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第187話 約束と願い2

「いいや、それならこうしよう。──二つほど私と取り交わしをして欲しい」


 それは天眼多々良からの提案である。

 みづきの望み通りにする代わりに、読めない思惑の取引を持ちかけられた。


「一つ目。冥子と試合をさせてあげるから試合の最中にもう一度、あの神を鎮める剣を使ってくれないか? 光の花弁舞い散る美しい剣技だったね。あれには、何か名前のようなものはあるのかい?」


 多々良の申し出の一つ目は意外な内容であった。

 要求の意図がわからない内に、みづきは警戒しながら問いに答える。


「……神鎮ノ花嵐かみしずめのはなあらしだ」


 それは、現実世界の佐倉さくらの家、代々と受け継いできた剣術の奥義。

 魔を払い、神を鎮める、退魔の剣である。


「神鎮ノ花嵐、か。良い名だね、また披露してもらえるのを楽しみにしているよ」


「……まだ言う通りにするとは言ってないぞ……」


 反抗的なみづきだが、泣きそうな顔の日和に袖を引っ張られて口をつぐんだ。

 多々良にも気にした様子は見えなかった。


「みづきはあの剣のことを知っているのかい? いやなに、昔に私が神剣を授けた下界の人間たちが似た剣を使っていてね。みづきにも何らかの関係があるのではと思った次第だよ」


 問いに織り交ぜ、唐突に投げ込まれるのは気になる事実である。

 どこかで聞いたような話だとみづきが顔をしかめていると、多々良は日和のほうへと目線をやった。


「日和殿も覚えているのではないかな? あの時のことを」


 出し抜けに問い掛けられ、呆けた顔をしていた日和。


「えっ……? ──あぁっ!?」


 と、すぐに何か思い当たったのか口許に手を当てて声をあげる。


 そうして、苦虫を噛み潰したような顔をして黙り込んでしまった。

 何か嫌なことでも思い出したようだ。


 様子のおかしい日和も気になるが、多々良の要求は続いていた。

 或いはそれが本命の条件だったのかもしれない。


「そして二つ目だ。すぐにとは言わないし、冥子との試合を乗り切れたらでいい。いつかで構わないから、この慈乃とも決着を付ける試合を受けてもらいたい」


 結局、詰まるところ多々良陣営と対立すれば、話はそこへと帰結きけつする。

 日和の討滅を真に多々良が果たそうというのなら、その最大の障害となっているみづきを倒すため、最強の手駒である慈乃をぶつけるのが最上の策である。


「多々良様っ……!」


 思い掛けず、自分の名前が挙がったことに慈乃は嬉しそうにしている。

 しかし、みづきにとっての最悪の状況を当て込むにしては、条件が随分と甘いのではないだろうか。


「いつかって……。期限を決めなくてもいいのかよ?」


 率直な疑問を返すみづきに多々良は大きく頷いた。

 そして、両手を自分の頭に持っていくと、片目を隠していた眼帯をするする外し始める。

 眼帯の布が境内の地面にはらりと落ちた。


 多々良の神威の顕現、千里を見通すと言われる神の眼が露わになった。

 それは金色に輝き、神々しいという表現以外が当てはまらないほど相応しい。


「私のこの眼は未来をある程度垣間見ることができる。しかし、明々白々(めいめいはくはく)に確実なことがわかるというでもない。また同じ言葉を返すけれど、神にとって不確かならシキや他の皆にとってもそれは同じだろう。──ただそれでも、暗闇に一条の光が射すように、確かにわかることもある」


 神の眼を晒し、一つ呼吸を置き、みづきを真っ直ぐ捉えて言った。


「慈乃との試合の刻限を決めないのは、みづきにどうするかを委ねたいからだよ。悠長に構えていられる猶予があるのなら私も気長に待つとしよう。何しろ、私たち神々の時間には限りが無い。それは、みづきも同じのはずだからね」


「……っ!」


 その驚きの言葉に、みづきの心臓はさらに跳ね上がった。

 未来を垣間見る、と自ら開示した神の眼の能力に嫌な予感はしていた。

 みづきの懸念はおそらく的中している。


 多々良はみづきの抱える事情を見抜いている。

 これではまんまと、神巫女町かみみこちょう破壊の時までのタイムリミットを逆手さかてに取られた形である。

 焦るみづきに、多々良は変わらず緩やかなる旋律で声を奏でた。


「みづき、よく考え、よく悩み、そして活路を見出せるよう決断しなさい。これは、私からみづきと日和殿への試練のようなものだ」


 やはり多々良の胸の内はわからない。

 みづきの背景を看破しつつも、提示された試練とやらの内容は心なしか優しくも感じる。


「……日和の順位を上げたいだけなら、別に慈乃さんと戦わなくたって他の神様と試合をすればいい。俺の使命ってやつを果たすために、どうしても慈乃さんとやり合わないといけなくなったらでいいんならだけど……。そんないい加減な取り決めでいいのかよ?」


「構わないよ。みづきはきっと裏切らない。私はそう信じている」


 再三のみづきの言葉による牽制けんせいにも、多々良に動じた様子はない。


「何故かな。このやり取りを抜きにしても、みづきとはいつの日か雌雄を決する時が来る気がする。私のこの眼が、みづきとの深い巡り合わせを感じさせるんだ」


 高位なる男神の眼が太陽の如き光を放つ。


「──この約束、結んでもらえるかな?」


 神聖の言葉がみづきとの盟約の締結を欲していた。


「みづき、駄目じゃっ!」


 多々良の声を聞き、弾かれたように日和が大声をあげる。

 振り返るみづきが見たのは日和の必死の形相であった。


「私やまみお殿ならともかく、多々良殿のような力のある高位な神を相手に易々と約束をしてはならんっ! 神との約束は例外なく絶対じゃ。取り交わしたやり取りを違えることは絶対に許されぬっ!」


 焦燥に極まった表情は真っ青で切迫感を募らせている。

 その理由は無論、神と約束をすることの重大さを知っているからだ。


「いくらみづきが私のシキだろうと、約束を違えれば多々良殿の鉄槌てっついが下るのじゃ。そうなれば、私にはもうみづきを守ってやることはできなくなる」


「ひ、日和……?」


「──神は、たたるものじゃからな……」


 わなわなと身体と瞳を震わせて怯える日和を見て、みづきも思い出していた。

 灼熱した炉の底に立たされ、天誅てんちゅうの鉄槌を下そうとする憤怒した多々良の姿を。


 あんな恐ろしげな神に祟られてはもう救いの道は無い。

 未来は閉じられる。

 但し、あの凄まじい怒りは、あくまで場を収めるための偽りの装いだった。


「そんな手荒で強引な事の運び方をするつもりはないよ。みづきと試合をしたいがための方便ほうべんだと思ってもらえれば幸いだね。そうまでするのなら、みづきの願いの一助となってもいい、そう申し出ているのだよ」


 慣れない怒りを見せつけてしまい、気恥ずかしく思っているのか多々良は困り顔で取り繕った。

 何を考えているかは不透明だが、その態度は本心のように見えた。


「それにきっと、みづきは約束を反故ほごにするような悪い子ではないはずだよ」


 目を細め、みづきの性質というか、人となりを見通し、にこりと笑った。


 この天眼多々良という神、確かに嘘や偽りは無いのかもしれない。

 そうして押し黙り、じっと多々良を値踏みしているみづきの後ろで、日和はひたすらに喚いていた。

 その袖を引っ張り続け、半狂乱に押し止めようとしている。


「み、みづきっ、早まるでないぞっ! 多々良殿の口車に乗っては駄目じゃっ! 神との約束を決して甘く見てはならんぞ! これはっ、巧妙な罠なのじゃっ!」


 慈乃がおとなしくなったかと思えば、今度は日和が騒ぎ出し、なかなか話が進みそうにない。


 多々良への詫び入れとまみおの仇討ちを申し込みに来たら、思い掛けない方向へ話が流れていったものである。

 困惑するみづきをよそに、多々良はため息を漏らした。


「やれやれ、日和殿。それを言うのなら、日和殿も牢太との試合をする折りに約束を破ったのではなかったかい? みづきを自分の身代わりに差し出してまで、ね。私はその罪に対して何ら罰など下していないよ」


 それはそもそも物語の始まりの出来事だ。

 日和は多々良との試合を直接自分で受けて立ち、玉砕ぎょくさいをした後の安らかな眠りを約束されていた。


 しかし、みづきという数奇な運命を秘めたシキの誕生によって、それは覆る。

 ただ、いま問題にされているのは約束の履行りこう上での話である。


「そっ、それは、みづきを生み出すのがぎりぎり間に合ったがゆえであって、約束を破ったことにはならんのじゃっ! というかっ、その話を蒸し返すのはもういい加減にやめるのじゃっ! どいつもこいつも済んだことをいつまで経ってもねちねちねちねちとっ! しつこく根に持つのもたいがいにせんかっ!」


 顔を真っ赤にして、地団駄じだんだを踏みながら怒り散らす日和の様子は普通ではない。

 勢いのまま、みづきの顔を険悪なままに見上げて叫ぶみたいに言った。


「みづきっ、この際じゃから言っておくのじゃ!」


 味方であるはずのみづきにさえ、未だに伏せていた神々の世界のしきたり。

 いざという時のため、切り札として忍ばせていた厳格且つ不動たる約束事ルール

 日和はそれを、とうとう自らの口から明かした。


「神との約束を破れば、神はそれぞれの裁量と力を持って罰を当てることができるのじゃ! 天神回戦の外での争いは御法度じゃが、罰は例外じゃ! それ故、無理難題を押し付け、それが成されなかったと追い詰めて、誅伐ちゅうばつをする! 天神回戦の長い歴史の裏で生み出された、私刑を行う抜け道なのじゃっ!」


 神が神であるがゆえに執行可能な権利。

 神と交わす絶対たる契約。

 それを破ることは何人たりとも許されない。


 そして、その代わりに。


「約束が守られるのなら、必ずや神は願いを聞き届けるっ! ゆえにこれはっ! そうした不履行厳禁な掟を裏返しにした、天上の神ならざる外道の所業なのじゃっ!」


 ぜえぜえと肩で荒い息をつき、神との約束の危険性を訴える日和。

 同じことを夕緋に厳しく言われたのを思い出す。


「……」


 何も言わず、みづきは多々良のほうへと振り返った。


 多々良はますます困った風に腕を組んでため息をついていた。

 慈乃も怒り爆発はしなかったが、日和の無礼にぶるぶると全身を震わせている。


 みづきは一度頷き、大きな声で答えた。


「わかった、多々良さん! その約束、結ばせてもらう!」


 その声に迷いは無く、静謐せいひつな境内に凜として響き渡った。

 多々良は微笑み、日和は悲壮な悲鳴をあげた。


「みづきぃっ!? ……ああもう、おぬしという奴は……」


 日和はこの世の終わりというほどにがくりと肩を落とす。

 それを尻目にみづきは叫び、後ろにいる冥子にびしっと人差し指を指した。


「俺が次に試合をするのは天眼多々良陣営で決まりだ! そんで、試合う相手は冥子、お前だっ!」


「むふんっ、望むところよ!」


 冥子は満足そうに鼻息を鳴らして、金砕棒かなさいぼうを玉砂利の地面に力強く突き立てる。

 闘争心に長いまつげの目はぎらつき、上機嫌に口角をつり上げた。

 再度、多々良に向き直り、みづきは念を押す。


「けど、慈乃さんといつ試合をするのかってのはちょっと考えさせて欲しい。いま試合したって、慈乃さんにはどうせ勝てやしないしな。負けるとわかってる勝負をするほど酔狂すいきょうじゃないんでね」


 にやりと薄く笑うふてぶてしいシキに、慈乃は怒り心頭し、多々良は微笑んだ。


「ぐうぅ、よくもぬけぬけと……!」


「よし、どうやら決まりのようだね」


 そのみづきの後ろ姿を、日和は恨みがましい目で見上げている。

 怒りとも悲しみとも取れない感情でふるふると震えていた。


「みづきぃ……。この大馬鹿者めが……。これでもう、多々良殿から逃れることは叶わぬのじゃぞ……? 自分が何をしたのか、わかっておるのじゃろうな……?」


「そんなこと言ったって、ここで多々良さんの言うことを聞いておかなきゃ、慈乃さんに首を飛ばされて終わりだぞ」


 多々良と盟約を結び、縛りを課せられたみづきだったが、他に選択肢があったとも思えない。

 まみおとの試合から始まった因果から、待ち受ける運命はなるべくしてこうなったとも言える。

 少なくともみづきはそう思った。


「元はと言えば俺のまいた種のせいだ。なぁに、逆境には慣れっこだよ。悲観ばっかりしてないで、勝ち上がれる可能性が少しでも高い道を選んでいこうぜ」


「しかしじゃなぁ、みづき……。神と約束をするということはぁ……」


「大丈夫だって! 日和がびびってるのは、俺が多々良さんとの約束を破った時の話だろ? 約束を守ってる内は心配してるようなことにはなりゃしないよ」


「うぐぐ、わかったのじゃ……! みづきとはもう一蓮托生いちれんたくしょうの運命共同体じゃ! 私はみづきを信じるぞ! 信じておるからなー! うわぁーんっ!」


 みづきの開き直りにも見える楽観視に何か文句の言いたげの日和。

 但し、選択肢が無い、選べないのは日和のほうこそ顕著けんちょである。


 みづきを頼るより他にどうすることもできはしない。

 だからもう、半ばやけくそに半泣き半笑いでじたばた暴れるしかないのだった。


「じゃあ、多々良さん、そろそろ俺たち帰るよ。冥子、試合よろしくなっ」


「ああ、気をつけてお帰り」


 約束の締結を以て、みづきと日和は多々良の神社を後にする。

 別れの挨拶を交わし、次の試合相手に手を振り、夕暮れの帰途へと着いた。


 多々良はそんな二人の様子を微笑ましく見ながら、その帰りを見送っていた。

 豪奢ごうしゃ鐘楼門しょうろうもんを二人がくぐり、大小ちぐはぐな後ろ姿が見えなくなる。

 すると、途端に慈乃が大声をあげて多々良に食ってかかった。


「畏れながら多々良様、いったいどういうおつもりなのですかっ?! あのようなシキの戯れ言の言いなりになられて、私は屈辱で我慢がなりませんっ!」


 控えるよう言われていた手前であったが、やはり抑えてはいられない。


「今からでも遅くはありません。私に試合をやらせてください! 冥子に代わり、次の試合にてあのシキ、みづきめの首をいとも簡単に跳ね飛ばしてやりましょう」


 また叱責されても構いはしない。

 主への無礼千万ぶれいせんばんなる働きが腹立たしい。

 主が気に掛ける自分以外のシキが許せない。


 だから、みづきの首はこの手で取りたい。

 息巻く慈乃を見て、呆れて鼻息を鳴らす冥子。


「フゥー。慈乃姫様、もう決まった事よ。見苦しい真似はおよしなさいな」


「冥子は黙っていなさい! 多々良様、どうかご再考をっ!」


 がなり立てる慈乃に、眉を八の字にした多々良はゆっくりと首を横に振った。

 約束をした以上、多々良もそれを違えるようなことはしない。


「そうだね、慈乃の力量なら今のみづきを討つのはおそらく造作もないだろうね。だけど、駄目だよ。慈乃、約束は必ず守らなければならない。そして、私のこの眼が見た未来を信じてはもらえないかい?」


「元より、多々良様のことは信頼しております。約束が大事であることも承知しております。……ですが、私が許せないのは、多々良様に無礼を働く日和様とみづきの存在です! 多々良様に対する傲岸不遜ごうがんふそんな態度が我慢ならないのですっ!」


 慈乃は俯き、下ろした両拳を力いっぱい握りしめ、悔しさに憤慨する。

 時には行き過ぎる忠義の塊な自らのシキの肩に、多々良は優しく片手を掛けた。


「私のための憤りには感謝しているよ。その怒りは慈乃が試合をするそのときまで取り置きしておいて欲しい。だから、今は私の言う通りにしておくれ。私のたっての願いだよ。どうか、この通りだ」


 長身の慈乃よりも一回り背の高い多々良は静かに頭を下げる。

 曇りなき瞳で、真っ直ぐと夜叉やしゃの顔をじっと見つめた。

 美しい顔立ちの、神懸かったキラキラな風情に慈乃は心底堪らなくなる。


「はぁぁ……。た、多々良様ぁ……」


 みづきの首を狙って血に飢えていた鬼女の顔はどこへやらで、今の慈乃は多々良に魅了され、愛に生きる乙女なうっとり顔だ。

 みづきや日和にはちょっと見せられない恥ずかしい顔である。


「多々良様にそこまでされては……。わかりました、言う通りに致します……」


 多々良は慈乃が素直に言い聞かせに応じてくれたと思っている。

 しかして、その実そうではないのだが、多々良は慈乃が神妙でよく出来たシキだと思っている。

 屈託のない笑みを残し、多々良は冥子に向き直った。


「冥子、小手調べみたいなことをさせて悪いけれど、日和殿との試合、やってもらえるかい? みづきとの手合わせ、よろしく頼む」


 締まりのない慈乃と違い、冥子はしゃきっと背筋を正して答えた。

 立派な胸板をどんと叩く様はいかにも勇ましい。


「お任せを、多々良様。浮かばれぬ牢太の魂のためにも全力を尽くしますれば」


「おい、死んでなどおらぬぞ!」


 すっかり蚊帳の外だった牢太の抗議が聞こえたが、冥子は素知らぬ顔だ。

 剛健ごうけんなれど、賑やかなシキたちに囲まれ、愉快そうに笑む多々良は言った。


「小手調べとはいっても本気の試合だ。太極天の申し子たるみづきをそのまま倒してしまっても構わない。もしそうなってしまうのならば、可哀相だけれどみづきはそこまでのシキであったということだ。私の眼の力もめしいたものだよ」


 天神回戦は遊戯の場ではない、とは多々良の言葉だった。

 試合で相対するのなら、待っているのは命を賭した真剣勝負だ。

 いくら優しげに試練だなどと名目を掲げても、神々の戦いの本質は変わらない。


 先ほどのでれでれしていた醜態しゅうたいは消え、慈乃は厳しい顔つきで言った。


「……冥子、次なる試合で必ずやみづきを滅ぼしなさい。仕損じるようであれば、わかっていますね?」


「ハァー、やれやれだわね……。そんなこと言われるまでもないわ。みづきに引導を渡して多々良様にお褒め頂くのはこの私よ。慈乃姫様の出番は無いわ」


 呆れて慈乃を見下ろす冥子は大きなため息を吐く。

 二人の鬼は、言葉通りの鬼の形相で火花を散らすのであった。

 睨み合う慈乃と冥子、それを慌てて仲裁しようとする牢太。


 そんなシキたちを後ろにして、多々良は金色の千里眼でいなくなったみづきたちを見送っていた。

 男神の心にあるのは願いであり、未来であった。


──日和殿、みづき、どうか私からの試練を乗り越えて欲しい。私の眼が垣間見たのは、同じ志のもとに道を共にする私たちの融和の様子だった。私の願いのため、みづきの使命が果たされるため、例え今はそうでなくとも、きっと手を取り合える日が来るだろう。──そう、あの時と同じように。


 希望の未来を現実のものとするに至り、やはり天神回戦は避けられない。

 勝利の栄光のために、融和の道を拓くためにも。


 神々は戦い続けなければならない。

 それは、不変の神話であったから。



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