第13話 闇夜の向こう、眩さは魂の燃焼
帝都を警備する人型機械達。
キィーンと耳に響く金属音を上げながら周辺を監視し、一定の時間が経つと近接する機械と持ち場を交代して建物の影に引っ込んでいく。そして入れ替わった個体が、何事もなかったように先程の機械と同様の動作で監視を再開。
その傍ら、上空では鳥型の機械が円を描くように飛び交っていた。俺みたいな侵入者を見つける為だろう、終始血走ったようにセンサーを赤く光らせて。
隙なんてカケラもない監視体制の中、男が忙しなく走る様が建物の隙間から垣間見えた。ぼろぼろの衣服を着たソイツは何かから逃げ回っている様子だ。
いや、あんな動き回ったら直ぐバレるだろ。落ち着け――そう思った矢先、鳥型の機械と鉢合わせてしまった。
直後、ブゥーンと甲高い音で警報を鳴らす。
必死の形相で逃げ惑う男を執拗に追い掛け回し始めた。
差が縮まらない。むしろ、みるみる内に他の人型や鳥型の機械達が集まって取り囲んでいき、
「アアアアアアアアアアアアア!?」
機械達から白の光線が男に放たれると、男は悲鳴と共に黒焦げにされ、跡形も無く消え去った。
死んだ事が確認出来たのか、機械達は持ち場に戻り、何事もなかったように監視を再開。
……落ち着け、ここで表に出たら今までやった事が全部無駄になる。だから、怒りにだけは支配されるな。
冷静になって考える。
あの様子を見る限り、探知能力がある筈だ。それに他の機械と連動するような動きだった。情報共有も出来るんだろう。
下手に動いたら直ぐにでも吊し上げられそうだ。
黒い粘液は深呼吸を一つこぼす。
性質付与を効かせたこの姿なら誰にもバレない。
全てを喰らう者を滲ませたなら、あらゆる物を遮断する。
荷物も体の中に入れた。もうやり残したことは無い。
後はもう天に身を任せるだけだ。
雑念を静め、監視塔の塀をよじ登る。
眼前には、
聳え立つ巨大な城。
藍色に染まるドーム型の天井を持ち、城の四隅を守るように据えられた細長の柱達。
周辺の屋敷よりも何倍も大きなこの城こそ、ケネルが待ち構えるブスタン城……敵の本丸だ。
闇夜の中でも一際光輝く姿と、街灯以外に灯り一つ無い帝都。それはまるで、ブスタン帝国の今を現しているようだった。
冷えた夜風が身に染みる、なんて。
全てを喰らう者で遮断されてるんだからそんな事はあり得ない。
けれど、そう思いたい自分がいた。
夜空よりも塗り潰されたこの身は、監視塔を飛び降り、空を舞う。
落下の最中、体から糸を伸ばし建物に接着。壁との隙間を縫って伝い、風を切る。
空を徘徊する機械達は見向きもせず、すれ違い、そして視界から掃けていく。
今の俺はあの頃とは違う。
もう、違うんだ。
大事な物を捨ててしまったような寂しさと共に、俺は夜の世界に溶け込んだ。
包囲網を抜けて城壁へと着地した。
風に晒されながら室内の様子を観察。外周同様、中に人の様子はなく、城内でも多くの機械達が行進を繰り返している。自分以外に人間はいらない、そう体言していると思う程に。
変な共感を覚えた自分に心の中で舌打ちをして、窓に風穴を開けて内部へと侵入。
呑気に周回する機械達を横目に、内壁に張り付きながらケネルが居るであろう王室を目指した。
結局というべきか、道中人影らしきものは見当たらなかった。
その代わりと言っていいのかわからんが、機械だけは異様な数が待機している。先を進む度に必ず一体は見かけたし、中には空き室にすら駐在していた。
いや、明らかにおかしいだろ。
こんなの1年前に経験したアレそっくりだ。
まるで俺をずっと待ってるみたいな、いかにも仕組んで来たような違和感。
またヴァルヘイムみたいな奴が居たとしたら。
夢幻技術を持つ誰かの操り人形にされて、王という仮初を演じさせられていたなら。
……チンタラしている暇はないよな。この世界のクソ加減は嫌という程理解したつもりだ。最悪の想定を簡単に上塗りするような事を平気でやってくるんだ、何が起きてもおかしくない。
警戒を解かず、ゆっくりと壁を伝いながら派手目の美術品達が並べられた長い廊下を進んでいく。
景色が変わった。
照明は相変わらず眩しい癖して、五歩歩けば先が見えなくなる程暗さが蔓延している。
これは全てを喰らう者のせいじゃない。明らかに敵側からの招待。
応えた俺は振り向くという選択肢を消して奥を目指した。その先に待ち構えていたのは、
「待ッテタ。此処迄辿リ着ケル者ヲ」
ほらな。
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