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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第三章 再会と別れ
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第17話 虹にひと風

 お兄ちゃんがいなくなって一週間。

 魔王様が気分転換に一人旅でもどうだ。と一杯やらないか? くらい雑に提案したことが事の発端。

 疲弊しきったお兄ちゃんはへろへろの脳みそでお勧め通り旅へ。

 ロクに荷造りもせず、周辺地図一枚と羽織るもの、マスクだけを手にして。


 王座をぐわんぐわん揺らしながら、魔王様は大層自慢げに話してくれた。

 何回かお兄ちゃんの部屋をノックしても反応なし。声をかけても返事なし。とにもかくにも応答なし。

 そういうことだったんだ、なぁるほどねぇ。

 

 ぷっちーん。


「まおうさま」

 

「ふふん。もっとワレをほめ……」


「――マオウサマ」

 

「ひっ!?」

 

 額がぶつかる寸前まで近づけて、瞳に広がるお花畑をしかと覗き込んで――

 

「どうして、何も知らない土地に身一つで投げ出すような真似をさせたんですか?」


「い、いやな。貴様の兄はなかなか優秀でな? そ、そう!! ワレはキールを信頼しているのだっ、奴は強いからな!! それにこの程度の環境、アドバイスなど不要。奴なら余裕で切り抜けられる!! だから決して旅に出すことにやっきになって忘れたわけでは……その能面みたいな無表情怖いからやめるのだ!!」


「忘れてたんですよね?」


「ハイ」


 あっさり観念。王はがくんと肩を落とした。


「貴様!! 我が主に何たる狼藉。いくら主の友人の妹と言えど容赦は――!!」


 いくつもの剣先がこちらへ向けられる。本来ならここで土下座して平謝り。

 しかし、キレたあたしはかなり無敵らしい。


「――あ?」


「ヒィッ!?」


「魔王様ァ!! この女冒険者とてつもなく怖いです!!」


「この殺気、我ら一兵卒では耐えられません!! うわ、兵が一人気絶した!!」


「控えろ!! あんなものどうすることもできん!!」


「ははっ!!」


 十人超の側近さん達は我先にと後ろへ退却。たったひとりのクソガキにびびりちらかしていた。

 それでいいのか魔王軍。それはそれとして。

 

「ムーちゃん」


「ハイッ!!」


「このことは、知ってたの?」


「いいえっ、知りませんでしたっ!! しかしもし事情を知ったその時は、何よりも早くイモウト殿へ報告することを誓うであります!!」


「よろしい」


「ハイッ!!」


 言うて人情はある魔王様のことだ。きっと嫌がらせ目的ではなく本当にお兄ちゃんが心配だったんだろう。

 最近酷くやつれていたし誰にも会おうとしてなかったお兄ちゃんにリフレッシュでもさせたかったんだろう。

 あたしも考えてたし。


 ところで。


「兄は無事帰れるんですよね?」


「へ?」


「何気の抜けた顔をしているんですか、魔王様。ちゃんとお家に帰るまでが旅ですよ?」


 地図だけ渡して帰り道すらロクに教えず送り出した。

 なんてこと、ないよね?


 どうしてだろう。魔王様は冷や汗いっぱいに「そ、そんなことないよ?」と落第級の大根芝居でご回答された。


「説教ですね。これは」


「ワレ、こう見えても一国を納める魔王だぞ!! 決して小娘に後れを取るような」


「説 教 で す」

 

「……ハイ、オネガイイタシマス」


 王だか何だか知らないけど、人の家族を粗末に扱うのは許しません。

 この後、魔王様と側近の皆さんには準備の大切さについてていねいに説明してあげた。

 1時間程、ゆっくり、しっかり、みっちりと。


「――これでわかりました?」


「ジュンビハダイジ、ジュンビサイコウ、ジュンビバンザイ。ジュンビシカカタン」


「ま、魔王様ァアァァァ!!」


「ワレ、ベンキョウダイスキ。ジュンビダイスキ、ジュンビイズゴッド。ジュンビジュンビジュンビ……」


「魔王様、お気を確かに――ハッ!? よく見るとこれは、意識がないのか? 白目で、よだれまで垂らしてまでッ。さ、最後まで抗ったんだ。それが、こんなっ……魔王様アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 後でムーちゃんに言われた。あたしは修羅だったって。

 余計なことを喋ろうものなら心臓が握り潰されると思ってハイしか言えなかったらしい。

 柱の影でガタガタ震えてたのはそれが理由だったのね。

 なんかごめん。


 下手な寸劇を見せられたせいで少しだけ気が抜ける。

 なるほど、魔王軍って結構愉快な人達なのかもしれない。


 でも、茶番はここでおしまいよ。あたしには大事な仕事が残ってるんだから。

 こっからが本番。頬をぴしゃりと叩く。


 ここに来た理由。それはほんのわずかにある違和感、それでも放っておくととんでもないことになりそうな違和感。

 全てはこれをどうにかする為だ。


 深く息を吸い、一石を投じた。


「冒険者たちに会う事はできますか」

いつも閲覧頂き誠にありがとうございます!!


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