第17話 ぶっ倒してやるからそこに直れ
「殺れ、ギーブル」
背中に走る悪寒。
そして頭上には俺目掛け落ちてくるもう一人の姿。真っ青な衣裳を着たソイツは、組んだ両手を高く振り上げ、落下の勢いに身を任せ俺へと振り下ろした。
その一撃が、手応え無しに空を切った。
着地直後に俺へ振りかぶりパンチを放つが、これもまたすり抜ける。
困惑する敵に隙が出来た所で腹に一発ぶち込み、お仲間の所に強制送還。二人共巻き込まれて吹っ飛んだ。
「コレも効かないとは、夢幻技術、やはり化け物か」
「凄い力してんな。あの時俺と戦ってれば、さっきより善戦出来たんじゃないか」
そう言うとギーブルは不敵な笑みを浮かべ、
「アレハ試練ダト言ッタ筈ダ」
ギーブルと呼ばれた男の正体は、試練と称して俺に機械の大軍を仕掛けて来た奴だった。
相変わらず妙な殺気放ってんな。隣のアレよりよっぽどおっかないって。
「……顔見知りか、ギーブル」
「腐レ縁ダ、兄サン」
「この期に及んで友達ごっことはお気楽な奴だ。そんなもの何の意味もないというのに」
お気楽なのはテメーだ。多分コイツだけ何も解ってないんだろうな。
力に呑まれたってそういう事か。色々繋がって来た。部外者かと思ってたが……
「なるほど、お前がケネルか」
そう言うと、はらりと男から帽子が脱げ落ちた。そうして現れたのは、いつか資料で見た欲にまみれたオッサンの顔。
なるほどね、国のトップが裏でズブズブだったってわけか。
「力に呑まれたね。文字通りだな、全身機械漬けとかもう人間やめてるも同然じゃねえか」
「人という物に縛られる意味が分からんな。俺はむしろこの力と出会えて人生が変わったようだったよ」
ケネルは高らかに笑った。生首一つで嬉々とした表情を浮かべてる。それに反してギーブルは浮かない顔をしている。あんな風になった兄ちゃんをまだ憂いているのか。
アンタは本当に悪に染まってないんだな、自分がそんな目にあっても。
勝手な片思いだけどよ、アンタの事尊敬する。
「心配すんな、この国救うって約束しただろうが。任せろ」
「この国を救う? 滅ぼしに来たのはお前だろうに」
「うっせえ、生首のテメーに言ってんじゃねえ。で、アンタは俺と戦うのか?」
「……ヤルシカナイダロウ」
そうかよ。なら――
「アンタをその呪縛から救ってやる。すぐ終わるから」
「オレハ強イ、ダガオ前ハモット強イ」
「おう、だから俺の力を――」
「違ウ。
信ジルノハ力デハナイ。オ前ヲ信ジル、ダカラ」
後は頼んだ。
そう言われたようなむず痒さと共に、
密室に僅か、そよ風が吹く。その一瞬でギーブルが真下にまで迫っていた。
「ホント、アンタラって視界から消えるの好きだよなッ!」
そう言って迎撃態勢に入ろうとした時点でアッパーが俺の顎にヒット。吹っ飛ばされた俺は反物質形状記憶球壁にひっついて、上から飛び道具で応戦。
それをヒラヒラと避けて、ひっつく俺目掛けてジャンプ。その後、俺の腕を掴んで地面に投げ飛ばした。
「どうなってんだよそのスピード。生身の人間で出せる速さじゃないだろッ」
「イロイロサレタカラナ。モウ、オレヲヒトダト思ウナ」
「冗談言えよ。アンタは人だろうが!」
「フフ、ギーブルを人だとはお目出たい奴だ。こんな薬漬けにされた男、最早化け物以外の何物でもあるまい」
そういった兄と呼ばれた男の顔は、大層人をナメくさった顔をしてやがった。
正直に言って、力とかスピードはもう人間辞めてるレベルだ。薬がどうたらとか言ってたけど、本人が否定しないからそうなんだろうよ。
でも、この人は見ず知らずの俺に真摯に向き合ってくれるし、家族を憂う心を持ってる。
人間が素晴らしいなんて微塵も思えないけどよ、それを誇りにしてる人を見下す馬鹿がいるんだったらよ、
許すわけにはいかねえだろうが。
「ナメんじゃねえええええええええええ!」
ギーブルの攻撃を避け、ケネルの顔面をおもっくそ蹴っ飛ばした。
「この人が人じゃないんだったら、人って何なんだよ。誰かを思う心があれば十分なんだよ。
テメーみたいに魂全部力に呑まれた雑魚とは格がちげーんだよ!」
つっても、そうやって俺が庇ってる相手は敵な訳で、今もこうして俺を殺そうとしてくるのは変わらない。今でも猛攻は続いている。
どっちかでも殺すのは超アウト、情報元絶つなんて後手を選ばされてる俺達が取れる選択じゃねえ。
思い出せ。
ほんの少しの情報も残さずかき集めて、最善の手を導き出せ。
「ハハハ、戯言をッ。殺れギーブル、その人を超えた悪魔の力でこんなガキ殺してしまえええええええええ!」
ベッコベコになっても喧しさだけは超一流のケネル。もう背後を取って近づけばいつでも俺を殴れるギーブル。
どうする、何か。何か手は……
「そしてぇッ。人間を辞めたのは私もだと言っただろうがぁあああああああああああああああ!」
生首の状態からいつの間にか体が復活したケネル。右手を刃物に変え、一直線に俺目掛けて突進してきた。
正直このまま喰らってもいい、いつでも回復はできる。
つってもこのままジリ貧続けて、生きたまま回収。気付いたら朝日上ってましたとかシャレにならんし、夜の方が人が家にいる確率も高い。広報的にはこの時間帯で終わらせるのがどう考えても必須。
要するにさっさとこのクソみたいな殴り合いを終わらせなきゃいけない。それを果たすにはどうすりゃいい。
何か、何か些細な物でもいい。何でもいいから閃け、俺の脳みそッ。
「終わりダァアアアアアアアアアアアアアアアア!」
喧しい喧噪と共に挟み撃ちに遭った俺は、
「くたばれ、このクソ独裁者がァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
このままケネルをぶっ飛ばすことを選択。
顔面に入った右ストレートはそのまま垂直に軌道を変えて、地面へとブチ抜いた。
地面がめり込むほどの一撃は機械の体を粉砕し、白目を向いて全く動かない。完全に伸びている。
そうして、ギーブルの攻撃はやってこない。
読みは当たったみたいだな。
「見事ダ。イツオレ達ノ秘密ニ気ヅイタ」
恐らくだけど俺の背後に回ったあの一瞬、予想が正しければあれは出遅れだったんだと思う。もし全力だったら俺の懐に入り切ってた筈だ。
「ケネルを蹴ったらアンタの動きが鈍くなった気がして、もう一発殴ってみた。何かしらの遠隔操作で操ってるとすれば、意識を飛ばせばと思ってな」
「ナルホド、最初カラオレ達ノ動キガ見エテイタ様ダッタガ?」
「……アンタこそ見事だよ。よく気づいたな」
「死角トイウ物ガマルデ無カッタ。トナレバ、ソノ目以外ニ見エナイ瞳ガアル筈。恐ラクオレ達ガ見エナイヨウ何処カニ隠シテイタ、ソウダロウ?」
百点過ぎて恐れ入るわ。素のアンタが敵じゃなくて本当に良かった。
機械ってのは情報共有が出来る奴等だってのは知ってた。
という事はあの貴族達の集団爆発も操られているのもケネルが発端で、何らかの信号がキーになって動いているとなればある程度予測は付く。
それがギーブルにも仕掛けられてるんであれば、あの動きが操られたが故の物だったなら、ひょっとしたら……なんて淡い期待だった。
それがあの僅かな動きのズレで確率の高い予測に変わって、頭をぶん殴ってようやく正解になったというわけだ。
けど、まさかこうもコンビで仕掛けられる位密に機能してるとはよ。恐れ入るぜ、旧時代の文明さんよ。
取り合えず、国の黒幕はぶっ飛ばした。
これで後は最後の仕事をやるだけだ。なるべく高所から荷物の中身ぶん投げろってヨウ君に言われたけど……
荷物の中身はカプセルドローンと呼ばれる球体状の機械。原理はわからんけど、球体が変形して鳥みたく飛ばす事が出来る代物。
早速、窓を割って荷物からカプセルドローンを取り出して外にブン投げる。
放り出されたカプセルドローンは羽化するように円盤みたく変形し、空高く高度を上げていく。そのままある程度の高さまで到達すると、ドローンの周辺に歪みが生まれ、大きなスクリーンが映し出された。
よし、俺が映ってる。音声も大丈夫。
これで後は、首だけになったケネルをスクリーンに晒して、
「皆、聞いてくれッ。戦争は終わった! 独裁者ケネルは俺達傭兵国家が仕留めた。
だからもう争いはオシマイだあああああああああああああああああああああ!!」
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