第12話 愚か者の決意
他人事のように思ってた。可哀想にと思っていた。
でも、それが自分の身に降りかかった時、痛みとは何かを今更になって知った。
じいさんと店主さんのサポートもあって、短時間で体調が良くなり一通り動けるようになった俺は、俺以外に病室で治療を受けている人が居ないか探すことに。
そう、俺は続投を選んだ。
その甲斐あったと喜ぶべきではないが、病床で治療を受けている人が大勢居て、話を聞くには十分過ぎる程に環境が整っていた。ただし、包帯を巻いてない人が珍しい位で、中には体の何処かが欠損する程の大怪我を負って会話すら困難な人もいた。
内、傷が浅く会話出来そうな人を何人か見つけ、聞き取りの許可を貰えたのでその人達を尋ねることに成功。
話を聞くと、やはりフィアット公国との戦争で怪我を負ってここまで逃げて来たという。始めは話すのを渋っていたが治療費だと金をチラつかせるとホイホイと事の顛末を喋ってくれた。
「力の差なんて歴然だ。上の奴等は何であんな化け物達に喧嘩売っちまったんだ」
「どんな指示を受けたんです?」
「とにかく前進、数で押し切れ。作戦なんてもんはない。人海戦術でどうにかしようとしたんだろうさ、けど無理だった」
真っ青な顔で震える様から見るに、相当戦力差があったんだろう。フィアット公国は単騎の強さが尋常じゃない。噂によれば究極技術を多数保持していると聞くし、並みの兵力ではとても歯が立たないだろう。
この人の居た戦場ではブスタン帝国の戦力は1万に対し、フィアット公国は凡そ1000。たった十分の一でこれ程の戦力を弾くなんてよっぽど強くなきゃ無理だが、それをやってのけてる訳だから相当なものだ。
兵士さん達にお礼を言って、他に何か目ぼしい情報がないか聞いて回ったが、どれも内容は人海戦術という戦略のかけらもない戦い方ばかり。軍師は居ないのかと文句付けたくなる内容だった。
率直に言って、かなり不味い事態だ。
今日中にでも止めないと大勢の人が死んでしまう。
「急がないとな」
「……どうなっても知らんぞ」
「ご忠告どうも。でも、やり切りますよ」
じいさん心底呆れてるんだろうな。折角色々助言貰ったのにこんな奴で本当すまん。
でも、最後までやらせてくれ。これすら出来なきゃ、俺は俺を好きになれん。
一通り話を聞き終わった俺達はようやく兵士団寮を後にした。
これまでの経過時間はきっかり5時間。俺の努力もあるけどこの人達がいなけりゃもう少し手こずってたかもしれない。……うん、そういう事にしておこう。
結局兵士団の人達からは国王が何かを隠しているのか聞き出すことは出来なかった。
「結構核心に迫れたかもしれないですね。今の情報で」
「儂らの知りたい事は何も知れなかったが、それでもかいの?」
「そうだぜ、ダンナ。もう少し聞き取りした方がいいんじゃ」
「いや、これでいいんです。ちょっと移動しましょうか」
そう言って近くの民宿で部屋を手配して、中で知れた情報を取りまとめる事にした。
その前に説明としてブスタン帝国周辺の地図を広げて二人に見せてみる。そして、聞き取りした結果を元に次々バツ印を付けていく。
「何やってんだ? ダンナ」
「これは聞き取りでわかった戦場の場所を印付けしたものです」
「……なる程。そういうことか」
先に察したじいさんはそのままに、店主さんに聞き取りで分かったことを段階を踏んで説明していく。
バツ印が地図では縦の直線上に並んでいる事。そして、派遣された兵士達はどれも一隊あたり1万人前後。そして、指示された内容は全て人海戦術。
そこから導き出せるのは……
「何かしらで一網打尽できるという算段……それも味方を足止めに」
「それって最初っから兵隊達犠牲に敵を一掃するってことかよ!?」
露骨に直線で並んだ戦場、中途半端な戦力分散、戦術すら感じられない単純な指示。もうそうとしか思えないよな。
「人の命何だと思ってんだ!! こんなもんの為に俺達は高い税納めたんじゃねえッ」
丸机を殴りうなだれる店主さん。かつての俺を見ているようだった。良い様に使われ、それに気づいたところで力があるわけでもなく、ただ現実を受け入れるだけしかできない……そんな無力な自分の姿を。
「それを、止めに来ました」
「え?」
「こんな誰かを犠牲に何かを成し遂げるなんて間違っている。目的なんて知る訳ないけど、絶対に俺が止めます」
「……ダンナ」
「今なら引き返せるぞ、それでもやるのか?」
くどいよじいさん。
確かに俺は自分の運命を知った。正直受け入れられてないし時間がそうさせてくれるとも思えない。
それでも、俺は――
「やる。最期まで」
「……お主はやさしすぎる。もっと非情であってほしかった」
「もしそうなってしまった時は、ほんとすみませんが頼みます」
「酷い頼み事をしたもんじゃ。一介のジジイに」
あんたも充分やさしすぎるよ。こんな会って一日も経ってない糞生意気なガキをここまで面倒見てくれるなんてさ。
抗える所までやってみる。
いつだってハッピーエンドが一番なんだから。
決戦の夜。
帝都を防衛する兵士達が戻ってくる頃合いを見て、入れ違いで俺は帝都への潜入に成功し、単身ケネルの討伐を目指していた。
流石に二人は連れていかなかった。襲撃に一般人巻き込むとか良心がギッチギチに傷んで、とてもじゃないが気が気じゃない。潜入捜査の件はどうしたとか言ってくれるなよ、あれは不可抗力なんだからな。
にしても、警備が尋常じゃないな。
暗闇に紛れて設置された監視塔から地上を見下ろす。
整列されたように並び建つ住居群。備え付けの庭園も貴族達の住処なだけあって遠目に見ても綺麗に整地されていた。
「ギーッ、ギュイーン、ガガガガ」
背後で膠着してるのは監視塔の本来の住人。全てを喰らう者で包み込んで一旦封印されてもらっている。
にしても結構がら空きかと思ってたが、予想外な事にコイツのお仲間達、かなり堂々としている。平然と帝都の中を歩き回ってたので正直目を疑った。
そいつらはカクカクと頭を左右に回しては、胴体にくっ付いた手足をガシャガシャと動かしながら帝都の中を歩き回っていた。顔面から赤い光を放ち、壁という壁を不気味に照らして。
ルルームの森を思い出す。
森の奥に刻まれた間接術式。人間達が知り得ない文明の一つ。それは機械も同じ。
ブスタン帝国の勝算、それは誰かによって手引きされた機械という旧時代の遺産だった。
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