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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第二章 敵を知る
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第25話 勝利の余韻

 森を出た時は真昼だったというのに、全部が終わった今、陽の光は成りを潜め夜に切り替わっていた。今更ながらこの戦いにどれだけ時間を使ったか思い知らされる。


 ただ、体力だけは正直みたいでもう一ミリも動けない。ニアとグレイスくんも寝息を立てて静かになっている。そんな俺達を背にバハムートは滑るように空を前進する。


『ゴシュジン、大丈夫か?』


「ああ、大丈夫だ。お前も戦いでキツいだろうに。無理させて済まない」


『この程度、何のことなし! 何たってワシはゴシュジンの ア イ ボ ウ だからな!』


「そっか。いつも助かる」


 上機嫌に空を舞う竜に自然と口が綻び、横で寝息を立てる二人を眺める。


 俺達はストーリー・テラーを倒した。

 だが、その為に失った代償は計り知れない。テレンガの里は跡形もなくなりルルームの森も半壊。しっかり守りきれたのは、救助対象であるグレイスくんのみ。


 クエストで言えば成功だが、里の住民は肝心の依頼主も含めて皆ストーリー・テラーに殺されてしまった。


「なあ、バハムート」


『どうした、ゴシュジン』


「今回の結果、良かったと思うか?」


「上出来だろう。あの強敵を前に全員生きてるのは最早奇跡。ゴシュジンの作戦が無かったらイモウト殿はほぼ死んでいた」


 ニアが死ぬ。

 俺を囮に力をバハムートに託すという作戦を思いついていなかったら、確実にそのルートを辿っていただろう。

 興奮して忘れていた恐怖がせりあがって、ようやく綱渡りの戦いをしていたことを実感した。選択を間違えれば俺は全て失っていた。


 蛇の叡智(アクレピオス)、理外の力。

 この世界のあらゆる生物を淘汰し、天に立つ程の力を秘めた存在。

 

「二度と辛い思いをさせない。そう、誓ったのにな」


 これだけの力があれば、もうニアに酷い景色を見せずに済むと思っていた。

 現実はうまくいかない。それどころかニアは敵に体を乗っ取られ、挙句俺は刺されて心身喪失寸前という失態まで犯してしまった。


 当たり前のことをずっと忘れていた。否、忘れていたかったのかもしれない。

 どんなに強い力を持ったって、強い奴は探そうと思えばいくらでも見つかるということを。


 呟いた独り言は誰に受け取られるでもなく、風と共に流されていった。気を使われているかはわからないが、それが妙に心地良かった。


 そんな自分が酷く情けなく思えた。


 あれから特別大きな出来事はなく、あっさりとターミナミアに着いてしまった。

 寝ている二人をそれぞれおぶりながら宿屋を目指す。周りはもう寝静まっている様子だ。真夜中ということもあって賑やかだった街もひどく静かだった。極力物音を立てないよう静かに街を歩く。

 

 それから宿屋にたどり着いた俺は疲労困憊(ひろうこんぱい)の体に鞭を打ち、ニアの部屋のドアを開けた。寝ているニアを寝かしつけ、グレイスくんは自室で預かることにした。

 自室につくと急にまぶたが重くなったのを感じたので、とっととグレイスくんを隣のベッドに寝かせる。そして、自分も倒れるように片方のベッドに飛び込んだ。


 体も鉛を背負ったみたいに動かない、本気で限界だった。それを察したのか部屋からドアが閉まる音がした。バハムートも自分の部屋に戻ったんだろうか。

 

 ほかにやるべきこと……そうだ、ギルドへの報告があった。けど今日はもう無理そうだ。もう体がもちそうにない。


「あ、だめだ。もう意識が――」


 そのまま、考える間もなく意識を手放したのであった。


 

 翌日。


 目を覚ますと俺はベッドで横になっていた。しかし、俺の部屋とは違う明かりが天井にぶら下がっていた。不思議に思い部屋を観察すると、どうやら間取りが自分の部屋と違うらしかった。

 じゃあ、ここは一体……?


「……お兄ちゃん」


「ん?」


 首を横に傾けると、俺の側にニアが椅子に腰かけていた。

 とても申し訳なさそうに、そしてどこか怯えた様子でこちらを見つめてくる。


「どうしたんだ? ニア」


「お兄ちゃん、自分の部屋で倒れてた」


「え、俺ベッドで寝てたんじゃ」


「そんなことない。床で倒れてて寒そうに震えてた」

 

 そう答えると、強張った表情を崩してすぐ俺にしがみついた。かと思えば、子供みたくわんわんと泣き始めた。


「ごめんなさい、ごめんなさい。お兄ちゃんっ……うあぁああああああん」


 泣きはらす妹はかつての泣き虫だったころみたいだった。でも、それだけ俺のいない間修練を積んで、確かな強さと自信を手に入れて来たんだろう。それがストーリー・テラーと出会うことで完膚なきまでに叩き潰された。こうなってしまうのは正直理解できる。

 

 そんな妹を安心させたくてベッドから起き上がった俺は、妹をそっと抱き寄せる。

  

「あたし……お兄ちゃんのこと、まもるって決めたのに。自分の手でッ……うぅ、うぁあああああああああ」


「……ニアは悪くない、大丈夫だから」


「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!! ふがいなくてごめんなさい!!」


「ニアは頑張った。本当によく頑張った。お兄ちゃん誇らしいから」


 胸の中で泣きはらす妹。

 彼女には一つ大きな傷が出来てしまった。今後、優しい彼女は何かと戦う度にこの出来事をトラウマとして思い出すのか。

 もう完全に癒えることはないのかもしれない。そう思うと自分の弱さが憎らしくて仕方がなかった。

 

 違うんだ、悪いのは俺の方なんだ。

 

 最高の結果で迎えた翌朝は、ひどくやるせないものだった。

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さいごに、いつも見て頂き誠にありがとうございます。

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