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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第三章 再会と別れ
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第8話 砂塵の民

 砂漠の空はすっかり夜の景色に仕上がった。

 真っ暗な空にぽつぽつと光輝く星がちらばっていて、あれ程吹き荒れていた風もすんと静まっている。


「きれいだなぁー……」


 それぞれの星が赤、青、緑と様々に輝き、それが何千、何万と散りばめられている。また、空の中を何種類もの光が波のようにうねりながら、何色にも光る半透明の幕を作り上げていた。

 旅を続けて3年になるけど、こんな景色見たことない。何というか、心が洗われる。


『そうよ。そうやって、自分の心に感動を与えるの。怒りや悲しみばかりでは心が疲弊するわ』


「幻聴さんも、この景色いいって思うのか?」


『私には感情がない。これを見ても思う事は無いわ』


 嘘つけ。先を進もうとしたら何回か物惜しそうにしてただろ。その度に『あっ』って言ってたろ。


 何というか、こんな絶景とか、クールぶって実はボケボケの幻聴さんを見ていると、自分の悩みとか全部どうでもよくなるわ。

 ある意味、これも心の保養なのかもしれない。


『当たり前だけど、全てが全て上手くいくことはない。持てる力を振り絞って最善の結果を生み出す。それでいいのよ』


「……わかってるさ」


 わかってるさ。どんなに力を手に入れたって、俺達は万能じゃない。

 出来ることしか、出来ないんだ。


 ひんやりとした空気の中、道を進む。

 そろそろ、集落らしき建物があってもいい頃なんだけどな……


 その時だった。


 念のため用意していた生体検知用の毒が視界を赤く染める。

 それと同時に、ズズズズズと大きな地鳴りがした後、急に地面が激しく揺れ始めた。


「な、なんだ……!?」


『――ッ早くここから離れなさい!!』


「ああっ、もう!!」


 折角落ち着いたと思ったのに!!

 4、50メートル程先にある残骸目掛けて腕を伸ばし接着。伸びきった腕を戻す勢いで進みながら、次から次へと残骸をつたって移動していく。


 ある程度距離を取ったところで、様子を伺う。

 その瞬間、猛烈な揺れはピークになり


『グアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 巨大な何かが砂を纏い宙を舞った。それはまるで巨大な要塞。

 あの空を全て覆い尽くすほどに大きなソレ――クジラに似た魔物は、耳が破れる程雄たけびを上げ再び砂の海に消える。


「……何だアレは。バハムートの何倍も大きいぞ」


『この海の主、というところかしらね』


「海みたいに広いから、そりゃああんなでっかい奴もいる訳か。最悪だッ!!」


 先ほどと同じ要領で再び残骸を伝って前へと進む。心底、ここが残骸だらけで感謝した。もし、ここが砂だけの更地だったら確実に吞み込まれていた。


 まじまじと魔物が出てきたところを見ていると、どうしてだろう。何故か目が合った気がした。

 途端、潮吹きのように噴出する砂がゆっくりとこちらへ――

 

 ……ちょっと待て。アイツ、こっちに近づいてきてないか?

 砂の飛沫を挙げながら、爆速でこちらへと接近。


「逃げるしかない!!」


 しかし、その差を縮めるには至らずひたすら追われる時間が続く。


 悲しいかな、さらに不運が続く。

 ついに集落が見えてしまった。最悪のタイミング。


 このまま何も考えず、逃げてしまえば間違いなくあの集落は砂の下に沈む。何の罪もない人が死んでしまう。

 ――戦いは避けたかったけど、これはもうやるしかない。

 

「幻聴さん。アレって今まで戦った奴らより強いか!?」


『それはないわ。5割位の力で倒せる』


「そうかよ!! 本当にとんでもねえバケモンスキルだな、この力!!」


 それなら安心して、戦える。


 敵と向かい合うように対峙すると、それに気づいたのかクジラの魔物はさらにスピードを上げた。

 巨大な体が砂から少しずつ浮上していき、その全体を露わにする。


 あまりのデカさに目が奪われるが、正気を取り戻し、迎撃に備える。

 やるべきことはコイツの撃退。5割で行けるなら、殺さずに済むか。


 右手に毒を密集させると、拳が紫に染まる。さながらストーリー・テラー戦でバハムートが使った必殺技のミニチュア版といったところか。

 砂の上を液体に変化させた体で直進し、勢いに乗りながら魔物の頭上へジャンプ。


 向かい合った時点で再び人間の姿に戻り、空いた左手を伸ばして敵の頭にくっつけた。そのまま腕を戻す引力に乗りながら勢いに任せる。


「大人しくしてて、くれよ、なッ!!」


 体をひねって生まれたバネと、左腕を戻すことで生まれた引力を組み合わせてトドメの一撃を振るう。爆音と衝撃が魔物の頭上に落ちた。

 するとクジラの魔物は声を上げる間もなく砂に叩きつけられ、一瞬でノビてしまった。


 ピクリとも動かず、目をグルグルして戦闘不能。


「ふぅ、これで大丈夫だな」

 

 取り合えず、死んではいないようだから目的は果たせた。後は、コイツを遠くにポイするだけか?

 溶かした右手を伸ばし、魔物へ触れようとする――


「ちょっと待って!!」


 今度こそ人らしき声がした。

 振り向くと、そこには魔族が何人か立っていて、怯えた様子でこちらを見ている。


「おねがいだから、守神(もりがみ)様をころさないで!!」


 魔族の子供がそう言うと、俺へとかけよりぽかぽかと殴り掛かって来た。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。守神様っていったい?」


「ころさないでええええ!! ころさないでええええ!!」


「わかった!! わかったから、落ち着いてくれっ。もう何もしないから!!」


「ほんと……?」


 子供がうるうるしながらこっちを見上げてくる。罪悪感が尋常じゃない。


「ああ!! 取り合えず、コイツ治してやるから。それで許してくれ。な?」


「ほんとになおせるの……?」


 もう、心が痛い。さっさと回復させて立ち去ろう。


『こんな子供を泣かせるなんて、最低ね』


 くぅー、ムカツク!! 自分は悪くないですアピールかっ。人に見られないくせして姑息な真似しやがる。もし、人に見られる姿だったなら散々こき下ろしてやってたところだ!!

 とはいえ、いたたまれない状況には変わりない。泣く泣く自分が応対するハメに。


「――敵毒適化(ヴェノム・ヒール)


 体から大量の毒液が飛び出し、守神様と呼ばれた奴をおおう。

 傷を癒しながら毒液はゆっくりと垂れ落ち、完全に垂れ切る頃にはすっかり守神様はピッカピカになっていた。


『ぐああああああああああああ!!』


 耳が吹っ飛びそうな雄たけびをあげるとこちらへ向き、ぺこりとお辞儀。そのまま砂の海に消えていった。

 ……なんだったんだ、あれ。


「すごいすごい!! ほんとうになおった!!」


 子供達がキャッキャ言うと、後ろで控えていた大人の魔族達もこちらへ駆け寄って来た。


「ああ、守神様があんなに元気に……ありがとうございますっ。ありがとうございますっ!!」


「……いえ、おかまいなく。こちらこそすみませんでした。では、これにて」


 軽く一礼して、立ち去ろうとすると子供の一人が俺の手にすり寄って来た。


「いっちゃうの?」


「そ、そうだね。ちょっと用事があってね」


 苦笑いしながら、魔族の皆さんをちらっと見る。皆心なしか残念そうな様子。

 ああ、これはアレだ。歓迎したくてウズウズしているアレだ。案の定、俺がここから離れる素振りを見せると、もの凄く悲しそうな顔をしてきた。


「……あ、あ~急に用事が無くなったな~。ちょっとだけ空きができちゃったなあ」


「であれば、この砂塵の民一同。是非、貴方様を里へご案内させて頂きたい!!」


 ニッコニッコで大人の一人がこちらへすり寄る。……これはもう逃げられないな。


「……お言葉に甘えます」


『心が弱いわね』


 うるせっ。


 砂塵の民のみなさんは、とても丁寧に集落を案内してくれました。

ブックマーク、高評価お待ちしております!!

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非常にモチベーションがあがります!!


レビュー、感想も頂けるとさらにうれしいです。


さいごに、いつも見て頂き誠にありがとうございます。

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