第26話 残された課題
ストーリー・テラーを倒して数日が経った。
お通夜状態だったパーティは、世間話できる位には活気を取り戻していた。
ニアとバハムートも相変わらず仲は良好のようだし、少しずつ良い方に戻って来ている。
しかし、それぞれが抱えた傷は大きく、課題もまだ残っているのが現状だ。
まずは、今回のクエストーーダンジョンに入ってしまった子供の救出依頼だが、予想外の出来事が起きてしまった。
完全に無かったことにされていたんだ。
依頼そのものが。
受付嬢さんに依頼書を見せたが、『身に覚えがない』と言われ一蹴される始末。
当然不思議に思った俺達は、ターミナミアの図書館から世界地図を拝借して確かめることにした。その結果……
どれだけ探しても、テレンガの里はどこにも記されていなかった。
あの時死んでしまった人達も、戦いで焼け野原にされた街も、全てなかったことにされてしまったのだ。
じゃあ、グレイスは何者なんだ?
当然の疑問だ。偶像作家に意図的でないとはいえ接触したグレイス。
姿を変える薬というのも奴が渡したものだろう。
なら、何かしらヒントになるものがあるんじゃないか?
そう思った俺達はグレイスの意識が回復した頃を見計らって、テレンガの里やその日起きた出来事について尋ねることにした。
1つ目は本当にテレンガの出身だったのか。
それに対しグレイスは首を縦に振った。
テレンガの里はグレイスが生まれた故郷に違いなく、この年になるまでここで育ってきたそうだ。
2つ目は容姿に関して差別があったのか。
これもまたイエスだった。
魔族のようにキバやツノが生えていることで人から避けられたり、いじめられているという事実も間違いないらしい。
唯一の生き残りによる証言。
鵜呑みにしていいかは怪しいが、本当なのだとしたらそれは恐ろしい仮説を生み出してしまう。
最後の質問は姿を変える薬についてだ。
この答えは少々意味深だった。フードを被った女(声色が女性のようだった)からもらったらしい。
それも、その薬を2回受け取ったという。
1回目は里の中で受け取り、2回目は俺達が開かずそっとしておいた扉の奥で受け取ったとの事だ。
扉の奥に何があるのか聞いてみたが、覚えていないらしい。
薬を飲んで気づいたら宿屋のベッドで横になっていた。
そして、今に至るという状態らしい。
結果として、めぼしい情報は得られなかったのに、ある程度の目星が付いてしまった。
今回の戦いで街一つが消えた。それが外に漏れたら一瞬でニュースが広がるだろう。
それを嫌ったのか、誰かが人の記憶、歴史をいじるという隠ぺい工作を行った。
つまり、人の記憶や過去の記録を改ざんできる存在がいるということだ。
「ねぇ……ひょっとして」
それぞれの顔に不安がよぎる。
ニアの懸念は恐らく間違ってない。
あれだけの死闘を繰り広げて、やっとの思いで倒した。
バハムートは確実に仕留めてくれた。自分の目で見たから間違いない。
ただ、もしも。
もしも俺達が倒した偶像作家が偽物だとしたら。
「やめよう。これ以上たらればで話してもキリがない」
俺の発言に皆賛同してくれ、一旦場は収まった。
頭の中がモヤモヤする。過去、いろいろな局面があったけどこれ程投げ出したくなるのは始めてだ。
だが、問題はこれだけじゃない。俺達にはもう一つ問題がある。
グレイスの所在だ。
現状、故郷がどうなったかを伝えられていない。
あれだけの出来事があったのに、追い打ちをかけるのは気が引けたからだ。
勿論、いつまでもこうしてはいられないのはわかっている。
彼を安全な状態にするためにも、いつかは話さなければならない。
「ニアはどう思う?」
試しに話を振ってみたが、一瞬だけ怯えた様子を見せる。
それを自覚したのか咄嗟に取り繕いながら、俺の質問に答えた。
「まず、あの子をどこかに預けることが先決だと思う。といっても、魔族に似た容姿だから理解のある人を探さないとダメね」
兼ねがね同意見だ。
今後戦闘がある以上、いつまでも一緒にいることはできない。危険な場所に行くことだってある。
そんな旅路にずっと里の中で生きて来た彼が付いていけるとは思えない。
「ワシなら魔王に預けるがな」
「バッ! おまえ……」
突然の暴露に肝を冷やしながらも止めに入る。
だが、バハムートは至って冷静だった。
「もう無理だ、ゴシュジン。イモウト殿も既に片足を突っ込んでいる。これ以上半端に隠しても負担にしかならん」
それはそうだけど……いや、確かに一番話しやすいタイミングだ。こうなった以上割り切るしかない。
そんな俺達に対し、ニアは動揺した様子で尋ねてくる。
「魔王ってどういうこと……?」
本人の意思に任せるつもりだったが、偶像作家との遭遇で全てが崩れた。
イライラが募る。どこまでも邪魔しやがって。
もう、俺の選択肢は真実を打ち明ける以外無くなってしまった。
結局俺はニアに魔王との関係性、その時に見たものを全て話した。
俺達が戦おうとしているもの、そしてシステリアで見てしまったものも全てだ。
「し、信じられないよ。いきなりそんなこと言われても。それに、こんなの私達じゃとてもどうにかできる問題とは思えない」
「じゃあ、イモウト殿は旅をやめるか?」
「……どうしてそうなるの。ムーちゃん」
「ゴシュジンはこのストーリー・テラーなる存在を倒すことで平和が生まれると考えている。奴を見つけるにはこの世界で何が起きているかを知るのが不可欠。そこに目を塞いでいては、平和なんて夢は到底不可能だ」
「言いすぎだ、バハムート。ニアは元々当事者じゃない。現状を知っただけで決断を強いられてもそれこそお前の言う負担にしかならん」
「では、これからどうするのだゴシュジン。ずっと何かが起きるのかを待つのか? 今もこうしている間に何か手を打たれてるのかもしれないぞ」
そこはバハムートの言う通りだ。ここで足止めを喰らっているわけにはいかない。
奴が生きている可能性があり、俺らの手の内がバレている以上、後手に回ったら今度こそ終わる。
だからこそ、ここは俺が聞かなければいけない。
「リーダー、ちょっといいか?」
「へ? あ、うん」
唐突なリーダー呼びに困惑するが、俺の様子を察したのか途端に凛々しい表情へ戻る。
それを見て、俺も覚悟を決めた。
「こうなった以上、俺達はバハムートの言う通り魔王城へ向かう。魔族に偏見がないのなんて魔族しか考えられないからだ。それに魔族と関われば、この世界で何が起きているかが分かるはずだ」
酷な決断を強いる。
だが、彼女が今後冒険者を名乗る以上、俺も一人の冒険者として全てを委ねることにした。
「決めてくれ。チーム・ニアとして魔王城へ向かうか――このまま解散するか」
第二章 『敵を知る』……完
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