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二重異世界行ったり来たりの付与魔術師 ~不幸な過去を変えるため、伝説のダンジョンを攻略して神様の武芸試合で成り上がる~  作者: けろ壱
第7章 迷宮の異世界 ~パンドラエクスプローラーⅢ~

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第254話 ミヅキ専用最強装備


「ミヅキ様……。ミヅキ様ぁ……」


 ミヅキはアイアノアに後ろから抱き付かれていた。

 彼女の目にはハートが浮かんでいる。


 二度目となる神交法でも、またしてもアイアノアはめろめろになっていた。


「よし、これがいいな。こいつをベースにして、今の俺の理想的な装備をつくる」


 とりあえず、身体を触れさせておけば過ぎた暴走をしないようなので、アイアノアはそのままの状態にして話を進めるミヅキ。


 魔力は申し分なく充填じゅうてんできたので、いよいよ自分専用装備の作成に取り掛かる。

 そうして、くっついた二人の先にあったのは、木製のマネキンに着せられた防具の上下セットであった。


「ほう、さすがにお目が高えな。そいつぁ、ここに置いてあるなかじゃ一番の品物だ。──魔術師のコート。魔法に耐性のある高級な革と布で仕立ててある」


 横に並んだゴージィは、子供くらいの目線の高さで言った。


 三人が見ているのは、いかにも高位な魔術師が着るような上等な外衣がいいである。

 茶褐色ちゃかっしょくの分厚いアウターの内側には、同系色のインナーを着用する形だ。


「けどよ、なんべんも言うが、いくらこの装備でも今のミヅキは満足させられねえぜ? お前さんが求めてるのは最強だろう? こいつじゃ荷が勝ちすぎる」


「平気平気、このコートだって材料の一つだからさ。……じゃあ、始めるか!」


 いぶかしそうにするゴージィを横目に、ミヅキは持参した物を床に並べ始めた。


 まずはミスリルの塊で、今朝にアイアノアたちへの贈り物をつくるのに使用した残りである。

 さらに、雪男との戦闘で穴だらけになった黒いローブと鎖帷子くさりかたびら


 最後に、パンドラの魔素をありったけ詰めた、ミスリルの魔石を用意した。


『三次元印刷機能実行・素材を選択・《高級な魔術師コート》』

『引き続き素材を選択・《黒いローブ、及び鎖帷子くさりかたびら》・《ミスリル、及び魔石》』


 地平の加護はミヅキの意思を正確に読み取り、望みの形にしていく。

 太陽の加護がそれを補正し、最高品質の完成度へと高める。


『洞察完了・《ゴージィ親分の武具屋内の防具》』


 店内に所狭ところせましと陳列ちんれつされている防具類を、地平の加護が片っ端から洞察した。


 金属製の鎧や盾、対魔法を主とした腕輪や首飾り等の装飾品。

 それらの特性、堅牢けんろうな防御力や魔法への耐性と抵抗力を模倣コピーする。


『洞察済み特性を全て付与・素材の分解、及び再構成実行』

『勇者ミヅキ専用装備・印刷開始』


 頭の中で加護の復唱が響き、この世界の常識では計れない権能を発動した。


 パンドラの魔素凝縮体まそぎょうしゅくたいであるミスリルの魔石を核として──。

 魔術師のコート、ミスリル、ぼろぼろのローブと鎖帷子くさりかたびらが細かく分解される。


 薄ぼんやりとした緑の光を伴い、粒子状となったそれらは再び一つとなった。

 洞察を果たした数々の防具の特性を、いいとこ取りで付与し、固定化する。


「コートの革と繊維せんいの中に、微細化したミスリルの欠片かけらを織り込む。ゴージィ親分がつくった防具の、物理と魔法の防御力を付与する。俺の魔力のエネルギー源と、強固な守りを両立させるんだ。もう着られなくなったローブと鎖帷子くさりかたびらを混ぜ込むのは、俺のちょっとした愛着心だ」


 ミヅキは目の前で出来上がっていく、新たな装備を見つめて言った。


 高品質な魔術師のコートを元にして、ミスリルを融合させた。

 ゴージィの防具が持つ特性を洞察、付与して効果を永続化させる。


 元より、ミスリルは軽くて丈夫な金属であり、魔法との相性に優れている。

 物理、魔法の両面に対して高い防御力を実現し、さらに膨大ぼうだいな魔力を秘めた魔石を中核ちゅうかくとしたため、コート自体が魔石の役割さえ果たす。



「──魔法銀の外套(ミスリルコート)、完成だ!」



 マネキンには、生まれ変わった魔術師のコートが掛かっていた。

 元々の色から、ミスリルを思わせる透明なエメラルド色に変わっている。


 現状の詰め込められるだけを詰め込み、勇者ミヅキの新装備は完成した。

 その名も、ミスリルコートである。


「……おぉー、凄えもんだな、勇者様のお力ってやつはよ……。装備や材料をこねくり回して、新しい品物を合成しちまうってのか……。しかもだ、こんなどえらく高い品質の物を仕上げちまうなんて……。いやはや、こりゃ参ったなあ……」


 ゴージィは初めて目の当たりにする、ミヅキの加護に驚嘆きょうたんしていた。


 ドワーフとして長く生きてきたが、こんなのは見たことがない。

 錬金術れんきんじゅつというものは聞きかじって知っていたが、これはそんなちゃちなものでは決してなかった。


 ミヅキの冒険を完全にサポートする、額面通りな最強装備である。


「まったく、ミヅキみたいなのがいたら、俺ら武具屋の商売はあがったりだよ。……ってか待て待て、お前ら、いったいなぁにをやってやがるんだ……?」


 地平の加護と太陽の加護を使える者が大勢居たなら、ゴージィの言う通りになるのだろう。

 しかし、当の使い手である二人は、そんな心配などどこ吹く風である。


 それどころか、またぞろと珍妙ちんみょう痴態ちたいをさらそうとしている始末なのであった。


「アイアノア、服くらい自分で着れるから……」


「だめですぅ。ミヅキ様のお世話を私にさせて下さいましぃ」


 新しい服が完成したのをいいことに、アイアノアはミヅキの着ている服を後ろから脱がしていく。

 強引に普段着のシャツを引っぺがされ、ミヅキは上半身すっぱだかだ。


「すんすん……。あぁ、殿方とのがたかぐわしき良いにおい……」


「うひっ!? におっちゃ駄目だって……!」


 アイアノアは花の香りでも嗅ぐみたいに、鼻をひくひくさせている。

 ミヅキは逃げようとするも、がっちりと肩をつかまれ離してくれない。


「ふわぁぁ、良い生まれ育ちの綺麗なお肌……。まるで赤ちゃんみたいにもちもちとしておいでです……。食べてしまいたいくらい……」


 うっとりした顔で、ぺろりと舌なめずりをするアイアノア。

 清楚せいそに見えて、意外に肉食系女子なのかもしれない。


「じっとしてまちょうね? おろしたてのおべべを着させてあげまちゅ。よちよち、ばぶばぶ……」


「うぅ、いたたまれない……」


 怪しげな赤ちゃん言葉を操って、アイアノアはお気に入りの人形で遊ぶみたいに、ミスリルの上着とインナーを丁寧ていねいにミヅキに着せた。


「はいっ、できまちたよぉ。よく似合ってまちゅねぇ」


「き、着せてくれてありがとう……」


 ぱちぱちと拍手はくしゅするアイアノアに参りつつも、ミスリルのコートにそでを通した感じは上々のものだった。

 コートは肌に吸い付くみたいにフィットしていて、様々な素材を組み合わせたため、ずっしりと重い。


──すごく肌になじむ服だ……! 自分用につくったとはいえ、服を着てるって言うより身体に取り付ける、付属のパーツみたいな感覚だな。


「はーい、ミヅキ様ぁ。こっちも脱ぎ脱ぎしまちょうねぇ?」


「ちょっとアイアノアっ! 下はいいって! やめてぇー!」


 と、上着だけではもちろん済まず、あろうことかアイアノアは下まではき替えさせようと、ズボンのウエスト部に手を掛ける。

 正気を保っているミヅキは、文字通りの子供扱いが耐えられない。


「こっちは自分でやるからぁっ、──って、うわあ?!」


「ふぁんっ!?」


 押し合いへし合いからの、脱がされ掛かったズボンに足を取られ、今度はミヅキがアイアノアを押し倒して床に転がってしまう。

 待っていたのは、彼女の胸に付いている豊満なクッション二つだ。


 ぽよんっ!


「もうミヅキ様ったらぁ、ママのおっぱいが恋しいんでちゅか? しょうがないでちゅねえ。でもミルクはまだ出まちぇんから、抱っこだけで我慢して下ちゃいね」


 腕の中に飛び込んできたミヅキを両手でしっかり捕まえ、アイアノアはふわふわほんわかしながらその頭を抱えていた。


「うぅ、ほんとに赤ちゃんみたいになっちまった……」


 魅惑の両胸に顔を挟まれながら、ミヅキは嬉しさ半分、情けなさ半分──。

 あきらめたようにぼやくのであった。


「……やれやれだ。お前らを見てると、亜人と人間が不仲ふなかだってのが、馬鹿馬鹿しくなってくるな」


 自分は無関係をよそおい、白々(しらじら)しく見ていたゴージィはようやくと口を開いた。


「確かにいつまでも仲違なかたがいしてるよりは、仲良く手ぇつないで、おんなじ方向を向いたほうがよっぽど有益ってもんだ。そういうご時世じせいなんだろう……」


 人間と亜人の仲が悪いのは、長いこと続いている共通認識である。

 長命種の種族であればあるほど、人間のしてきたことは到底許せない。


 しかし、いつまでもそうではお互いのためにならない、と世相せそうを憂う者も決して少なくないのが今の現状であった。


 もちろん、ゴージィだってその一人だ。

 疲れたようにため息をつく。


「ゴージィ親分……」


「私は手をつなぐだけでは満足できませんっ。ねえ、ミヅキ様ぁ、ちゅっちゅっ」


「アイアノアっ、駄目だって! 離してってば……!」


「イヤですー、もっと抱っこしていたいんですぅーっ」


「──お前らのは度が過ぎてるけどなっ! いい加減にやめねえかっ! 俺の店は、連れ込み宿じゃねえんだぞっ! こらぁッ!」


 しかし、目の前で繰り広げられる痴態ちたいには我慢の限界だ。


 人間とエルフの男女が自分の店で寝っ転がり、揉みくちゃになっている。

 最も仲の悪い組み合わせなのに、今にも一線を越えてしまいそうな有様だ。


「ゴージィ親分、ごめんなさい……。まだ新しい魔法に慣れてなくて、魔力を練り上げると、俺もアイアノアもこんな感じになっちまうんだ……」


「ふん、そりゃ難儀なんぎなこったな! その魔法があれば、エルフと人間の未来は安泰あんたいだろうよっ! 末永くよろしくしてやがれってんだッ!」


「嫌だもうゴージィ様ったら……。それは私とミヅキ様に結婚をしろ、ということですか? もっともっと仲良しこよしになった後の、最後のお楽しみにとっておきたいのに、気がお早いです……。結婚式には参列して下さいましね……」


 申し訳なく思うミヅキに、不機嫌そうにそっぽを向くゴージィ。

 そんな二人をよそに、アイアノアは頭がお花畑になっている。


「駄目だこりゃ。目がいっちまってる、手に負えんわ」


「たはは……。ちょっとしたら元に戻りますんで……」


 アイアノアのあまりの幸せそうな様子に、ゴージィは怒るのを忘れて呆れるばかりであった。


 そうしてアイアノアがおとなしくなったのを見計らい、ミヅキはゴージィにとある質問を投げ掛けてみることにした。

 抱き付かれて寝っ転がったまま、小兵こひょうのゴージィを見上げる。


「──それよりもゴージィ親分。聞きたいことがあるんだ」


『ゴージィ様は古き歴史を知る生き証人のお一人です。よわい三百歳を越えておられるゴージィ様なら忌まわしき百年前の騒乱についてもお詳しいはずです。豊富な知識を頼るのもそうですが、トリスの街一番の鍛冶職人の腕前はきっとミヅキ様の助けとなってくれます』


 頭によぎるのは、密着している現在のアイアノアではなく、未来からの使者である巫女装束姿みこしょうぞくすがたのアイアノアの言葉。


──エルフにぐ長い寿命のドワーフなら、この国の歴史に詳しいはずだ。この異世界における物語の因子を集めるのに、ゴージィ親分ほど打って付けの人物はいないだろう。


「何だ。何が聞きてえんだ?」


亜人戦争あじんせんそう、のことについてです」


 ミヅキは単刀直入たんとうちょくにゅうに切り込んだ。


「……!」


 途端、ゴージィは目を見開いて驚いた顔をした。

 ミヅキの口からその言葉が出たのが意外だったようだ。


「アイアノアに教えてもらったのか……。なぁミヅキ、あの戦争のことを俺ら亜人に聞く意味をちゃんとわかってるか? お前さんだって、一応は人間なんだぜ?」


 ぎろりとした目がミヅキを見つめた。

 気分を害した訳ではなさそうだが、軽々しく聞いていいことではないのはぴりっとした雰囲気から伝わってくる。


「興味本位で聞いてるんじゃないよ。俺は亜人戦争を知らない人間だからね。ちゃんと知っておきたいんだ」


「知ってどうする?」


「パンドラの地下迷宮を踏破とうはすることに関係してる。この答えじゃ駄目かな?」


「……いや、充分だ。みなまでは言わんが、エルフの裏事情に付き合う気があるってことか。さすがは勇者様だと言っておくぜ」


 ミヅキの答えに満足したのか、ゴージィは髭に隠れた口で笑った。

 その口ぶりから、エルフたちが秘める事情にも通じているのかもしれない。


「確かに、俺ぁ当時についてよぉく知ってる。街の誰よりもずっとな。なんせ俺は、くだんの戦争で実際に戦ってきたんだからよ。無論、付いてたのは亜人側だ」


 三百年もの時を生きて、腕っぷしの強い亜人のゴージィ。


 当然のように百年前の戦いに関わっていた。

 亜人の陣営にて、人間との熾烈しれつな戦争に参戦していたのだという。


 ゴージィに過去の話を聞ければ、迷宮の異世界を攻略する早道はやみちとなるだろう。


 だが、事はそううまくは運ばない。


「それじゃあ、俺が聞きたいのは──」


「──悪いなミヅキ。すまねえが何も教えてやれねえんだ」


 勇んで質問を投げ掛けた矢先、間を置かずゴージィはそれをさえぎった。

 両目を閉じて、重いため息を長いこと吐いている。


 ひっそり静まる武具店に、よどんだ空気が漂うのだった。



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