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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第三章 再会と別れ
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第13話 繋がり

「やめっ、もうやめてええええええええええええええええ!!」


「ヒャッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 砂の山が段差になって車体がガンガン揺れる。しかし、当の運転手さんは気持ちよくなることに夢中。こっちの悲鳴なんてお構いなしに砂漠の中を爆走。途中、右に旋回、左に旋回、急ブレーキのオンパレードで見事車内は地獄に。

 他の人はそれに慣れてしまったのか、はたまた麻痺してしまったのか。もうキラキラして楽しそうにはしゃいでいた。正気か、あんたら。

 

 あれから何分経ったかわからないけど、里を出てから今の今まで車内地獄は変わってません。

 もう、耐えられない。吐きそう。


 そう思った矢先、ズザザアアアアアアアアという摩擦音が。

 急ブレーキと共に車がストップ。俯いていたせいで前の座席に頭を強打。うめきながら顔を上げると、そこには何やら研究所の見た目をした平面の建物が。

 

「さて、着きましたよ!! ここが今回の調査場所です!!」


 正気を取り戻したのか、俺の知っている穏やかさを取り戻したバーサーカー。意気揚々で遺跡について説明を始めようとしてきた、が。


 ……あ、もう無理。

 真っ先にドアを開けて――


「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」


 ギブアップです。


 げーげー吐く俺の背をさすってくれる皆さん。それをするくらいなら安全運転してほしかった。

 でも吐いてるから何も喋れない。最悪である。

 

「救世主様、車酔いされたんです?」


 車酔いって何。馬車酔いのこと? なんて考えられる余裕、あるわけもない。

 もう一心不乱、心の赴くままに砂の海へお腹の中身と溜まったストレスをぶちまけた。


「最初は慣れないんですよねえ。自分も救世主様と同じく吐いてたのですが、慣れればこっちのものですよ」


 調査隊の一人がアハハ、と呑気に笑うと、つられて残りのメンバーも楽しそうに笑う。

 駄目だ、こいつら脳みそぶっ壊れてやが……


「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」


「……ちょっと休みましょうか」


「お゛、ね、が、い゛、じ、ま、ず」

 

 そうしてくれなかったら、マジでここから逃げ出してやるところだった。


 それからしばらく体調がマシになるまで車の中でぐったりしていると、里長さんが心配そうにこちらの様子を見に来た。


「調子よくなりました?」


 何が調子よくなった? だ。アンタのせいだろっ。


「はい、お陰様で!!」


 ちょっとムカついたので皮肉色強めでニッコリ笑いながら言うと、里長さんは感づいたのか大変申し訳なさそうに「すみません」と謝罪。

 

「いや、救世主様に楽しんでもらおうと思っていると、ついはしゃぎすぎちゃいました」


 頭の後ろをかいて、深々とお辞儀。

 騙されんぞ、俺は。もう二度とこいつの運転には乗らん。


 あと、ちゃっかり調査員に加えられている件についても問いただすからな、俺は。


「……ここまで自分を連れて来たってことは、何か理由があるから、うぷっ。なんですよね?」


 軽くえづきながら訪ねると、里長さんの目がまたキラキラと輝きだした。


「そうなんです!! では、その理由を説明する前にコレ――『自動車』について説明してもよろしいでしょうか!!」


 聞け。何が何でも聞け。みたいな感じでワクワクしながらそう言う。

 正直、もうそのリアクションだけでお腹いっぱいです。でも、聞かせるんでしょ? わかりましたよ、聞きますよ。


「『自動車』ってどういう仕組みで動いているか知ってます?」


「他の機械(マシン)見てたら、電気なのかな。って思いますけど」


「なっ!?」


 雷でも落ちたみたいなショックを受けた後、歯を食いしばって悔しそうな顔をするおっさん。天才でも見るかのようにこっちを凝視する外野。

 ……あってるのかよ。


「で、でもあれですよね、里長さん。馬車だと動力は馬なんで馬に依存しちゃう。けどこの、じどうしゃってやつは違うってことですよね?」


「そう!! 『自動車』はなんと、自動で動かすことが出来るのです!! アクセルで加速、ブレーキで原則。ハンドルで旋回。操作はたったこれだけなのですっ!!」


 あくせる? はんどる? またよく分からん単語が出て来た。いや、魅力的なのはわかるんだけどよ。

 運転手席を見せてもらうと、右側のペダルがアクセル――馬車で言う馬に振るうムチ。中央のペダルがブレーキ、まあこれはわかる。丸い輪っかがハンドル、これは手綱? とりあえずそういう風に解釈した。これらの操作系統が全部一つの席に集まっていた。


 とにかく動かしやすくて、小回りが利く。あとは、ブレーキも使える。それも、全部自分ひとりのタイミングで。

 内装も人が座りやすいように配慮されているし、前方のガラスだって前が見やすくなるように作られているからか無駄な仕切りがない。

 

 なるほど。里長さんが興奮するのも少しは分かる気がした。


「それで、こんなお宝たちが、沢山ッ、この遺跡には眠っているのです!!」


 もう一度周りを見回す。

 そこに広がっているのは、自分達の知らない文明の名残。空高く伸びる錆付いた鉄塔に、屋根の崩れた石製の壁で出来た縦長の建物たち、割れて骨組みだけしかない窓。あとは、砂漠に突き刺さったボロボロの看板、初めて見る文字の羅列。


 まるで別の世界に来たような、そんな錯覚を覚える。

 

「この建物たちはもうお気づきだと思いますが、この大地の上で栄えた過去の文明によって作られたものです」


 昔の建物って、建物の壁中に草木が侵食してツタがあちこちにくっついているイメージがあった。でも、土地柄かな。壁という壁にヒビが入っているけど、屋根に砂が溜まっていたり鉄製のものには錆が生えているくらいで、判別が出来ないほどボロボロになっている、ということはない。そういった建物達が所せましと並んでいる。

 この景色に対して思う事はやはり、


「自分が見て来たものに、こんなものなかった」


 魔族の領域というものに入ったことがないからかもしれない。しかし、そうだとしてもこんなにハッキリと人間の住む文化と違っている。

 果たしてそんなことあるんだろうか? あとは――


 

 ――俺が生まれる前に、一体何があった。


 

 里長さん達はぞろぞろと建物の中へ入っていく。その後へ俺も続く。


『私は貴方の選択に従う。それにこの場を逃しても、いつか必ず知らなければいけない時は来る』

 これは幻聴さんの言った言葉だ。そのセリフにこの遺跡が関わってくるのかを、俺は聞かなかった。


 違うな。

 聞けなかったんだ、俺は。


 もし、これが密接にかかわってしまったなら。

 想像したくもない可能性が、事実だということを証明してしまう気がしたから。

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さいごに、いつも見て頂き誠にありがとうございます。

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