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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第三章 再会と別れ
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第9話 俺達は、同じ空の下で生きている

 砂塵の民。

 元々この場所に住んでいたわけではなく、行き場を無くした者が自分たちの居場所を探して自然とここに集まった人達の総称。


 この里が出来たのはおよそ100年程前。里長さんを始めとした難民数名が、砂漠で拾った残骸をかき集めて作り上げた。

 そのせいか、俺の知っている集落とは一風変わった姿をしている。


 かき集めた残骸や鉄くずをくっつけて家を作っているからか、最低限雨風を避ける以外の機能はない。

 突貫ぶりを象徴するように、平らに整えた屋根からはちらほらと鉄パイプが飛び出していて、夜だというのに子供達がそこにぶら下がったりぐるぐる回ったりしてそこら中を遊び回っている。ここに似た建物が何軒か立ち並んでいて、そこでも魔族の皆さんが何かやり取りをしている。


 わかったことは、この里の人達は夜行性らしく、夜になると今見たく子供達が活発になったり、大人達は仕事を始めたりとそれぞれの生活をスタートする。そして昼になると皆夜に備えて睡眠をとる。そんな生活や光景は、誤解を恐れずに言うならスラム街を小ぎれいにした街。といった印象だった。


 ただ、一番変わっていたのは建物の中だった。

 見た目は何の変哲もない横長の置物。しかし、空いた口からは暖かい風や冷たい風が流れる。この箱を操作する四角いケースはリモコンと呼ばれる道具で、ボタンという突起物が付いている。それを押すことで、好きに温度調節ができるらしい。昼の暑さ対策もできれば、夜みたいな極寒対策もできる。こんな有能な道具見たこともない。


 他にも変わった道具がいくつかあった。

 自動でお湯を沸かすポットと呼ばれる器や、常に食べ物を冷やして保存できる開閉式の金属製の棚――冷蔵庫(れいぞうこ)。逆に食べ物を温めてすぐに食べられるようにするケース、電子(でんし)レンジ。あとは、自分の家にもあるコンロ。ただし、俺達が使う魔石やスキルが燃料のものではなく、電気を動力にしたタイプ。水は、自動で地下水をくみ取る道具でどうにかしているとのこと。

 

 こういった電気を動力源に作業を肩代わりして負担を減らしてくれる道具を纏めて、この人たちは『機械(マシン)』と呼んでいるらしい。

 砂塵の民の皆さんは、この機械(マシン)で家の無機能っぷりを補完しているようだった。かなりいい暮らししてらっしゃるようで。


「見たこともないものがいっぱいあります」


「そうでしたか。実は私達もこれを使うようになったのはほんの数十年前くらいで」


 数十年って俺らからしたらもう、昔話なんだけど。

 口に出してもしょうがないので静かにしていると、先ほど、ぜひとも里を案内したい。と俺を里まで連れた来たおじいさん――里長さんは、早速機械(マシン)について知っていることを話してくれた。


 機械(マシン)とは、今よりも遥か昔に発展した文明の名残らしい。

 電子レンジとか、冷蔵庫とか。そういったものを見ていればある程度察せるけど、今の文明では到底作れもしない高機能な道具がいくつもある。中には過去に自分が見たもの、聞いたものを機械に保存して、もう一度見れる。といった、夢みたいな代物まであるそうな。


 見た目こそボロボロの集落、けど、中には誰よりも先を行った文明が広がっている。スクラップの中には、最先端の未来があったってわけだ。


「これらは自分で作ったんですか?」


「いやいや、私達にこんな逸品たちは作れませんよ。そこら中に落ちていたものをちょっと拝借しているだけです」

 

 どうやらこれらは元々残骸から見つけたモノらしい。動力が電気なおかげで雷スキル持ちの人がいればすぐに使えるようになる。皆さんが高機能に感動して以来、機械(マシン)達はうまい具合に生活の支えになっている。そのうえ魔族は殆どが無尽蔵な魔力持ちの為、ほぼ使い放題。うらやましい。


 ガシャガシャ動く機械たち、せっせと仕事をする皆さん。

 ふと、気になる。どうして夜なのにみんな元気なんだろう。

 

「昼は外に出ないんです?」


 里長さんに尋ねる。


「昼は魔物が多いから外には出れないのです。ひょっとして貴方様は魔族の出ではないのでしょうか?」


 もうバレた。何故そう思ったのか尋ねると、『魔族ならこの砂漠の生態は誰でも知っていますよ』と、返って来た。

 どうやら、さっきの守神様とかいうクジラの魔物が夜に活発な為、魔物が近寄ってこないらしい。ただ、昼になると守神様は寝てしまうのでこれみよがしに他の魔物が活動を開始。皆強いので外に出るのは自殺行為。皆、家で大人しくしているんだと。へえ、本当に守り神やってんだな。あのクジラ。

 

 人間というのがバレたので少しだけ身構えたけど、特にこちらを(とが)める様子はなさそう。実際、俺を追い出すような素振りは見せなかった。

 それなら、もういいか。嘘を付いてもしょうがないし、余計な気遣いもしたくなかったので、身分は伏せたうえで旅でここに来ていることを正直に話した。


「ふむふむ。だとすると、遠く離れた所からここまで来たのですね」


「……そういうところです。自分の肌を見て嫌悪とかしないんですか?」


 肌の露出が少ないとはいえ、魔族である以上俺が人間であることは理解しているはず。しかし、里長さんは俺を責めることはしなかった。


「そういう事はしたくない。私達だって迫害されてここに流れ着いた。誰かを責めたり、責められたりするのはもう御免こうむりたいのです」


 苦笑いしながら、彼は言う。


 魔族の中でも迫害ってあるんだな。仲間意識高いと聞いていたから意外だ。

 とはいえ、まおうサマ内々の争いがあるともちらっと言っていた気がする。ひょっとすると、それに巻き込まれたのかもしれない。


「もう、あんな凄惨なものは、二度と味わいたくない」


 里長さんは顔をしかめてぼそっとつぶやいた。独り言にしては、あまりに強い熱量を持っている気がした。

 その姿を見て、俺は、どうしてもこの質問をぶつけずにはいられなかった。


「里長さんは、この世界をどう思いますか?」


 そう聞くと、里長さんは一瞬だけ目を見開く。そして、俺の顔をじっと見つめたあと、悲しみに満ちた表情でこう答えた。


「変わって欲しい、と思います。夜空はあんなに綺麗だというのに、下で生きる者たちは私達も含めて――とても醜い」



 この世界には、種族なんて関係なしに深い傷を抱える人がいる。

 旅の目的を改めて認識させられた瞬間だった。

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