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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第三章 再会と別れ
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第3話 夢はいつか醒める

 過去を全て清算するつもりだった。

 あれだけ俺を見下した目をした奴らは、目論見通りたった数時間で目の色が怯えに変わった。

 もう、昔の俺じゃないことは十二分に伝わっただろう。


 あの時、高揚した気持ちに身を任せてかつての友を殴り続けた。

 泣きべそをかきながら助けを求める男に、一切の慈悲も与えなかった。


 ニアも巻き込んだ。

 秘密にするつもりだったけど、覚悟を決めた彼女がこの現実を知ってどんな選択をするのか知りたかった。


 こんな危ない旅なんて、とっととやめて欲しかった。

 

 全部過去と決別する為だった。弱い自分をさらけだして、ぶった切られて、独りになる為だった。


 そうだ、これで良かったんだ。

 俺は間違っていない、間違ってなんかいない。

 

 なら、どうして。

 正しい事をしたはずなのに。


 こんなに気持ちが晴れないんだ。


 

 城の一室から日の光が差し込む。

 光の奥をのぞき込むと、真っ赤な空とブレンドして淡く輝く薄黄色の光が、草木も枯れ、干からびた大地を照らしていた。

 

 現実の厳しさを示す光景に感じる暖かさ。

 頭がおかしくなっちまったんだろうか。とはいえ、この言葉にできない安心感を整理する気力もない。ただ感情に流されるまま、ぼうっとそれを眺めていた。

 

 そういえば、まおうサマから魔族が住んでいる環境について少しだけ教えてもらったっけ。


 ここ数百年でこの辺りの土地から植物、動物が殆どいなくなってしまったそうだ。

 過去に大干ばつがあって、土地中の水が殆ど干上がった結果、土の性質が変わって生命力の弱い草木は生きられなくなった。

 当然エサが無くなった動物もあっという間に餓死し、残ったのはエサを求めて暴れる魔物や、屈強な植物だけ。


 この周辺の魔物が人間界に比べて滅茶苦茶強いのは、魔物同士で殺し合い生き残った奴らが種を残しているから。

 日々喰うか喰われるかという限界状況の中で生き延びているから、たとえ小動物みたいな容姿をしていても全く油断できないらしい。

 人間がこの環境に耐えられなくて、遠くに逃げたというのが簡単に想像できる。


 そんな環境で生きていくわけだから、当然強くなきゃやってられない。なので、魔族の子供達は三歳くらいになると、成熟しきった大人とずっと戦わされ、訓練という名の拷問を受けるらしい。しかも百歳になるまでずっと終わらないんだと。クレイジーすぎだろ。


 そしてこれを乗り越えた子供達は、苦労に苦労を重ねて大人にも負けない力を身につけ、一人前になる。

 そうした一人前達が俺ら人間の急襲をせき止めてるんだって。

 そりゃあ勝てない訳だ。この人たちに比べて俺ら温室育ちだもん。


 結局強い奴しか生き残れない。

 絶対的ルールっていうのは、本当この世界に根強く染みついていると関心した。


「ゴシュジン、起きてたのか」


「ああ」


 要件を訪ねると、どうやらバハムートは俺の様子を見に来てくれたらしい。

 昨日、全く目が覚めなかったから心配になって今日も来た。夜中だと寝てるだろうから、気を使って今来てくれたんだって。

 というか丸一日寝ていたのか、寝すぎだろ、俺。


「ごめんな、いろいろ気を遣わせて」


「……いや、気にするな」


 ん? 嫌にしおらしいな。


「どうした、調子悪いのか?」


「いや、そうではなくてだな……」


 そう言って、黙りこくってしまった。

 うーん、わかりやすい。ストーリー・テラーとの戦いからどうも様子がおかしい。

 ニアにやたらキツく当たる場面もあったし、どうも自分が自分がと前に出ようとしている感じがする。


 悪くないとは思うけど、コイツの持ち味って普段ポンコツでも大事な局面ではどっしり構える所だからな。

 時折超繊細っていうのが本当に意味わからないんだけど。


 今日はその日を引いてるってことなのかね。とはいえ、このままずっと塞がれても調子狂うし。

 よし、ここはコミュニケーションといこう。

 

「聞かせてくれないか。ここ最近いろいろあってあまり会話出来てなかったしな」

 

 そう言うと、バハムートはバツが悪そうに口を開いた。


「ゴシュジン、ワシは思うんだ。このままでいいのか、と」


「ほう」


「こう言っては何だが、ワシは今まで奔放に生きて来た。自分の為に生き、自分の為に死ぬ。それがずっと生きていたワシの中での心理だったからだ。でも、ゴシュジン達と旅してわからなくなってしまった」


 バハムートは俺に出会うまで、誰かと共にいたことが殆どないらしかった。

 というのは、本人の性格もあるのだろうけど、竜そのものがあまり群れない体質らしい。

 竜の殆どが気ままに空を飛びまわったり、誰もいないところで寝そべったりと会話をシャットアウトする生活ばかりなんだそうな。

 

「まおうサマと仲が良いのは特別なのか?」


「あ奴はおもちゃみたいなものだ。あやせばキャッキャとなつくからな」


 まおうサマ、一回こいつ懲らしめた方がいいですよ。

 チクったらとばっちり喰らいそうなんで心に留めておきますけども。


「それで、わからなくなったというのは?」


「そうだな。一言で言うならそれは『価値観』。ゴシュジンやイモウト殿は誰かの為に戦う。しかし、ワシは今まで誰かの為に戦ったことなんてなかった。だから、あのストーリー・テラーなる奇怪なバケモノとの戦みたく、ワシが負けたら全員死ぬ、なんて戦いはしたことがなかった」


 確かに、今までひとりで生きて来たならこんな体験はしないよな。

 人より強いからって酷使させてしまっただろうか。


「ワシが倒れると、イモウト殿がいなくなって、ゴシュジンがいなくなる。それが酷く怖かった。ゴシュジンはとんでもない苦難をずっと乗り越えて来た。その恩恵を当たり前のように受けていたのに、同じ場に立つと怖くてどうにかなってしまいそうだった。ワシは弱い」


 弱い自分がこのまま俺と共に立っていていいのか。

 それがバハムートの悩みという訳か。


 冗談じゃない。お前がいなかったらシステリアの時点で心は折れていたし、ニアを裏切り者と誤認して生きるのを辞めていたしれない。

 そう、お前がいなかったらこの場に立てていないんだよ。


「お前、ほんと肝心な時だけ自分を過小評価するよな。どれだけお前に救われたと思ってるんだ」


 当の本人は納得いかない顔をするが、こちとらずっと感謝しっぱなしなんだよ。

 理不尽な敵ばっかで、こっちから攻め入る方法や手がかりもない。こんな負け戦同然の状況で、何回心折れかけたと思ってるんだ。

 お前みたいにマイペースな奴がいなかったら、今頃精神やられていただろうよ。

 それに

 

「これでも俺は裏切られて人間不信になっている。そんな奴が相棒だって言ってんだ。いつも通り胸を張れ」


「……そうだな、ゴシュジンの言う通りだ」


 少し力が抜けたのか、俺の寝るベッドに腰かけるバハムート。

 しかし、まだ顔がこわばっている様子がある。まだ、何かあるのか?


 その疑問へ答えるように、バハムートはある質問をしてきた。


「イモウト殿と、ワシ。どっちかしか助けられない場合、どっちを選ぶ?」


「ニア」


「即答!? そこは少しでも悩むところだろう!! ワシ、ゴシュジンの相棒だぞ。こんなあっさり切り捨てていいのか!?」


「シスコン舐めるな、愚問だ」


「ぐぬぬ……」


 自信満々な表情をしている俺を恨めしそうに見つめる竜。

 まだ先は長いとか何とかほざいていたが、1000年は早いね。もう少し関係値上げて出直してこい。

 

 だが何を思ったのか竜は、先程とは打って変わって、急に何かを嚙みしめるようにうなずいた。

 さっきのような落ち込んだ雰囲気はきれいさっぱり消えている。


「むふふ、これこそワシの気に入ったゴシュジンだ」


 そして


「そのままでいてくれよ、ゴシュジン」


「へ? あ、ああ……」


 見たこともないくらい穏やかに笑う竜に、俺は流されるようにうなずいてしまった。


 ルンルン気分で部屋を出ていくバハムートに、頭が疑問符でいっぱいになる。

 とりあえず、元気になったから良かったのか? まったく釈然としない。


 相変わらず破天荒な竜に振り回されて、時は一瞬で過ぎていった。



 その笑みの意味を知ってしまった時、俺は自分の浅はかさを呪った。

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