TVのニュースに「俺だったらこうしてる」と文句を言いまくる友人
ある日の夕方、俺は自宅で友人と一緒にいた。
雑談のネタも尽き、どこかに飯でも食いに行くにはまだ時間は早い。
ということで、二人でぼんやりテレビのニュースを眺めていた。
そういえば、こうやってまじまじとニュースを見るなんて久しぶりだな、なんて思いながら。
スーツを着た男のキャスターがニュースを読み上げる。
『行方不明になっていた5歳の陽太君が、無事見つかり……』
親が目を離した隙にいなくなっていた男児が、無事見つかったというニュースだった。
誘拐や事故に巻き込まれた可能性もあったが、自宅の近所にある倉庫に迷い込み、そこで眠ってしまったというのが真相だったとのこと。
俺としては「へえ、よかったな」という感想を抱くぐらいしかできない。
すると友人は――
「親がバカだからこうなるんだよ」
「え?」
突然の強い語気に、俺は少しビックリした。
「このぐらいの子供は目を離しちゃダメなんだよ。動物みたいなもんなんだから、24時間ずっと見てなきゃ。親がだらしないから、こういうことが起きちゃうんだよ。俺だったら子供から絶対目を離さないよ。何があってもな。それが愛情ってもんだ」
24時間子供につきっきりって大変じゃないか、と思うけど、実際こういうことが起こってるんだし、あまり反論することもできない。
「まあ、そうだな」
角を立てても仕方ない。俺は同意しておいた。
朗報の次は、物騒ともいえるニュースが読み上げられる。
『続いては、先日男性が自宅近くで刃物で殺害された事件で……』
殺人事件のニュースだ。
30代の会社員が会社帰りに刺されて死んでしまったという事件で、もう数日経っているが、犯人はまだ捕まっていないらしい。
自分がいきなり襲われたらどうしよう、だなんてつい想像してしまう。
「早く捕まって欲しいよな」
俺はこう友人に話題を振る。
「こりゃ無理だな。迷宮入りだよ」
友人は吐き捨てた。
「殺人事件ってのは初動捜査が大事なんだよ。それをミスったら、ほぼほぼ迷宮入りになる」
初動捜査ってのはミステリー物で聞いたことがあるけど、事件の最初にやる捜査ってことだよな。
「俺だったら、遺留品集めはもちろん、近所の人への聞き込み、それと監視カメラのチェックなんかもさっさとやる。あと被害者の人間関係の洗い出しも大事だな。殺人なんてだいたい怨恨で起こるものだから」
「はぁ……」
「だけど警察はそういうのを怠ったんだろう。迷宮入りだよ。ジ・エンドだ」
妙に発音のいい“ジ・エンド”だった。決め台詞のつもりだったのかも。
俺は「まあ、警察には頑張って欲しいけど」と言うしかなかった。
次のニュースが入ってきた。
『遭難していた大学生グループが無事見つかり……』
山登りをしていた大学生たちが遭難してしまったが、どうやら助かったらしい。
あちこち動き回って疲れ果てているところを、救助隊が発見したそうだ。
さっきの子供のニュースと同様、めでたい側のニュースといえる。
だが、友人は――
「バカが山を登るとこうなるんだよ」
なかなか手厳しい言葉を吐き出した。
「遭難した時は動かないってのが鉄則なんだよ。それなのに動いて、体力を使って……俺だったら大人しく助けを待つよ。こんな奴らを助けるために税金が使われたと思うと、全く嘆かわしいよ」
この大学生グループの情報はほとんど出ていないのでなんとも言えないが、山を舐めていたという面は少なからずあったのかもしれない。
二度、三度こういうことをやったら俺も彼らをバカだと思うけど、一度目なら……とは思わないでもない。一度経験してみないとその怖さ、難しさが分からないってことはやっぱりあると思うし。
とはいえこんなことを言っても、「お前は甘い」とか言われそうなのでわざわざ口に出さないが。
『スポーツコーナーです。サッカー日本代表の試合はどうなったのでしょうか……?』
解説者も交えて、サッカーのニュースが読み上げられる。特に大会とかではなく、今の実力を測るような試合だったようだ。
試合自体は引き分けだが、相手は格下の国だったので、「勝てる試合だった」という論調になっている。
試合の映像が流れ、友人は舌打ちする。
「攻撃がなっちゃいないんだよ。こことか、俺だったらシュート打ってるもん」
選手がパスを受けた場面にケチをつける。
「ここも、俺だったらドリブルで二、三人かわしてシュート打ってる」
他にも俺だったらヘディング決めてるとか、ボレーシュートしてるとか、日本代表のプレイに厳しめの批評をしていた。
もしも友人の言う通りの試合展開になっていたら、日本はもう何点か取れていたかもしれないな。
なっていたら、だが。
番組の終わり際、今までとはうってかわって可愛い動物の動画が紹介される。
ネット上でバズっている、犬に芸をさせて褒める飼い主の動画が流れる。
犬の可愛らしさに俺はつい笑ってしまうが、ここでも友人はやはり――
「あー、この犬の飼い方はダメだ。典型的なダメ飼い主だわ」
「え、そうなの?」
「犬ってのは自分の中で“順位”をつけるんだよ。褒めてばかりじゃダメ。厳しくしないと、そのうちこの犬も言うこと聞かなくなるだろうな」
俺は犬には詳しくないので、相槌を打つしかない。
『それでは今日のニュースはここまでです。また明日お会いしましょう』
キャスターが頭を下げ、番組が終わった。
さて、飯でも食いに行くかという流れになる。
しかし、俺は番組に終始文句を言っていた友人に、どうしてもやってみたいことがあった。
「なぁ……」
「ん?」
「お前って子供いたっけ?」
「いるわけないだろ」
「実は職業が刑事や警官だったりする?」
「いいや?」
「山に登ったことは?」
「ないけど」
「サッカーを本格的にやったことは?」
「ないな。学校の授業ぐらいだ」
「動物を飼ったことは?」
「ないけど」
「……」
「え? なんでそんなこと聞いてくるの?」
俺としては意地悪のつもりでこれらの質問をした。
ニュースにあれこれ言ってたけど、言うだけの経歴は持っているのかな、と。
だが、友人は全ての質問に「ない」と答えたし、俺の意図にも全く気づいていないようだ。
だから、俺はこう返すしかなかった。
「いや……別に」
完
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