第19話 それからの日常、話さなければならないこと
ケネルを倒し、ブスタン帝国による戦争が終戦して1カ月が経過した。
今日に至るまでにいくつかの仕事をこなした俺は今、また自室に籠って仕事の後始末に明け暮れている。
その一つとして、自分用のモニターで垂れ流しした映像のチェックをやっているわけだが……
『皆、聞いてくれッ。戦争は終わった! 独裁者ケネルは俺達傭兵国家が仕留めた。
だからもう争いはオシマイだあああああああああああああああああああああ!!』
これがまた効いた。
ぐわああああああ、恥ずかしい恥ずかしい。
モニターの向こう側には生首片手に喚きちらす20歳男性。紛れもなく俺の姿である。
俺は、システリアの亡霊という呼び名で一部の人間や魔族から英雄視されている事を利用して、仕事で関わった国々に戦争終結の宣言を大量にばら撒いた。
その結果、着々とシンパが現れ、都市部であれば俺の噂を聞くまでになる。精神の安定と引き換えに。
収穫は他にもあった。傭兵国家の知名度向上だ。
大戦を鎮圧する勢力が国を作り、各地で戦争を止めている。その事実は民衆にとって思った以上に好印象だったらしく、俺達に依頼してくる客が爆発的に増えたんだ。
お陰で仕事が湯水のように涌いてくる、宣伝も捗る。
俺の恥が晒されて、世間の注目の的になる。
善のスパイラルと負の連鎖がひっきりなしである。
「よく出来ましたね。宣伝としては上々かと」
言葉とは裏腹に、俺のあられもない映像をヨウ君は大層興味なさげに眺めていた。
「我ながらとても素晴らしい成果だと思います。羞恥心で胸がいっぱいになる事を除けば」
「羞恥が増えるだけで済むなら安い物ですよ。残りの仕事も張り切っていきましょう」
納得いかん、ホンットウに納得いかん。
普通トップの俺は裏でどっしり構えて、君達が頑張って働くってのがあるべき姿じゃないんでしょうか! って言っても皆さん色々と本当によく頑張ってくれてるから、そんな事口が裂けても言えないんだけどね。
「だって貴方、じっとしてるより体動かす方が好きでしょ」
見事なカウンターパンチ。お気遣いありがとう、全部身から出たサビです!
でもやっぱり少しくらい俺を労わって欲しいといたいけなハートはそう言ってくる訳よ。
だって俺この国の長なんだよっ、君言うて部下なんだよ!?
もう少し労わってくれない? ほんの少しでいいから慮ってくれない!?
死ぬ気で頑張ってるんだよ、こっちも!!? 少しくらい砂糖水啜ったっていいじゃない!!!?
なーんて声に出して主張する勇気、小心物の俺には皆無。
腹いせに迫真の顔芸で現在の心境を表現してみた結果、
「顔潰れてますよ。どうしたんですか」
こんな感じで平常運転。うん、同僚とは必要以上に関わらないのって労働者のスキルとして重要だよね。
でも俺めげないよ。もっと頑張って仲良くなったら、いつか暖かさを俺にも分けてくれるかもしれないからねっ。
「あの、ジロジロ見るの辞めてもらっていいですか」
「はい」
っていう具合に茶番に勤しみながら時間を潰している。理由としては待ち人、来ずって奴。
今日話す内容はちょっと色んな人に関わる内容だからね、お偉いさん方の参加が必要なのよ。けど、約束の時間から20分程経つけど音沙汰がない。何かやらかしたんだろうか。
そう思いながら、適当に時間を潰していると、
「遅くなった。済まぬ!」
自室の扉がバァーン、と乱暴に開かれた。現れたのは、まおうサマと側近さんお二人。
銀髪イケメンのお兄さんに、筋肉バキバキの坊主頭さん。いつかのシステリア戦を共に乗り越えた時とは違って肌色や口元は魔族仕様になっている。
「久しぶりだな、キール」
「右に同じ」
「お久しぶりです、ソウさん。ジュラさん。あと、まおうサマ」
「ワレはついでか!?」
遅刻した罰だ、少しだけやり返しちゃうもんね。
若干しょげた主とその側近御二方に軽くお辞儀をして、客間へと案内する。
「時にキールよ、活動は順調か?」
「はい、ぼちぼちやらせてもらってます」
「なら良いが。キサマは一人で抱え込む癖があるからな。何かあれば気軽に話しかけるんだぞ」
「はは、ありがとうございます」
正直こうして活動出来ているのは百パーセントまおうサマのお陰。
この人の尽力が無かったら今頃俺はダークサイドに堕ちてただろうし、下手したら最悪の選択をしていた可能性だってある。
「何度でも言うがアレはキサマのせいではない。、一人ではどうにもならん事だってある。
もし、キサマが不甲斐ない奴なら相手などせん。ワレはそこまで優しくないからな」
「……そう言ってもらえると助かります」
そうですよね。って言えたならどれだけ楽か。
俺がもっとしっかりしていればこんな事にはなってない。
アンタは優しすぎるんだ、もっと俺を責めればいいのに。
そんな見せたら不快にしかならない自傷は全て吞み込み、仕事モードに切り替え、客間に座るご来賓の皆さんを見回す。
『お久しぶりです。救世主様。魔王様』
「お久しぶりです、里長さん。調子はどうですか?」
『はい、問題ありません。いつも通りです』
「ふむ。本当ならここで共に会話できれば良かったが。事情が事情だからな、時間を取って申し訳ないが宜しく頼む」
『魔王様。こちらこそ、私のような者を招いて頂きありがとうございます』
「誘ったのはキールだ、礼はキールに言えい。ワレは何もしとらんからな」
机へ用意されたモニターに映されているのは、砂塵の民を率いる里長さん。
普段は残骸調査に明け暮れているが、事情が事情なので時間をもらって参加してもらっている。
この人には本当にお世話になった。
教えてくれたスーパーテクノロジーが無ければ、こうして出席なしで顔合わせとか普通に無理。距離をぶっ飛ばして会話できるとか可能性すら考えてなかった。
俺達の活動はこの人のお陰で相当効率が良くなっているんだと実感する。本当に頭が上がらない。
「お兄さん。忘れてないだろうな、儂もおるぞい!」
ピースをしてニカリと笑うちっちゃいじいさん。ソファーにどかりと腰掛け、これ見よがしに全力でくつろいでやがる。
アンタの家じゃないんですがね、ここは。
じいさんはアドリアナの一件以来、俺の御目付をすると言って聞かない。
必要ないと言ったけど、色々難癖付けられて結局このポジションに居座ってる。
こんな得体の知れない奴連れてきて大丈夫か、という質問が来たならこう答える。
間違いなく大丈夫じゃない、と。
「こちらのお方は?」
まおうサマからの質問に、俺はじいさんと出会った時系列やらなにやらを簡潔に話した。
「ほう、キサマが誰かと関わりを持つとは。となると、今回の要件に何かしら関わりがあるということだな?」
「相変わらず汲み取りが凄いですね、流石です」
ここにいる皆は俺が夢幻技術の使い手である事を知っている。
しかし、この力がどういう代物であるかはじいさんと俺以外誰も知らない。だからこそ、今回は夢幻技術についてもいくつか共有できればと思っている。
という感じで、色々理由あってこの面子になった訳だ。
よし、欠席はいないな。
「これで、全員ですね」
「だな。ヨウ君ありがとう。では、本題へ移る前に、皆さんには予め伝えなければならない事があります」
手始めに、戦争の鎮圧活動を始めて今日に至るまで、俺がこれまでに見て来た内容を一通り説明した。
ブスタン帝国で行われていた不自然な人海戦術。街をうろつく機械の集団。改造されて片や機械、片や薬漬けの王族。
隠された陰謀、それが示す未来。
それを回避する為に、やるべき事に専念する為に、俺は早速出席者全員に爆弾を一つ投下した。
「すみません。俺、傭兵国家の王にはなれません」
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