第11話 逃避、のち作戦会議
『この世界に存在する『スキル』は、全て人工的に創られたものよ』
「……ハァ?」
率直に思ったのは、『何言ってんのコイツ』だった。
しかし、幻聴さんは訂正することをせず、その代わりに、自分の主張に対する根拠を次々と説明していった。
『信じられないのも無理はないわ。今と当時では、まるで文明レベルが違いすぎるもの』
「文明レベル?」
『そう。この時代はまだ文明が発達して間もない。だから自分達にとって超常的なものは全て神が生み出したものと決めつける。その方が都合がいいから。でも、そんなことないわ。少なくともスキルの全ては、人の遺伝子によって決まる』
「いでんし……?」
……俺はおとぎ話でも聞いてるのか? 全く意味が分からん。
『そう。遺伝子とは親から子、子から孫へと継承される情報。親と親の遺伝子を掛け合わせて新たなタイプの遺伝子を作り上げる。そして、その遺伝子が持つ情報――DNA。これによって人の行動パターン、思考パターン、体格、性格が全て決まる。勿論、割り当てられるスキルの効果、性能も』
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ。それなら、究極技術が選ばれる人も最初から決まっているってことか? じゃあ、親が究極技術を持っていたっておかしくないじゃないか」
けど、カトレアのお母さんがそれを持っているようには思えなかった。俺が子供の頃ケガをして、たまたま直してもらった時もせいぜい血を止めてくれた程度の強さだったはずだ。
でも、カトレアは間違いなく究極技術を持っている。スキル鑑定の結果をしっかりこの目で見たからだ。
『カトレアという子とその母親のスキル系統は同じ回復関連なのよね? 母親から系統を引き継いで、父親からスキルの強度を引き継いだと考えたら、私の方が筋は通っていると思うけど』
「……たまたまだろ。そんなもの」
幻聴さんの言ってることが正しければ、いでんし、とかいうよくわからん情報で人の運命が決められているってことになる。それは言ってしまえば、誰かと誰かが争う事を人間の根本が承認していることになる。つまり、争いを求めるのは『しょうがない』ということだ。
他にも嫌な考えが次々と浮かび上がってくる。その先に見えてくる最悪の仮説。
――駄目だ、考えたくない。これ以上はもう考えたくない。
『私は貴方の選択に従う。それにこの場を逃しても、いつか必ず知らなければいけない時は来る。その時まで待つのも一つの選択よ。どうする?』
「……悪い。とても受け入れられそうにない。もう少し後で聞かせてくれ」
逃げなのは分かっているさ。ほんの一歩も踏み出せない自分が本当に嫌になる。
そうだとしても。
『わかった。この話は今の貴方には辛すぎるもの。忘れて頂戴。さて、元の話に戻りましょうか』
「申し訳ないけど、そうしてくれ」
今の精神状態でこの先へ進むと、取り返しがつかないことになる。
何となくだけど、そんな気がした。
ふぅーーー……、と深く一息。冷静になれ。
ここは気持ちを切り替えるんだ。平常心だ、平常心。
『取り合えず、夢幻技術が居なくなって困る存在はいる。けれど、貴方がスキルを発現している以上、今すぐ公に出てくることはないわ。頭に軽くとどめておくレベルで十分』
なるほど。だとすると、今すぐ対策すべきなのは俺が挙げた2つの要因、ってことだな。
ただ、俺はいち冒険者の身であって強い権力を持っているわけではないし、コネすらも持ってない。そのうえで人を動かす方法を考える必要がある。
「俺としてはギルドの高難度クエストを受けまくって宣伝する方がいいと思うんだけど。幻聴さんはどう思う?」
『それだとかなり時間が掛かるわ。人間はともかく、それ以外への周知はどうするつもり?』
「……正直見当もつかん」
クエスト達成率を活かして、自分の有用性を口コミで回してもらう。悪い方法じゃないと思ったけど任務の達成率がスピードに直結する以上、周りに知られるまで結構な時間が掛かる。
できるならストーリー・テラーが動き始めるまでに土台は作りたい。そう考えるとなるべく早く結果を出さないといけない。
一方、幻聴さんは何かを考え始めたのかすっかり黙ってしまった。しばらく様子を伺ったけれど全く反応がない。
うーん、こういう時相手が見えないのはしんどいな。わざわざ声かけするしかない訳ですよ、人に見られたら間違いなくイカれた奴認定。
心の中で叫べるんだったら、是非そうしたいですね。ええ。
もしもーし、幻聴さん聞こえますかー? もしもーし!? もしもおおおおおおおおし!?
『うるさい、聞こえているから静かにして』
アッハイ。聞こえてたんですね。
『一つ案が浮かんだわ。貴方の案よりは効果が見込めると思う』
ちょっぴりわくわくしながら答えを待つ。しかし、幻聴さんの言った答えはもう、とんでもない方向だった。
『国を作ればいいんじゃないかしら』
目が点になる。
「……国、ですか?」
『そう。敵という抑止力を使わず、争いのない暮らしができるという凡例を国として立ち上げる』
「スケールデカすぎだろ。俺達のパーティはあのポンコツ竜とニアだけだぞ。とても達成できるとは思えないんだけど」
『じゃあ、諦める? 貴方の夢』
「ぐぬぬ」
そうですね。諦めませんよ。
自分で言ったんです、諦めの悪い男だって。どんなにハードルがぶちあがってもがんばりますとも!!
『それに、適任がいるでしょう? 貴方の友達に』
適任って……ああ、まおうサマ。
何千年単位で魔族のリーダーで、かつ俺と同様に戦争根絶を目指す仲間――
あれ、完璧じゃね?
『そのうえ、国を統治する経験もあるのだからアドバイザーとしては十分すぎる程よ。それに、どんな生物であれ、基本的にモノを選ぶときは比較して『より良い物』を選ぶわ。それなら『よりよい物』を簡単に体験できるようにして、選ばせた方が早い』
幻聴さんが言いたいのはこういう事だと解釈した。
国を立ち上げて、他国と交流。その際に他国のお偉いさんを招待して自分達の国を見てもらう。そして戦争無しで発展している姿を見せつければ、ほぼ必ず真似をしだすはずだ。後は、今のシステムに無駄があることを認知させて解決。
他の国の奴らは敵が誰かなんて認知してないだろうし、他にも色々粗はあるけど、広く伝える、という意味では一番ベターな気がする。
『もちろん、簡単に上手くいくわけではないわ。けれど、指針を決めておけば闇雲に動くよりは早く目的地にたどり着く。それだけでも大きなアドバンテージよ』
「そうだな。後は試してみて結果がどうなるか。それだけだ」
夢幻技術についての話は後だ。
まずは一番の目的を忘れずに、前へ進もう。俺が思っている以上に時間はないのかもしれないから。
この会話でようやく自分のメンタルが危ないことに気づいた。もう少し労わっていかないとな。
自分がおかしくなってしまう前に。
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