第9話 情報収集戦線
平地の上を爆速で走り抜ける流線形の車体。
その中で俺達は作戦会議を繰り広げていた。が、それは思った以上に白熱していて――
「ダンナ、ヘラステナに行って何するんだ?」
「敵の炙り出しですね。ケネルの息がどこまで掛っているか洗い出して敵の数を逆算します。ヘラステナには帝都の従者が多いので情報を仕入れるには持ってこいかと」
「本丸に近づくって結構大胆なことをするの。時間を使っても着実に進めた方が無難だと思うんじゃが」
じいさんの話も一理ある。
多少時間掛けてでも聞き込みを徹底して、準備が整ったら戦力を全投入して本丸を叩く。普通ならそれでいいんだけど……
「今って好機なんですよね」
「ほう、好機とは?」
物資の供給で周辺都市が疲弊しているということは、物資を大量に消費するような何かが起きている。
それは何か、答えは出兵。ブスタン帝国は大量の兵をフィアット公国に投入している。という事は、ブスタン帝国自体も戦力がかなり手薄になっている。
「つまり、本丸がスカスカで手薄な内に片付ける事が出来れば労力を最小限に済ませられる。ということかの?」
「そういう事です」
ぶっちゃけブスタン帝国がフィアット公国にやってるのと同じだ。主力が分散しているからその隙に敵を倒す。
「なるほど、良い手じゃの。が、儂はこうもおもうのじゃ」
首を捻りながらどこか腑に落ちない様子のじいさん。まあ、言いたいことはわかる。
「敵がそう簡単に隙を見せるのか」
「そういう事じゃ」
それも考えた。ケネルがいくらワガママ放題のどうしようもない重税課し野郎だったとしても、無策でそれをやるとは思えない。
人を信じない奴が皇帝として相応しいとする国だ。絶対何か策がある筈。
だから、俺は次の目的地をヘラステナに選んだ。
確かにケネル一派がどれ程蔓延っているのかってのもあるけど、本当の理由はそこだ。
果たして、ケネルが一体何を隠しているのか。
それが、俺達に関わるような何かなのか。
もし、そうであるならば俺は全力でケネル達を叩き潰さなければならない。
「……何か俺って相当ヤバい船に乗ってる感じか?」
「そういう感じです。色々働いてもらうんで宜しくお願いします」
「……全力で頑張らせて頂きます」
振り向くと店主さんはげっそりと項垂れていた。肯定と捉えさせてもらうぜ。
という訳で、作戦は裏で何が動いているかの調査。後は本丸を叩いて傭兵国家の宣伝。我ながら贅沢な作戦だ。
「で、今度はヘラステナで何処を目指すかなんですが……」
こう話しを振っておいて何だけど、実はやる事は決めてる。
「酒場は情報収集には持ってこいだぜ。店主だからな、そこは自信持って言える!!」
「いや、今回酒場は目指しません」
「「え?」」
後ろの二人と運転手さんが同調した。
「酒場って多分金持ちしかいないんですよ。今」
そうですよね? と店主さんに尋ねると、何か閃いたように首を縦に頷いた。
「金持ちって、ケネルの息が殆ど掛かってると思ってるんですよね」
このご時世に酒場で入り浸れるのなんてよっぽどのブルジョア。
そんな奴なんてほぼ確実にケネルのお陰で潤ってる奴ばっか。話をしたところで尻尾を出す訳がない。
「という訳で、場所は決めてます」
「おお!!」
「それは何だってんだ。早く教えろよダンナ!!」
すげえワクワクしてそうな声だな。
まあ、ここで答えを渋ってもしょうがないのでサクッと回答するとしようか。
「それは、兵士団寮です」
「「はあ!?」」
いや、まあ反応はわかるんだけどさ。隠密作戦って何だよって話にはなるんだけどさ。
「聞いたことあるんですよ。ブスタン帝国の兵士達って大抵寮住まいだって」
「いやいや、そんな敵地の根っこみたいな所に行って大丈夫なのかよ!?」
「多分大丈夫だと思いますよ。金さえ積めば」
そう言うと、今度はじいさんが何か閃いた様子で、
「出兵で怪我、もしくは疲れ切った兵士達が残っている。しかし治療費には相応の金が掛かる。飢饉でまともな生活も出来ない。そこで金を渡してやれば……」
「簡単にゲロっちゃうでしょうね」
兵士だって人間だ。いつ死んでもおかしくない限界状況の中、命がけで頑張っている。それが出来なくなったら価値が無くなるからな。
他の人達よりある程度良い暮らし出来てるだろうから、それをキープする為にも怪我の回復は率先してやる――筈。
「ま、最悪バレて大変なことになっても俺達なら大丈夫でしょ。そうですよね? おじいさん」
「……お兄さん、結構な狸じゃの。そうじゃな、儂等なら問題ないじゃろ」
それが聞きたかった。
じゃなけりゃリスク背負ってまでじいさんを連れて来た意味が無さ過ぎる。勿論、じいさんには腰がバキバキになるまで働いてもらいますとも!!
「安心してください。回復ならいくらでも出来るんで」
「老人は労われと教わらなかったかの」
「ちゃんと労わります。現地で」
「儂、お兄さんのことちょっと好きになってきたぞ」
「……ありがとうございます」
全面のガラス窓に一礼。で、一息つく。クールに決めた。
あ、あ、あ、あっぶねええええええええええええええええええ!!
内心は冷や汗で水溜まり作れる位心臓バックバク。これ、しくじってたら皆殺しだった。機嫌損ねないで良かったぁああああっ。
呑気に鼻歌を歌いながら運転を続ける運転手さんが憎いぜ、チクショウ。
盛り上がった後の会話の締めにさらっとデカい依頼を吹っ掛ける。すると、疲れ切ってるし気持ちもノってるから断りずらい。結構効果あるんだよコレ。
これで俺に出来る事は殆どやった。ようやく本当の意味でリラックスできる。
ところで、
「この車って、誰かに見られてる状態ですよね?」
「安心してください。カラーリングも変更可能ですし、今は草原に溶け込めるよう緑へ変色しています。なので遠目で見られても大抵の人間は気づけません」
そ、そうなんですか。凄い能力持ってるんですね。この車。
って――
「それ、誰にも見つからないって事じゃ……」
「目立ちたくないですし。あ、着きました」
休憩終了の合図は、命令無視という無常の宣告だった。
それじゃあ、俺は何のためにこんなリスクしょってまで。この車で来た意味が……
「お兄さん、結構苦労人じゃのお。若いのにくたびれてるわけじゃ」
「もっと気楽に生きた方がいいぜ、ダンナ」
「は、ははは……」
俺、お前らの事嫌いだ。
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