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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第四章 全てを知り、全てを能う
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第11話 本音

「お兄さん、もう戦うのは辞めろ」


 すん、と体の熱が引き、力が抜けた。

 皮肉な事にそれが不自然な俯瞰を生み出して、自分の置かれた状況が理解が出来てしまった。

 

 そうか、俺は倒れたのか。

 不思議な事では無かった。この一年ロクに休めもせずひたすら働き続けて来たし、仮に休んだところで最低限の睡眠すら取れてない。

 そんな不安定な精神状態に追い打ちをかけるように、続けて掲示されたのは、これまたロクでもない選択肢だった。


「自分でわかっているつもりなのかしらんがお兄さんは今、岐路に立たされとる。それは、運命に逆らい信念を折って余生を生きるか、もしくは夢幻技術(オリジナル・スキル)の奴隷になるかじゃ」


「随分と物騒なこといいますね……」


「事実に基づく指摘じゃからな。儂の妄言と思うならそれでもいいが、このまま進んでもお兄さんの人生に光が差すことはないだろうよ」

 

 ひどい話だ。妹と穏やかに暮らしたいと思って旅に出て、そんな矢先仲間に捨てられて喰われて、ようやっと力を手に入れたと思えば何も出来ず、挙句の果てには精神共にボロボロになって、大事な妹まで連れ去られてしまった。もう手元には何も残ってない。

 

 今の俺は誰も信用できず、全部失ったクズだ。

 それもこれも全部自分で考えて、自分で動いた結果。誰かの言いなりになった方がよっぽど良かったんじゃなかったかって、そう思いたくなるような結果。

 挙句の果てには全部捨てて諦めるか、力に呑まれるかという二択。


 空笑いが込み上げる。

 俺に嘆く資格は無かった。だって俺は何も出来てないから。

 ストーリー・テラーの分身が倒せたからなんだ。魔王と仲良くなったからなんだ。魔族の子供を助けたからなんだ。それで俺は何が出来た。何人救えた。何を変えられた。

 

 今日に至るまでいくつかの争いを終わらせた。けど、今回みたいな大規模な物じゃなくて、対応できたのは小国同士の争いとかそんな小火の火消しくらい。今起きている戦争の何割を止められたと聞かれたら、手放しに自慢出来る程成果は挙げられていない。

 

 途中経過なんでとか、これから頑張りますだなんて言えばよかったのかもしれない。だが、本当に残念な事に、その犠牲を唯の失敗や発展途上だと割り切れる程、俺は鉄の心臓を持ち合わせていなかった。

 

「夢を語るには弱すぎるんじゃよ、お兄さんは。だが案ずるな。人は皆それ程強くないし、強くなれない。身の丈に合った選択をするのも大事じゃと思うぞ」


 じいさんは正しい事を言っている。

 俺はもう今年で20歳。成人してしばらく経つけど、もう夢だけを語る年じゃないし、一国の王になる以上そんな事もいってられないのは自分でもわかってる。

 

「そもそも、お兄さんは何のために平和を目指す?」


 何でってそりゃあ――

 

「ようやく気付いたようだの。お兄さんには目的があった筈。しかし、今のお兄さんの行動は今、最初の目的に適った事をしているかの?」


 ……続きを口にすることはできなかった。してはいけないと思った。

 

「俺が間違ってるとでも?」


「それは自分が一番良くわかってる筈じゃぞ?」


 それ以上に、間違いを認められない自分に嫌気が差した。そんなの決まってる、答えはイエス。理性がこんなこともわからないのかって叱りつけてくるのが解る位、言い訳のしようがない解答。

 それに俺が返せたのは、どうしようもなく餓鬼じみた悪態。


「……どうしようもねえんだよ」


 仕事してないと、聞こえんだ。

 もっと上手くやってればとか、こんな事をして何になるんだとか。もう、数えたらキリがない位に人の失態を吊し上げるような否定の声ばかりが。


「俺だってわかってるさ、こんなのただの自傷行為だって」


 それを言う奴らが、大事な仲間だって解る位に聞き慣れた声達が、休もうとする度にずっと急かすんだよ。早く先に行けって。お前は何をしてるんだって。こんな事もできないのかって。

 

 誰かと関われば関わる程見えない筈の冷めた目が倍々ゲームみたいに増えていってさ、最近はもう幻聴なのか本当の声かも判断が怪しくなってんだ。

 それが何日も何日も続いて眠れないほどに苛まれて、それを誤魔化すようにずっと仕事してんだ。


「他に方法が思いつかねえんだよ。さっきからずっと早くしろ早くしろって責め立てるんだよ。お前のせいで今日も人が死んだってずっとボロカスに言われんだよ。こんなのが毎日毎日毎日毎日続くんだ。どうやって諦めろってんだ、どうやって自分に専念できんだ。俺にはわかんねえよッ!」

 

 こんなのどうやって逃げればいいんだよ。


「全てを捨てて逃げろと言っておる。この世への執着を全て捨て、ただ己の為に生きるのじゃ」


「逃げる……?」

 

「そうじゃ。人生というものは長いようで短い。抱えている物に囚われて己を見失っては本末転倒。人は常に自分の為に生きるのだ。大切なものを守るだとか、誰かの為に頑張るだとか、外的要因に比重をかけて生きている人間の末路を見てみろ。幸せそうな顔をしている奴が一人でもおったか?」


 言ってる事滅茶苦茶だしクズ発言もいいとこなのに、不思議と間違ってる気がしなかった。

 それがじいさんの術中なのか、それとも長く生きて滲み出る達観なのか俺には判別できなかった。それぐらいおかしくなってたのかもしれない。おかしくあって欲しかった。

 

「ハハ、それが正しい人の生き方ってか。俺には全く思いつかなかったや」


 そんな人生も悪くないんだろう。自分の為に生き、自分の為に死ぬ。嫌な事からは逃げる。かなり納得できたし、本気でそれもアリだと思ってる。

 理屈じゃない、もう疲れたんだ。

 ずっと何かの義務に縛られて、自分以外の誰かに生きる意味を見出して、いかにも自分が正しいですみたいな顔して生きていくのが。

 

 人でなしだ、俺は。

 自分の周り以外どうでもいいし、他人が死のうが何とも思わないし、この世界がどうなろうが率直に言って知ったこっちゃない。というか、そんな自分がどうとか考えることすら疲れて、もう楽になりてえとしか思ってねえ。

 責任とか、使命とか、仲間とか、家族とか、何もかも全部、全部ほっぽり出して、全部諦めてえんだよ。


 こんな人生終わらせてえよ。


 何もかも忘れて、縛られない生き方して、全部忘れられればきっともう今みたいな苦しさからは無縁になるんだろうな。

 なら、もう諦めていいんじゃないか。お前は良くやった、十分頑張った。それで打ち止めすればもう苦しまずに済むんだ。


「……できねえよ」


「直ぐには決断できないのは当然じゃ。一つ一つ、些細な事から選択を重ねて最後に一番大きな決断をする。そうすれば何の苦も無く日々を過ごせるだろうよ」


「だから、出来ねえって言ってんだよ」


「往生際が悪いのう。自分でもわかっているのだろう? これ以上その生き方をすれば、自我が消えて只平和という誰かの決めた思想に従う道具に成り下がると。何故、そう自分を貶める道を選ぶ」

 

 そんなもん、決まってんじゃねえか。

 何もできねえ癖して一丁前に張り切って、妹守る為に泥水(すす)って死に物狂いで生きて、この世から争いを無くすなんて大層おめでたい夢を掲げた馬鹿野郎と、そんな馬鹿を信じてついて来てくれる皆を救う為にだよ。


「今、何か出来んのに下向いてたら昔の俺に申し訳ねえ。俺は諦めない」


「それを只のエゴだと何故わからん。執着は己を殺す。それをお兄さんは何度も経験した筈じゃ」

 

 エゴだなんて当の昔に知っているさ。馬鹿が理想論語ったって力が無ければ何も出来やしない。夢を語る奴が指差されるなんてどこの国だって同じだ。それを挑戦者だと手放しで慕える程この世界は優しくない。


 だからこそ。だからこそ誰かが体張って成し遂げないといけない。

 こんなクソみたいな世界を変える為にも、俺は――


「世界を変える。そんな大それたこと考えるのなんて、俺みたいなどうしようもない馬鹿が丁度いいんだよ」





「その意思が、造り物だったとしてもか」

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