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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第三章 再会と別れ
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第19話 不正

 こうして対面するとやっぱりこう思う。

 

 柵越しの2人、そいつらのやったことをついさっきのように思い出す。

 お兄ちゃんを刺して、ボロ雑巾のように捨てた男。散々世話になったのに、兄を捨て、踏みつけた女。そんな憎き奴らが目の前に吊るされている。


「……う、うう」


 全身傷だらけ、男はお腹のうっ血も酷い。女はあたしに殴られまくって顔が膨れ上がっている。胸元には血のように真っ赤な紋章が刻まれて、2人はすっかり衰弱しきっていた。


 魔王様からの事前説明はこう。

 罪人の胸元には烙印を付けるのが通例。烙印を付けられた者は、この檻に居る限り殆どの力が失われる。逃げようにも強烈な激痛と倦怠感で満足に動けず、のたうち回るので精一杯になるらしい。


 つまり、2人は余程の事がない限り冒険者として戻る事は出来ない。


 看守のムチ打ちにより女は絶叫。痛みに顔を歪ませて、虚ろな目を開けた。


「……だれ?」


「あんたが散々足蹴にした人間の妹だ」


「……にあ? にあ、にあっ、にああっ!! ああああっ!! うわあああああああああ!!」


 うわごとのように名前を呼んであたしを見ると、恐ろしいものを見るようにガタガタと震え出した。


 誰かに裾を引っ張られて気づく、ムーちゃんが『止めろ』と首を横に振っていた。

 そっか。あたしまだ感情的になってるんだ。


「わたしは、いったい……」


 今すぐはっ倒して謝らせたい。でもダメだ、我慢しろ、我慢しろ。情報を引き出すんだ。

 溢れそうなフラストレーションをどうにか抑えていると、その横でずっと冷静だった魔王様が先に質問をした。


「何故ワレの首を狙う。何が狙いだ」


 女はギラついた眼で凝視。顔を真っ赤にして


「お、お前は、魔王……そうだ。わ、わたしはお前を倒すため此処に来たんだ。――皆は!? 皆をどうしたッ!!」


「ワレが貴様に質問している。質問を質問で返すな。もう一度問う、貴様は何故ワレの首を狙う?」


(うるさ)いッ。魔族に応えるもの等ないッ!!」


 この女はお兄ちゃんを見捨てたのに、この期に及んで仲間を心配するフリをしているのか? 一体何がしたいんだ?

 その『皆』という枠の中に『キール・シュナイダー』がいないってこと、あたしは知っているんだぞ。


「一人は貴様の横にいる。もう一人は貴様等をおいて逃げたようだが、直に捕まるだろうな。仲間か、聞いてあきれる」


 魔王様がそう告げると、女は歯をむき出しにしてこちらへ威嚇してきた。


「今すぐこの手錠を離せ。わたしが殺してやる!!」


 天井と手錠を繋ぐ金具が鈍い音で何度もぶつかり合う。その度に金具に血が滲む。自分に正義があるんだと訴えるように。

 正気を疑う。


「カトレア」


 手負いの獣から(こび)売るクソ女に戻った。


「ニア……お願い、この手錠を開けて。早く魔王を倒さないと、わたし達人間が……」


「兄を裏切った理由を教えろ」


「どうしたの? 何でそんな冷たい眼をしているの? いったい何に怒って」


 指先に風を凝縮。作り上げた直径1cm程度の球体を女の脇腹目掛けてぶっ放した。

 柵の隙間を抜け体に直撃。はじけた時、女は絶叫をあげてもだえ苦しんだ。


「裏切った理由を、言え」


「おい!!」


 慌てて魔王様が止めに入った。

 何を焦っているんですか、魔王様。致命傷は避けてますよ。殺すわけないじゃないですか。ちゃんと必要なことは吐かせますって。


「ニ、ニア。どうして……ごほっ」


「や、やめてくれ!! 俺達は同じ人間だろう!? どうしてこんな酷いことをするんだ!!」


 何でそうなっているかも理解できず困惑する女と、ようやく目が覚めたかと思えば、芋虫みたいに体を揺らして助けを求める男。

 正気か? このバカ共。


 あり得ないものを見せられて皆引いている。皆同じこと思ってるんだよ、一体何見せられているんだって。


「き、君。カトレアの友達ならどうしてこんな仕打ちができる。それでも友達かッ!?」


 自分が散々世話になってきたのに平気で裏切る。そのうえ頭に足を乗せてバカにしたんだ。こんなクズ、友達な訳がない。過去、少しでも心を許した自分が本当に嫌になる。


「兄を裏切った理由、そして魔王様を狙った理由。これが知りたいのよ、さっさと吐け」


「人間の身でありながら魔王に与したというのか!?」


 男は血走った眼で怒り狂い、叫んだ。


 さっきからこの2人、全く話にならない。

 自分の主張しかせずこちらの質問に全く受け答えできてない。人の話を聞き流しているどころか、理解すら出来ていないように見える。


 お兄ちゃんは、こんな奴らと旅をしていたの? もし、そうならどれだけのストレスを抱えて続けていたんだろう。そもそも、こんな状態で旅なんて続けられるものなの? ちょっと信じられないんだけど。


 皆も同じことを思ったようで、2人の奇妙な振舞いを気味悪がっていた。


 それからしばらく問答を繰り返したが、最後まで2人は満足に会話のキャッチボールもできずただ魔王を殺すことだけを主張し続けた。


 これ以上続けてもラチがあかない。そう思った側近さんの一人が、いよいよ魔王様に面会を辞めるか打診した。

 魔王様は首を縦に振らなかった。


 代わりに、深くため息をついて天を仰いだ。その顔はどこか焦りに満ちているようだった。

 魔王様は少しだけ考えるそぶりを見せ、再び国を統べる王に戻る。


「キサマの推測が当たったかもしれん。用心しておけ」


 淡々と告げられた応えは、ゆっくりと体から血の気を奪い去っていった。

いつも閲覧頂き誠にありがとうございます!!


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