展開している風の護りが威力を削いでいるものの、コンテナ車やオウカの甲殻に被弾する音は、充分に恐怖心をあおるものであった。


「ミヅキ様っ、大丈夫ですかっ!?」


「くっそぉ! これじゃ防戦一方だ! いいまとにされちまうっ!」


 アイアノアと繋いでいる手から、強ばった力が伝わってくる。

 このまま防御に回っているだけでは駄目だ。

 群がる敵を打ち倒し、仲間たちを守らなければならない。


──さあどうする! エルトゥリンがいないなら、俺が何とかするしかない!


「……試してみるかっ! 雛月、洞察の成果、信じてるからな……!」


 独り言みたいに言うと雛月の、任せてよ、という声が聞こえた気がした。


 ミヅキはさらに地平の加護を発動させる。

 太陽の加護が、頭上で一層強い光を放った。


『対象選択・《勇者ミヅキ》・効験付与・神降ろし・《シキみづき》』


 復唱の声が頭に響き、ミヅキは心身を強力なシキへと変えた。

 神々の異世界の力使用に際し、太陽の加護はその内に太極図たいきょくずを宿す。

 ただ、シキを宿したのは「この新たな力」に順応するためである。


『効験付与・《星の加護限定再現、出力25パーセント》』


星明ほしあかりにっ、星屑撃ほしくずうちだっ! くらえッ!」


 それはミヅキの──、地平の加護が使う、星の加護であった。

 地平線に掲げられた星の瞬きはまだ弱いが、災いをもたらす者共に天罰を下す。


 ビカッ……!! ドドドドドドドドドドドドドッ……!!


 ミヅキは上空を見渡して、首をぐるんっと捻った。

 その動きに合わせ、見開いた片目からレーザー光線が伸びている。

 鞭がしなるように、光の筋がハーピーの群れを瞬時に打ち払った。


 すると、夜空は狂った花火が乱発されたように明るくなった。

 ハーピーと飛来する投石が、輝きを放って全て爆発していく。


 コンテナ車と並走するゴブリンライダーたちにも星の加護が襲い掛かる。

 空中に浮かび上がった光の弾体、星屑撃ちの光弾が順次突き刺さっていった。


 至近距離で弾丸を食らい、ゴブリンとそれを乗せるウェアラットは堪らない。

 星屑撃ちの連射にハチの巣にされ、派手に転んで次々と倒されていった。


 後方へ消えていく魔物を見送り、ミヅキは拳を握って叫ぶ。


「どうだっ!? 俺にだって星の加護が使えたぞッ!」


「はぁっ、凄い! これが星の加護の力っ! 魔力の消耗が桁違いですっ……!」


 太極の太陽の加護を支えるアイアノアは感嘆の声をあげる。

 ミヅキの力はまたさらに進化していて、とうとう星の加護を使い始めた。

 初めて星の加護を制御してみて、その強さ重さにも驚きを隠せない。


「強さはエルトゥリンには全然敵わないけどな! 星明かりのレーザーは細いし、星屑撃ちの弾丸はせいぜい石ころサイズだよ! 目下、地平の加護が物にしようと猛勉強中だ! それよりアイアノア、身体に異常はないかっ!?」


「はいっ、大丈夫です! こうしてミヅキ様と触れ合っていれば、魔力を切らすことはありません! 思う存分、お力を解放して下さいましっ!」


「よしきたっ! ……だけど、敵の数が多すぎるな! 俺だけじゃ手に余る!」


 ミヅキは目だけを動かし、後ろに意識を向けた。

 視線の先には休まず脚を動かし、地を滑走するオウカが居る。

 ミヅキは地平の加護を介し、オウカにも助けを求めた。


「オウカッ! お前の力を貸してくれっ! やっぱり、ドラゴンって言ったらこれだよなっ!」


『対象選択・《大地の竜オウカ》・効験付与・《ファイアーブレス》』


 竜ならではの能力を付与した。

 瞬間、オウカは目を見開き、大きな顎をぐぁっと開けた。


 ゴゴゴゴゴォォォォォォォォォォォォオオオオオオオーッ!!


 首回りの硬質な皮膚を立てながら、オウカは火炎の息を噴き出した。

 地平の加護の付与効果をすぐに理解し、初めから火を噴けたのではないかと思えるくらい自然な本能で戦闘に参加している。


 走りながら右へ左へと首を振り、火炎ブレスの筋で魔物を薙ぎ払う。

 並走するゴブリンライダーは炎に巻かれ、ウェアラットは転倒し、放り出されたゴブリンは転がりながら後ろに消えていった。


「うっひゃあ! オウカが火ぃ噴いたっ! すごいすごいっ!」


 すぐ近くで活躍する相棒の竜に、キッキは興奮して黄色い声援を送る。

 すると、オウカも火炎混じりの鼻息を得意そうに吹いたのであった。


「……私だって……!」


 アイアノアも何もしない訳にはいかない。

 ミヅキと繋いでいるのと逆の手を、並走するゴブリンライダーに向けた。


 ドガンッ!!


 瞬時に手の平に集束した風の塊が発射され、激しい突風を生んでいた。

 風の壁を高速で打ち付け、ゴブリンとウェアラットごと吹き飛ばす。

 その威力は凄まじく、他の個体を巻き込みながら遠くまで押し流していた。


 ミヅキと結んだ手を介し、魔力がひたすら好循環している。

 これなら常に本気の魔法を撃ち続けても魔力を切らすことはない。


「あっ、それって王都で使ってた魔法だよね! 今度またマネさせてもらっていいかな? 風の衝撃魔法、かっこいいなぁ!」


「えっ、あ、はいっ! ミヅキ様のご自由になさって下さいまし……」


 無邪気なミヅキの笑顔に、アイアノアは目をぱちぱちさせて面食らう。

 こんなときに何をのん気なことを言っているんだろう、とも思ってしまう。


 シキの力を身に宿したミヅキの精神力は強靱きょうじんである。

 こんな緊急事態においても、その感性は鈍感と感じられるくらいに。


 と、一人で勝手に緊張感の緩んだミヅキは、あっと声をあげた。


「そういえばアイアノア。さっき、俺に何か話があるって言ってなかったっけ? 急いでたから聞けてなくてごめん」


「あっ……! い、いいえ、それは、そのっ……」


 不意を突かれたみたいにアイアノアはしどろもどろになってしまう。

 忘れていた訳ではないが、できれば思い出したくなかったことだ。


──王都に潜む魔の存在を、私はミヅキ様に黙っていた……。きちんと相談をしていれば、この襲撃を警戒して何かできていたかもしれないのに……。


 思いもよらず襲われてしまい、戦いが始まってしまえば今更のことである。


 しかしそれは、アイアノアにとっての背信行為はいしんこうい

 信頼するミヅキへの、裏切りであった。


「くそっ、まだ来るのかよ! 次から次へとキリがないな!」


 そしてやはり、魔物たちは勢いを緩めず、さらなる増援を送り込んでくる。

 ハーピーの群れが空を覆い、ゴブリンライダーたちが左右から接近してきた。


「アイアノア、やっぱり話は後で聞くよ」


「はい、わかりました……」


 即座に戦闘状態に戻るミヅキは戦いの権化ごんげと化している。

 アイアノアは何も言えず、それに習うしかなかった。

 そんな彼女の、焦りと不安がにじんだ顔は、後ろめたい思いを秘めている。


──エルトゥリンは相変わらず頼りになるし、ミヅキ様のお力もますます高まっていらっしゃるわ……。このまま、襲撃が終わってくれれば、無理に魔の存在を打ち明けなくとも……。


 魔の襲撃は苛烈だが、エルトゥリンとミヅキの力も強大で引けを取っていない。

 アイアノアの葛藤かっとうとは裏腹、深刻な事態には至らないのではないだろうか。

 ミヅキときちんと話せていないのも、余計な心配かもしれない。


「でも……。本当に、それでいいのかしら……?」


 アイアノアは誰にも聞こえない小さな声でそう呟いた。

 続く戦闘の喧騒に、彼女の声は紛れて消える。


 その後も、魔物たちの追撃は第二波、第三波と続いた。

 但し、ミヅキたちは反撃を繰り返し、これらを全て撃破していく。


 ミヅキの擬似的な星の加護の威力。

 竜の本能に目覚めたオウカの炎ブレス。

 アイアノアの強力な風魔法。


 それらの前に、魔物たちは完全に手も足も出せないのであった。


「……はっ! これは……?!」


 そんななか、アイアノアは耳を立てて声をあげた。

 魔に通じるエルフの彼女だからこそ気づいたことだ。


「ミヅキ様っ! この感じ、間違いありませんっ!」


 さっきから魔物に重なって黒い気配を感じていた。

 眉をつり上げ、隣のミヅキを見つめる。


「ミヅキ様、あの魔物たちは闇の精霊に操られています! そして、これほど多くの闇の精霊を使役できるのは……!」


 これほど大集団の魔物を、精霊を通じて操れるのは──。

 アイアノアが誰のことを指しているのかは直感的に連想できた。

 思い当たる人物は一人しかいない。


「まさかっ! フィニスがっ!?」


「わかりません……。ですが、私はこれほどの精霊の使い手を他に知りません……。フィニス様は闇の精霊を従わせるのが得意でしたから……」


 すぐ横で見合わせるアイアノアの目にはおそれの色があった。

 身内であった彼女なら、よく知っているだろう。

 フィニスの精霊使い(シャーマン)としての実力の高さは桁違いであったから。


「かつて亜人戦争の折、私たちエルフや他の亜人の連合軍を合わせてもなお物量で勝る人間に対抗するため、フィニス様は闇の精霊の力を借り、大勢の魔物を操ったと言われています。……これらの魔物たちもおそらくは」


 フィニスは単独で、人間全てを相手に戦争を続けていたという。

 無数の魔物を操り、従えて──。


 それが本当なら、尋常ならぬ修羅しゅらの所業も納得できる話であった。

 そして、ミヅキに苦い記憶を思い出させる。


──こいつらはあのとき、神巫女町かみみこちょうで俺を追い掛けてきた魔物と同じ感じがする。闇の精霊に操られて、命令の通りに従っている……。


 現実世界、滅びた故郷に無数の魔物が湧いて出た。

 当時とこの状況が同じというなら、ミヅキの推測はある事実に辿り着く。


──あのとき、魔物の追っ手を放ったのはフィニスだったのか? それじゃ、あの二体の異界の神獣を差し向けてきたのも、フィニスの仕業だっていうのか?


 大勢の魔物に追い回され、死に物狂いで逃げまどった。

 あんな恐ろしい体験、生涯忘れられそうにない。


 おまけに大物の──。

 異界の神獣が二体も襲い掛かってきた。


──そうなら、神巫女町にフィニスが居たということになる。現実世界と異世界、越えられないはずの境界を行き来していることになる……。


 ミヅキ自身。

 フィニス、八咫やた

 未来のアイアノアとエルトゥリン。


 いよいよと、三つの世界を巡って物語と戦いが広がってきていた。

 途方もない事の成り行きに、心が奥底から脅威に震えた。

 反面、シキの強い精神で気が昂ぶり、震えは武者震いにも感じられた。


「……面白くなってきやがった」


 思わず、小さく呟きが漏れた。

 ミヅキの顔に回路模様の光がぞわりと走る。

 好戦的なシキの目には、獣めいた戦意がぎらぎらと宿るのであった。



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