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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第四章 全てを知り、全てを能う
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第15話 二人で眺める打ち上げ花火

 歩くのも飽きる程に続く廊下。

 そこを抜けた先に待ち構えていたのは、壁全体に埋め込まれた巨大な二枚扉だった。


 かすかな冷気と共に、入ってしまえば敵の掌に落ちてしまうような強烈な気色悪さを放っている。相変わらず人の姿は見えない。


「覚悟、決めるか」


 固く閉ざされた扉にそっと触れた。直後、始めから待っていたように扉が勝手に開く。

 そこに現れたのは――


「た、たすけてくれえええ!!」


 涙を流しながら喚き散らしこちらへ走り寄る肥えた男達。

 縋りついたかと思えば、鼻水を垂れ流して命乞いと来た。


「お、おい離れろ。アンタらは?」


「上級貴族である! 帝から呼び出されたかと思えば、ずっと閉じ込められてそれで――」


「落ち着け、話が見えん。誰かに閉じ込められたってことか?」


 そう尋ねると貴族達は首を縦に振り、


「金ならいくらでも渡そうっ。宝石も沢山あるっ。もう耐えられないんだこんな生活。密閉されてからはずっと同じ物を食べさせられて……」


 冷めた目を向けても愚痴は一向に止まない。その割にはコイツ等どれもお高そうな服ばかり来てやがる。衣食住に不自由している様子は微塵も無かった。

 馬鹿げてるぜ、マジで。


「一つ聞かせろ」


「な、なんだ!? 何でも言ってくれ。私達を守ってくれるなら何でも話すから……」


「今からある質問をする、先に答えた奴だけ守ってやる。それ以外は知らん」


「そんな殺生な事言わないでくれ。お前は私達を助ける為に此処へ来たんだろう!?」


「知らん。俺はこの国を救いに来ただけだ。お前らがどうなろうと構わん」


「そ、そんな……」

 

 藁にも縋る奴等ってのは、どうして姿形を変えるだけでこうもムカつくんだろうな。

 お前らがこうしている間に飢えで苦しんでいる人達が沢山いるんだぜ。お前らの方が余裕あるんだろうがよ、何切羽詰まった気になってやがんだ。


 最高に不機嫌になった。

 適当に情報聞き出したら、少し懲らしめてやる。


「周辺都市から金を巻き上げている奴はどいつだ」


 貴族達がざわつく。

 どいつもこいつも気まずそうに後ろに隠れようとして、誰かの足がもつれると、ドミノ倒しみたいに尻もちを着いて全員ぶっ倒れた。


「今ので答えは分かった。もういいわ、ケネルの居場所を教えろ」


「わ、私達は先に答えたではないか。先に身の安全を保障しろっ!」


 当然の要求と言わんばかりに(はや)し立てる。

 成る程、お前らは今自分達が口答えできる権利を持ってると思ってる訳だ。


 ふむ、ここは一つわからせてやる必要があるな。


「気が変わった。帰るわ」


「な!?」


 踵を返して置いていこうとすると、待ってくれと言わんばかりに次々と俺へとなだれ込んで来た。それを跳ねのけると憤慨して、


「貴様ァッ、私達を何と心得るっ。ブスタン帝国上級貴族――」


「うるせえ。さっき言っただろう、答えた奴だけ守ってやるって。それなのにお前らは誰も答えなかった。俺が察したんだろうが」


「黙れ、黙れェッ! 口の聞き方に目を瞑ってやったがあまつさえ人を謀るとは。極刑、極刑にしてやるぅ!!」


 いや、どうやってだよ。

 そっからキレて殴り掛かってくるかと思えば遠巻きからの文句だけで何もしてこない。戦う勇気はないらしい、恥ずかしくないのかお前らは。


 ちょっぴりムカついたので、牽制に生成した氷柱を何本か足元に放ってやる。

 すると、ヒィと情けない声を上げて尻もちついてぶっ倒れた。その後驚くような速さで全員土下座。

 喜劇でも見てんだろうか、あまりの手のひら返しと不甲斐なさ。情けないにも程がある。


「お願いします。どうかお救い下さいィ! 私達もうこの生活に耐えられないんですゥ!」


「早く屋敷に帰って家族と会いたいんです。お願いします、お願いします!」


 地べたに頭を擦りつけて謝罪を叫ぶ貴族達。

 まあこれ位でいいだろ。それにコイツらは後々必要になってくるからな。過剰にヘイトを持たれてもしょうがない、鞘を納めるにも丁度いい。


 ここらで貴族達の謝罪を受け入れ話を纏めようと、機械(マシン)が城内でうろつく理由を尋ねようとした。

 

 その時だった。

 貴族の一人が突然立ち上がる。


「何のつもりだ?」


「ち、違うんだ。体が勝手に……」


 表情は焦りそのものだというのに足取りは不自然に軽い。

 手拍子をしては楽しそうにスキップを繰り返し扉の奥へと戻っていく。


 呆気に取られる俺達をよそに、そいつは広間の中心で踊りを舞い始めた。


「た、助けてくれ。体が言う事を聞かないんだ」


「ふざけてんのか?」


「違う! そうじゃないんだ、頼む。私にも何がなんだか――あ」


 間抜けな声を上げると、そいつは嘘みたいに直立停止。虚ろな目で俺を見つめる。

 近づいてどうしたのか尋ねようとすると、

 

 ボン!

 

「え?」

 

 貴族が爆発した。

 上半身が弾け飛び、噴水のように血を放って、残された下半身がぼとりとくずれ落ちる。


 騒然とする貴族達、中心に広がる血だまり。

 誰かが仕掛けたのかと思考を巡らすも、この場にいる俺達を除いて熱反応は一切ない。


「うわ、うわあああああああ!」


 後ろで一部始終を見ていた貴族達も、爆発した奴のように踊り始めた。


「一体、何が起きてるってんだよ……」


「何って、そりゃあ宴に決まってるじゃないか」


 は?


 突然だった。

 俺の真横に現れた俺と同じ位の背丈をした男。

 黒衣を着て、帽子で顔を隠すソイツは、広間の中心で円を描くように踊る貴族達を指さして笑っている。


 どういうことだ。

 こいつ、熱反応に引っかからない。一体――


「楽しいなあ。ああやって馬鹿共が人前で恥をさらすのは。しかし、ずっと恥を晒し続けるのは可哀想だと思わないか」


「……何が言いたい?」


「宴が最も楽しい瞬間は何時だと思う?」


「だから何が言いたい。質問に質問で返すな」


「そうカッカするなよ。俺はこう思うんだ。宴が最も楽しいと思えるのは、


 宴が終わる時だ」


 直後、踊る貴族達が次々と爆発。血飛沫を上げて体の断片達がそこら中に吹き飛ばされた。


「でも、こうも思うんだよ。人が美しいと思う瞬間も、何かが終わる瞬間なんじゃないかって」


 狂ってる。

 男は満面の笑みで彼らの最期を楽しんでいる。本当にそれが芸術だと信じて疑わないように。隠れた目元が霞む位に、その歪んだ口元からは狂気が滲み出てた。


「何者だ、お前」


 そう問い質すと男は首を捻り、うんうんと考える素振りを見せてこう答えた。



「強いて言うなら、君の元仲間の同僚かな。どうぞよろしく」

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