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第226話 雛月の真意

「……こりゃ、参ったな……」


 遠目にわかるほどに人混みの騒々しさがわかる。

 人里に行き着いて安堵するのも束の間、三月の足は止まっていた。


 命からがら落ち延びた仮設住宅地はちょっとした大騒ぎになっていたからだ。

 大気を震わす龍の甲高い咆哮や、それと戦ったエルトゥリンの放った星の加護の光、自爆の際の大爆発はここからでも見聞きできてしまったのだろう。

 おまけに山が土砂崩れを起こし、音や振動が響いたのだから騒ぎは当然だった。


 誰かが呼んだのか、パトカーや消防車といった緊急車両のサイレンが聞こえる。

 三月は自分のぼろぼろの格好を見て弱り果てた。


 上下の衣服はあちこち破れ、嫌ほど転がり回されたせいで泥にまみれている。

 擦り傷や切り傷、打撲の痕は回復魔法でじわじわと治ってきているが、完治にはほど遠く見た目痛々しい。


 こんな姿、誰かに見られたら不審者扱いされても文句は言えない。

 警察になど見つかろうものなら、職務質問は避けられない。

 しかもそのうえ、耳打ちして雛月が注意してきた。


「いいかい、ぼくは三月にしか知覚できない。当然、他の人には見えないから話しかけたり、視線や意識を向けたりしちゃ駄目だぞ。変人扱いされたくないだろ」


「うむぅ、そりゃ困るな……。ともかくわかった」


 見るに堪えない身なりで独り言を喋っていれば、変人の度合いに拍車が掛かる。

 せっかく恐ろしい魔物たちから逃れられたのに、一難去ってまた一難であった。

 進退きわまり、二の足を踏んでいたその時である。


「三月、こっちだ」


 唐突に自分を呼ぶ声に驚いて振り向くと、道路脇の林に友人の姿があった。

 木々の陰に隠れて半身を出している、鍔木宗司つばきそうしである。

 周りを憚って、こっちへ来いと手招きしている。


 三月は頷き、黙って宗司に従った。

 いつの間にか雛月の姿は無い。

 意識を逸らすとすぐにいなくなってしまう。


 騒々しい人垣を横目にして、二人は隠れて林の中を進んだ。

 裏手から仮設住宅地へ移動すると、宗司の家へとこっそり辿り着いた。

 玄関の扉を音を立てずに開け、中へ滑り込んで静かに閉める。


「……巫女様ぁ、お許しくだされぇ。どうか龍の怒りをお鎮めをぉ……」


 家に入るなり、奥の部屋の恭蔵きょうぞう氏が呻いているのが気になった。

 汚れた身体で家に上がる訳にいかず、三月は玄関の土間で待っていると。


「風呂湧かしてあるから先に入れよ。あとこれ着ろ。そんなぼろぼろじゃ目立ってしょうがない」


 戻ってきた宗司が三月に渡したのは替えの服だった。

 さらに、気を利かして風呂の準備をしていてくれたようだ。


「宗司、ありがとう。助かるよ……」


 おずおずと着替えを受け取り、遠慮がちに家に上がる三月に宗司は言った。

 明かりの下で、改めてその壮絶な出で立ちを見て驚いている。


「……三月、いったい何があったっていうんだよ? とんでもないことに巻き込まれてるんじゃないのか……? 警察や病院は要るか……?」


「いや、いいよ。すまん、宗司」


 訳ありなのは宗司にもすぐ伝わったようだ。

 公的機関に知られたくない事情でもあるのだろうと察した様子である。

 口を閉ざす三月を見て、宗司は困り顔で長い息を吐いた。


「──そっか。今日はもう泊まっていけ。そんななりで、今からは帰れないだろ」


「だけど、宗司……」


「言えない事情なら聞かないから心配するなよ。昔馴染みのよしみだ、同じ趣味を共有してた友達じゃないか」


「……」


 ふと、宗司の後ろに雛月が立っていて、笑顔でうんうん頷いている。

 ここは友人の言葉に甘えるのが得策なようだ。


「本当にすまん。恩に着る、助かるよ、宗司」


 力無くもようやく笑った三月の顔を見て、宗司も眉尻を下げた笑顔を見せた。

 持つべきものは友である。

 しかしてその友人は三月のプライベートに興味津々だ。


「宿代代わりに最近の夕緋さんとの話でも聞かせてくれよ。憧れの巫女様とどんな風に暮らしてるのか、三月の浮いた話を酒のさかなにちょっとした同窓会と洒落込もうじゃないか」


「……はは、結構疲れてるんだから、ほどほどにしてくれよ……」


 これ以上ないほどの苦笑いを浮かべ、三月は私生活を売る覚悟をした。


 こんなに死に物狂いの運動をしたのは初めてだ。

 身体が安息を求めている。

 宗司の家に泊めてもらえるのは本当にありがたかった。


 風呂から上がると、宗司の振る舞ってくれた料理を頂戴しながら思い出話に花が咲いた。

 その料理の腕前はかなりのもので、祖父と暮らす生活を思わせる。

 三月もそうだが、災害を経て生き残った者たちは今もこうして逞しく生きている。


「ふふふふっ」


 ささやかな晩酌の席で、空いたテーブル席にちゃっかりと雛月が腰掛け、頬杖を付いたにこにこ顔で宗司と語らう三月を見ている。

 すぐ隣の席で、これだけ至近距離に居るのに宗司には見えていない様子だ。

 久しく夕緋以外と過ごした楽しい夜は、あっという間に過ぎていく。


「ぼくもお布団に入れておくれよ」


 食事後、宗司は恭蔵氏の眠る奥の部屋に引っ込み、三月はリビングダイニングの部屋に布団を敷いてもらって床に就いた。

 電気を消して寝転び、ふと横に首を傾けると枕元に雛月が膝を抱えて座っていて今にも布団の中に入り込んできそうな雰囲気だ。


「ちぇっ」


 隣の部屋では宗司たちが寝ているというのに、安全を確保したらすぐに手の平を返す雛月には困ったものだった。

 騒ぐ訳にはいかず、目で威嚇いかくすると残念そうな顔をしていた。

 そうして三月は眠りにつき、激動の一日は終わりを迎えたのであった。



◇◆◇



 翌朝、冷えた空気が漂い、すずめがさえずる早い時間。

 三月は早々に帰途へつくことにした。


 昨日の騒ぎもあり、目立つ余所者はあまり長居をしないほうがいい。

 そう判断して、人気の無いうちにそそくさと退散しようと決めたのだ。


「それじゃ、宗司、俺帰るよ。……服まで貸してくれて助かったよ」


 クリーニングして返すから、と三月は見送りに来てくれた宗司に振り返った。


 自前の服はあちこち破れてぼろぼろで、泥を洗濯で落としてももう着られそうになかった。

 そのため、気を利かせた宗司が自分の服を貸してくれていた。

 宗司宅を出てしばらく歩いた先、仮設住宅地から離れた天之市あめのし方面行きの連絡路脇にて二人は別れを告げ合う。


「宗司、ここまででいいよ。世話になった、どうもありがとう」


「昨日は楽しかったよ。また気が向いたらいつでも訪ねてきてくれ。帰ったら夕緋さんによろしくな」


 笑顔の宗司の言葉だったが、三月の歯切れは悪い。

 困った顔で上目遣いの様子に、宗司は察した風でため息交じりに言った。


「あ、ああ……。宗司、夕緋のことなんだけどな……」


「……ふぅ、何かそんな気はしてたけど、夕緋さんに黙って帰ってきてたんだな」


 宗司は夕緋の事情を知っている。

 神巫女町かみみこちょうへ帰ろうとする三月にいい顔はしないだろうこともわかっている。


 だから多分、三月は夕緋に行き先を秘密にして帰郷してきたと予想していた。

 それは昨晩の、夕緋のことを話していた感じからもうかがえた。


「だから、その、夕緋にはこのことは……」


「わかったよ。三月が帰ってきたのは夕緋さんに言わないようにしておくよ」


 手を合わせて低身低頭の三月を見て宗司は吹き出して言った。

 もしかしたら、秘密がばれると困る様子から、三月はいつも夕緋に尻に敷かれて顔が上がらない、といった姿でも想像されてしまったのかもしれない。


 そう思われるのは心外なような、図星でもあるような複雑な気持ちだった。

 遠く離れてもまだ見送ってくれている宗司に三月は手を振った。


「鍔木宗司。三月はいい友達を持ったものだね、うんうん」


 そうして背を向けて歩き出す隣に、降って湧いたみたいに雛月が居た。

 少しでも意識を向ければ、誰もいない空間に即座に現れる。

 山間の道路脇、人目が無いのを確認してから三月は口を開いた。


「……ああ、宗司と友達なお陰で色々な趣味を持てたし、競い合う相手だったから剣の腕も上達できたしな。動けない恭蔵さんのために故郷に残って世話をしてさ。出来た奴だよ宗司は。……逃げ出した俺とはえらい違いだ」


 自嘲する三月に雛月は何も言わない。

 そっか、と答えただけだった。


 朝の冷たい空気の中、二人は両側を木々に挟まれた道路の端を並んで歩く。

 帰りのバスに乗るため、最寄りの停留所まで徒歩で移動する。


「一時はどうなることか思ったけど、どうにか生き延びられたね」


「そうだなぁ……。みんなが助けてくれたから何とかなったけど、俺一人だったら間違いなくやられちまってただろうな……」


 にこにことした顔をこちらに向けながら言う雛月に、三月は昨夜の脱出劇を思い出して身震いをしている。


 この雛月をはじめ、異世界から語り掛けてきたアイアノアとエルトゥリン、敗北の眠りから一時的に目覚めた日和。

 心強い味方の助けがあったからこそ、今こうして三月は生き残れている。


 アイアノアとエルトゥリンは無事だろうか。

 意識だけの精神体だったから、本体の彼女らには何事もないと信じたい。


 日和は苦しまずに眠っているだろうか。

 せめて復活までの長い眠りの間、悪夢を見ずに安らかに過ごしていて欲しい。


「ともあれ、アイアノアとエルトゥリンからとうとう受け取ったね。三月の物語の最重要課題の数々、その全容が理解できた訳だ」


 今まで小出しにされていた情報とは大幅に違い、アイアノアから伝えられた使命の詳細は膨大を極めた。

 雛月は新たに得られた十二分な知識にご満悦そうだ。


 地平の加護が覚えてくれているからいいものを、これも三月だけで記憶しておくのは到底無理な情報量だった。

 燃える使命感はともかくとして、三月はこれからを思いやってげんなりだ。


「やること多すぎて頭パンクしそうだよ。俺は世界を跨いで三人居ることになってるけど心は一つなんだ。結局は俺一人でやらなきゃいけないと思うと気が重い」


「何を言ってるんだい、ぼくも一緒だろう? せっかくこうして三月の中にぼくをつくり出したんだ。地平の加護として以外でも、全力で三月を支援していくよ」


「その雛月だって俺の心の一部だろう。俺が存在を認識できるってだけで、本来は居ないも同然じゃないか。俺一人に掛かる負担が重すぎやしないか?」


「うー、それはそうだけどぉ……」


 息巻く雛月だったが、結局は全部三月の中で消化しなければいけない。

 雛月の存在はありがたいものの、あくまで内なるサポートに留まってしまう。


 今の三月は脆弱ぜいじゃくな単なる人間である。

 尚のこと、心身に掛かる負担を重く感じてしまうのだろう。


「勇者やシキの俺はともかく、現実世界の俺はただの人間なんだぞ。過労と気苦労で今にも倒れちまいそうだよ……。いつでもこうやって雛月を感じてるってのは、結構精神的に応えるもんなんだ。何か頭が重くていかん……」


「うっ!? やっぱりぼくが三月の脳に負担を掛けてしまっているのかい……? ごめんよ、もうこうなってしまっては三月の意識から消えられないんだ……」


 体調悪そうに気を重たくする三月に、雛月は表情曇らせてしゅんとなる。

 地平の加護というある種機械的な側面がある反面、宿主の三月を傷つけて勝手な行動を起こしてしまったのを相当気にしているようだ。


 星の加護の洞察が一向にはかどらないのを気に病んだり、加護としての矜持きょうじと三月のためを思う気持ちの間で揺れていたり──。

 当初は無機質だと思っていた雛月のキャラクターは何とも面映おもはゆい状態になってきたものである。


 だから三月にもいたずら心が芽生え、こうしてからかってみたりもする。


「ははっ、冗談だよ。いつでも雛月と話ができるのは心強いよ。多少の負担なんて気にすんな。これからも宜しく頼む」


「もうっ、三月ったら何だよもう! これでもちょっとは自分の過ちを気にしてるんだからね! ぼくは三月の一部なんだから、こんなの自分の悪口を言ってるのと一緒だぞ!」


「悪い悪い、もう意地悪言わないから機嫌直せって」


「ふんだ!」


 三月の当てこすりに気付き、冗談を真に受けてしまった自分を恥ずかしがり、雛月は顔は真っ赤にしてぷんすかと怒りを露わにした。

 悪びれる三月に両手を組んでそっぽを向いていたが、ちらりと視線を戻し。


「……やれやれ、これは随分な弱みをつくってしまったものだね。まぁ自業自得か。三月を助けるため仕方がなかったと開き直ることにするよ。うん、ぼくのほうこそよろしくだ」


 眉尻を下げ、いつもは澄ました顔の雛月も諦めた風に機嫌を直すのであった。


 と、先ほどの雛月が言った言葉を思い出し、三月はいよいよ問い掛ける。

 おそらくその質問をされるのを心待ちにしていたはずだ。


「それはそうと、そろそろ聞いてもいいか?」


「うんっ、何について聞きたいのかなっ?」


 だから、目を輝かせて三月の顔を食い気味に覗き込んでくる。

 期待通りのことを尋ねられ、さらに機嫌も上々だ。

 わかりやすく前のめりになる雛月に、負けじと三月は言った。


「これまで雛月が小出しに情報を出してくれてたのと反対で、アイアノアが教えてくれた今後やるべきことは、大盤振る舞いなうえにやたらと具体的だったよな? 情報統制の段階解除って言ってたし、雛月が話せる内容も増えたのか?」


「ふふっ、いいところに気付いてくれたね! これでぼくも話しやすくなるよ!」


 雛月はひときわ大きな声をあげると、胸のつかえが取れたかのように晴々とした顔をしていた。


 秘密をもったいぶるのが好きに見えて、言いたくて言いたくて仕方のないお喋りな性分なのかもしれない。

 これも口が堅いほうな三月の性格の裏返しだろうか。


「ぼくから三月への情報開示に制限があるのは何故なのか。無論、それには理由がある。もう言ってしまうけれど、──ずばり目的は三月の行動を縛るためなんだ」


「俺の行動を、縛る……?」


 満を持した秘密の公開にオウム返しする三月に、雛月は構わず続けた。

 雛月に課された、間違えることの許されない重大な任務の一端である。


「10年の時を経て、三月が神巫女町に訪れたのは重大なキーポイントだ。アイアノアたちは三月があの場所に来てくれないと通信をすることが叶わなかった。ぼくの役目は三月を自らの意思で神巫女町へ向かわせることだった。そして、世界の壁を越えて三月とアイアノアたちは邂逅かいこうを果たした」


「俺がアイアノアに会うのは予定通りだったってのか……?」


 驚く三月に雛月は頷いて返した。

 そして、任務の完遂を見て満足げに口角を上げ、にっと笑うのである。


「これで三月の進むべき未来はほぼ確定したのさ。だからこそ、今まで大ざっぱだった使命の詳細が三月に公開されたんだよ」


 三月がトラウマを克服して神巫女町へ向かう。

 約束の時に災害の中心地、クレーター湖でアイアノアと再会する。

 多くの使命の委細が明かされ、三月が目指す未来が決定される。


「三月は神巫女町が滅ぶのを防ぎたい、家族を守りたい、そして朝陽を救いたい。もうその決意は揺るがないだろう? すべてを知った今なら尚更にね」


「俺のやることががちがちに固まったから、もう曖昧に言う必要がなくなったって訳なのか。持って回ったやり方だけど、ふぅん、なるほどな……」


 雛月から視線を外し、三月は何かを思いふけって唸り出す。

 三月なりに納得できたのか、思い当たる節があったようである。


 理解の早いその様子に、雛月はこれからももっと知識を満たし、三月をよりよく導いていく欲求行動を続けられるとウキウキしている。


「そうだよ、でも基本的なぼくの行動指針は変わらない。まだまだ三月の知らない事実は多いんだ。三月自身が解明しなくちゃぼくは追随ついずいしていけない。だからさ、引き続き張り切って洞察をしていこうじゃあないか」


 拳を握って両肘を曲げた格好で湧き立つ雛月をよそに、三月は思案顔のままだ。


「……何も知らない俺の何気ない言動が未来の結果に影響を及ぼす。それがどんな些細ささいなことだろうと何が起こるかわからない。こういうの聞いたことあるな」


 三月自身、現象に名前を付けて安心を得たい典型的なタイプの性格である。

 雛月が三月の言動を制約し、望む方向に身を振るよう舵取りをしていた。


 正しく物語を導く、とは本当に言い得て妙であったのだ。

 その現象の名も、にんまりとした雛月の口から告げられた。



「──そう、バタフライエフェクトだよ」



 ああ、そうそうそれそれ、と三月も表情を明るくさせた。


 バタフライ効果とも言われており、その名の通りに蝶々が羽ばたく程度の変化があった場合と無かった場合で、その後の結果に著しい変化が現れる可能性がある、という現象を表す言葉である。


 無知無自覚で闇雲にする行動と、確信を持って目的を成そうとする行動は違う。

 無論、それがもたらす結果は後者の行動のほうがより確実性が増す。


「俺が自分の意思で未来を変えたいと願うこと。そのために行き過ぎた余分な情報を与えず、俺の身の振り方を意図的に誘導していた。予め用意したシナリオ通り、希望の結末に辿り着けるようにバタフライエフェクトが起こるのを警戒していた。……そういう訳なんだな」


「うん、その通りだよ」


 言いたいことが伝わったようで、雛月は嬉しそうに先を続けた。


「三月の願いは創造主様の願いでもある。三月の行動を操り、運命を縛ってでも、強い意志をもって希望の未来へ進ませたいと願っている。三月にとっては願ったり叶ったりだろう?」


「まぁな。これでタイムリープをする結果の未来は確定した。後は進むだけだ」


 三月は自然と雛月の話を受け容れる。

 いざ蓋を開けてみると、意外にすとんと腑に落ちる真実であった。


──何でだろう? 気のせいか考え方が俺に似てる気がするな。雛月の作った奴、創造主様とやらの存在と……。妙な感じはするけど、俺を希望の未来に導いてくれていて、雛月の言う通り渡りに船で好都合でしかないよな……。


 雛月は朝陽そっくりな無邪気な笑顔で隣を歩いている。

 三月はその顔を見ながらそんなことを考えていた。


 雛月を信じるのなら、その背後の創造主を信じなければならない。

 不思議だったのは、半ば無理強いされた悲願をすんなりと許容できたことだ。

 仕方なくも雛月に操られるのを気持ち悪がっていたのが嘘みたいであった。



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