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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第三章 再会と別れ
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第10話 エゴイズムとエゴイスト

 里長さんから、ここに泊まっていかないか。と提案された。これに対し二つ返事で承諾。

 テレンガの里の二の舞は考えたけれど、幻聴さんの話だとストーリー・テラーは相当な深手を負っている。どうやらまた分身を用意するには相応のインターバルが必要らしい。嫌らしい程に用意周到な奴だから、今ここでリスクを負ってまで仕掛けてくることはほぼない筈。

 妥当だと思う。幻聴さんの意見に俺は納得した。


 という事で。俺は今、里長さん宅のベッドにお邪魔している訳だが、里長さんはまだ仕事があると言って、俺を預けるとさっさといなくなってしまった。手持無沙汰になった俺はこうして真夜中、見えもしない天井のシミを数え続けるという何とも意味のない暇つぶしでやり過ごしていた。


 ――とはいえ慣れないな。人間は昼に行動して夜は静かになるもんだから、こんな日が暮れた時にテキパキ働く里長さん達を見るとどうしてかげんなりしてしまう。


 さすがにげんなりの原因は別にあるか。

 里長さんの言葉がずっと頭にこびりつく。

 

『変わって欲しい、と思います。夜空はあんなに綺麗だというのに、下で生きる者たちは私達も含めて――とても醜い』


 弱肉強食が根っこにある以上、弱い存在は集団で行動したり誰かと関わることが必須になってくる。そうなると、高い確率で集団維持の為、仲間外れにされる存在が生まれる。それが起きてしまい、被害者という立場になってしまったのだろう。


 どこにでもある事なのはわかっている。

 それでも、自分にとってはかなりショックな出来事だった。

 

 きっと夢を見ていたかったんだ。

 誰かを貶めたり、迫害したりするのは俺達みたいな奴らだけであってほしいと。利益を搾取するような奴がいるから全て悪いんだと。でも、それは半分正解で半分不正解。


 団結を強くするために敵を作るのは自衛的な意味もある。人間の教育に出てくる魔王なんてまさにソレだ。敵をあおって、人間同士のいがみ合いを無くす。そしてその敵がなまじ強い分、協力しないと勝てないから結束はより強くなっていく。


 ヴァルヘイムやストーリー・テラーの言う『平和』がこれだ。

 それが嫌で答えを探し続けているが、悲しい事に代替案は全くない。敵を倒して、その次はどうする? その後が浮かばない。


「ただのワガママなのかなあ」


 世の中は上手く回ってるのかもしれない。俺が納得いっていないだけで。

 でも、俺は少なからず体験してしまったんだ。『敵』になった奴の末路を。あんなもの、許しちゃいけない。


「幻聴さん、ちょっといい?」


『構わないわ。今後どうするか、ね?』


 話が早くて助かる。


『まず、ここでハッキリさせたいのだけど。貴方はどうして戦争を無くそうとしているの?』


 何でってそりゃあ。戦争で家族がいなくなってしまったからだ。

 もうあんな思いしたくないし、ニアと話した時も家族の顔は殆ど覚えてないって言ってた。余程ショックで記憶に蓋をしたんだろうな。

 ……両親の顔も知らないなんて、辛すぎるだろ。


『気持ちはわかったわ。でも、ここで全部口にしなさい。頭の中で思うのと口に出すのは別。口に出すことで初めてイメージは形になる』


 確かに自分の感情を言葉でいう事は少ない気がする。

 頭でばっか考えてたら、ダメだよな。

 

「……そうだな。わかったよ。俺はもう戦争で大事な人がいなくなるのは嫌だ。もっと他に解決策があるはずだ。それに、またいつ誰かがいなくなるって思うと、とても耐えられない」


『大事な人がいなくなってほしくないから、ね』


「チープだと思うか?」


『いいえ。考え方は人それぞれ、大も小もない。手段が間違っていなければ、それでいい。それが私の持論よ』


 てっきり、『この力はもっと崇高な理由で使え』とか突っ込まれるとおもったけど……幻聴さん的にはオーケーな解答だったってことか?

 

「何というか、幻聴さん。凄く人間味あるよな」


『……』

 

 返答がない。地雷踏んだか?


「すまん。気に病んだなら忘れてくれ。そういうつもりじゃなかった」


『わかってる。貴方が気にすることではないわ。それよりも、貴方が目的を達成して、それによって何が起きるのかを考えましょう』


「リスクの整理という奴ね、了解。じゃあ、仮に敵を倒したとして、拮抗が崩れた時にまず起こる事と言えば……暴動だよな」


『そうね。せき止めるものも無くなって、今まで学んできたことが嘘だと知ってしまったら一部の人間は必ず行動を起こすわ。その対策は考える必要があるわね』


「あとは、内戦か。衝動的に発生する暴動とは違って、単純に利益を追求する奴らが計画を練って他の国とか地域に侵略をしてくる奴らが増えそうだ」


 目の上のたんこぶがいなくなって喜ぶ奴らも必ずいる。そいつらが機を待っていたなら間違いなく周囲の国に喧嘩をふっかける。これも避けたい事態だ。

 大事なのは拮抗を崩さない事。敵というシステムとは別のストッパーを考える必要がある。


「他に思いついたりするか?」


『概ね同じ。付け加えるなら、敵がいなくなって不利益になる者も一定数いる。位かしら』


 敵がいなくなって不利益になる……人間目線で言うなら、魔王を倒すことを良しとしない存在。

 このケースで言うなら魔族の皆さん……


 ん?


夢幻技術(オリジナル・スキル)が無くなって、困る奴らっているの?」


『いる。夢幻技術(オリジナル・スキル)とは、ある目的を果たす為に()()()()()()。これが無くなれば、世界は一気に混沌の時代に突入する』


 やっぱいるんだな。そういう奴らって。でも、一体誰が――


 ちょっと待て。


「今、夢幻技術(オリジナル・スキル)が創られたものって言ったか?」


『そうよ』


 スキルというのは16歳になった時点で発現する、しかも何が手に入るかは完全にランダム。横でスキルを発現する奴を見たんだからこの認識はさすがに間違っていないはずだ。それとも、夢幻技術(オリジナル・スキル)は発現方法もまた通常のスキルとは別なのか?


『勘違いしているようだから先に言っておくけど』



 混乱する俺をよそに、幻聴さんはさらに衝撃的な事実を告げた。

 そして俺は、この世界の秘密へ一つ、足を踏み入れることになる。



『この世界に存在する『スキル』は、全て()()()に創られたものよ』

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