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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第三章 再会と別れ
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第23話 弔い合戦

 行き止まりが見えてきた。


 壁までの距離が縮まって来た所で、進行方向とは真逆の風を討伐メンバーの前方にのみ発射。

 二つの風が衝突し、城壁にぶつかる目前で衝撃はゼロに緩和。


 取り残されたバケモノ達が勢い余って壁に激突する中、残りの全員は無事、無傷で着地に成功。

 

 ふぅ、一先ず第一課題クリアってところかしら。

 あいつらを見れば簡単に想像がつく。このままぶつかってたら壁に大の字のくり抜きを作るか、壁と風でサンドイッチされてかわいそうなことになってたわね。


 とりあえずまずまずの結果に、全員がよくやったと褒めてくれた。

 たったひとり、お子ちゃまを除いて。

 

「このバカっ。なんてことするんだあ!!」


「これ位いいでしょ!! 我慢しなさいよっ!!」


「そうだぞバカ王子。囚人達が逃げ出す条件は回避できたんだ。少しは感謝しろ」

 

「そ、そんな。ワレの城が……」

 

 おいおい泣く魔王様を放置して吹っ飛んだ敵の後を追うと、城の外れにある荒地でうつ伏せになってぶっ倒れていた。どうやらなかなか遠くに飛ばされたらしい。


 ……魔王様は、まだ横で泣いてる。何よ、期待通り城から離れたんだから我慢しなさいよね。


「ききき、ききききき!!」


 倒れていた狼のバケモノがすくっと立ち上がる。やっぱ無傷か。

 城壁を壊せるんだから多少ダメージになればと思ったけど、普通にピンピンしている。烙印の制約もなくなって、城内にいた時よりずっと身軽に見えた。


 そう、問題はここから。

 開けた場所で戦えるってことは、動きに制約がないってこと。

 邪魔なく自由に戦えるのは、敵も同じだということ。


 もう一つのポイント。

 用意すべきは援護の風。皆の動きを加速、敵の動きを鈍化。それができれば。


 だから。

 切替と集中。


 覚悟を置いて、死に物狂いで戦い(そこ)に委ねろ。


 それぞれが武器を手に対峙。血沸き肉躍る両者。

 抑圧された殺気、互いに交錯。戦う前から鍔迫り合い。

 依然静かな戦場。風は冷たい。

 駆け引き、未だ誰も動かず。


 (あだ)は、友と呼んだバケモノ。

 (あだ)は、兄を貶めたバケモノ。

 同胞は、バケモノと呼ばれた者達。


 無条件で愛してくれた兄はもういない。これからはきっと疑念と共に品定めされる毎日。

 殺したのはお前らだ。なまくらではないのに。何人たりとも斬れるというのに。


 そんな節穴共に。

 くれてやる、きつい一発(プレゼント)を。


 これから現れるであろうバカ共に。

 くれてやる、どぎつい見せしめ(プレゼント)を。


 もう一度。

 委ねろ、眼も、耳も、肌も、息も、思考も。全て――

 

 とろけるように意識と空気が同化して。

 誰かの剣が、ちゃきりと鳴った。


 心の臓に突き刺さる二体の雄たけび。轟音となり天まで届く狼煙を上げて。


 ――開幕、仇討ちの時間だ。

 

 両の手を前へ突き出す。右に加速、左に鈍化。

 二種の風を纏って、戦士達は一斉に突撃。各々による斬撃や拳の連射は、二体を仕留める為だけの嵐と成った。

 そんな鉄の雨達を鎧の如き全身で受け止め、弾き飛ばすように化け物共は重い一撃で薙ぎ払う。


 一引いて、一進む。

 拮抗は崩れないまま、互いに喰らいあった。

 この場の全員が手練れ。反撃なんて百も承知。

 暴力と暴力の隙間を踊り避けては、また一度嵐の中へ紛れていく。


「追い風を増やせ!!」


「逆風が弱い!! 威力上げろ!!」


「回転を変えて下さい、攻撃がいなせないっ!!」


「ハイッ!!」


 雪崩のような要求達を飲み込み、理解して。

 繊細に、かつ綿密に風向、風量、配置を全操作。

 計算だけで目が回る。足元はおぼつかない。早速現実も理解した。


 未熟なあたしにできることは、言われた通りの注文に最速で、最良で応えるだけ。

 暇なんてないんだよ。もっといい方法がないかとか、そんなふぬけた事考える余裕なんて。


 そんなあたしは今、きっと誰よりもこの日を待っていたんだと。

 もう大人しく待つだけのか弱い娘ではないのだと。

 一人の戦場(いくさば)をかける同士なんだと。


 無様な姿をさらしながら、ようやっとここに立てている自分に。

 大層な高揚と大げさな焦燥に揺れて無我夢中。ひたすらに演算、演算、演算。


 戦いに参加できないのなら、戦いを操ってみせろ。

 誰にも見えない狂気をそっと胸に宿して。

いつも閲覧頂き誠にありがとうございます!!


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