第7話 忠告
「これ、ヤバくないですか?」
かなりマズい事態です。
どうしてでしょうね。砂漠について大分時間が経ったのに、まるで目的地に着きません。
地図の通りに進んでいるはずなんですけどね。一向にここから出られないんですねえ。
なんなら真っ赤な空も薄暗くなってきて、挙句風も強くなってきてるんで、若干俺の知ってる砂漠みたいになってるんですよね。夜になったら凍死する的なアレ。
「ハックショイ!」
いやー、さむい!!
そんでもって、俺の頭は真っ白です。
もう、どうしたらいいかわかりません。お腹だってぐーぐー言ってます。おちゃらけてないと、おかしくなりそうです。
誓って言いたいんですけど、こんなノープランでほいほい歩いたことないんですよ。
いつもはわりと万全に準備するし、食料とか水も揃えて外に出るよう心掛けてるんです。伊達に3年旅してないんですよ。
「……ッハァァーーーーーー……」
認めよう。
蛇の叡智にかまけてました。
あれだ、ヴァルヘイムとか、ストーリー・テラーとか。ああいうバケモノ達倒したから何が起きてもどうとでもなるだろって思ってました。
まるで関係ないですよね。敵の強さと空腹ってなんの因果関係もないですよね。
もう、ひとりで本当によかった! これ、誰かに見られてたら全てを喰らう者で消し炭にしてましたよ。そんでもって、冒険者名乗るのやめてますっ。
ま、名乗る前に死にそうなんですけどね!
「……腹減った」
『……お腹空いた』
誰だ!?
突然の声に辺りを見回す。が、誰もいない。
『……私の声を忘れたって言うの? キール・シュナイダー』
よくよく聞いてみると女性の声らしかった。
あれ、この声どこかで……
「もうちょっとで、思い出せそうなんですよ。首元まで出てて……」
『怒るわよ』
「あっ、幻聴さんか。こんばんは!!」
『これで思い出すってどういうこと。私ってそんなに怒りっぽいかしら』
「いや、そんなことない筈なんですけど。急に思い出さないとやられるって思っちゃって」
『何よソレ』
幻聴さんの声、常に凛としてるからかなり冷たく聞こえるのよ。肝が冷えるっていいますか。
『……とにかく。まぁ、久しぶりね』
「ええ、久しぶりですね」
沈黙。
ザクッ、ザクッと砂の上を歩く音と風の吹く音しか聞こえない。一向に話が始まらない。
「……」
『……』
「……ひょっとして、人見知り。しちゃってます?」
『……そんなわけないじゃない』
「ブッフォ、アーハッハッハッハッハッハッハハハ!! ハッハッハ、げごっ!? ゲホッ、ゲホッ!!」
やべえ、布マスクがずれて砂が口に入った。ううう、喉がイガイガする。
幻聴が人見知りってなんだよ、どんなギャグだ。おかしすぎるだろ!?
『そこまで笑わなくてもいいじゃない』
「いや、すみません。ちょっとツボに入ってしまって、ゲホッ、ゲホッ」
普段クールなのに、突然おちゃめな所見せてくるんだよな。いきなりまおうサマに欲情したり、もうインチキにも程がある。
『貴方の考えてること、私も認識できてるってことも忘れていないかしら?』
ハッ。そうでした。いけないいけない。
気を取り直して、今度は幻聴さんへ本題を確かめる。
「今、俺に話しかけて来たってことは大事な話があるんだよな?」
『……そういうことよ』
一拍置いて、冷静さを取り戻した幻聴さんはある事実を告げる。
『あなた、自分が危ない状態にあるの自覚している?』
「へ? そりゃあこんな所で遭難してるから自覚もなにも……」
『そういうことじゃないわ。この状況だけではない。あなたの『精神』についてよ』
「精神……?」
夢幻技術は精神依存の力だ。もし、自分の精神が不安定だとその力は弱まる。
ちょうどニアに刺された時、動揺して、体を溶かしたり回復することすらできなかった。結果がそれを証明している。
それが今と何か関係あるのか?
『そもそも、私はこれまでの間に何回か声をかけていたのだけど。気づいていなかったのでしょう?』
「え、いつから?」
『貴方がギルド? の女に何か言われて部屋にこもったでしょう。あの時からよ』
そんな早くからですか。
「ちょっと待ってくれ。じゃあ、ストーリー・テラーと戦ってた時も何回か声かけてくれたのか?」
『当然。あのまま行けば負けると思っていたもの』
さらっとキツい事実を言うな。まぁ、言いたい事はわかるけど。
ずっと後手に回って何もできてなかったし。機転が効いていなかったら100%負けてた。
『幸い、身に付けた力をそのまま使う事はできている。だから、ある程度の相手には負けないでしょう』
ある程度、ね。含みのある言い方をするな。何が言いたいかはわかるけどさ。
『わかっているんでしょう? 偶像作家はまだ死んでいないこと』
「……やっぱりか」
あの不自然な改変が残っているんだ。死んでいるわけがないか。
頭が痛くなるが、こればっかりは逃げようがない。
『悪い事ばかりじゃないわ。アレは分身とはいえ、確実に本体の力を引き継いでいる。つまり、ある程度のエネルギーを消費しないと分身は作れないということよ』
幻聴さんいわく、分身を作るには相当なエネルギーが必要らしい。それを消費してしまった今、残された本体はかなり弱っている状態。それも、全盛期の半分くらいには。
とは言っても、分身よりはずっと強いが。
ちょっと待て。
「やけに詳しいな。敵の力ってそんな筒抜けなもんなのか?」
だとしたら、俺の持っている力も割れていて当然だが……あの時のことを思い出すとそんな様子はなかったぞ。執拗に能力分析している様子あったし。
『……そうね。それについてはいずれ話すわ。とにかく、私の言いたいことは貴方の思う以上に貴方の精神は弱っている。それも私の声が聞こえない位に。これは非常に危険な状態だと認知してちょうだい』
恐らく、精神が不安定な状態を続けるなって言いたいんだろうけど。それって出来るものなのか?
『勿論、辛いことがあれば私に話してくれればいい。その為に私がいる』
「……信用していいのか?」
『信用を得るのは私の仕事。貴方は耳を傾けるだけでいい』
そうかよ。そこまで言うならお言葉に甘えて早速相談するぞ。
「この砂漠から抜け出せないんですけど、どうしたらいいですかっ」
『知らないわ』
クソッたれめ。
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