第21話 カッコつかないのも、また人生
「あんたらが捨てたのは、なまくらなんかじゃない。それを今から証明してやるッ!!」
あたしの啖呵が合図となり、バケモノ達はおぼつかない足取りながらも、その図体からは想像できない速度で意気揚々に間合いを詰めて来た。
このまま誘導し、地上の被害が少ない所まで逃げ込めれば成功。後は、隙を伺って機が熟したら袋叩き。これが当初の作戦。
結果は。
「うわわわわわわわわわわわわ!!」
「ききき、まてまてまてまてまてまてまて!!」
「ころすころすころすころすころすころす!!」
ニア・シュナイダー16歳っ。現在背を向け逃走中!!
名目上は誘導作戦。けど、正直これは無理!!
だってあいつら、イノシシみたいに突進しては触れるもの皆木っ端みじんだしっ。檻ですらぺしゃんこなのに、生身の人間があんなの受けたらひとたまりもないってっ。恨みがどうとか言ってる場合じゃないって!!
いや、ムカついてはいるんだけど、ほんっとうにムカついてはいるんだけどね!!
綺麗なストライドで城内を滑走。例に漏れず皆さんも併走。足並みが揃うのはすごいけど、上手くいってるのは絆とかそんな綺麗なもんじゃなくて、単純に怖いから逃げるっていうチキンハートの副産物。
自分で言うのもなんだけど、ほんっと情けない!!
「あ、あのっ。一応言っておきますけどビビッてなんかいませんからね!? 決して、ビビッてなんかいませんから!!」
「わ、ワレも当然キサマらをフォローする為の同行だっ。一国の主が敵に背を向けて逃走、そんな恥じみた行為するわけないからな!!」
「ワシも当然逃げてなどおらぬっ。その気になれば変身して空に逃げられるのだから、こうして共に行動するのは一種の縛りよっ!!」
各々が苦しい言い訳を並べる。情けないっ。みんな情けないっ!!
こんな時お兄ちゃんはどうする? うまく統率して最強の布陣を作る? それとも有効策を生み出してスマートに倒す?
あたし? そんなの逃げるの一択でしょ!!
我先に距離を取ろうとする逃げ腰ヤロー共を、ドスンドスンと地響き立てて追いかけるのは本日のターゲット二体。烙印の効果か、または突然変異した体に不慣れなのか、よろめいて城の壁にぶつかってはふらふらの体で迫ってきた。それを振り返って悠長に観察していると――
ベキベキッ、バゴン。
ああっ、所々で壁の壊れる音がっ。魔王様大丈夫!?
「しゅ、修理費がかさむ……絶対許さん、許さんぞ悪の手先め。必ずワレが天誅を下すっ!!」
復讐を誓う割には見向きもせず全速ダッシュしてますけどっ。血の涙流して号泣してるんですけどっ。何もカッコよくないんですけど!!
「にげ、るなあああああああああああああああ!!」
音圧でぶっ飛びそうな耳に引っ張られるように振り向くと、そこには頭上にまで跳躍する二足歩行の爬虫類が目前まで迫っていた。
「こんのっ……!!」
吹き荒れる風を掌に集わせ、凝縮する度に風が加速。耳鳴りのような高音がより激しさを増す。
「イモウト殿ッ、今の力では相殺できない。いなすことだけ考えろ!!」
「オーケー!!」
狙うは、敵の右脇腹ッ。突進方向、左にずらしてッ!!
「風圧掌砲ァァァァァァ!!」
解放された烈風が爬虫類へと襲い掛かる。それに両手をクロスして耐えようとした瞬間、風は右方向の軌道を作り上げ、そのまま流れに乗ってしまった爬虫類は右へ逸れ、壁に激突。無傷の城壁は見事大破。みんなを包む冷たい空気。
「ああっ!! なんてことするんだ!!」
「フハハ、心配するな。ツケはゴシュジンが払う!!」
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
「人でなし共め!!」
もう走った。しっちゃかめっちゃか滅茶苦茶走った。
しつこく追いかけてくる敵にさっきと同じ要領でけん制を喰らわせつつ、遠く離れた外への出口を目指した。
このストレスももう少しの辛抱。さっさと外に出て、後は開けた場所で暴れまくって――
「ところで、魔王様」
「何だ!?」
「檻から出ても烙印の効果って残るんですか!?」
一瞬の静寂。
「……あっ」
「このバカァ!! ほんっとにバカッ!! それでも一国の主!? しんっじられない!!」
「仕方ないだろう!! 何かそういう雰囲気だったではないか!!」
「わ、ワシはずっとおかしいと思っていたけどな!!」
「なら言いなさいよ!!」
「ハイッ!!」
「あーもう!! 折角いい感じに覚悟決まってたのにこんなんじゃ気が抜けて戦いもクソもないわよ!!」
「戦士たるもの常に気を巡らせ、如何なる時でも戦いに身を委ねる。キサマ、ここまで来てそんなことも出来ていないのか?」
「ワシもそう思う」
「アンタらから先にぶっ飛ばすわよ!?」
その時、何かがピーンと来た。
ひょっとして、順当に倒すならあの檻の中で弱らせて仕留める方が楽ってことよね?
「……あーもう、どうしよう。魔王城壊し続けるのは流石に悪いし。かといって敵を強くしてもしょうがないし……」
「檻に戻るか? ワシは一向にかまわんが」
「やめてくれ!! ほんっとうにやめてくれ!! 先代から引き継いだ城をこんな形で壊されては……なっ? キサマら」
魔王が相槌を促すと、側近さん達は待ってましたとばかりにうんうんと首を縦に振った。それでいいのか、魔王軍。
「ぶおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
心なしか早くなってきてない? 差が縮まってる気がするんだけど!!
「魔王様、外までどれ位かかるんですか!? このままだと追いつかれますよ!!」
「あと4、5分は掛かる!!」
そんなに待てるわけないじゃん!!
くっそ、どうすればうまい事凌げる? 考えろ。何か、何か手は……
「烙印の効果ってどれくらいですか、看守さん!!」
「城内までは大丈夫です!! ただ、外に出れば効果は薄れるかと……」
罪人からは逃げた実例がないから憶測にしかならない、と必要だけど知りたくなかった情報が付け足される。ここでハイスペックが牙を剥くのかっ。
「ってか、アンタも考えなさいよ!! 魔王なんでしょ!!」
「キサマ流石に無礼が過ぎるのではないか!?」
「うっさい!! さっきから不満ばっかタラタラ言って何も案出さないじゃないっ!! じゃあ何かいい方法あるんだったら、アンタが出してみなさいよ!!」
「ワシもそう思います!!」
「あっ、バカ竜っ。キサマ裏切ったな!?」
「で、何かあんの!?」
「う、うむ。何かいい方法、いい方法……そうだ。キサマ、確か風使いだったな?」
そうだけど……残念ながら、今のあたしじゃ太刀打ちできないわよ。攻撃もいなすくらいしかできないし。それを伝えてみたけど、魔王様はネックを感じている様子はない。代わりに聞かれたのは、今時点で風をどれだけ制御できるかだった。
「とりあえず、風を集めて圧縮したり、解放することはできるわ」
「範囲は? 何メートル圏内までなら操れる」
メートル? 数字なんて考えたこともな――
「直径10メートル前後だ」
「本当か? バカ竜」
「バカではないし小僧である貴様より頭はいいが、これは本当だ。ずっと見て来たからな」
そ、そこまで見てくれてたの。
修行に付き合ってもらってた時、大体あくびしながら寝そべってるか、よくわからない踊りをしてるかのどっちかだったから全く気付かなかった。
ただ、その数値を聞いて魔王様の目がギラリと光った。
「キサマ、今から風を作れ」
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