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二重異世界行ったり来たりの付与魔術師 ~不幸な過去を変えるため、伝説のダンジョンを攻略して神様の武芸試合で成り上がる~  作者: けろ壱
第7章 迷宮の異世界 ~パンドラエクスプローラーⅢ~

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第273話 続、雛月の途中批評


■アイアノア(太陽の加護)との相性100パーセント


「それじゃあ途中批評といこう。いやあ、収穫の多い実りある数日間だった」


「途中って、今度のこっちの話はこれで終わりじゃないんだな」


「いやいや、ここから後半のストーリー、王都編が始まるんじゃないか。今回の話はまだまだ道半ばだよ。三月の計画が実を結ぶかどうか、楽しみにしてるよ」


「言い出しっぺは俺だからな。最後までやり遂げてみせるさ」


 割れた食器を片付けて床を拭き、三月と雛月は炬燵こたつテーブルを囲んでいた。

 雛月の前にもアンのいれた新たなコーヒーカップがある。


 黒い影でしかなかったアンは身体が大きくなり、両手の自由が利くようになったため、コーヒーをいれるのもスムーズになっていた。


「良い服に良い竜。パメラさんのお店を助けて、ひいてはトリスの街を盛り上げる。足場固めとしてとってもいい感じだよ。トリスの街は迷宮の異世界を攻略する重要拠点となる場所だからね」


 まず雛月が語るのは、三月のやろうとしているトリスの街の町興まちおこしである。


 冷凍庫を使って港湾都市こうわんとしである王都から魚介類を運搬し、海鮮料理を出せるようにして故郷の味への需要じゅようを満たす。

 そのための準備として足となる地竜オウカを従え、魔力を蓄えられる魔法銀ミスリルの魔術師コートを作成した。


「──魔法銀の魔術師(ミスリルウィザード)か。ゴージィ親分もいきな二つ名を付けてくれたものだよ」


「俺には過ぎた名前だよ。凄いのは俺じゃなくて地平の加護がだろう」


「ぼくは気に入ったよ。いつか国中にその名が轟くのが楽しみなくらいに」


「うむう、何ともむずかゆいもんだ……。あの世界、何かと二つ名を付けるのが流行ってるみたいだな……」


 満足そうに笑んだ雛月はコーヒーをすすり、三月は気恥ずかしさに困り顔だ。


 化け猫パメラ、妖精剣のアシュレイ、戦乱の魔女フィニス等々。

 迷宮の異世界における、有名人の列に異名を連ねるのは気後れしてしまう。


「魔術師ミヅキ様の今後の活躍には期待をするとして。何より特筆すべきは──」


 雛月はにやりと笑った。

 三月は何を言われるのかがわかって嫌そうな顔をする。


「アイアノアとの神交法しんこうほううまくいったね。いいや、うまくいきすぎかな。あんなにも効果が抜群だなんて、三月とアイアノアの相性良すぎだよ。ぼくもキッキと同じくらい嫉妬しっとしちゃうね」


「からかうのはよしてくれよ……。長く生きてるエルフだけど、アイアノアは純情そうだなぁって思ってたらやっぱり想像通りになっちまった……。お陰でエルトゥリンに殺されるかと思ったよ……」


 話題は思った通りのアイアノアとの神交法のことだ。

 魂の相性は抜群で、効果も絶大で言うこと無し。


「あはは、まあ災難だったね。とは言え、三月がちゃんと説明しないで思わせぶりなことを言いまくるのが悪いと思うよ」


 当時のことが想起され、部屋のテレビにはエルトゥリンが三月に馬乗りになってお仕置きをしている場面が映し出されていた。

 それを横目で見つつ、雛月はくすくす笑う。


「俺のせいかよ……。だけど、成果はあったぞっ。これでアイアノアとの魔力問題は解決したし、ダンジョンの外でも地平の加護を使えるようになったんだっ」


「そうだね、これは大きな進歩だ。あの世界での探求はパンドラの地下迷宮だけに留まらない。明日からはるばる王都へと足を伸ばすことになるんだ。ダンジョン外でも加護の力の使用条件を満たしておく必要がある。でも、それにしたって──」


 そこで言葉を切ると、雛月は愉快そうに含み笑った。

 三月を取り巻く環境が改善されていくのを好ましく思う一方で、見ている分には面白おかしい展開には失笑を禁じ得ない。


「セレスティアルのスパイの目が光ってるっていうのに、よりによって人間とエルフのイチャイチャを見せつけちゃうなんてさ。知らない内に変な誤解を与えてなきゃいいけどね。あはははっ」


「笑ってる場合じゃないだろ……。神交法の効果はともかく、あの副作用には正直参ってるんだ……。アイアノアがあんなに大胆な子だったなんて……」


「ふふん、本当にそうかい? アイアノアにくっつかれて満更まんざらでもなさそうだったじゃないか。怒ると怖い夕緋に比べて、アイアノアといるときのほうが安心できるなんて思ってたよね? あんなでも夕緋は婚約者なんだろう?」


「うっ……。思うだけは勘弁してくれ……。怒った夕緋は本当に怖いんだ……」


 口許に笑みはあるものの雛月の目は笑っていない。

 あのとき三月が思っていたことは当然筒抜けになっていた。


「やれやれ、まあいいさ。地平の加護としては三月の色恋沙汰いろこいざたに口を出す気は無い。すべてが終わった後なら、誰と結ばれてくれようと一向に構わない」


 雛月はため息をつくと、睨むようにしていた三月から視線を外した。

 目を閉じれば、テレビに映っていた記憶の映像が消える。


「……雛月ぼくとしては、夕緋だけは選ばないで欲しいけどね……」


 そうして、聞こえないくらいの小声で呟いた。


 本来なら使命の達成以外、三月に干渉する気は無かった。

 しかし、朝陽の遺志に引きずられてか、散々夕緋にやり込められた反骨心がそれを言わせている。


 雛月は夕緋のことが嫌いなのだ。


「ん? 何か言ったか?」


「いいや、何でもないよ」



■星の加護は洞察進捗は25パーセント


「エルトゥリンとの手合わせ、よくやってくれたね。あんなに嫌がってたのに大したものだったよ。お陰で洞察結果は上々だ」


「本気で死ぬかと思ったけどな……。シキの強い心と身体が無けりゃ、俺の命運は尽きてたかもしれない」


 次の話題は雛月の本題、星の加護の洞察についてだ。

 全力をつぎ込み、その真価の一端を引き出すことに成功したのである。

 地平の加護は歓喜し、洞察が可能となった余地に飛びついた。


「何事も順序立じゅんじょだてが大事だ。シキの心と力があるからこそ、星の加護に張り合える訳だからね。……まあ、とはいえ」


 雛月は感心して三月をほめた。


 神々の異世界を巡り、キャラクタースロットの概念でこれまで戦ってきた猛者もさの力を足し込み、ようやくたどり着いた境地だ。

 しかし、そこまでやっても天なる星の輝きは眩しすぎて、ぎりぎり触れられたに過ぎなかったのである。


「星の加護はまだまだあんなものじゃない。エルトゥリンの強さは天井知らずだ。あの力を手に入れるのはまだまだ先になるけど、洞察途中の成果を三月に与えられるように準備しておくよ」


「現状できることはやったつもりだ。後は地平の加護サマに任せるとするよ」


「うんうん、任せといて。魔法銀の魔術師サマに恥をかかせないよう頑張るさ」


「頼んだ。雛月」


 今回の特訓は本当に命がけだったのだから、その分の成果を期待するとしよう。

 三月は雛月を信頼し、雛月も三月の望みに応えようとにかっと笑ったのだった。


「エルトゥリンが子供だった頃の記憶には驚いたね。今はあれほど強い彼女にも、思い出したくない弱い過去があったんだ」


 次に雛月がテレビ画面に見ているのは、子供の頃のエルトゥリンだった。


 映像化されている記憶は、彼女が必死に武術の鍛錬をしたり、狩りの練習をしたりする様子であった。

 普段は涼しい顔のエルトゥリンだが、修行にいそしむ表情は真剣そのものだ。


「誰だって初めからうまくやれる訳じゃない。努力が結果に繋がったんなら、それは本当に凄いことなんだよ」


 それを見る三月の脳裏に浮かぶのは朝陽と夕緋のことだった。


 巫女の神通力はからっきしだったけれど、朝陽だって努力をしていた。

 凄まじいばかりの力を持つ夕緋の努力量は想像を絶するものだったに違いない。


 エルトゥリンも姉のために血のにじむような努力をしたのだろう。


「ふふっ、そうだね。あれほどの強さを得られる努力だなんて驚嘆に値するよ。ともあれ、エルトゥリンが強くならなきゃいけなかった理由は、百年前の亜人戦争に起因する」


 それは、エルトゥリンが鍛錬することになったきっかけだ。

 パンドラの地下迷宮踏破の他に、亜人戦争について詳細を解明する必要がある。

 それを成さねば使命は果たせないのだろう。


「迷宮の異世界の背景にある亜人戦争の傷跡。あの世界の物語の重要な根っこだよ。ゴージィ親分も何か知ってそうだけど口封じをされている。地平の加護たるぼくとしてはこの秘密は暴かずにいられない」


 亜人戦争絡みについては、イシュタール王国から箝口令かんこうれいが出されている。

 雛月にしてみればお預けを食らっているに等しい。


 目をぎらぎらさせる様子を見て、三月はため息交じりに言った。


「地平の加護の性分は因果なもんだな。で、当然俺がその秘密を解き明かさないといけない訳だ。……雛月が知ってるんだったら教えてくれてもいいんだぞ?」


「だーかーらっ、ぼくは三月が獲得した情報じゃないと話してはあげられないの。そんなの知ってても知らないのと同じだろ? ほんと、三月はしつこいなぁ」


「何度か聞いてる内に新情報がこぼれ出ないか期待してるんだよ。近道できるんならそれに越したことはないからな」


「やれやれ、こりゃしばらくは痛くない腹を探られそうだ」


 肩をすくめた雛月は気を取り直して話を再開する。


内丹ないたんの結果も興味深いね。アイアノアとなら魔力、エルトゥリンとなら生命力を高め合うことができるらしい。星の加護の息吹いぶきを確かに感じたよ。エルトゥリンの唇越しに、ね。くすくすっ」


「あぁ、俺、エルトゥリンとキスしちまったのか……。初めてだって言ってたし、悪いことしたなぁ……」


 三月が思い出すのは、エルトゥリンの柔らかな唇の感触だった。

 思わぬトラブルの結果に申し訳ない気持ちにもなる。


「ベタな役得感が半端ないけど、アイアノアとエルトゥリンと仲良くできていいことずくめじゃないか。三月にとって、二人はこの上もない助けとなってくれる掛け替えのない仲間なんだ。これからもずっとずぅっと」


「これからもずっと、か……。雛月が未来からの使者なら、俺とアイアノアとエルトゥリンの関係がどうなったのか聞きたいような、そっとしておきたいような……」


 魅力溢れるエルフ姉妹とのこれから先の未来。

 雛月はどんな結末を迎えるのか知っているのだろうか。


 気にはなるし、聞いても教えてもらえないが、何故か確かめるのが怖くなった。

 雛月は意味ありげににこにこと笑っているばかりである。



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