第23話 弔い合戦
行き止まりが見えてきた。
壁までの距離が縮まって来た所で、進行方向とは真逆の風を討伐メンバーの前方にのみ発射。
二つの風が衝突し、城壁にぶつかる目前で衝撃はゼロに緩和。
取り残されたバケモノ達が勢い余って壁に激突する中、残りの全員は無事、無傷で着地に成功。
ふぅ、一先ず第一課題クリアってところかしら。
あいつらを見れば簡単に想像がつく。このままぶつかってたら壁に大の字のくり抜きを作るか、壁と風でサンドイッチされてかわいそうなことになってたわね。
とりあえずまずまずの結果に、全員がよくやったと褒めてくれた。
たったひとり、お子ちゃまを除いて。
「このバカっ。なんてことするんだあ!!」
「これ位いいでしょ!! 我慢しなさいよっ!!」
「そうだぞバカ王子。囚人達が逃げ出す条件は回避できたんだ。少しは感謝しろ」
「そ、そんな。ワレの城が……」
おいおい泣く魔王様を放置して吹っ飛んだ敵の後を追うと、城の外れにある荒地でうつ伏せになってぶっ倒れていた。どうやらなかなか遠くに飛ばされたらしい。
……魔王様は、まだ横で泣いてる。何よ、期待通り城から離れたんだから我慢しなさいよね。
「ききき、ききききき!!」
倒れていた狼のバケモノがすくっと立ち上がる。やっぱ無傷か。
城壁を壊せるんだから多少ダメージになればと思ったけど、普通にピンピンしている。烙印の制約もなくなって、城内にいた時よりずっと身軽に見えた。
そう、問題はここから。
開けた場所で戦えるってことは、動きに制約がないってこと。
邪魔なく自由に戦えるのは、敵も同じだということ。
もう一つのポイント。
用意すべきは援護の風。皆の動きを加速、敵の動きを鈍化。それができれば。
だから。
切替と集中。
覚悟を置いて、死に物狂いで戦いに委ねろ。
それぞれが武器を手に対峙。血沸き肉躍る両者。
抑圧された殺気、互いに交錯。戦う前から鍔迫り合い。
依然静かな戦場。風は冷たい。
駆け引き、未だ誰も動かず。
仇は、友と呼んだバケモノ。
仇は、兄を貶めたバケモノ。
同胞は、バケモノと呼ばれた者達。
無条件で愛してくれた兄はもういない。これからはきっと疑念と共に品定めされる毎日。
殺したのはお前らだ。なまくらではないのに。何人たりとも斬れるというのに。
そんな節穴共に。
くれてやる、きつい一発を。
これから現れるであろうバカ共に。
くれてやる、どぎつい見せしめを。
もう一度。
委ねろ、眼も、耳も、肌も、息も、思考も。全て――
とろけるように意識と空気が同化して。
誰かの剣が、ちゃきりと鳴った。
心の臓に突き刺さる二体の雄たけび。轟音となり天まで届く狼煙を上げて。
――開幕、仇討ちの時間だ。
両の手を前へ突き出す。右に加速、左に鈍化。
二種の風を纏って、戦士達は一斉に突撃。各々による斬撃や拳の連射は、二体を仕留める為だけの嵐と成った。
そんな鉄の雨達を鎧の如き全身で受け止め、弾き飛ばすように化け物共は重い一撃で薙ぎ払う。
一引いて、一進む。
拮抗は崩れないまま、互いに喰らいあった。
この場の全員が手練れ。反撃なんて百も承知。
暴力と暴力の隙間を踊り避けては、また一度嵐の中へ紛れていく。
「追い風を増やせ!!」
「逆風が弱い!! 威力上げろ!!」
「回転を変えて下さい、攻撃がいなせないっ!!」
「ハイッ!!」
雪崩のような要求達を飲み込み、理解して。
繊細に、かつ綿密に風向、風量、配置を全操作。
計算だけで目が回る。足元はおぼつかない。早速現実も理解した。
未熟なあたしにできることは、言われた通りの注文に最速で、最良で応えるだけ。
暇なんてないんだよ。もっといい方法がないかとか、そんなふぬけた事考える余裕なんて。
そんなあたしは今、きっと誰よりもこの日を待っていたんだと。
もう大人しく待つだけのか弱い娘ではないのだと。
一人の戦場をかける同士なんだと。
無様な姿をさらしながら、ようやっとここに立てている自分に。
大層な高揚と大げさな焦燥に揺れて無我夢中。ひたすらに演算、演算、演算。
戦いに参加できないのなら、戦いを操ってみせろ。
誰にも見えない狂気をそっと胸に宿して。
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