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第163話 再会は一方通行

 みづきの願いはとうとう現実のものとなった。

 思い焦がれた少女との再会に気持ちを抑えることはもうできなかった。

 唐突に叫び声をあげたみづきに、日和は何事かとぎょっとした顔をしていた。


「み、みづきっ? どうしたのじゃ、そのように叫んで……。残念じゃが、こちらの声は届かぬし、そもそも向こう側から私たちの姿は見えておらんのじゃ」


 日和の言葉は多分みづきの予想通りだったのだろう。

 あらん限りの大声で叫んだのに、みづきの声に振り向くのは日和だけだ。


 目の前に居ても気付いてもらえないし、言葉も交わせない。

 目の前に居ても触れ合えず、本当の再会は叶わない。


 今はまだ──。

 ただ、確かに示された希望を逃さないよう、荒げた心を鎮める。


「はぁ、はぁ……。そっか、わ、悪い、取り乱した……」


 心中は全然落ち着いていなかったが、せめて体面だけでも取り繕おうとみづきは冷静さを持ち直すことに努めた。


 目の前の少女が幻覚ではないと吟味ぎんみしながら、みづきは改めて見直した。

 視覚を通して記憶が一気に10年以上を遡り、あの頃を鮮明に思い出す。

 恋焦がれた想いの対象が、手を伸ばせば届く距離に居た。


 肩まで伸ばした自然な黒い髪の毛。

 円らな両の瞳は愛くるしく、幼さを残す整った顔立ち。

 見た目からも伝わってくる朗らかそうな気心の見目美しい少女。


「この少女こそ、合歓木日和ノ神(ねむのきひよりのかみ)たる私の当代巫女、神水流朝陽かみづるあさひじゃ」


 気を取り直して日和は窓際の少女、神水流朝陽を得意げにお披露目ひろめしてくれた。

 自分のシキたるみづきと、自分の大切な巫女の朝陽の関係など露とも知らず。

 とはいえ、先ほどの不審なみづきの動揺ぶりに怪訝けげんそうな顔もする。


「みづき、おぬしは朝陽のことを知っておったのか? 今の叫びようは、見知らぬ相手を見たときの様子とは思えんのじゃ」


 それを言われるみづきは、下手を打って先走ったのを後悔しているというよりは自嘲するように笑っている。

 力無い語調でそれとなしな理由で答えた。


「いや、そんな訳はないだろう……。俺は生まれたすぐのシキで、何かを知ってるはずもない……。あの朝陽という女の子を日和が大切にしていたんなら、その日和から生まれた俺だって同じ気持ちを秘めてたってことじゃないか……」


 取って付けた言い訳ではあったが、みづき自身もまだ目の前に朝陽が居るのが信じられない。

 嬉しいはずなのに何とも言えない気持ちになる。


 もう朝陽は失われ、いなくなってしまった。

 その悲しい現実を実際に受け止め、長い時を過ごしてしまってからか、目の前の朝陽を見つめながらも何故か上の空な自分がいることに気がついていた。


 さっきの叫びは、衝撃の感動、ではなく、懐古かいこ感慨かんがい、だったのかもしれない。


「すまんけど、そういうことにしといてくれないか。俺にもよくはわからん……」


「ふぅむ、そうじゃな……。みづきが朝陽を知っておるはずがないか」


 荒波の如く感情を乱したみづきが、急に凪いだ海さながらに落ち着いてしまい、今の騒ぎは何だったのかと日和は首を傾げていた。

 女神である日和にだって、今のみづきの境遇は理解しがたく知る由も無い。


──だけど、これはいったいいつの話なんだ? これが夢や幻じゃないんだとしたら、この朝陽はどういう存在なんだろう? 本当に俺の知っている朝陽なのか?


 感情の抑揚よくようが収まり、みづきは冷静さを取り戻す。

 それを見計らって動き出す地平の加護と連動して、視界に広がる不可思議で膨大な情報を片っ端から集めていく。


 思考停止して驚き、手放しで喜び、感無量にふける時間は終わった。

 ここからは状況精査の段階である。


──違和感を感じるまでもない。これは10年以上の前、俺が学生だった頃の話だと思われる。俺が過ごしている現実の時間よりずっと前のことじゃないだろうか。その証拠に、朝陽が元気にしてるっていうのもそうだけど、学校や周りに広がる町の風景もあのときのままだ。


 あり得ない状況だが、あり得ると考えてみて状況を観察していく。

 よく考えるまでもなく、これが本当の現実の光景とは思えなかった。

 それは、みづき自身が一番わかっている。


──まだ「あれ」が起きていない頃の神巫女町なんだろう。そうでなければこんな平和で穏やかな学校の様子がある訳がない。


 思い出すのは、10年前に嫌というほど味わった惨禍さんかの記憶。

 お互い泥だらけで夕緋と抱き合って泣いた、忌まわしい悲劇の思い出。


 そして、迷宮の異世界にて雪男打倒後、その記憶をさらい上げて浮かび上がったパンドラの迷宮深奥に眠る神巫女町の悲惨な廃墟の姿。


 それらをかんがみると、今ここにある故郷が正味な現実のものとは思いにくい。

 それではこれが、いま現在ではない、──過去のことなのだとしたら。


「──まさか!」


 思索にふけり、一つの可能性を仮定してみづきは驚いた。

 それは、異世界巡りなんていう非常識を二つもこなしている身ながらも、さらに非常識で滅茶苦茶な仮説であった。


 と、席について友人と談笑していた朝陽の様子がおかしくなる。

 何かに気付いたみたいに慌てて立ち上がり、辺りをきょろきょろと見回したかと思うと、友人たちにぺこぺこ頭を下げながら教室を出て行った。


「おや、朝陽め、慌ててどこかへ行きおったぞ」


 手の平を水平に額に当てて、日和は朝陽の背中を見送っている。

 みづきは、その見慣れた場面に微苦笑して言った。


「……何か、忘れ物したのに気がついたんじゃないか」


「おぉ、そうか。ならば着いていってみようなのじゃ」


 日和がそう言うが早いか、意識がすうっと教室の窓の中へと吸い込まれる。

 牽引けんいんされて浮遊しながら、みづきは学校の中へと侵入していった。


 そこは学生たちの休み時間最中の教室だ。

 懐かしい思い出の教室はありきたりな造りをしていて、黒板に向かって正面右側廊下に二つの出入り口、左側は全面窓になっている。


 廊下を陽光の当たりにくい北側に置き、その逆の方向に教室の窓を配置したのは明るい光を取り込みやすくするためであり、当時は右利きが多かったという理由で生徒がノートを取るのに右手が影にならないようにと定められたことだそうだ。


 室内に等間隔で窮屈に並べられた机と椅子は、スチール製の四本足、木目の天板とその下に教科書等を保管できるシンプルなもので、みづきと日和はそれらの後ろ側の天井付近を通って教室を横切る。


「ほんとに俺たちの姿は誰にも見えてないんだな……」


 呟くみづきの言葉通り、艶やかな着物姿の女神の日和と修験者しゅげんじゃ風の格好のみづきは不審者そのものである。

 そんな二人が空中に浮かんで入り込んできたというのに、教室中の生徒たちは誰一人として騒がず、気付くこともなかった。


 と、みづきは何気なくも、教卓付近の前側の席に視線をやる。

 そこには、とある男子生徒が背中を向けて座っていて、次の授業の準備が終わったのか両手を枕にして机に突っ伏し、長い欠伸あくびをしていた。


「何も知らねえで、のん気なもんだ。未来のお前は散々な目に遭うんだぞ」


 みづきは渋い顔に疲れた笑みを浮かべ、静かに呟いた。


 そこにいたのは他でもない過去の子供の頃の自分、佐倉三月であった。

 おそらくこの学年のこの時期なら、当時の自分は朝陽と同じクラスだったはず。


 自分の姿を目の当たりにしたことと、地平の加護の記憶補助のお陰で、そろそろと過去の状況を思い出してきていた。


──2階の教室で朝陽の席が窓際の後ろ、俺の席が教卓の前だ。他の生徒の顔ぶれからこれは高校1年生の時だな。2年と3年は3階の教室だったからな。……んで、当時の俺の身長は周りの奴らより低くて160センチ程度だった。だからなのか? シキの俺がこの頃の俺と同じくらいの体格なのは……。


 目に映る情報から洞察を進め、現状を推察してみる。

 この状況が過去のものだと仮定すれば、みづきが想像する願いの道筋は補完され、突拍子も無い絵空事ながらも辻褄つじつまの合う理路りろへと昇華される。


 とはいえ、まだまだ情報が足りず、せっかくの秘密が開示されるチャンスであるのだからもう少し成り行きを見守ろうと決めた。


 何も知らず何も気付かず、振り向きもしないかつての自分の後ろ姿を見ながら、みづきは後ろ側の引き戸の出入り口を抜けて廊下へと通り抜けていった。


 教室内と同じくリノリウムの床の廊下に出て、朝陽の姿を探すとすぐ左隣の教室へと向かう途中だった。


 そうして朝陽は隣のクラスの出入り口に立つと、何事か騒々しく声をあげ始める。

 しばらくすると、教室の中から一人の少女が現れた。


 薄々予感していた通りだが、その少女もまた、みづきのよく知る人物であった。

 朝陽の背中越しに様子を眺めつつ、日和は言った。


「おぉ、丁度良い。みづき、紹介しておこうなのじゃ。朝陽が会いに来たこの少女も我らが姉妹神の巫女の一人。睡蓮花夜宵ノ神すいれんかやよいのかみの当代巫女、神水流夕緋かみづるゆうひじゃ」


 破壊神夜宵の巫女、神水流夕緋。

 そこに立っていたのは朝陽の双子の妹。

 もう一人の神水流の巫女、夕緋だった。


 姉神たる日和の巫女は双子の姉の朝陽、妹神たる夜宵の巫女は双子の妹の夕緋。

 創造と破壊、姉と妹、日の出と日の入り、一対のいんようである。


「朝陽と夕緋、日和と夜宵の巫女、か……」


 もうみづきはそれほど驚きはしなかった。


 全ての物事には理由や因果があり、異世界を渡って非現実の物語を往くのにも、それは荒唐無稽こうとうむけいなりに同様なのであろう。


 創造と破壊の姉妹神と結びつく、現実の世界の神水流の巫女たる朝陽と夕緋。

 女神と巫女の事情と異世界を渡る自分には、核心に迫る秘された関連性がある。

 ともすれば、これはその真相に近付くための大きな一歩となるに違いない。


「みづきの言った通り、本当に忘れ物をしておったようじゃな。ふふっ、朝陽め、そそっかしいのう。そこもまた可愛らしくてたまらんのじゃ」


 日和は、朝陽と夕緋の様子を見て愉快そうに笑っている。


 次の授業の教科書を忘れた朝陽は、すぐ隣のクラスの夕緋に借りに来ていた。

 ため息交じりのしょうがないといった顔の夕緋から教科書を受け取ると、朝陽は手を合わせて大げさにありがたがって何度も頭を下げている。


 それどころか、人目も気にせず天真爛漫てんしんらんまんな調子で抱き付く有様だ。

 困った風の夕緋は周りの目を気にして顔を赤らめてしまっていた。


「あ、そうか。この頃の夕緋って……」


 と、その仲睦まじい姉妹の懐かしい姿を見つつ、みづきは気付いた。


 違和感というには、あまりにも歴然とした夕緋の外見の差異がある。

 夕緋は昔から髪を長く伸ばしていて、大人になった現在でもその髪型は変わらず真っ直ぐさらさら髪のロングストレート。


 しかし、このときだけは違っていたのである。


──そういえば、高校生1年の時だけ夕緋は髪の毛を切っていたんだ。朝陽と同じで肩くらいまでの長さにばっさりと。ただでさえよく似てる双子の姉妹だったのにこの頃は見分けるのに本当に苦労したもんだ。朝陽と夕緋をあんまり知らん人には一見して区別が付かなかったんじゃないかな。


 みづきの記憶によると、このときだけ夕緋は髪を切っていた。

 幼少の頃も、大人になった後も、長く伸ばした髪型なのに、高校生1年の時だけは姉の朝陽と同じほどの長さに髪を切ってボブカットにしていた。


 理由はよくわからない。

 ある日突然、綺麗だった長い髪をひと思いに切ってしまったというのである。


 それからはまた元の長く伸ばした髪型へと戻していって、後にも先にも短い髪の夕緋を見られたのはこのとき限りであった。


──夕緋のこの髪型、一度見たっきりだから本当に懐かしいな。いつもの長い髪も綺麗だけど、短めの髪でもやっぱりサマになるなぁ。でも、双子で同じ髪型なのに朝陽も夕緋も全然違って見えるもんだ。見間違う奴が大勢居たのが本当に不思議なくらいだよ。……とは言え。


 珍しい姿の昔の夕緋を懐かしむのはさておき。

 夕緋の姿はこの光景の背景にある時期を判明させる裏付けとなる。


 地平の加護に背中を押されなくても、もっと情報が欲しいと前のめりになっていた矢先のことだった。


「──おっと、いかんのじゃ」


 ふと、隣の宙に漂っている日和が低い声で言った。

 みづきも同じくそれに気付いてぎょっとしてしまう。


 朝陽に抱き付かれた夕緋がこちらを見ている。


 訝しそうに目を細め、朝陽の背中越しに、みづきと日和に視線を向けている。

 あの、みづきを恐れさせたブラックホールのような深遠の瞳に見られていた。


 朝陽は無論のこと、他の誰にも見えないはずなのに──。

 夕緋は間違いなく不可視の存在である女神とその眷属けんぞくの気配をはっきり感じ取っていたのだ。


「流石は夕緋、大した勘の鋭さじゃ。あまりひとところに留まっておっては、我らの存在を察知されかねぬな。みづき、場所を変えようなのじゃ」


 日和は口許に手をやると、楽しそうにくっくっくっ、と笑った。


 夕緋の、巫女としての人並み外れた力を頼もしく思い、誇らしくも思っている。

 みづきの返事を待たず、意識を引っ張って天井があるのを構わず上昇していく。


 迫る天井にぶつかりそうになって悲鳴をあげるみづきの狼狽ろうばいは束の間、そのままに身体がすり抜けて、瞬時に校舎の屋上上空へと浮き上がった。

 眼下を見下ろして、日和はふぅんと鼻息を鳴らす。


「……やれやれ、夕緋には敵わんのじゃ。潜在する神通力の程度が他とは比べものにならん。間違いなく歴代の巫女の中でも最高の才覚じゃなぁ」


「逃げ出してきたみたいだけど、やっぱり見つかると何かまずいのか?」


 みづきは校舎の屋上に視線を落とし、もう見えなくなった朝陽と夕緋を名残惜しく思いつつ、日和に問い掛ける。


「神がみだりに下界に関わることは禁じられておるのじゃ。誰が決めたのやら神の間に古くからある不文律ふぶんりつじゃよ。見守るだけに済ますのが花ということじゃな」


「へぇ、そういうもんなのか。それにしても、女神の日和から見ても夕緋、あっ、いや、あの巫女の力はそんなに凄いもんなのか?」


 神々の間の社会通念に好奇心を刺激されて、ついでに高位なる女神による夕緋の評判はいかほどのものかと気にもなった。


 幼馴染みの夕緋は事あるごとに、みづきを不思議な出来事で驚かせてきた。

 それが尋常のことではなかったのは日和にしてみても同じだったようだ。

 日和は両腕を組んでふんぞり返り、夕緋をべた褒めするのであった。


「凄いも何も、夕緋の力は人間の域をとうの昔に凌駕しておる。未だ天井知らずに力を増し続ける成長の真っただ中ときておるのじゃからな。夕緋はまっこと優秀で特別な巫女じゃよ。私のではなく、夜宵の巫女であることを残念がらないと言えば嘘になるほどになぁ。朝陽も可愛いが、夕緋も同じくらい可愛い巫女なのじゃ」


 本物の女神に太鼓判たいこばんを押してもらえて夕緋をよく知るみづきも何だか鼻が高いが、肝心の朝陽のほうはさほどでもないのだろうか。


 直接日和に聞いてみようと思ったが、毎日のお勤めが苦手で不真面目だった朝陽の散々な評価を聞かされてはいたたまれない気持ちになるのでよしておいた。


 強めの風が吹き、まだ青々とした校庭の木が枝葉をざぁっと揺らす。

 実体がないのか、みづきと日和の髪や衣服は風に揺れない。


「ふぅ……」


 黙っていた日和は一息をつくと語り出した。


 遠い目をして、学校上の空から神巫女町を見渡す。

 みづきが見上げる傍ら、現実世界の空に浮遊する非現実の象徴、この地の守り神様は自らの窮地きゅうちを憂い、下界の人々と巫女の運命を儚んでいた。


「女神は神水流の巫女と心胆しんたんの深いところで密接に繋がっておるのじゃ。それ故、私が敗北の眠りに着いたり、朝陽にもしものことがあれば大地を守る加護は此の地へと届かなくなる。荒ぶる地脈を鎮め、大いなる大地の災いを防ぐため、天に祈りを捧げて女神の守りを伝える。それこそが私と神水流の巫女の役目なのじゃ」


 女神様に一生懸命お祈りを捧げてこの町を守りたい。

 それは子供の頃、夕緋がみづきによく言っていたことだった。


 神と交信をし、神の加護の依り代となり、神に代わって大地を守る。

 そうした神秘的な役目を負った、神水流の巫女。

 みづきは夕緋を思って、ぽつりと呟いた。


「──神薙かんなぎ、か……」


「ほぅ、よく知っておったな。みづきは生まれたてのシキなのに物知りじゃ」


 日和にとって朝陽は大事な巫女だが、みづきのことも出来の良いシキとして大層気に入っているようで、そんな博識ぶりに機嫌良く笑う。


 天神回戦を勝ち抜き、自分が生き残るためにはみづきに頼るより他は無い。

 だからこそ、こうして秘密を打ち明けている。


「夜宵と夕緋の関係も、私と朝陽に同じじゃ。私は朝陽を大事に思っておる。夜宵も夕緋を思っておるじゃろう。女神と巫女が平穏無事に在り続けることが、この地に泰平たいへいをもたらし、遙か未来へ悠久ゆうきゅうの時を連綿れんめんと紡いでいける道筋なのじゃ」


 ふと日和は、神巫女町を見下ろす雄大な御神那おみな山の方向を見やった。

 山には二人の女神を祀る神社、女神社おみながみしゃがある。

 そして、すっと目を細めて神水流の巫女の伝説についても言及した。


「朝陽と夕緋の母親であるれいも巫女じゃったが、結婚をして女児じょじを産み、その子らへと神水流の巫女としての神通力と称号は継承されたのじゃ。神水流の巫女は当代の双子、ないしは二人以上のおなごにしか務まらぬ。生まれるべくして生まれた、あの子たちの代わりは他の者では利かぬのじゃよ」


 朝陽と、主に夕緋から聞かされた神水流の巫女に伝わる不思議なお伽噺とぎばなし

 正当に巫女を継承し、結婚の後に生まれる子供は、必ず双子か二人以上の女児であるという。


 それは当の本人たる、実在した女神様の口から直接語られ、みづきのなかで確かな真実へと変わった。

 みづきに視線を返し、日和はもう一息をついた。


「どうじゃ、みづき。これが私と朝陽の切っても切れぬ関係なのじゃ。私と夜宵の姉妹神、朝陽と夕緋の双子巫女、双方が一対にして此の地を守護しておる。巫女と共に未来永劫、世の平和を切に願いたいものじゃ。と、このようなところじゃが、おぬしが知りたがっておった事柄はもう充分知ることができたかの?」


「──ああ、充分わかったよ。ありがとな、日和!」


 満足そうなみづきの礼に、日和はそうか、と目を細めて笑った。


 天神回戦を勝利し、みづきは女神日和の信頼を勝ち取った。

 その甲斐あり、悲願である朝陽との再会を果たすに至った。

 ただ、それは一方的なもので、気持ちを通い合わせるにはまだ遠い。


 雛月の言う「ご褒美」を正しく受け取るためにも、もっと手掛かりが必要だ。

 女神日和との語らいは今しばらく続く。



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