第4話 夢なら醒めて
兄は少しだけ人が変わった。
旅に出るまではそんなことなかったのに、どうしてだろう。って気になっていた。
だけど、ムーちゃんはそんなこと気にしてないようだったから何も言えず時間だけが過ぎていく。
きっとお兄ちゃんは自分の変化に気づいていない。ちゃんと取り繕えてると思っているのだろう。
実際、注意しないとわからないくらいにお兄ちゃんは自然に振舞っていたと思う。不自然に感じている人達だっていないようだし。
でも、昔から見て来たあたしならわかる。
受付嬢さんと仲良く話していると思えば、お兄ちゃんは一度も目を合わせてない。
大事な話をするとき、目線を合わせるのがお兄ちゃんの癖だけど、それが嘘のように無くなっていた。
受付嬢さんは、お兄ちゃんがある程度名の知れた冒険家だって言ってた。
それなら知り合いだって沢山いるはずなのに、あたし達や受付嬢さん以外の人と話している様子がまるでない。それどころか、用事がない限りずっと部屋に引きこもっている。
まるで、人を遠ざけているみたいだった。
それはあたしと話す時も少しだけ感じた。
その理由が、やっとわかった。
お兄ちゃんが刺されているのに、誰も助けようとしない。
それどころか倒れるお兄ちゃんを指差して笑っている。
どうしてだれも止めないの。お兄ちゃん、刺されたんだよ?
お兄ちゃん、とても強くなったけど人間なんだよ? こんなことされたらおかしくなっちゃうよ。
カトレアだって仲間でしょ。なんで助けないの、止めなさいよ。
そんな頼みの綱は、楽しそうに兄の顔を踏んでいる。
体から一瞬で血の気が引いた。
吐きそうになって、すぐ気が狂いそうな程の強烈な怒りが頭を埋め尽くす。
「オマエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェ!!!!!!!!!!」
お兄ちゃんが帰って来て、旅はどうだったのって聞きたかった。
けど、時折悲しそうな顔をするから、聞いちゃいけないんじゃないかってやめていた。
人を大切にするお兄ちゃんのことだ、何もなければカトレアだって連れて来たハズなんだ。
だから、聞けなかった。お兄ちゃんが何も言わないってことは、お兄ちゃんの中で納めておきたいんだと思っていたから。
何も知らなかった自分が、ほんっとうに嫌になる。
女の顔を掴み床に叩きつけて、顔面を殴りつけた。
どうして!! どうして!!
あたしのせいでずっと頑張ってるお兄ちゃんが、どうしてこんな奴らにッ!!
「お前のせいでッ……お前のせいでええええええええええええええええええ!!」
「や、やめて。たすけ……」
ふざけるな、何が助けてだ。
お兄ちゃんが助けを求めてもずっと無視してきたんだろ。自分じゃそれをやっておいて、人に助けを求めるのか?
冗談じゃない、絶対に許さない。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
一心不乱に殴った。
始めは避けようともがいていたけど、しだいに抵抗しなくなっていき、何かが詰まったような音を吐きながらピクピクと震えていた。
見知った顔がぐしゃぐしゃに潰れても怒りは収まらない。もうどうしようもなかった。
「あたしの為に旅に出たんだよ! あたしみたいな何の取り得もない弱い奴でも外を歩けるようにって。死んでしまったお母さんやお父さんが安心してあの世で生きられるようにって!!」
「誰かの為にずっとずっとずうっと頑張ってきたんだ!! そんなお兄ちゃんが、何でアンタみたいな奴らにバカにされなきゃいけないの!?」
自分でも何を言ってるのかわからなかった。まともに喋れてたのかすら怪しい。
それでも、とにかく殺してやりたいという気持ちだけがどんなに振り払おうとしても消えなかった。
「お前らのせいだッ。お兄ちゃんがおかしくなったのは!!」
そこからはもう覚えていない。
目が覚めると、あたしはお兄ちゃんとは別の一室に運ばれていて横になっていた。
「……ここは?」
「ワレが用意した一室だ。好きなだけ休むがいい」
声のする方へ振り向くと、8歳、9歳位の頭に王冠を付けたお子様が立っていた。口元から2本の八重歯が少しだけ飛び出ている。
「ワレの事は、キールから聞いているか?」
「……すみません、なにも聞けてないです」
「謝らなくていい。それに、そこまで何も言わなかったのは理由があるのだろう、尊重する」
何も知らずにここまで来てしまったことを後悔する。
思えば、お兄ちゃんの引き留めにずっと反発してここまで来た。だから、この後何するかなんてお兄ちゃんに相談してなかった。
やっぱり、ほんの少しでもお兄ちゃんから話聞いておけばよかったな。
「ンンッ、早速だが名乗らせてもらおう」
男の子は小さく咳払いして
「ワレは第三代魔王ヴェルズ。魔族を統治するものだ。君の兄、キールとは短いながらも良い関係を築かせてもらっている」
この人が魔王。
様々な争いを生み出して戦乱の世を作ったといわれる存在。
そして、この旅の鍵を握る人物。
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