第15話 ぼくらのアイドル
『愚か者め』
俺には声しか聞こえない。
顔も見た目も全て想像。
彼女のことを何もしらない。
それでもわかる、彼女の怒りが。
『気にしないで。貴方に言ったわけじゃないわ』
「このプレートに書いてある奴だよな? これが何なのか知っているのか?」
『……神なんてあるかもわからないものに執着し、我がものにしようとした愚かな計画よ』
神ね。
人からそれが出てくるとロクな話にならない。加えて幻聴さんの反応も宜しくない。
なら、結局ロクな話じゃないってことだろう。
人は人だし、それ以上でもそれ以下でもないのに、弱肉強食なんてクソみたいなルールに執着してピラミッドの頂点でも目指したのか。
それとも別の思惑があった? ま、考えても仕方のない事だけど。
「取り合えず、これを入力すれば先に進めそうだよな」
プレートに書かれた内容を隠しパネルに入力。
隙間のない壁にうっすらと縦線が入り、裂けた。
それらがゆっくりと開けていくと、現れたのは厳重に閉ざされた二枚扉。
ここまで厳重ならよほど隠したいものなんだろうが、一体どんなものが待ってるんだろうな。
せめて平和的に終わって欲しいが。
扉を開き、その先に待っていたのは――
「……そういう訳にはいかないよな」
現れたのは、焼け爛れたような全身をカタカタと震わせ徘徊する人型の化け物。
敵を見るや否や、甲高い奇声と共に刀でもブッ刺したみたいな鋭利な刃を右手から生やして急接近。
――速いッ。
敵の足元にスライディング。後、液化して股下をくぐって背後へ潜り込む。
突っ込んだ敵は勢いが止まらず壁に右手が貫通し、身動きが取れなくなった。
その隙に右腕を長刀に変形して一薙ぎ。斜め一本線が入ると、敵はすっと両断。分かれた体は一瞬で霧散した。
超あっさりじゃね。
「……何だったんだアレは」
『これは、貴方の仲間を呼んだ方がいいかもしれないわね』
「どういう事だ?」
『果たして、さっきのような化け物が蔓延るのはここだけかしら』
「は?」
その時。
「敵襲だああああああああああ!!」
里長さん達の号令が聞こえた。
『噂をすれば、ね』
急いで戻ると、さっき出くわした異形と似た奴に里長さん達が襲われているところだった。
クソ、何体もいる。
「里長さん!!」
「きゅ、救世主様!! こいつ、かなり手ごわいです!!」
最小限の身のこなしで敵の猛追を回避する里長さん。とはいえ、武器も持っていないので所々切り傷が出来ている。
他の面々も大なり小なり致命傷は避けているが長く持ちそうにない。
長期戦は無理、ならここは一網打尽しかない。
「皆さん、俺の後ろまで逃げてください!!」
「し、しかしっ!!」
「大丈夫!! 任せて下さいッ!!」
「わ、分かりましたっ。 お願いします!!」
砂塵の民達は、敵の隙を見て俺を目指す。
「ギュルルルルルルルルル!!」
奇怪な発狂で迫るバケモノ共の猛攻を潜り抜け、全員退避に成功。
当然敵さんも全員、的を俺へ変えるわけだが――
「動きは早くても、単調なら的と変わらないんだぜ」
一度やってみたかったんだよ、コレ。
右腕を刃状へ変化し、凝縮、さらに凝縮。……まだ、まだ、まだだ。
極限まで鍛え上げた逸品は鈍い紫光を放ち、斬る為だけの一振りと化す。
懐に納め、体を捩じる。
距離十、七、四、壱、至近……零距離――居抜くッ!!
「融解凝極刀」
一筋の光が流れ、静止。音が其れに追いつく時、触れる者皆土へ還す。
異形共は真一文字に刻まれ、声なき叫びと共に塵となった。
「す、すごい」
でしょ!? でしょ!? カッコよくね!!
昔道中でお世話になった冒険者が居合斬りをやってたんですよ。
一振りで敵がバーッと倒れていく、まさに達人みたいな技でした。
俺にも出来るかなって思ってやってみたら、うまくいきました。いやー、スキル様々ですね!!
なんて言ったらカッコ着かない。クールだ、クールに振舞うのだ俺。
「とりあえず皆さんが無事でなによりです」
「私達があんなに手こずった敵を一瞬で……やはり救世主様は救世主様でした!!」
「さすが救世主様!! バンザーイ!! バンザーイ!!」
「ま、まあたまたまですよ。たまたまで」
『鼻の下伸びてるわよ』
うっせ。
里長さんに敵がどのように現れたかを聞いた。
俺が隠し部屋を開けたタイミングで、突然例のバケモノが飛び出してきたらしい。
砂漠では見たことがないうえ極端に攻撃力が高く、スピードが速いものだから、猛攻を凌ぐのでせいいっぱいだったという。
俺が助けに来なかったらどうなったかわからなかった。と、心底安堵した様子だった。
おそらく、あのバケモノ達はこの施設の侵入者を排除する為に待機してたんだろう。
何千年も昔に出来た施設の警備がまだ活きているのも信じられないが、こうまでして敵に備えていることを考えると、『プロジェクト・ユピテル』を放っておくのはかなり危険な気がした。
「これは本腰入れて調べないとな」
『ええ』
俺はもう一度隠し部屋を調べることにした。
ハイキングごっこはもうおわりだ。
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