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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第三章 再会と別れ
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第2話 めでたい再会、感動のフィナーレ

 壁の下で突っ伏して動かない黒魔導士、回復術士の女二人に、覚束ない足取りで立つ事すらやっとの剣士。

 かつて仲間だった奴らのみっともない姿に、忘れていたはずの怒りがふつふつと蘇る。


 その筆頭である剣士アランは、俺の存在が信じられないのか、何度かこちらを凝視して瞬きを繰り返した後、直ぐ様に嫌悪の目で俺を睨みつけた。


「……何でお前が」


「うん、奇跡の生還ってやつ」


「あの時確かに竜に喰われたはずだ!!」


 正直に言ったけど、どうやら納得してくれないらしい。

 まあ、端的にしか言ってないから伝わるもクソもないけどな。伝える気もないんだけども。


「どうした。死んだはずの仲間が生きてて嬉しいだろ? 喜べよ」


 両手を広げて歓迎を求めてみたものの、アランは相変わらず俺の生還を信じたくないらしい。強張った顔で固まったまま警戒を解く様子がない。

 何だよ、折角の再会にそんな顔をするなよ。

 寂しいじゃん。


 剣を支えに立つのでやっとのアラン。これ見よがしにスキップで近づいてみると、まあ酷い有様だった。

 あんなに綺麗で真っ白な鎧は、くすんで切り傷がいっぱいの上、大剣の腹にもヒビがチラホラ。


 ちょろっと倒れてる二人も観察してみたがもっと酷く、全身切り刻まれたように生傷だらけで、息してるのが奇跡みたいな様子だった。


「随分とやられちゃってまあ。大変だね」


「大変……だと? お前はどうしてそんな他人事みたく振舞える!?」


「だって他人事だし」


 また、信じられないモノを見る目で睨みつけるアラン。

 いや、裏切ったのお前らだろうに。というか、お前は何回同じ顔するんだ。

 芸の無い元仲間にちょっとだけムカついたので、そっと耳元で呟いてやる。


「全部お前らがまいた種なのに、都合のいい時だけ無かったことに出来ると思う? 少しは頭使えよ」


 途端、アランは怒りに身を任せて大剣を横なぎに振るった。


 遅え。大して速くもない一振りはバックステップで簡単に回避、あっさりと空を切った。


 追撃をともう一歩接近を仕掛けたが、限界が来たのか踏み込んだ足から崩れ落ちてダラリと地べたに倒れ込んだ。


 何も出来ず下から睨み上げる事しかしないその姿に、奴らが今まで俺をどう見ていたのかをようやく理解した。


「なるほどな。お前らは俺をこういう風に見ていたのか」


 こいつ等が本当に情けなく見えた。

 よっぽど下に見ていたんだな、本心では。


 確かにこいつ等と俺では天と地ほどの戦力差があった。それでも俺は出来ることをして来た。少なくとも、こんな地に這いつくばって恨めしそうな顔をするしかできない雑魚じゃあなかったはずだ。


 もういいわ。何か興が覚めた。

 ニアやバハムート、まおうサマ達の視線が俺等に集中している。


 丁度良いし見せてやろうかな、俺達の真実を。

 妹やまおうサマが俺を見ているのも計算に入れ、ある決断をする。この時、俺はものすごく性格の悪い男になっていた。

 

「助けてやろうか?」


 倒れて(うごめ)くかつての仲間に、再びそっと耳元でやさしくささやいてやる。

 すると、何を思ったのか目に光を取り戻したアランは、すがるように目の色を変えた。


「ああ! 助けてくれ!」


 先程の悪態がどこへやら、という感じだった。そうかそうか、助けてほしいか。

 そりゃあかつての仲間だった訳だしな。一回くらいチャンスをやったって罰は当たらないだろう。


「いいよ、助けてやる」


 アランの背後に回り、全てを生み出す者(ホワイト・ホール)で掌から瓶を生成。体の一部を液体に変え、瓶の中へと注ぎこむ。


 そうして出来上がったのは回復薬もどき。とはいえ、ちゃんと回復効果もある。

 一発でも飲んでしまえば恐らくこいつ等の怪我は完治するだろうね。それでも構わなかったけど。


「ちょ、おい。キール!」


 まおうサマ一派が盛大に狼狽(うろた)え始めた。俺が敵に回ると思ったのか遠くからでもわかる程顔が青ざめている。


 少しは俺を信じてくれよな。まあ、心配しないで見ててくださいよ。俺に考えがあるんで。

 皆へ軽くウインクした後、回復薬もどきをアランの口に近づけてゆっくりと飲ませた。


 すると、さっき迄の疲れ切った顔が一瞬で元気になり、すくっと立ち上がった。生傷は一瞬で癒えてしまっていた。


 何が起こったのかわからず、あたふたした様子のアラン。


「おい、リーダー。こんなことでうろたえるなよ。他の二人もさっさと回復させるぞ」


「そ、そうだな! ミリス、カトレアも頼む!!」


「任せろ」


 ミリスとカトレアにも同様に回復薬もどきを口に注入。

 二人はゆっくりと瞳を開けると、先ほどのアランと同じようにあっという間に無傷の状態へ戻り立ち上がった。


「……ヒッ!?」


 上擦った声を上げるカトレアに「久しぶり」とご挨拶。ミリスはピンピンしている俺と自分に起きた出来事を信じられないのか、まだ辺りをキョロキョロしていた。


「よし、これで全員揃ったな」


 アランへ声掛けすると、大層嬉しそうに俺へと近寄って来た。


「お前のおかげだ、ありがとう。キール」


「まあな、伊達にお前らと一緒に居たわけじゃないって」


 昔に戻ったような掛け合い。

 誰かが武功を立てれば(たたえ)えあう。仲間を救えば賞賛される。そんな光景を思い出して少しだけ懐かしさを感じた。


 今度はまおうサマと正面で対峙する。

 いかにもピンチみたいな顔を露骨に見せているが、注意して観察するとうっすらと口元が引きつっていた。うわー、役者だこのひと、それも大根役者。


 まあ、そんな茶番を作り上げたのは俺だからな。ちゃんと俺で幕を閉じるのさ。

 だから、もうこれで最後にしよう。こんな無益な内輪もめは。


「みんな、行こうか」


 そして、これで清算するんだ。

 過去の記憶も、何もかも、全部。

 地面を強く蹴り、まおうサマへと突進しようとした、その時。



「そうだな。でも、まずはお前からだ」



 どすりと、何かが刺さる音がした。

 その後腹から滲み出る異物感。


 そのままゆっくりと体から何かが引きずり出されるような感覚の後、それが終わった時には俺の腹に風穴が空いて、かつての思い出って奴はガラス細工が割れた時のように盛大に砕け散った。


 振り返るとそこには、

 

 あの時と同じように醜悪な笑みを浮かべた冒険者達がいた。


「おにいちゃああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!」

 

 どさりと倒れる俺を見て慌てて駆け寄るニアを覆い隠すように、仲間だった三人は倒れる俺を囲んだ。


「ほんっとうに憐れだなあ、キールよぉ。お前ごときが俺達の仲間に戻れると思ったかぁ!?」


 大層バカにしたように罵声を浴びせる赤髪の剣士に、横でクスクスと笑う茶髪の魔法使いと婚約者だった緑髪の回復術士。

 かつての婚約者に至っては俺の頭をぼろきれのように踏みつけ、蹴り続けていた。


 本当腐ってんな、この女。

 惚れた自分が本当に恥ずかしいよ。

 そして、悲しくなるくらい思った通りだ。


「オマエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェ!!!!!!!!!!」


 ニアの叫びが広間中に響き渡った。

 ニアが回復術士の顔面を鷲掴みすると、そのまま地面へと垂直に叩きつけた。


 先程の威勢は消え失せ、怯える女をニアは容赦なくパウンド。


 女は始めこそ腕を前にガードしていたが、止まない殴打の応酬にいよいよガードをすり抜けて何発か貰い始める。

 ギエッという可愛らしさ皆無の悲鳴を何度も響かせながら必死の形相で助けを求めていた。


 それに気づいた魔法使いが慌てて止めに掛かるも、ニアは全身に暴風を纏って近づくことすらできない。

 誰も止められない事を理解したのか、ニアは無我夢中で顔なじみの顔面を殴打し続けた。


「カトレア!?」


 剣士は俺を放ってニアを引き剥がす為にその場を離れようとする。が、一歩進んだだけでその後小刻みに震えたまま一向に動かない。液化して伸びた俺の右腕が、剣士の鎧にピッタリと接着して阻止したから。


 それに気づいた剣士はどうにか腕を引き剥がそうと躍起になって暴れるが、コイツでは全く歯が立っていない。


「く、クソッ。何だこれ!?」

 

 触らせるわけないだろ、お前の相手は俺だ。

 接着した右腕を引き戻し、無理矢理俺の元へと引きずり込んだ。


「は、ハァ!? なんでお前立って……」


「逃がすわけないだろ」


 そのまま毒液で固めた左手で、剣士の腹を鎧ごと貫いた。


「かはっ……!?」


 遠くまで吹っ飛ばす位の威力を、右手で衝撃を逃がさないよう剣士の体を抑えた。その結果、全ての威力が鳩尾(みぞおち)に集中。殴られた鎧の一部には穴が開いたような陥没が出来上がっていた。

 

 嘔吐のような声と共に崩れ落ちる剣士を無理やり立たせて、何発も同じ個所を殴り続けた。


 苦痛に歪む凛々しい顔が、一発、一発と回数を重ねる程目じりに涙が溜まり、次第に表情に怯えが混じり始めた。その無様な姿に無性にぞくぞくした俺は、命乞いも無視して執拗に同じ場所を何回も殴り続けた。


「や、やめ……もう、ゆるして」


「やめるわけないだろ? 気が済むまで倒すから」


 ニッコリと笑うと、剣士の顔がみるみる青白くなっていく。


 最後の抵抗か分からんが、男は自身の究極技術アルティメット・スキルで炎を生み出した。が、紫焔より火力がない時点で無意味。

 炎は確かに俺の体に燃え移ったが、反物質形状記憶鎧(ゴースト・メイル)によって威力は全て無力化されている。


 結果、火だるまになっても殴り続ける俺と、火が燃え移ったまま殴られる剣士いうショッキングな光景が完成。


 まるで効いていない俺に、剣士は怯えた顔を見せて、性()りもなく炎を発動してもがき続けた。

 しかし、剣士の今の力では俺の拘束から抜け出すことができず、ひたすら殴られ続けた。


 意識が飛ぼうがどうなろうが、毒で激痛を与えて目を覚まさせて、大腿骨を折って無理矢理起こして、回復して、もう一度殴り続けるの繰り返しだった。


 真昼の出来事だった。


 

 それから日が暮れて、

 

 気が済むまで散々ボコボコにした。

 男の腹はむき出しになり、内出血を繰り返したせいで皮膚が腐ったように黒ずんでいる。

 幼馴染の回復術士も膨れ上がった顔面のまま仰向けで倒れており、その上でニアはまだ殴り続け血だまりを作り上げていた。


 そんな惨状に恐れをなしたのか、魔法使いは人前だというのに失禁し体を縮こまらせ子犬のように震えていた。


 運よく何もされていない魔法使いに「よかったじゃん、無傷で」とか言ってやる。それに対して何か言い返されたけど内容は忘れた。わりとどうでもよかったから、あまり覚えていない。


 文字通り死にそうになりながら地べたに倒れている二人。

 その姿を見下ろす俺の元へ、心配そうに駆けつけてくれる竜。この時アイツがどんな顔をしていたのかは正直にいって殆ど覚えていない。

 

 失った物は元に戻らないし、やっぱり人は変わる。

 いつまでも同じ景色は見られないんだと思い知らされる。

 

 同じ目的を掲げ、数々の苦難を背負いながらも道を切り開いてきた俺達。

 それはいつしか、無様に倒れて動かなくなった者と、それを見下ろす者にわかれてしまった。


 

「全部、終わったのかな」


 独り言には、誰も応えてくれなかった。

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