第12話 遺跡へGO
一通り作戦会議が済んだので、里長さんが前もって用意してくれたベッドで仮眠をとった。
目が覚めると辺りはすっかりお昼時。思った以上に疲れていたらしく、いつの間にか里長さんも帰って来ていた。
「起きましたか、救世主様」
「はい、すっかり元気になりました。ところで、救世主って誰の事ですか?」
「あなたです」
自分の顔を指差す。解答はウインク。
どういうことだ。
「腑に落ちてないようですね。ですが、あなたは守神様を救いになったのです」
「はあ」
守神様っていったらあのでかいクジラの魔物ことだよな? ということは、昨日の話が理由ってことか。
どうやら里長さんによると、クジラの魔物――面倒くさい、もうクジラでいいや。クジラは砂漠の海をとても楽しそうに泳ぐようになったらしい。元々夜行性だったけど、昼もずっと活発なんだって。
元気になったクジラはとにかくはしゃぎまくった。
砂の中や残骸の中に隠れていた魔物達とぶつかりまくった。
結果、魔物の皆さんはぶっ飛ばされまくって、砂漠からきれいさっぱりいなくなった。それ以降、今日に至るまで全く現れないらしい。あまりにとばっちり過ぎて本当に可哀そうだと思った。
ただ、砂塵の民の皆さんからしたらかなり好都合なようで。
「おかげ様でまた遺跡調査に行けますよ。それに昼間なので視界も明るい!! こんな調査日和はありません!!」
こんな感じでもの凄くはりきっていらっしゃる。
どうやらこれからまた残骸あさり……あの屋根がまっ平なヘンテコ遺跡たちの調査に行くそう。
里長さんによると、外に出る理由の殆どが残骸から機械を回収する為で、元々『電子レンジ』とか『冷蔵庫』も全部残骸から拾ってきたんだと。
残骸にはそういったお宝がよく眠っているらしく、この里の皆さんの生活を支えたり、一部の方の間では一種の娯楽になっているそうだ。
ちなみに、その一部の一人が里長さん。
「そう言えば、救世主様はここまでどうやって来られたんです?」
「えっと、歩きですね」
「歩き!? よく生きてここまで来れましたね。魔物達には会わなかったんですか?」
「殆ど会わなかったですね……会ったとしても、こっちには見向きもしませんでした」
「ええ!? そういう事があるんですね。この付近の魔物は血の気が多い筈なんですが……」
里長さんは驚いた顔をした後、ふむふむと何か考える素振りを見せた。そして
「守神様を倒す時点で思っていましたが、救世主様、やはり相当な手練れと見受けました」
「はあ」
「もし、救世主様が宜しければですが、我々調査隊の護衛をお任せしたいのです。いかがでしょうか?」
「あー、護衛ですか……」
一応まおうサマからは色々な所にいってみれば、的な事言われてるし。正直自分でもずっとここにいるのは勿体ない気がしている。
とはいえ、興味がないと言えば噓です。
何かいい掘り出し物があるんじゃないか、ちょっとくらい見ていいんじゃないか。と思うくらいには楽しみになってしまっている。
しかし、何か手に入れたところで持ち運びが無理な可能性も。うーん、とりあえず一旦聞いてみるか?
「ちなみに手に入る機械ってどういうものがあるんです?」
「そうですね。例えば先ほどお見せした温度調節用の機械もありますし、他にも……そうだ!!」
里長さんが何か閃いた顔をした。
「救世主様。もし宜しければ、ちょっと付いてきてもらえませんか?」
ぐいっと目の前まで顔を近づけられて、ささっと手を掴んで来た。おじさんの目が子供みたいにキラキラしている。
「え、いや。あのですね――」
「では、行きましょう!! 我ら砂塵の民が発見した自慢の一品です。どうぞ、こちらへ!!」
「へっ。あ、あの。ちょっと!?」
ぐいぐい俺を引っ張って家を出ると、里長さんはじゃっ、じゃっ、と地面の砂を踏みしめながら集落の奥へと進んでいく。
家の上で遊んでいた子供達が不思議そうにこちらをじろじろ見て来た。いや、俺もどこに行くかわかんないんだよ。
このおじさん、どこに向かってんの?
「おじさん、『アレ』見せるの?」
キラキラした目で子供の一人が話しかけて来た。
「そうだよ。『アレ』を見れば、私達の活動にぐっと興味を持ってくれるかもしれない」
同じくキラキラした目で里長さんが返す。大のおじさんがこんなウキウキなんてよっぽどいい物なのか? そんな疑問といっしょにずんずん引きずられていく俺。
そして、目の前には他の集落より二回りほど大きな鉄の壁で覆われた建物が現れた。
里長さんが懐から何かを取り出す。これは――何だ? 小さめの四角いブロックに見えるけど。そこにはやっぱりボタンという奴がついていて。
里長さんがボタンを押すと、ぴっ、という高い音がした。
――次の瞬間。
目の前の鉄壁が鈍い音を立てて上に押し上げられていく。周りに人がいる様子もない……ってことはつまり、自動で開く壁ってことだよな?
こんなのシステリアでだって見たことないぞ。
「す、すごい」
「まだまだ驚かないでください。これはほんの序の口ですよ。メインディッシュはこれからです」
自信満々に里長さんはその奥をじっと見つめる。壁はゆっくりゆっくりと上がっていき……
『メインディッシュ』が姿を現した。
「ん?」
何というか、とんでもなくゴツいな。
荷台の車輪をとにかくぶっとく、大きくしたものが4つ。それらが大きな図体を支えていた。
本体は全体的に角ばっていて、外装はきめ細かな真っ黒で統一されている。
本体には所々光沢が出来ていて、ギラリと輝いている。奥行は馬車よりもありそうだ。そんなボディの前には4つ程形の異なる照明が埋めこまれている。
内装を覗いてみると、上部分が出っ張った背もたれの椅子が前方2席、真ん中、後ろの各3席の計8席が並んでいて、後ろ側の各3席はそれぞれ横一列に連結。やはり見たことのない中身だった。
馬車にしては大きすぎるし、馬が本体を引っ張る為の紐もついていない。
この気持ちをストレートに表すと、「何だコレ」だった。何でそんなウキウキなのかも全くわからない。
「これは一体……?」
取り合えず質問をしてみると、ギラっとした目でこちらを見返してきた。
「百聞は一見に如かず、百見は一動に如かず。これが私の持論でして!! とりあえず後ろに乗ってもらってもいいですか!?」
さっきの子供以上にキラキラしている。早く乗りたい、早く乗れと言わんばかりに真ん中の左座席へ案内される。ドアを開けるとやっぱり座らされた。
もう逃げられそうにないので椅子に体を預ける、が――
「へっ。なにこれ」
ち、超柔らかい。背もたれに寄りかかると丁度良い反発が返ってくる。おしりもやさしく包みこまれたような柔らかさ。
木製の椅子に長時間座っていたらよく体が痛くなるから、あまり座るのが好きじゃなかった。なのに、何だこれは。ずっと座れる、これ。問答無用に今までの椅子よりダントツで座りやすい。
あ、やばい。油断すると気持ち良すぎて気絶しそう……
――どるん。
「ん?」
中が小刻みに揺れ出す。とはいえ、不快さがないくらいのかなり小さな揺れ。同時に目の前の壁が、ゆっくりと上がっていく。
「一つだけ言わせてください」
そう言って、前の運転席に里長さんが乗ると、外からわらわらと他の人達が現れて空いた席に乗り込んで来た。席が埋まると、次々と開いたドアが閉められていく。
え、みんな笑っている。それも歴戦の勇士みたく不敵に。
「救世主様。これはね、車なんですよ」
「はあ」
見た目からそんな気はしてたけど。それが一体何だって……
「――でもね。これは只の車じゃあ、ないんですよ」
車が通れる位に目の前の壁が開いた。すると、里長さんは自分の肩幅ほどの輪っかに両手を乗せてニヤリと微笑。
そして、右足を前へ押し出した。ゆっくり、ゆっくりと車は前へと進み。
次の瞬間
爆発音みたいな音を上げて、車が急加速。荒々しく前へと進んでいく。
訳もわからんまま呆気に取られていると、なんと目の前には何十メートルも続く急こう配な下り坂が。
「ちょ、ちょっと。このまま行ったら――」
「ぶっ千切っていくぜえええええええええええええええ!?」
俺の静止は車の爆音と里長さんの発狂でかき消されて、そのまま、車体はゆったりと空を舞った。
その時、俺は理解した。
ああ、これはスタイリッシュ牛頭さんに城まで送ってもらった時と同じ奴だ、と。
ほんの少し、短い時間空を飛んだ車体は、ガッシャアアアアアアアアンと砂の下に叩きつけられた。
あまりの衝撃で前の座席へクラッシュする俺をよそに、里長さんは全力全開で砂漠を突っ切っていく。
もう、二度と魔族にどこかへ送ってもらうことはしない。
固く心に誓ったのだった。
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